令和6年度版】 

 

第4款 平均賃金(第12条)

◆平均賃金(第12条)とは、原則として、算定事由発生日以前3箇月間に支払われた賃金総額を、当該期間の総日数で除した金額のことをいいます。

大まかには、当該労働者の1日当たりの平均的な賃金のことです。

 

 

○趣旨

 

平均賃金は、解雇予告手当、休業手当、年次有給休暇中の賃金、災害補償及び減給の制裁の制限額を算定する場合の算定基礎となるものです。

次の計算式により算定されます(詳細は、後述します)。

 

〇 平均賃金は、大きくは、次の2つの問題に分かれますが、2の算定方法の問題が複雑です。この1、2の体系については、後述します。

 

1 平均賃金を算定基礎とするもの

 

2 平均賃金の算定方法 ➡ 原則的な算定方法と例外的な算定方法に分かれます。

 

 

まず、条文を掲載しておきます。後に詳しく見ます。 

 

 

【条文】

第12条

1.この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない

 

一 賃金が、労働した若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60

 

二 賃金の一部が、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額その期間の総日数除した金額前号の金額合算額

 

 

2.前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する。

 

3.前2項に規定する期間中に、次の各号のいずれかに該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前2項の期間及び賃金の総額から控除する。

 

一 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間

 

二 産前産後の女性が第65条(労基法のパスワード)の規定によつて休業した期間

 

三 使用者の責めに帰すべき事由によつて休業した期間

 

四 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号)第2条第1号〔=育児介護休業法第2条第1号(労働一般のパスワード)〕に規定する育児休業又は同条第2号に規定する介護休業同法第61条第3項〔=行政執行法人の職員に関する特例〕(同条第6項において準用する場合を含む。)に規定する介護をするための休業を含む。第39条第10項〔=年次有給休暇の出勤日に算入する日〕において同じ。)をした期間

 

五 試みの使用期間

 

4.第1項賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金一定の範囲に属しないもの算入しない

 

5.賃金が通貨以外のもので支払われる場合第1項の賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。

 

6.雇入後3箇月に満たない者については、第1項の期間は、雇入後の期間とする。

 

7.日日雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする。

 

8.第1項乃至第6項によつて算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる。

 

 

※ 上記の第12条は、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(【平成30.7.6法律第71号】(以下、同法を「働き方改革関連法」といいます)第1条)による平成31年4月1日施行の改正により改められています(単なる条番号の整理です)。

〔即ち、同条第3項第4号中、従来、「第39条第8項」とあったのが、「第39条第10項」に改められました。〕

なお、以下でも、条文の前後に、このような改正内容について記載した小文字の部分がありますが、読んで頂く必要はありません。

 

 

 

第1項 平均賃金を算定基礎とするもの

初めに「平均賃金を算定基礎とするもの」及び「算定基事由発生日」について、覚えるべき事項を後掲の表にしました(この表は、覚えなければなりません)。

平均賃金を算定基礎とする5つは、次のゴロ合わせで覚えます。

 

※【ゴロ合わせ】

・「カキ、値下げ

(カキフライにするカキの値段が下がりました。)

 

→「カ(=「解」雇予告手当)、キ(=「休」業手当)、値(=「年」休中の賃金)、さ(=「災」害補償)、げ(=「減」給の制裁の制限額)」

 

・なお、平均賃金の算定方法における「3箇月間」の数字も、のちに学習します雇用保険法における賃金日額(「最後の6箇月間」や「180日」が出てきます。雇用保険法のこちら以下)等と混同しかねませんので、「カキ値下げ」の「下げ」の「3(さん)」にこじつけて記憶しておきましょう。

 

 

 

 

平均賃金を算定基礎とするもの

◆平均賃金は、労基法において、次の一~五の5つの算定基礎となります。

 

一 解雇予告手当第20条こちら以下

 

使用者は、労働者を解雇する場合は、原則として、30日前までにその予告をするか、30日分以上の「平均賃金」を支払わなければなりません(両者の併用も可)。

 

 

二 休業手当第26条こちら以下

 

使用者の帰責事由(責めに帰すべき事由)による休業の場合は、使用者は、休業期間中、当該労働者に対して、「平均賃金」の100分の60以上の手当を支払わなければなりません。

 

 

三 年次有給休暇中の賃金第39条第9項こちら以下

 

使用者は、年次有給休暇の期間又は時間について、(1)「平均賃金」、(2)通常の賃金、又は(3)健康保険法の規定による標準報酬月額の30分の1相当額(この(3)の場合は、労使協定の締結が必要です)のいずれかを支払わなければなりません。

 

 

四 災害補償第76条~第82条こちら以下

 

以下の災害補償において、平均賃金はその補償額の算定基礎となります(さしあたり、以下の各災害補償の内容を覚えなくて結構です。労災保険法を学習してからの方が、理解しやすいです)。

 

なお、療養補償(=労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければなりません。第75条)の場合は、使用者は、療養のため実際に要した費用を補償するものであるため、平均賃金は算定基礎とされていません。

 

 

(1)休業補償

 

労働者が、業務上の事由による負傷又は疾病(業務上の傷病)による療養のため、労働できないために賃金を受けない場合は、使用者は、その療養中、「平均賃金」の100分の60の休業補償を行わなければなりません(第76条第1項)。

 

 

(2)障害補償

 

労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、治った場合において、その身体に障害が存するときは、使用者は、その障害の程度に応じて、「平均賃金」に所定の日数を乗じて得た金額の障害補償を行わなければなりません(第77条)。

 

 

(3)遺族補償

 

労働者が業務上死亡した場合は、使用者は、遺族に対して、「平均賃金」の1,000日分の遺族補償を行わなければなりません(第79条)。

 

 

(4)葬祭料

 

労働者が業務上死亡した場合は、使用者は、葬祭を行う者に対して、「平均賃金」の60日分の葬祭料を支払わなければなりません(第80条)。

 

 

(5)打切補償

 

療養補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても傷病が治らない場合、使用者は、「平均賃金」の1,200日分の打切補償を支払えば(すべての災害補償責任について)免責されます(第81条)。

 

 

(6)分割補償

 

使用者は、支払能力のあることを証明し、補償を受けるべき者の同意を得た場合には、障害補償又は遺族補償に替えて、「平均賃金」に所定の日数を乗じて得た金額を6年にわたり毎年補償することができます(第82条)。

 

 

五 減給の制裁の制限額第91条こちら以下

 

就業規則で減給の制裁を定める場合は、1回の額が「平均賃金」の1日分の半額を超えるか、総額が1賃金支払期の賃金総額の10分の1を超えてはなりません。

 

 

算定事由発生日については、次の算定方法の個所で詳述します。

 

 

 

第2項 平均賃金の算定方法

◆平均賃金の算定方法には、原則的な算定方法と例外的な算定方法があり、また、原則的な算定方法についても、修正される点が多いなど、複雑です。

初めに、次の大きなフレームを頭に入れておきますと、混乱を避けられます。

 

 

 

 

§1 原則的な算定方法

◆平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいいます(第12条第1項本文)。

以下、この算定方法について、詳しく学習します。

 

〔1〕算定事由発生日

一 基本型

◆算定事由発生日(平均賃金の算定事由が発生した日)は、具体的には、下記の(一)~(五)のようになります(この算定事由発生日は出題が多いため、暗記する必要があります。前掲の表(こちら)も参考にして下さい)。

 

