平成30年度版

 

第3款 採用の内定

一 意義

採用の内定とは、新規学卒者の採用の際に、正式に採用を決定する前に内定という手続を経ることをいいます。

 

企業からの採用内定を受けますと、新規学卒予定者は他の企業に対する就職活動は終了するのが一般ですから、採用内定後にその内定が取消されますと、内定者は重大な不利益を受けます。このようなことから、内定の法的性質をどのように考えるか等が問題になります。

 

 

二 法的性質

採用の内定の法的性質については、内定の実態が多様であるため、具体的な事実関係に即して検討する必要があります。※1

即ち、「企業が大学の新規卒業者を採用するについて、早期に採用試験を実施して採用を内定する、いわゆる採用内定の制度は、従来わが国において広く行われているところであるが、その実態は多様であるため、採用内定の法的性質について一義的に論断することは困難というべきである。したがって、具体的事案につき採用内定の法的性質を判断するにあたっては、当該企業の当該年度における採用内定の事実関係に即してこれを検討する必要がある」とされます(【大日本印刷事件=最判昭54.7.20】)。

【過去問 労働一般 平成25年問1C(後掲)】 

 

そして、この大日本印刷事件の事実関係の下では、次のように採用内定の法的性質が判断されました。

 

※ 以下の判旨は、太字と赤字の部分に注意して下さい。

 

〔本件の採用内定に関する事実関係を述べた後〕

「以上の事実関係のもとにおいて、本件採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかったことを考慮するとき、上告人〔=企業〕からの募集申込みの誘引)に対し、被上告人〔=新規学卒者〕が応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対する上告人からの採用内定通知は、右申込みに対する承諾であって、被上告人の本件誓約書の提出とあいまって、これにより、被上告人と上告人との間に、被上告人の就労の始期を昭和44年大学卒業直後とし、それまでの間、本件誓約書記載の5項目の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと解するのを相当とした原審の判断は正当であって、原判決に所論の違法はない。」

 

【過去問 労働一般 平成14年問5A(後掲)】/【労基法 平成9年】

 

即ち、判例は、当該事実関係の下では、企業の募集が労働契約の「申込みの誘因」であり、これに対する応募が労働契約の「申込み」であり、採用内定通知が申込みに対する「承諾」であると解し、採用内定通知により(誓約書の提出とあいまって)、始期付の解約権を留保した労働契約が成立すると構成しました。

 

 

※ 契約は、申込みの意思表示と承諾の意思表示が合致することにより成立するのが原則です(民法第555条売買契約等。同法第521条以下)。

 

・申込み=相手方の承諾があれば、直ちに契約を成立させるという意思表示

・承諾=申し込みに対応して契約を成立させる意思表示

 

対して、「申込みの誘因」とは、相手方の承諾があっても直ちに契約が成立するものではなく、相手方の申込みを誘うものです。例えば、求人広告などです。

申込みとの区別は、相手方の承諾があれば直ちに契約を成立させる趣旨なのかどうかによりますが、その際、相手方の個性が重視されるのか、申出が契約内容を明示しているのか等を考慮して判断することになります。

 

採用の内定の場合においては、企業の「募集」は、通常は、新規学卒者の応募があっても直ちに労働契約を成立させる趣旨とはいえませんので、「申込み」ではなく、「申込みの誘因」にあたることになります。

そして、上記判例は、企業の募集に対する新規学卒者の「応募」を労働契約の「申込み」と解し(=企業の承諾があれば、直ちに労働契約を成立させる趣旨と解したことになります)、これに対する企業の「採用内定通知」を労働契約の「承諾」と構成しました。

ただし、採用の内定においては、採用内定の取消し事由(例えば、卒業できないなど)に該当した場合には採用内定が取り消されることを予定しているため、採用内定取消し事由に該当した場合には内定を解約できるという内容をもつものとして「解約権留保付の労働契約が成立した」と構成しています。

そして、就労の始期は、大学卒業直後と解しています。

 

※1 採用内定の法的性質:

採用内定の法的性質については、次のような争いがありました(覚えなくても結構です)。

 

