平成30年度版

 

第3章 労働契約

総論 体系

ここでは、労働条件の決定システムの中でも最も重要なものである「労働契約」について、詳しく学習します。

まず、労働契約の体系図について、再掲します。その後、労基法の労働契約に関する条文の配置を見ます。

 

§1 労働契約の体系

労働契約の体系図を再掲します。

これから学習します労働契約においては、多岐にわたる問題が登場しますので、当該問題・論点が以下の「労働契約の体系図」のどこに位置づけられるものなのかを意識して頂くと、知識の乱立を防止することができます。

 

なお、次の体系図では、「要件」と「効果」による整理は、労働契約の「発生」(成立)に関する段階のみで記載しています。

しかし、その他の「変更」や「消滅」に関する個別の問題においても、「要件」と「効果」に着目して知識を整理します。例えば、解雇についても、その要件と効果が問題となるという具合です。

 

 

  【労働契約の体系図】

 

 

§2 労基法上の労働契約に関する規定

労働基準法上は、「労働契約」に関し、第2章(第13条から第23条まで)において以下のような規定が定められています。

これを、「発生(成立)➡ 変更(展開)➡ 消滅(終了)」のフレームにそって整理してみます。

ここは、流し読みで結構です。

 

 

〔1〕発生 = 労働契約の成立

 

「発生 = 労働契約の成立」に関しては、労基法は以下のような規定を定めています。

 

(1)第13条(労基法違反の契約)

 

第13条は労基法の規範的効力に関する規定であり、すでに「労働条件の決定システムの全体像」の個所(こちら)において詳しく見ました。

即ち、労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約の部分は無効となり、当該無効部分は労基法で定める基準によるとするものです。

この第13条は、成立した労働契約の効果(広義)についての問題です。

 

 

(2)第14条(契約期間等)

 

第14条は、労働契約の期間の定めの規制や期間の定めのある労働契約に関する基準等について規定しています。

 

労働契約の期間の定めの有無等は、労働契約の体系上は、労働契約の内容に関する問題であり、通常、労働契約の締結時に定めることになります(ただし、期間の定めの有無等が労働契約の成立要件等になるわけではありません)。

そして、労働契約の内容に関する問題ですから、同時に労働契約の効果の問題とも結びつきます。

上記の体系図の中では、便宜上、効果(労働契約の個別の効果)の中に位置づけています(かかる位置づけをあまり厳密に考える必要ありません)。

 

 

(3)第15条(労働条件の明示)

 

第15条は、労働契約締結の際の労働条件の明示に関し定めたものです。

労働契約の体系図の中では、「労働契約の成立過程の問題」と位置づけています。

 

なお、労働条件の明示が労働契約の成立要件等となるわけではありません(つまり、労働条件の明示がなければ、労働契約が成立しないとか無効となるということではありません。第15条等においてそのような文言はありませんし、労働条件の一部の明示がない場合に労働契約が無効となるとしては、かえって労働者に不利益になる場合も生じうるからです)。

 

 

なお、「労働契約の成立過程の問題」については、労基法では規定がありませんが、採用の内定、採用の自由、試用期間といった問題があります(労基法において出題されたこともあります)。

募集等については、労働一般(職業安定法等)で学習します。

 

 

(4)第16条 ~ 第18条

 

第16条から第18条までは、賠償予定の禁止(第16条)、前借金相殺の禁止(第17条)、強制貯金・任意貯金(第18条)に関する規定です。

これらは、労働契約に附随する契約等ですが、労働者の人身の拘束ないし強制労働の危険があるため規制されています。

広くは、労働者の人権保障の総則的規定(労働憲章)に含まれ、当サイトでは、「客体」の「労働憲章」の個所(こちら以下)で学習します。

 

なお、労働契約の成立に関する規定として、労基法の第2章の「労働契約」の章の他に、第6章の「年少者」の中で、未成年者の労働契約に関する規定(第58条)もあります。

また、労働契約の成立に関しては、労働契約法において、合意の原則等の規定が定められています。

その他、労基法に規定がない事項については、一般法たる民法の雇用契約等の規定が適用されるのが原則です。 

 

 

〔2〕変更(展開)= 労働契約の変更

 

労働契約ないし労働関係の変更については、労基法の第2章の「労働契約」の個所には直接的な規定はありません。

 

労働契約法において、「就業規則の変更」という重要な問題が規定されています(当サイトでは、のちに就業規則のこちら以下で学習します)。

また、集団的な労働関係については、労働組合法において、「労働協約の変更」が問題となります(労働組合法のこちら以下で学習します)。

 

 

〔3〕消滅(終了)= 労働契約の終了

 

労基法の第2章の第19条から第23条までは、「労働契約の終了」に関する規制です。

「労働契約の終了」の事由・原因は様々ですが、労基法は、特に問題となりやすい「解雇 = 使用者による一方的な労働契約の解約」を中心に規制しています。

なお、解雇の実体的な規制については、労働契約法第16条にいわゆる解雇権濫用法理が規定されていますし、労基法その他の労働法で各種不利益取扱いの禁止規定等もあります。

 

以下、労基法の第2章の労働契約の章に定められている「労働契約の終了」に関する規定の概観です。 

 

 

(1)第19条(解雇制限)

 

第19条は、解雇時期の制限であり、業務災害又は産前産後による休業に係る期間における解雇を制限しています。

再就職が困難なような時期における解雇を制限することにより、労働者の生活の安定を図ろうとする趣旨です。

 

 

(2)第20条(解雇の予告)、第21条(解雇予告の制度の例外)

 

第20条及び第21条は、解雇予告の制度について定めています。

解雇する場合に、30日前までの予告か、30日分以上の平均賃金の支払を必要としています(両者の併用も可能です)。

労働者に再就職等の準備(時間的、経済的余裕)を保障するものです。

 

 

(3)第22条(退職時の証明)、第23条(金品の返還)

 

第22条及び第23条は、退職時において、労働者の保護の見地から、使用者に一定の措置を要求するものです。

 

  

次のページ以下において、「労働契約の発生(成立)➡ 変更(展開)➡ 消滅(終了)」という時系列のフレームに沿って、知識を整理していきます。

 

まず、次のページでは、「労働契約の発生(成立)」の問題から始めます。