ただし、賃金締切日がある場合は、算定事由発生日直前の賃金締切日から起算します(第12条第2項)。

即ち、前掲(こちら)の計算式の図の「『算定事由発生日』以前3箇月間」が、「『算定事由発生日の直前の賃金締切日』以前3箇月間」に代わるということです。

 

この方が、通常の給与計算における額をベースとして平均賃金を算定でき、便利だからです。そして、賃金締切日があるのが普通ですから、実際は、この賃金締切日から起算する方法が一般となります。

 

この賃金締切日については、後述の二で詳細を見ます。

以下、賃金締切日がない場合の算定事由発生日です。

 

 

(一)解雇予告手当の場合

 

➡「労働者に解雇の通告をした日」が、算定事由発生日となります。

【過去問 平成16年問3A(こちら)】

 

※ なお、解雇予告をした後において、当該労働者の同意を得て解雇日を変更した場合であっても、当初の解雇予告に係る通告日を算定事由発生日とします(【昭和39.6.12基収第2316号】参考)。

 

変更された解雇日ではありません。

なぜなら、例えば、当初の解雇予告後に休業を命じられ60%の休業手当を受けていたような場合に、新たな解雇日を算定事由発生日として算定しては、平均賃金が当初の算定事由発生日を起算日として算定するより低下することがありえ、労働者に酷となるからです。

 

 

(二)休業手当の場合

 

➡「その休業日(休業が2日以上にわたるときは、その最初の日)」が、算定事由発生日となります(厚労省コンメ令和3年版上巻180頁(平成22年版上巻171頁))。

 

休業が2日以上にわたるときにその最初の休業日を算定事由発生日とする理由としては、休業が長期間にわたる場合に、例えば、当該休業日ごとに算定事由発生日とするような取扱いをしては、休業中に賃金請求権を有しないとき(使用者に休業手当の帰責事由は認められるが、危険負担・債権者主義の帰責事由は認められないケースで生じます)は、次第に平均賃金が低下していくという不合理が生じること、また、最初の休業日を基準とすることで算定の複雑化も防止できることが考えられます。

 

 

(三)年次有給休暇中の賃金の場合

 

➡「その年次有給休暇を与えた日(年次有給休暇が2日以上にわたるときは、その最初の日)」が、算定事由発生日となります(厚労省コンメ令和3年版上巻180頁(平成22年版上巻172頁))。

 

年休が2日以上にわたるときに最初の年休日を基準とする理由は、算定の複雑化の防止にあるといえます。

後述のように、年休中の賃金も、平均賃金の算定基礎となる賃金総額に算入されますから、上記の休業手当の場合とは異なり、最初の年休日を基準としなくても必ずしも平均賃金が不当に低下するわけではありません。

 

 

(四)災害補償の場合

 

➡「死傷の原因たる事故発生の日又は診断によって疾病の発生が確定した日」(施行規則第48条)が、算定事由発生日となります。

 

 

【施行規則】

施行規則第48条

災害補償を行う場合には、死傷の原因たる事故発生の日又は診断によつて疾病の発生が確定した日を、平均賃金を算定すべき事由の発生した日とする。

 

 

※「死傷」とは、死亡と負傷のことです。

死亡の場合は、算定事由発生日は「死亡日」ではなく、死亡の原因たる「事故発生日」であることに注意です(【過去問 平成27年問2C(こちら)】)。

(事故発生日後、長期間労働不能となって療養後死亡したような場合は、事故発生日を算定事由発生日とした方が平均賃金が高くなります。)

 

なお、この事故発生日について、「障害」が問題となっていない点については、労災保険法で問われることがあります。

労災保険法の保険給付の支給額の算定基礎として「給付基礎日額」が用いられますが、この「給付基礎日額」は、原則として労基法の平均賃金相当額とする旨が規定されているため、労基法の平均賃金についての考え方が反映されるのです。

障害は、負傷や疾病から生じるもの(傷病が治ゆした場合に問題となるもの)という考え方から、算定事由発生日については、障害に言及していないものです。

 

 

(五)減給の制裁の制限額の場合

 

➡「減給の制裁の意思表示相手方に到達した日」(【昭和30.7.19基収第5875号】)が、算定事由発生日となります。

 

その理由としては、理論上は、減給の制裁という懲戒処分の場合、懲戒事由が発生しただけでは必ずしも懲戒権が行使されるわけではありませんので、懲戒権の行使の効力が発生した時点(減給の制裁の意思表示の到達時点)を算定事由発生日と解したものと思われます。

 

・減給の制裁事由が発生した日ではありません(【過去問 平成17年7E(こちら)】/【平成30年問7D(こちら)】)。

 

・減給の制裁が決定された日でもありません(【過去問 平成25年問1A(こちら)】)。 

 

 

 

算定事由発生日に関する過去問を見てみます。

 

○過去問:

 

・【平成16年問3A】

設問:

労働基準法第20条の規定に基づき、解雇の予告に代えて支払われる平均賃金(解雇予告手当)を算定する場合における算定すべき事由の発生した日は、労働者に解雇の通告をした日である。

 

解答:

正しいです(【昭和39.6.12基収第2316号】参考)。

本文は、こちらです。

 

 

・【平成25年問1A】

設問:

労働基準法第91条に規定する減給の制裁に関し、平均賃金を算定すべき事由の発生した日は、減給制裁の事由が発生した日ではなく、減給の制裁が決定された日をもってこれを算定すべき事由の発生した日とされている。

 

解答:

誤りです。

「減給の制裁が決定された日」ではなく、「減給の制裁の意思表示が相手方に到達した日」を算定事由発生日とされています(【昭和30.7.19基収第5875号】)。

本文は、こちらです。

 

 

・【平成17年問7E】

設問:

労働基準法第91条に規定する減給の制裁に関し、平均賃金を算定すべき事由の発生した日は、減給の制裁の事由が発生した日ではなく、減給の制裁の意思表示が相手方に到達した日である。

  

解答:

正しいです(【昭和30.7.19基収第5875号】)。本文は、こちらです。

 

 

・【平成27年問2C】

設問:

労働災害により休業していた労働者がその災害による傷病が原因で死亡した場合、使用者が遺族補償を行うに当たり必要な平均賃金を算定すべき事由の発生日は、当該労働者が死亡した日である。

  

解答:

誤りです。

遺族補償とは、労基法の災害補償の1つです(第79条(労基法のパスワード))。

そして、災害補償の場合の平均賃金の算定事由発生日は、「死傷の原因たる事故発生の日又は診断によって疾病の発生が確定した日」(施行規則第48条)となります(つまり、死傷に係る事故発生日又は診断による疾病発生確定日です)。 本文は、こちらです。 

 

 

・【平成30年問7D】

設問:

労働基準法第91条による減給の制裁に関し平均賃金を算定すべき事由の発生した日は、制裁事由発生日(行為時)とされている。

 

解答:

誤りです。

減給の制裁に関し平均賃金を算定すべき事由の発生した日は、「制裁事由発生日(行為時)」ではなく、「減給の制裁の意思表示が相手方に到達した日」とされています(【昭和30.7.19基収第5875号】)。こちらをご参照下さい。

本問は、前掲の【平成17年7E(こちら)】や【平成25年問1A(こちら)】と類問です。

 

 

 

二 賃金締切日がある場合

◆賃金締切日がある場合は、算定事由発生日直前賃金締切日から起算します(第12条第2項)。

即ち、平均賃金の計算式の「『算定事由発生日』以前3箇月間」が、「『算定事由発生日の直前の賃金締切日』以前3箇月間」に代わります(既述のように、賃金締切日から起算した方が、計算しやすいからです。そして、賃金締切日があるのが普通ですから、実際は、この賃金締切日から起算する方法が一般となります)。