・契約締結過程説 = 採用内定は、労働契約の締結過程に過ぎないとするもの。

そこで、内定が取り消されたときは、内定者は不法行為に基づく損害賠償請求等しかできないことになります。

 

・予約説 = 採用内定は、将来の労働契約締結の予約とするもの。

そこで、内定が取り消されたときは、内定者は予約違反として債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができることになります。

 

・労働契約説 = 採用内定により、労働契約が成立したと解するもの。

そこで、内定が取り消されたときは、上記2説と異なり、単に損害賠償請求の問題になるだけでなく、解雇の無効を主張して労働契約の存在確認を求めることが可能になります。

上記判例は、当該事案においては、労働契約説をとったことになります。 

 

 

・【過去問 労働一般 平成14年問5A】

設問:

採用内定に関しては、「企業の求人募集に対する大学卒業予定者の応募は労働契約の申込みであり、これに対する企業の採用内定通知は右申込みに対する承諾であって、誓約書の提出とあいまって、これにより、大学卒業予定者と企業との間に、就労の始期を大学卒業の直後とし、それまでの間誓約書記載の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したものと認めるのが相当である。」旨の最高裁判決がある。

 

解答: 

前掲の【大日本印刷事件=最判昭54.7.20】の判旨であり、正しいです。

 

 

三 採用内定の取消しの適法性

上記判例のように、採用の内定により解約権留保付の労働契約が成立したと構成しますと、企業の内定の取消し(=留保解約権の行使)は、すでに成立した労働契約を使用者が一方的に解約するものとして解雇権の行使に該当することになります。

そこで、解雇権濫用法理(労働契約法第16条)が適用され、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして」、当該内定の取消しは無効となります。※1

 

この点、上記判例は、「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができずまた知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である」としています。※2

 

 

※1 解雇の要件:

上記の通り、採用の内定に係る留保解約権の行使は、解雇権の行使にあたりますから、原則として、一般の解雇権の行使の適法性の要件を満たすことが必要となります(解雇の要件についてはこちら)。

 

 

※2 採用内定の取消事由について:

判例は、上記の通り、採用内定の取消事由について、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実」であることが必要としています。

ただ、一般の解雇の場合、使用者が経営上の理由(経営不振や競争力強化等の理由)により人員削減のために行う場合は、整理解雇の4要件を満たすことが必要と解されています(後にこちらで学習します)。

そこで、採用内定の取消しの場合も、経営上の理由によるときは、整理解雇の4要件が要求される可能性があります。 

 

 

(参考)

判例について詳しく見ますと、上記の【大日本印刷事件】判例は、試用期間の判例(前掲の三菱樹脂事件判例(こちら)であり、試用期間については後述します)の考え方が採用内定についてもあてはまるとして、両者の基準をパラレルに考えています。

(以下、この【大日本印刷事件】判例の残りの部分の判旨を掲載しておきますが、下線部分や太字部分を注意すれば足りると思います。)

 

即ち、

「思うに、わが国の雇用事情に照らすとき、大学新規卒業予定者で、いったん特定企業との間に採用内定の関係に入った者は、このように解約権留保付であるとはいえ、卒業後の就労を期して、他企業への就職の機会と可能性を放棄するのが通例であるから、就労の有無という違いはあるが、採用内定者の地位は、一定の試用期間を付して雇用関係に入った者の試用期間中の地位と基本的には異なるところはないとみるべきである。

 

 ところで、試用契約における解約権の留保は、大学卒業者の新規採用にあたり、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他いわゆる管理職要員としての適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に蒐集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解され、今日における雇用の実情にかんがみるときは、このような留保約款を設けることも、合理性をもつものとしてその効力を肯定することができるが、他方、雇用契約の締結に際しては企業者が一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあることを考慮するとき、留保解約権の行使は、右のような解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認することができる場合にのみ許されるものと解すべきであることは、当裁判所の判例とするところである(当裁判所昭和43年(オ)第932号同48年12月12日大法廷判決、民集27巻11号1536頁〔=後掲の三菱樹脂事件判決です〕)。右の理は、採用内定期間中の留保解約権の行使についても同様に妥当するものと考えられ、したがって、採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である。」としています。

 

 

【労働契約法】

労契法第16条(解雇)