 

 

○ 賃金締切日に関する問題:

 

 

(一)出来高払制の労働者、雇入れ後の期間が3箇月未満の労働者

 

出来高払制の労働者(第12条第1項第1号)や雇入れ後の期間が3箇月未満の労働者(第12条第6項)であっても、賃金締切日がある場合は、直前の賃金締切日から起算して平均賃金を算定します(条文の規定上、そのような構造になっていますし、賃金締切日がある場合の平均賃金算定の簡易化の趣旨にも適合するからです)。(これらは、後に学習します。)

 

 

 

(二)賃金ごとに賃金締切日が異なる場合

 

賃金ごとに賃金締切日が異なる場合は、それぞれ各賃金ごとの賃金締切日により算定しま

す(【昭和26.12.27基収第5926号】参考)。

 

【過去問 平成27年問2E(こちら)】/【令和元年問1(A~E。こちら)】

 

 

 

(三)賃金締切日に算定事由が発生した場合

 

例えば、賃金締切日が毎月月末と定められていた場合に、6月30日に算定事由が発生したときは、直前の締切日である5月末日よりさかのぼって3箇月の期間をとります(【昭和24.7.13基収第2044号】参考)。

(「算定事由発生日(6月30日)の直前の賃金締切日(5月31日)」以前の3箇月間、という計算式のルールに従ったものです。)]

【過去問 平成27年問2D(こちら)】

 

  

 

三 その他

所定労働時間が2暦日にわたる勤務を行う労働者(一昼夜交代勤務のごとく1勤務が明らかに2日の労働と解することが適当な場合を除きます)について、当該勤務の2暦日目に算定事由が発生した場合においては、当該勤務の始業時刻の属する日に事由が発生したものとして取り扱われます(【昭和45.5.14基発第374号】参考)。

例えば、月曜の午後4時(16時)から翌日火曜の午前8時までの勤務の場合において、火曜の早朝に業務災害にあったようなケースです。月曜を事故発生日とします。

 

労基法の場合、継続する勤務が2暦日にまたがる場合は、1勤務として取り扱って、始業時刻の属する日の労働と考えるのが基本的ルールです(例えば、上記のケースにおいて、月曜と火曜の労働を分断して2労働日と考えては、月曜は午後4時からの勤務のため午前0時まで8時間しか勤務していないとして法定労働時間内の勤務となってしまい、同様に火曜も午前8時までの勤務として法定労働時間内の勤務となり、結局、このケースでは時間外労働が生じないという不都合が起こるからです)。

かかるルールを平均賃金の算定事由発生日においても及ぼしたものとなります。

 

 

〇過去問:

 

・【平成27年問2D】

設問:

賃金締切日が毎月月末と定められていた場合において、例えば7月31日に算定事由が発生したときは、なお直前の賃金締切日である6月30日から遡った3か月が平均賃金の算定期間となる。 

 

解答:

正しいです(【昭和24.7.13基収第2044号】)。

前述二の(三)(こちら)の賃金締切日に算定事由が発生した場合のパターンです。

 

 

・【平成27年問2E】

設問:

賃金締切日が、基本給は毎月月末、時間外手当は毎月20日とされている事業場において、例えば6月25日に算定事由が発生したときは、平均賃金の起算に用いる直前の賃金締切日は、基本給、時間外手当ともに基本給の直前の締切日である5月31日とし、この日から遡った3か月が平均賃金の算定期間となる。

  

解答:

誤りです。

前述二の(二)(こちら)の「賃金ごとに賃金締切日が異なる場合」のパターンです。

この場合は、それぞれ各賃金ごとの賃金締切日により算定します(【昭和26.12.27基収第5926号】参考)。

本問の場合は、基本給は5月31日、時間外手当は6月20日から起算した3か月を算定期間とします。

この平成27年度あたりから、平均賃金等において、実務的な問題が増えていきます。

 

 

 以上で、〔1〕「算定事由発生日」の問題を終わります。  

 

 

 

〔2〕算定事由発生日「以前3箇月間」

一 以前3箇月間

(一)「平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前3箇月間」(=算定期間)とは、算定事由の発生した日の「前日」から遡る3箇月間とされ、算定事由の発生日含まれないと解されています。

「以前3箇月」という文言上は、算定事由発生日も含むことになるはずなのですが、当該算定事由発生日には労働の提供が完全にはなされないことが多く、(時間給制のような場合は)賃金も全額支払われないこととなるため、これを3箇月間に入れることにより平均賃金が不当に低下する不都合があることによります(結果的には、期間計算における初日不算入の原則(民法第140条)に適合することとなります)。

 

(二)もっとも、上述の賃金締切日がある場合は、算定事由発生日の直前の賃金締切日から起算し(第12条第2項)、従って、平均賃金の計算式の「『算定事由発生日』以前の3箇月間」は、「『算定事由発生日の直前の賃金締切日』以前の3箇月間」に代わるのであり、この場合は、賃金締切日も含めて賃金締切日を初日として算定します(賃金締切日を含めても、上記のように平均賃金が低下するといった問題はないのであり、初日に端数がない場合と考えられ、初日算入とできることになります)。

 

 

 

二 3箇月

「3箇月」とは、暦日によるものです(例えば常に90日になるのではありません)。

期間計算の方法について、労基法で特に規定がないため、民法の期間計算の規定が適用され(民法第138条)、民法第143条第1項の「週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。」が適用されるからです。

その他の労基法上の期間の計算方法も、民法の期間計算に従います(ただし、本問のように「さかのぼる」ケースは、民法の期間計算の類推適用となります。起算点と満了点が通常の場合(「さかのぼらない」ケース)と逆になることには注意です。詳細は、産前産後休業のこちらでご紹介します)。

 

例えば、5月10日に算定事由が発生した場合は、5月9日(上記一の(一)で触れましたように、10日は算入しません)から3箇月である2月10日まで(89日、閏年で90日)となります。

 

5月9日から起算して、1箇月ごとに応当日をさかのぼっていきます(4月9日、3月9日、2月9日)。そして、満了点は、通常の場合(「起算日に応答する日の前日」。民法第143条第2項本文)と逆になり、「起算日(5月9日)に応答する日(2月9日)の翌日」である「2月10日」となると解されていることに注意です(前掲のこちら)。

 

ただし、前述の通り、通常は、賃金締切日がありますから、その場合は賃金締切日から起算して3箇月を計算します。

例えば、前記のケースにおいて毎月の賃金締切日が25日だとしますと、算定事由発生日(5月10日)直前の賃金締切日は4月25日となり、この日「以前」3箇月間が算定対象期間となるため、1月26日から4月25日まで(90日、閏年で91日)となります。 

 

 

〔3〕「その労働者に支払われた賃金の総額」

平均賃金を算定する計算式の分子における「賃金の総額」の問題です(第12条第1項本文及びこちらの図を参考)。

 

一 支払われた

「支払われた」とは、現実に既に支払われた金額だけでなく、実際に支払われてはいなくても、算定事由発生日において既に債権として確定している賃金含むと解されています。

 

例えば、賃金の支払が遅延したような場合、この未払分を算入しなくては、不当に平均賃金が低下する問題があるからです。

 

 

二 賃金の総額

(一)賃金の総額

 

「賃金の総額」には、第11条の「賃金」の全てが含まれるのが原則です。

例えば、通勤手当や通勤定期券も、支給基準が就業規則等に明確に定められ、使用者が支払義務を負う場合は、賃金にあたると解されていますから(「賃金の要件」のこちら)、平均賃金の「賃金の総額」にも算入します(なお、通勤定期券については、現物給付の問題として後述します)。

 

【過去問 平成27年問2A(通勤手当、家族手当のケース。こちら)】/【令和元年問1C・D(通勤手当。こちら以下)】/【令和元年問1E(時間外手当。こちら)】

 

また、年次有給休暇中の賃金(こちら)も賃金にあたり、「賃金の総額」に含められます(【昭和22.11.5基発第231号】参考)。 【過去問 平成5年問5B(こちら)】

 

 

〇過去問:

 

・【平成5年問5B】

設問:

平均賃金を算定する際には、年次有給休暇について支払われた賃金及びその休暇日数を、平均賃金を算定する事由の発生した日以前3箇月間の賃金総額及びその期間の総日数から控除しなければならない。

 

解答:

誤りです。

年次有給休暇中の賃金についても、賃金にあたります(こちら)。

そして、年次有給休暇中の賃金及びその日数を平均賃金の算定基礎から除外する規定もありませんから(後に見ます第12条第3項第4項参考)、これらの賃金や日数はその算定基礎に含まれます(【昭和22.11.5基発第231号】参考)。

 

 

・【平成27年問2A】

設問:

平均賃金の計算の基礎となる賃金の総額には、3か月を超える期間ごとに支払われる賃金、通勤手当及び家族手当は含まれない。

  

解答:

誤りです。

平均賃金の計算の基礎となる賃金の総額に「通勤手当及び家族手当は含まれない」としている点が誤りです。 

 

この点、上述のように、「賃金の総額」には、第11条の「賃金」の全てが含まれるのが原則です。

通勤手当及び家族手当については、すでに「賃金」の個所で学習しましたように、基本的に第11条の「賃金」に含まれます(家族手当についてはこちら。通勤手当についてはこちら及び【昭和22.12.26基発第573号】)。

そして、後述しますが、これらの賃金については、平均賃金の算定基礎となる「賃金の総額」から控除される旨の規定もありませんので(第12条第4項)、これらは平均賃金の算定基礎となる「賃金の総額」に含まれます。

 

対して、「3か月を超える期間ごとに支払われる賃金」については、平均賃金の算定基礎となる「賃金の総額」から控除される旨の規定があります(第12条第4項)。

  

 

 

(二)賃金が遡及的に引き上げられた場合

 

賃金が労働協約等により過去にさかのぼって引き上げられた場合(例えば、8月10日にその年の4月にさかのぼって賃金ベースが改定され、4、5、6、7月分の追加額が支払われたケース)は、その追加額は各月に支払われたものとして賃金の総額に算入するとされます。

 

ただし、平均賃金は、「算定事由発生において、労働者が現実に受け、又は受けることが確定した賃金」によって算定すべきものとされているため(前述の一(こちら)参考)、既に算定事由の発生した「」において賃金が遡及的に引き上げられても、その場合は元の引き上げ前の賃金により算定するとされます。

 

例えば、上記の8月10日に賃金ベースの改定が決定されたケースにおいては、もし8月5日に算定事由が発生した場合(例:解雇予告の通告をした等)は、賃金の総額に追加額を含めるべきでなく、対して、8月20日に算定事由が発生した場合は、追加額を含めることになるとされます(【昭和23.8.11基収第2934号】/【昭和24.5.6基発第513号】参考)。

 

 

 

(三)複数の事業場から賃金の支払を受けている場合

 

労働者が複数の事業場で使用され、当該複数の事業場の使用者から賃金の支払を受けている場合は、平均賃金における「賃金の総額」とは、当該複数の使用者から支払われた賃金の合算額ではなく、算定事由の発生した事業場で支払われる賃金のみをいいます(【昭和28.10.2基収第3048号】参考)。

 

即ち、事業主が同一人でない2以上の事業に使用される労働者(以下、「複数事業労働者」といいます)について、例えば、A事業場においてその使用者の帰責事由によって業務災害が発生し休業する場合に、休業手当を計算する際の平均賃金としては、他のB事業場の使用者から支払われる賃金は算入しないということです。

 

この点、複数事業労働者がA事業場において業務災害により休業する場合は、B事業場においても就業できずにB事業場からの賃金も得られなくなることがありますから、複数の事業場に係る賃金を考慮しないという仕組みでは、被災労働者の生活保障・所得保障に欠けるおそれがあります。

ただし、労基法においては、休業手当や災害補償責任等は、使用者自身が直接負担するものであり(即ち、先の例では、A事業場の使用者が自ら休業手当を労働者に支払わなければなりません)、使用者としても、他の事業場の使用者に係る賃金まで考慮されるというのは、負担が重くなるというリスクを負います(労基法の災害補償の事由については、労災保険法等に基づいて災害補償に相当する給付が行われるべきものである場合は、使用者は災害補償責任を免れるのですが(第84条第1項。のちにこちら以下の〔1〕で学習します)、例えば、経営障害により事業場が休業した場合の休業手当の支払義務(こちらの(1)参考)のようなケースでは、使用者の負担の重さが問題となってきます)。

そこで、労基法においては、事業場を単位として当該事業場で支払われる賃金を基礎として平均賃金を算定する取扱いとなっています。

 

しかし、労災保険法においては、複数事業労働者に対する保護を強化する見地から、このように事業場ごとに賃金を算定するという取扱いが令和2年9月1日施行の改正により見直されました。

即ち、労災保険法においては、複数事業労働者に係る給付基礎日額(給付基礎日額とは、労災保険の保険給付(現金給付)の額の算定基礎となる額のことであり、原則として、平均賃金に相当する額となります)について、複数の事業ごとに算定した給付基礎日額相当額を合算して算定することに改められました。

労災保険においては、事業主(使用者)は、労災保険に係る保険料(いわゆる労災保険料)を負担していますが(従って、他の事業主の賃金まで考慮された結果、例えば自己の事業に係る労災保険率のみが高くなるといった不利益は受けないようにする必要があります)、他方、労災保険は、労基法の使用者の災害補償責任を基礎として、多数の事業主の拠出により事業主が共同でリスクに備えるとともに被災労働者等の迅速で充分な救済を図ることを目的とした制度です(労災保険法第1条参考)。

つまり、労災保険においては、事業主はその共同の拠出によって基本的には保険料の負担の限度にリスクが大きく軽減されているのですが、労基法においては、事業主(使用者)はリスク全体について直接負担しなければならないといった違いがあります。

このような事業主の負担するリスク・不利益の違い等を背景として、労災保険においては、被災労働者等の保護を強化することとし、複数の事業場における賃金をトータルで把握するという取扱いが採られることとなりました。

詳細は、労災保険法のこちらこちら等で学習します。 

 

 

 

〔4〕「その期間の総日数」

平均賃金を算定する計算式の分母における「総日数」の問題です(第12条第1項本文及びこちらの図を参考)。

 

この「総日数」とは、平均賃金の算定基礎となる3箇月間の総暦日数のことであり(上述の〔2〕の二(こちら)参考)、労働日数のことではありません

 

 

 

〔5〕「除した金額」

「賃金の総額」を「その期間の総日数」で除して得た金額に端数が生じた場合は、「銭位未満の端数切り捨て」をします(【昭和22.11.5基発第232号】参考)。

 