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

※ この労契法第16条は、後に「労働契約の終了」の「解雇」の個所こちらで学習します。   

 

 

四 内定期間中の法律関係

内定期間(=採用内定通知後、就業開始までの期間です)中に当事者がいかなる権利義務関係を有するか(例えば、企業は、内定期間中に、内定者に対して、研修を強制できるのか)についても問題です。

 

この点、最高裁は、前掲の【大日本印刷事件】においては、採用内定は、「就労始期」付の解約権留保付労働契約としており、この構成からは、内定の時から労働契約の効力は発生していることとなり(内定時に労働契約は成立し、かつ、労働契約の効力も発生しているとなります)、研修義務などの内定期間中の内定者の義務も、就労の準備行為の限度で認められるとしやすいです。

他方で、【電電公社近畿電気通信局事件=最判昭55.5.30】においては、採用内定を「効力始期」付の解約権留保付労働契約と解しており、この構成からは、内定期間中は労働契約の効力は発生していないとなり(内定時に労働契約は成立していますが、就労開始時に労働契約の効力が発生することになります)、内定期間中の研修義務等は当然には認められない(その都度の内定者の同意が必要)とすることもできます。

 

ただ、この内定期間中の法律関係の問題は、結局は、当該研修等に関する当事者間の合意の内容の解釈の問題といえます(上記のうち、後者の「効力始期」付として、労働契約の効力は就労開始時に発生すると考えたとしても、研修等が内定期間中も実施される旨を当事者間で合意することは許容されるからです)。

そこで、事案によって結論が異なることになるといえます。

 

 

五 採用の内々定

企業が、採用の内定の通知前に採用の意向を口頭ないし書面で示すことがあり、これを採用の内々定といいます。

この採用の内々定の法的性質についても、当該事案における内々定の実態に即して、解約権留保付で労働契約が成立したと解されるのか(それとも、単なる労働契約の締結過程や労働契約の予約にすぎないのか)を判断することになります。

 

例えば、内々定者の入社の誓約書の提出や企業の労働契約締結責任者の承認などがなく、内々定者も他の企業との間でなお就職活動を継続しているような場合には、(解約権留保付の)労働契約が成立したとは認めにくいことになります。

 

 

六 中途採用者について

以上の採用内定に関する法理が中途採用者についてもあてはまるか問題です。

 

この点も、個々の事案における採用内定の個別の解釈問題となりますが、基本的には、採用内定に関する法理が妥当すると考えてよさそうです。

 

 

七 職業安定法による内定取消し等に関する規制

なお、内定取消し等については、職業安定法及び同法施行規則により規制がなされています(詳細は、労働一般の職業安定法の個所で学習しますが、内定取消しに関する問題なので、ここでざっと見ておきます)。

 

職業安定法第54条の「厚生労働大臣による雇入方法等の指導」に基づき、「新規学卒者の採用内定取消しに係る事前通知制度」が定められています(同法施行規則第35条第2項)。

即ち、新規学卒者を雇い入れようとする者は、(ア)募集の中止若しくは募集人員の減少、(イ)内定の取消し若しくは撤回、又は(ウ)内定期間の延長をするときは、あらかじめ、公共職業安定所及び施設(学校等)の長に通知をすることが必要です。

そして、厚生労働大臣は、上記(イ)による内定の取消し又は撤回する旨の通知の内容が、厚生労働大臣が定める場合(例えば、2年度以上連続して行われたときや同一年度内に10名以上の者に対して行われたものであるとき等)に該当するときは、当該内容を公表できます(同法施行規則17条の4等)。

 

 

・【過去問 労働一般 平成25年問1C】

設問:

いわゆる採用内定の制度の実態は多様であるため、採用内定の法的性質について一義的に論断することは困難というべきであり、採用内定の法的性質を判断するに当たっては、当該企業の当該年度における採用内定の事実関係に即してこれを検討する必要があるとするのが、最高裁判所の判例である。

 

解答:

前述のように、【大日本印刷事件=最判昭54.7.20】の判示であり、正しいです。

 

  

以上で、「採用の内定」の問題を終わります。次に、「試用期間」の問題です。 

 

 

 