※ 銭は、1円の100分の1です(10厘にあたります)。従って、銭未満の端数の切り捨てとは、小数点以下第2位まで残すことになります。

例えば、「9,782円.608695」のケースは、「9,782円60銭」とします。

 

ただし、このように算定した平均賃金を基礎として、実際に解雇予告手当、休業手当等を支払う場合は、「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」第3条の問題となり、特約がある場合はその特約により端数処理がなされ、特約がない場合は1円未満の端数が四捨五入されます(例えば、上記の「9,782円.608695」のケースでは、平均賃金は「9,782円60銭」であり、解雇予告手当の1日分は、「9,783円」となります)。 

 

 

 

〔6〕算定基礎から控除されるもの

平均賃金の算定基礎から控除されるものを学習します(試験対策上、重要です)。

 

 

〇 算定基礎から控除されるものは、次の2タイプがあります。

 

(A)日数(分母)及び賃金総額(分子)の両者から控除されるもの(第12条第3項

 

(B)賃金総額(分子)のみから控除されるもの(第12条第4項

 

 

一気にゴロ合わせで覚えておきます。

 

※【ゴロ合わせ】

・「変な兄ちゃんがぎょうさん飼育を試みたのですっとのぞいたらちゃんは、サリンの現物を違法にボヤしていた

(変な兄ちゃんが、動物を飼育しているようなので、ちょっと覗いてみたら、サリンを作っていたというイメージです。かんばしくないゴロですので、密かに使用して下さい。)

 

→「変な(=「平」均賃金)、兄、ちゃん(=「日」数と「賃」金から控除するもの)が、

ぎょう(=「業」務上傷病療養休業期間」、さん(=「産」前産後休業期間」)、飼(=「使」用者の帰責事由による休業」、育(=「育」児介護休業期間)を、試みたので(=「試み」の使用期間)、

すっと(=「スト」ライキ等の正当な争議行為の期間)、のぞいたら(=控除する)、

ちゃんは(=「賃」金から控除するもの)、サ(=「3」箇月を超える期間ごとに支払われる賃金)、リン(=「臨」時に支払われた賃金)の、現物を、違法にボ・ヤ(=「現物」給与で、「法」令又は労働協「約」に基づかないもの(「違法」なもの))していた」 

 

 

(A)日数及び賃金総額の両者から控除されるもの

◆平均賃金の算定期間(=算定事由発生日以前3箇月間(賃金締切日がある場合は修正されます。以下同様です))中に、次の(一)から(五)のいずれかに該当する期間がある場合には、その日数及びその期間中の賃金は、平均賃金の算定基礎となる「期間(日数)」及び「賃金の総額」から控除します(第12条第3項)。

 

 

○趣旨

 

平均賃金が不当に低くなることを防止する趣旨です(具体的には、以下で見ます)。 

 

 

(一)業務上傷病療養休業期間第12条第3項第1号

 

◆「業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間」

 

 

○趣旨

 

業務上傷病療養による休業期間において、使用者は、当該業務上傷病による休業について帰責事由(民法第536条第2項の危険負担・債権者主義)がない場合は、原則として賃金支払義務は負いません(ノーワーク・ノーペイの原則(こちら))。

ただし、使用者に休業補償を行う義務が生じ得ますが(第76条。もっとも、通常は、労災保険法の休業補償給付の問題となります)、これらは労基法上の賃金にはあたりません(既述の「賃金の要件」の個所(こちら))。

そこで、かかる休業期間を平均賃金の算定基礎に考慮しますと、平均賃金が不当に低下するおそれがあるため、その控除を認めたものです。

 

 

1「業務上」の傷病療養であることが必要ですから、「通勤など業務外による傷病療養の休業の場合は、控除の対象となりません(業務外の災害の場合は、使用者の関与(支配性)が乏しいですから、例えば、解雇予告手当や休業手当等の算定において平均賃金を低下しないように調整することが必ずしも妥当とはいえないということになります)。

 

2 なお、「業務上傷病療養休業期間」は、すでに学習しました「解雇制限の期間」(第19条こちら)でも問題となりました。

 

 

 

(二)産前産後休業期間第12条第3項第2号

 

◆「産前産後の女性が第65条の規定によって休業した期間」

 

 

○趣旨

 

6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合及び産後8週間(原則)を経過しない場合には、使用者はその者を就業させてはなりません(第65条こちらで学習します)。

この産前産後休業期間について、使用者に賃金の支払を義務づける規定がないため、使用者は原則として賃金支払義務を負いません(産前産後休業期間中の賃金請求権の有無の法律構成については、厳密には育児介護休業法の労働一般のこちら以下(労働一般のパスワード)で詳述しています)

従って、平均賃金の低下を防止するため、これらの産前産後休業期間について控除の対象としています。

 

 

 

(三)使用者の帰責事由による休業期間第12条第3項第3号

 

◆「使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間」

 

 

○趣旨

 

使用者の帰責事由による休業の場合は、使用者は、休業期間中、平均賃金の60%以上の手当(休業手当)の支払が必要です(第26条)。(そして、この休業手当は、賃金にあたると解されています。既述の「賃金の要件」の個所(こちら)。)

しかし、休業手当は平均賃金の60%以上であればよいため、通常の賃金より低下することになり、従って、かかる休業期間について、控除の対象としています。

 

(なお、かかる使用者の帰責事由による休業の場合は、危険負担の債権者主義により、労働者は賃金請求権を有することが多いですが(そして、平均賃金の算定基礎となる「支払われた賃金の総額」は、算定事由発生時において、労働者が現実に受けたものだけでなく、受けることが確定した賃金も含みます(こちら))、休業手当の帰責事由には該当するが、危険負担・債権者主義の帰責事由には該当しないケースもあります(両者の判断基準が異なることは、こちら以下で見ました)。

そこで、使用者の帰責事由による休業については、事務処理の安定等の見地から、一律に、当該休業に係る日数及び賃金総額を平均賃金の算定基礎から控除していることになるのでしょう。)

 

※ なお、一部休業の場合(例えば、午前中は労働をしていたが、午後から使用者の帰責事由により休業をしたケース)についても、その日は休業とみなし、その日の労働に対して支払われた賃金が平均賃金の100分の60を超えると否とにかかわらず、休業日としてその日及びその日の賃金を控除するとされます(【昭和25.8.26基収第2397号】参考)。

 

 

 

(四)育児介護休業期間第12条第3項第4号

 

◆「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 〔=いわゆる育児介護休業法です〕第2条第1号〔=育児介護休業法第2条第1号(労働一般のパスワード)〕に規定する育児休業又は同条第2号に規定する介護休業(同法第61条第3項〔=行政執行法人の職員に関する特例〕(同条第6項において準用する場合を含む。)に規定する介護をするための休業を含む。第39条第10項〔=年次有給休暇の出勤日に算入する日〕において同じ。)をした期間」

 

 

○趣旨

 

育児介護休業法により、労働者はその事業主に申し出ることにより育児休業又は介護休業をすることができますが(同法第5条第11条)、この育児休業及び介護休業の期間中については、使用者に賃金の支払を義務づける規定がないため、使用者は原則として賃金支払義務は負いません(この賃金支払義務については、労働一般のこちら以下(労働一般のパスワード)で詳述しています)

従って、平均賃金の低下を防止するため、これらの休業期間についても、控除の対象としています。

 

なお、育児介護休業法第2条第1号に規定する育児休業以外の育児休業についても、同様に算定基礎から控除されると解されています(【平成3.12.20基発第712号】)(下記の(六)及び後述の例外的な算定方法を参考)。