第4款 試用期間

一 意義

試用期間とは、本採用の前に行われる従業員としての適格性を判断するための期間です。いわゆる見習期間・研修期間です。 

 

 

二 法的性質

試用期間が定められている場合は、使用者は、試用期間の終了後に労働者を不適格として本採用を拒否することが可能となり、この本採用の拒否がどのような場合に可能になるのか等に関して、試用期間の法的性質が問題になります。

 

この点は、具体的事案において個別に判断されるべきものですが、特段の事情がない限りは、全員が本採用されその際に特に契約等を取り交わすこともないといった一般的な試用の場合は、試用期間の当初から解約権の留保付の労働契約が成立しているものと解されます。

採用内定の場合と異なり、試用期間の場合は、すでに現実の労働の提供が行われていますから、労働契約が成立したと解することに争いはあまりありませんでした。

 

ただ、試用期間と本採用後の労働契約との関係をどう考えるかは争いもあったところ、三菱樹脂事件判決が後述のように解約権留保付の労働契約の成立という構成をとることを明らかにしました(採用の自由(こちら)でも問題になった判決でした)。

 

 

三 本採用の拒否

試用期間中もかかる解約権留保付の労働契約が成立しているものと考えますと、使用者の本採用の拒否は、留保された解約権の行使となり、解雇ということになります。

そこで、解雇権濫用法理(労働契約法第16条)が適用されることになります。

※1(こちら

 

ただし、試用期間の趣旨は、労働者の適格性を判断することにありますから、本採用後の通常の解雇権の行使に比べれば使用者に広い裁量が認められると考えられます。

 

例えば、通常の解雇の場合は、業務能力が低い者については、教育訓練等の機会や能力向上までの猶予期間が付与されなければ、解雇権の濫用と判断されやすいですが、試用の場合は、現在有している能力を試すことが目的であるため、そのような配慮は必須とはいえないとされます。

 

 

この点、三菱樹脂事件判決によりますと、

「企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができずまた知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨目的に徴して客観的に相当であると認められる場合」に、留保解約権を行使できるとしました。※2(こちら

 

 

以下、この三菱樹脂事件判決の判旨を掲載します。

判例が、基本的には、試用期間中も解約権留保付の労働契約が成立していると解していること、その留保解約権を行使できる場合として上記の太字部分が挙げられていることを押さえれば、試験対策上は大丈夫だと思います。下記の判旨の太字部分・下線部分に注意してざっとお読み下さい。

 

【三菱樹脂事件=最大判昭48.12.12】

 

「本件においては、上告人〔=会社〕と被上告人〔=新規学卒者〕との間に3か月の試用期間を付した雇傭契約が締結され、右の期間の満了直前に上告人が被上告人に対して本採用の拒否を告知したものである。原判決は、冒頭記述のとおり、右の雇傭契約を解約権留保付の雇傭契約と認め、右の本採用拒否は雇入れ後における解雇にあたるとし、これに対して、上告人は、上告人の見習試用取扱規則の上からも試用契約と本採用の際の雇傭契約とは明らかにそれぞれ別個のものとされているから、原判決の上記認定、解釈には、右規則をほしいままにまげて解釈した違法があり、また、規則内容との関連においてその判断に理由齟齬の違法があると主張する。

 

 思うに、試用契約の性質をどう判断するかについては、就業規則の規定の文言のみならず、当該企業内において試用契約の下に雇傭された者に対する処遇の実情、とくに本採用との関係における取扱についての事実上の慣行のいかんをも重視すべきものであるところ、原判決は、上告人の就業規則である見習試用取扱規則の各規定のほか、上告人において、大学卒業の新規採用者を試用期間終了後に本採用しなかつた事例はかつてなく、雇入れについて別段契約書の作成をすることもなく、ただ、本採用にあたり当人の氏名、職名、配属部署を記載した辞令を交付するにとどめていたこと等の過去における慣行的実態に関して適法に確定した事実に基づいて、本件試用契約につき上記のような判断をしたものであつて、右の判断は是認しえないものではない。それゆえ、この点に関する上告人の主張は、採用することができないところである。したがつて、被上告人に対する本件本採用の拒否は、留保解約権の行使、すなわち雇入れ後における解雇にあたり、これを通常の雇入れの拒否の場合と同視することはできない