即ち、同法第2条第1号の「育児休業」とは、「労働者(日々雇用される者を除く)が、同法第2章に定めるところにより、その子(原則)を養育するための休業」をいい、従って、同号の「育児休業」においては、例えば子が1歳6か月(2歳)に達するまでの休業が最長期間となりうるものですが、これを超えるような育児休業であっても、本件の平均賃金の算定基礎からの控除の問題については、本来の育児休業の場合と同様に取り扱うということになります。

(ちなみに、介護休業のケースについて、通達は言及していません。)

 

※ なお、本件の育児休業等に係る控除の対象には「子の看護休暇」は含みません(【過去問 平成19年問3B(こちら)】)。

(看護休暇は、日数も少ないため、平均賃金に対する影響が弱いことによると思われます。)

 

 

 

(五)試みの使用期間第12条第3項第5号

 

 

○趣旨

 

試みの使用期間とは、いわゆる試用期間のことで、試用期間についての主要問題については、すでに「労働契約の成立過程の問題」の個所(こちら)で学習しました。

試用期間中の賃金は、本採用後の賃金より低いのが一般であるため、かかる賃金及び試用期間は平均賃金の算定基礎から控除したものです。

 

 

 

(六)その他

 

以上のほかにも、第12条第8項の「第1項乃至第6項によって算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる」という規定によって、平均賃金の算定基礎である日数及び賃金総額から控除されるものがあります(なお、この第12条第8項については、施行規則第3条第4条及び昭和24年労働省告示第5号によって具体化されており、通達により具体的な算定方法が定められているものもあります。詳しくは、次のページのこちら以下で後述します)。

ここでは、注意すべきものを数点挙げておきます。

 

 

1 争議行為による休業期間

 

平均賃金の算定対象期間中に、労働争議により正当な同盟罷業〔=ストライキ〕をし、若しくは怠業し〔=サボタージュ・スローダウン〕、又は正当な作業所閉鎖〔=使用者によるロックアウト〕のため休業した期間がある場合には、その期間及びその期間の賃金は、平均賃金の算定対象期間及び賃金の総額から控除するものとされます(【昭和29.3.31基収第4240号】参考)。

 

これらの争議行為の期間中も、基本的に賃金は支払われないため(こちら以下)、平均賃金の低下を防止しようとするものです。

 

 

2 組合専従期間

 

平均賃金の算定期間中の「一部」に組合専従のための休業期間がある場合には、その期間中の日数及び賃金を控除して算定するとされます(【昭和25.1.18基収第621号】等参考)。

 

組合専従(在籍専従)(こちら)とは、組合員である労働者が、労働協約等の定めにより、労働時間に就労することを免除されて、労働組合の管理運営等の活動を行うことです。

組合専従員の賃金関係については、労働協約等の定めによることとなりますが、組合専従員の賃金を使用者(企業)が支払わず、労働組合が支払う場合は、企業について算定する当該専従者の平均賃金は低下することがあり、労働基本権(組合活動権)の実質的保障も考慮して、控除の例外を設けたことになります。

 

なお、組合専従者でない者が、労働協約の規定に従って臨時に組合用務に就いた期間についても、以上と同様に取り扱われます(【昭和26、8.18基収第3783号】参考)。

 

他方、算定期間中の「全部」が組合専従のための休業期間である場合は、後述の「平均賃金が算定できない場合」の「休業期間が算定事由発生日以前3箇月以上にわたる場合」の問題(こちら以下)とされます。

 

 

〇過去問:

 

・【平成19年問3B】

設問:

平均賃金の計算においては、業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間、産前産後の女性が労働基準法第65条の規定によって休業した期間、使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下「育児介護休業法」という。)の規定によって育児休業若しくは介護休業をした期間又は子の看護休暇を取得した期間及び試みの使用期間については、その日数及びその期間中の賃金を労働基準法第12条第1項及び第2項に規定する期間及び賃金の総額から控除する。

 

解答:

誤りです。

本問のうち、「子の看護休暇を取得した期間」についての日数及びその期間中の賃金は、平均賃金の算定基礎から控除されません(第12条第3項参考)。

 

本問のように、文章が長い場合は、短いキーワードを見逃すことがあります。

法律科目についての出題の多くは、条文をベースにしています。従って、重要な(=出題対象となりそうな)条文については、日頃からなじんでおくことが必要です。

例えば、本問は、第12条第3項の内容をまとめた出題となっています。

この場合、第12条第3項を一度は熟読されていれば、本問中の「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下『育児介護休業法』という。)の規定によって育児休業若しくは介護休業をした期間」という長い部分について、「育児介護休業法の規定によって育児休業若しくは介護休業をした期間」の意味であることが瞬時に予測でき、問題文を読む時間も短縮されると同時に、前記部分の後に続く、「子の看護休暇」に目をつけやすくなります。

 

法律科目は、基本的には、条文とその適用の仕方を学習するものですから、まずは、条文をベースにおくことが必要です。

 

 

・【平成27年問2B】

設問:

平均賃金の計算において、労働者が労働基準法第7条に基づく公民権の行使により休業した期間は、その日数及びその期間中の賃金を労働基準法第12条第1項及び第2項に規定する期間及び賃金の総額から除外する。

 

解答:

誤りです。

本問の公民権の行使により休業した期間(公民権の行使・公の職務執行による休業期間。こちら)については、平均賃金の算定基礎となる日数及び賃金から控除される旨の規定はありません。

 

なお、公民権の行使・公の職務執行による休業期間は、年次有給休暇の年休権発生の要件としての「出勤率」の算定においては、「全労働日」から除外されている(のちに、年休のこちらで学習します)ことと混乱しないように注意です。

 

両者の取扱いの違いについては、両者の制度の目的が異なる以上、当然に不合理であるといえるわけではありませんが、合理的な違いなのかと考えますと疑問も残るところです。 

 

 

以上、「日数及び賃金総額の両者から控除されるもの」でした。

 

 

 

(B)賃金総額から控除されるもの

〇 平均賃金の算定基礎の「賃金の総額」から以下の(一)~(三)の賃金等控除されます(第12条第4項)。

 

(一)臨時に支払われた賃金

 

(二)3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

 

(三)通貨以外のもので支払われた賃金一定の範囲に属しないもの〔=法令又は労働協約の別段の定めに基づかない現物給与(即ち、違法な現物給与)のことです〕

 

 

○趣旨

 

臨時の賃金等の一定の賃金を平均賃金の算定基礎の賃金総額(分子)に算入しますと、算定事由発生時期によって、平均賃金に著しい高低を生じるおそれがあること等を考慮して、平均賃金の算定の合理化の見地から、当該賃金を賃金総額から控除するものです。

 

 

【条文】

第12条

 

〔第3項までは、省略(全文は、こちらです)。〕

 

4.第1項賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金一定の範囲に属しないもの算入しない

 

〔第5項以下は、省略。〕

 

 

 

以下、この3つについて詳しく見ます。

 

 

(一)臨時に支払われた賃金

 

1「臨時に支払われた賃金」とは、「臨時的、突発的事由にもとづいて支払われたもの及び結婚手当等支給条件は予め確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、且つ非常に稀に発生するもの」のことです(【昭和22.9.13基発第17号】)。

 

例えば、私傷病手当(【昭和26.12.27基収第3857号】)、病気欠勤等の月給者に支給される加療見舞金(【昭和27.5.10基収第6054号】)、退職手当(退職金)(【昭和22.9.13発基第17号】)などです(これらが就業規則等により予め支給条件が明確化され、使用者が支払義務を負う場合に、「賃金」にあたり、算定基礎からの控除の有無の問題が生じることになります)。

なお、時間外手当について、【令和元年問1E(こちら)】を参考です。

 

 

2 ちなみに、この「臨時に支払われる(た)賃金」は、労基法上次のような取り扱いがなされます(「臨時に支払われる賃金」と規定されている場合と「臨時に支払われた賃金」と規定されている場合がありますが、同様の内容です)。

 

 

「臨時に支払われる(た)賃金」の労基法上の取扱い :

 

(a)平均賃金

 

「臨時に支払われた賃金」は、平均賃金の算定基礎である賃金総額から控除されます(本件です。第12条第4項)。

 

 

(b)毎月1回以上払、一定期日払の原則の例外

 

「臨時に支払われる賃金」は、毎月1回以上払一定期日払の原則の例外になります(第24条第2項こちら)。

 

 

(c)割増賃金

 

「臨時に支払われた賃金」は、割増賃金算定基礎から除外されます(第37条第5項施行規則第21条第4号こちら)。

 

 

(d)就業規則の相対的必要記載事項

 

「臨時に支払われる賃金」は、就業規則相対的必要記載事項の「臨時の賃金等」になります(第89条第2号かっこ書第4号第24条第2項ただし書こちら

 

 

(e)労働契約締結の際の労働条件の相対的明示事項

 

「臨時に支払われる賃金」は、労働契約締結の際労働条件の相対的明示事項になります(第15条第1項施行規則第5条第1項第5号こちらの(2))。

 


     

 

(二)3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

 

1「3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」とは、例えば、年3回以内の賞与等です(年2期の賞与など)。

 

 

2 なお、賞与(ボーナス、一時金)といえるためには、「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの」であることが必要とされます(【昭和22.9.13発基第17号】/【平成12.3.8基収第78号】)。

 

そこで、例えば、年俸制で毎月払部分と賞与部分を合計して予め年棒額が確定している場合の平均賃金の算定については、このように予め支給額が確定しているものは、労基法上の賞与にはあたらず、平均賃金の算定基礎である賃金総額に算入することが必要です。

その場合、賞与部分を含めた年俸額の12分の1を1箇月の賃金として算定します。

 

例えば、年俸額の17分の1を月例給与として支給し、残りの17分の5を6月と12月に賞与として支給するような場合、かかる支給額が予め確定されている賞与は平均賃金の算定対象として算入することが必要であり、賞与部分を含めた年俸額の12分の1を1箇月の賃金として平均賃金を算定することが必要です。

 

他の「賞与」の問題については、「賃金」の個所(こちら)で学習しました。

 

 

3 3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金かどうかは、当該賃金の計算期間3箇月を超えるかどうかにより定まります。

 

(1)例えば、10月から翌年3月までの期間にわたって支払われる冬営手当については、それが10月に一括支給されても、月割計算の建前をとっている限り、毎月分の前渡と認められますから、3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金ではないとされます(【昭和25.4.25基収第392号】参考)。

 

(2)また、使用者が、通勤手当の代わりとして6か月ごとに通勤定期乗車券(いわゆる通勤定期券です)を購入し、これを労働者に支給している場合、この通勤定期乗車券が本件の「3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」となるか問題です。

 

【過去問 平成17年問1D(こちら)】/【平成24年問1D(こちら)】/【平成24年問4E(こちら)】/【平成26年問3ウ(こちら)】)。

(【昭和25.1.18基収第130号】/【昭和33.2.13基発第90号】)

 

まず、本件定期券が、3箇月を超える期間ごとに支払われる「賃金」(第11条)にあたるかですが、使用者が、通貨以外で支給するいわゆる現物給与(現物給付)も、「労働の対償」として支給される場合には、賃金にあたります。

具体的には、現物給付の支給分だけ賃金が減額される場合や当該現物給付の支給条件が予め明確化されているような場合に賃金にあたることになります。

本件では、通勤手当(これは「賃金」にあたります)の代わりとして通勤定期乗車券が支給されているのですから、この定期券は「労働の対償」として支給されているものといえ、「賃金」にあたります(厳密には、その支給基準が就業規則等に明確に定められ、使用者がその支払義務を負う場合は、賃金にあたると解されることになります。詳細は、「賃金の要件」の個所(こちら)で学習しました)

 

次に、「3箇月を超える期間ごとに支払われる」賃金にあたるかですが、その判断は、上記の通り(こちら)、当該賃金の計算期間が3箇月を超えるかどうかにより決定します。本件では、6箇月ごとに支給することになっている点が問題です。 

この点、定期券は、本来は、例えば各月ごとに支給できるはずであるところを、支給事務の簡略化等のため3箇月を超える期間ごとに支給しているものと解され、本件でも、実質的には、各月分の賃金をまとめて6箇月分前払しているものと評価できます。

従って、本件定期券は、その計算期間は3箇月を超えるものではなく、平均賃金の算定基礎である賃金総額に算入することが必要となります。

(実際上、こう解しませんと、通勤手当として金銭が支払われた場合は、平均賃金の賃金総額に算入されるのに対して、通勤手当が3箇月を超える期間に係る定期券として現物給付されると平均賃金の賃金総額に算入されずに平均賃金が低下することになり、同じ通勤に係る手当について不均衡な結果となります。)

 

なお、本件は、通勤定期券(現物)による賃金の支払となり、賃金の通貨払の原則の例外(第24条第1項ただし書)にあたりますから、労働協約に定めがあることが必要です(こちらの(二))。

そして、かかる現物給与であっても、次の(三)(こちら)の通り、労働協約の定めに基づくものは、平均賃金の算定基礎に算入されます。

 

 

 ○過去問:

 

・【平成17年問1D】

設問:

使用者が、通勤手当の代わりとして、6か月ごとに通勤定期乗車券を購入し、これを労働者に支給している場合、通勤手当は賃金ではあるが、6か月ごとに支給される通勤定期乗車券は、労働基準法第12条第4項に定める「3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当するので、平均賃金算定の基礎となる賃金には算入されない。

 

解答:

誤りです(【昭和25.1.18基収第130号】/【昭和33.2.13基発第90号】)。

 

通勤定期券や通勤手当は、その支給基準が就業規則・労働協約等に明確に定められ、使用者が支払義務を負う場合は、賃金にあたると解されます(こちら)。

 

そして、通勤定期券が賃金に該当する場合、賃金の通貨払の原則から、かかる通貨以外のもので賃金が支給されるとき(現物給与)は、労働協約の定めによること等が必要です(こちらの(二))。

 

次に、「3箇月を超える期間ごとに支払われる」賃金は平均賃金の算定基礎から除外されますが、その判断は、当該賃金の計算期間が3箇月を超えるかどうかにより決定されます(こちら)。

本問の6か月ごとに支給される通勤定期乗車券は、本来は、各月ごとに支給できるはずであるところを、支給事務の簡略化等のため3か月を超える期間ごとに支給しているものと解され、実質的には、各月分の賃金をまとめて6か月分前払しているものと評価できます。従って、本件定期券は、その計算期間は3箇月を超えるものではなく、「3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」には該当しないため、平均賃金算定の基礎となる賃金に算入されます。

 

 

・【平成24年問4E】

設問:

労働基準法に定める「平均賃金」とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3か月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいい、年に2回6か月ごとに支給される賞与が当該3か月の期間内に支給されていた場合には、それも算入して計算される。

 

解答:

誤りです。

本問の「年に2回6か月ごとに支給される賞与」は、「3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当しますから、賃金総額には算入されません(第12条第4項)。

この点、「3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」かどうかは、当該賃金の計算期間が3箇月を超えるかどうかにより定まります(こちら)。

本問では、賃金の計算期間は6箇月であると解されますので、たとえ支給時期は3箇月の期間内に行われていても、「3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当することになります。

 

 

・【平成24年問1D】

設問:

ある会社で、労働協約により通勤費として6か月ごとに定期乗車券を購入し、それを労働者に支給している場合、この定期乗車券は、労働基準法第11条に規定する賃金とは認められず、平均賃金の基礎に加える必要はない。

 

解答:

誤りです。 

通勤定期券や通勤手当は、その支給基準が就業規則・労働協約等に明確に定められ、使用者が支払義務を負う場合は、賃金にあたると解されます(こちら)。

そして、通勤定期券が賃金に該当する場合、賃金の通貨払の原則から、かかる通貨以外のもので賃金が支給されるとき(現物給与)は、法令又は労働協約の定めによること等が必要であり(こちら)、本問の定期乗車券は、労働協約に基づき支給されているものです。

 

次に、「3箇月を超える期間ごとに支払われる」賃金は平均賃金の算定基礎である賃金総額から除外されますが(第12条第4項)、その判断は、当該賃金の計算期間が3箇月を超えるかどうかにより決定されます(こちら)。

この点、定期券は、本来は、各月ごとに支給できるはずであるところを、支給事務の簡略化等のため3か月を超える期間ごとに支給しているものと解され、本件でも、実質的には、各月分の賃金をまとめて6箇月分前払しているものと評価できます。

従って、本件定期券は、その計算期間は3箇月を超えるものではなく、平均賃金の算定基礎である賃金総額に算入することが必要となります。

 

 

・【平成26年問3ウ】

設問:

ある会社で労働協約により6か月ごとに6か月分の通勤定期乗車券を購入し、それを労働者に支給している。この定期乗車券は、労働基準法第11条に規定する賃金であり、各月分の賃金の前払いとして認められるから、平均賃金算定の基礎に加えなければならない。

 

解答:

正しいです。前掲の【平成24年問1D(こちら)】と類問です。

 

通勤定期券や通勤手当は、その支給基準が就業規則・労働協約等に明確に定められ、使用者が支払義務を負う場合は、賃金にあたると解されます(こちら)。

そして、通勤定期券が賃金に該当する場合、賃金の通貨払の原則から、かかる通貨以外のもので賃金が支給されるとき(現物給与)は、法令又は労働協約の定めによること等が必要であり(こちら)、設問の通勤定期乗車券は、労働協約に基づき支給されているものです。

 

次に、「3箇月を超える期間ごとに支払われる」賃金は平均賃金の算定基礎である賃金総額から除外されますが(第12条第4項)、その判断は、当該賃金の計算期間が3箇月を超えるかどうかにより決定されます(こちら)。

この点、定期券は、本来は、各月ごとに支給できるはずであるところを、支給事務の簡略化等のため3か月を超える期間ごとに支給しているものと解され、本件でも、実質的には、各月分の賃金をまとめて6箇月分前払しているものと評価できます。

従って、本件定期券は、その計算期間は3箇月を超えるものではなく、平均賃金の算定基礎である賃金総額に算入することが必要となります。

   

 

4 なお、労基法上、賞与は次のような取扱いがなされます(すでにご紹介済みです)。   

 

「賞与」の労基法上の取扱い :

 

(1)賃金性

 

賞与も、就業規則等により予め支給条件が明確化され使用者が支払義務を負う場合は、労基法上の賃金にあたります。

こちら。なお、関連問題は、「毎月1回以上払・一定期日払の原則」の個所(こちら)。)

 

 

(2)就業規則の相対的必要記載事項、労働契約締結の際の労働条件の相対的明示事項

 

臨時の賃金等」(第89条第4号)としての「賞与」(第24条第2項ただし書)は、就業規則相対的必要記載事項となります(こちら)。

また、労働契約締結の際労働条件の明示事項としての相対的明示事項になります(第15条第1項施行規則第5条第1項第5号こちらの(2))。

  

 

(3)毎月1回以上払、一定期日払の原則の例外 

 

賞与は、「毎月1回以上払、一定期日払の原則」の例外となります(第24条第2項ただし書こちら)。

 

 

(4)平均賃金

 

賞与は、平均賃金の算定基礎である賃金総額から控除されます(本件です。第12条第4項)。

即ち、平均賃金の算定基礎である賃金総額には、「臨時に支払われた賃金及び3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」等は含まれません)。

 

 

(5)割増賃金

 

賞与は、割増賃金の算定基礎から除外されます第37条第5項施行規則第21条第5号こちら)。

即ち、「1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」は、割増賃金の算定基礎から除外されています)。  

 

  

 

 

(三)通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないもの

 

この「通貨以外のもので支払われた賃金〔=いわゆる現物給与です〕で一定の範囲に属しないもの」とは、第12条第5項及び施行規則第2条第1項により「法令又は労働協約の別段の定めに基づかない現物給与」〔=即ち、違法な現物給与〕のことです(もっとも、賃金の通貨払の原則(第24条第1項)から、賃金は、法令若しくは労働協約に別段の定めがなければ通貨以外のもの(現物)で支払うことはできないため、一般には、この(三)の違法な現物給与に該当するケースは生じない建前となりますが)。

 

即ち、賃金が通貨以外のもので支払われる場合〔=現物給与〕、平均賃金の賃金総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定められるとされ(第12条第5項)、これに基づいて、施行規則第2条が次の旨を定めています(現物給与の評価額についてはこちらで見ました)。

 

(ア)賃金が通貨以外のもので支払われる場合〔=現物給与)に、平均賃金の賃金総額に算入すべきものは、法令又は労働協約の別段の定めに基づいて支払われるものに限られる(施行規則第2条第1項)。

 

(イ)この場合の通貨以外のもの〔=現物〕の評価額は、法令に別段の定がある場合のほかは、労働協約に定めなければならない(施行規則第2条第2項)。

 

(ウ)労働協約に定められた評価額が不適当と認められる場合又は当該評価額が法令もしくは労働協約に定められていない場合は、都道府県労働局長が当該評価額を定めることができる(施行規則第2条第3項)。

 

※ なお、各法の現物給与の比較は、既述の「賃金支払の5原則」の「通貨払の原則の例外」の個所(こちら)を参考にして下さい。

 

 

【条文】

第12条

 

〔第4項までは、省略(全文は、こちらです)。〕

 

5.賃金が通貨以外のもので支払われる場合〔=現物給与〕、第1項の賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。

 

〔第6項以下は、省略。〕

 

 

 

【施行規則】

施行規則第2条

1.労働基準法(昭和22年法律第49号。以下「法」という。)第12条第5項〔=法第12条第5項〕の規定により、賃金の総額に算入すべきものは、法第24条第1項ただし書〔=通貨払の原則の例外が認められる場合〕の規定による法令又は労働協約の別段の定めに基づいて支払われる通貨以外のものとする。

 

2.前項の通貨以外のものの評価額は、法令に別段の定がある場合の外、労働協約に定めなければならない。

 

3.前項の規定により労働協約に定められた評価額が不適当と認められる場合又は前項の評価額が法令若しくは労働協約に定められていない場合においては、都道府県労働局長は、第1項の通貨以外のものの評価額を定めることができる。

 

 

以上で、原則的な算定方法を終わります。次ページにおいて、例外的な算定方法を学習します。