 

(三)ところで、本件雇傭契約においては、右のように、上告人において試用期間中に被上告人が管理職要員として不適格であると認めたときは解約できる旨の特約上の解約権が留保されているのであるが、このような解約権の留保は、大学卒業者の新規採用にあたり、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他上告人のいわゆる管理職要員としての適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行ない、適切な判定資料を十分に蒐集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解されるのであつて、今日における雇傭の実情にかんがみるときは、一定の合理的期間の限定の下にこのような留保約款を設けることも、合理性をもつものとしてその効力を肯定することができるというべきである。それゆえ、右の留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない

 

しかしながら、前記のように法が企業者の雇傭の自由について雇入れの段階と雇入れ後の段階とで区別を設けている趣旨にかんがみ、また、雇傭契約の締結に際しては企業者が一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあることを考え、かつまた、本採用後の雇傭関係におけるよりも弱い地位であるにせよ、いつたん特定企業との間に一定の試用期間を付した雇傭関係に入つた者は、本採用、すなわち当該企業との雇傭関係の継続についての期待の下に、他企業への就職の機会と可能性を放棄したものであることに思いを致すときは、前記留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。

換言すれば、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができずまた知ることが期待できないような事実を知るに至つた場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができるが、その程度に至らない場合には、これを行使することはできないと解すべきである。」 

 

 

四 有期労働契約と試用期間

なお、期間を定めた労働契約の場合であっても、その期間労働者の適格性を判断する目的で設けられたものであるときは、特段の事情がない限り、この期間は有期労働契約としての期間ではなく、試用期間と考えるべきとする判例法理が形成されています(【神戸広陵学園事件=最判平2.6.5】)。

 

有期労働契約であるなら、その期間の満了により、契約は当然に終了するのが原則です(合意により更新がなされる場合や雇止め法理の適用等が適用される場合は別です)。(「有期労働契約の期間の満了」の個所(こちら以下)で学習します。)

対して、試用期間と解せば、上記のような試用期間の法理が適用され、解約権の行使(期間満了による終了)は合理性・相当性がある場合のみ認められることになります。

本問は、結局は、当該期間の設定における個別の契約の解釈の問題といえ、従って、事実認定が重要になります。

 

(参考)

もっとも、本件を有期労働契約と解したうえで、いわゆる雇止め法理(労働契約法第19条で明文化もされました。平成25年4月1日施行)により処理することも可能です(雇止め法理についても、「労働契約の終了」の「期間の満了」の個所(こちら)で学習します)。

ただ、雇止め法理を適用する場合は、その効果は、従前の有期労働契約の労働条件と同一の労働条件による更新とみなされることなので、基本的には、再度、有期労働契約の更新となるのでしょう(雇止め法理の労契法第19条を類推適用して、有期労働契約が無期労働契約に転換されるものと期待することについて合理的な理由がある場合には無期労働契約への転換を認める、という構成も可能かもしれません。関連問題はのちに「雇止め法理」の個所(こちら)で触れます)。

他方、上記の試用期間と考える法理を適用する場合は、当事者間の契約によりますが、(試用期間付きの)期間の定めのない労働契約の成立を認める余地がありうることになります。

 

 

※ 以下、本件判決を見ますが、平成22年度に判旨が選択式で出題されています。

 

【神戸広陵学園事件=最判平2.6.5】

 

(事案)

Aは、私立学校に社会科の常勤講師として採用され、採用時に、理事長から「(他校)は断って、うちで30年でも40年でもがんばってくれ」等と言われ(当時、Aは、他校の1年間の期限付の非常勤講師として採用内定を受けていた)、採用後の身分は常勤とするが契約期間は一応1年とする旨を説明されていた。1年経過時に、学校側が期間満了を理由として雇用契約を終了する旨を通知してきたため、Aが教諭の地位の確認等を求めた事案。

 

(判旨)

「使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き右期間契約の存続期間ではなく試用期間であると解するのが相当である。

〔以下は、試用期間の法的性質の問題であり、前掲の三菱樹脂事件判決を踏襲し、原則として解約権留保付の雇用契約の成立と解しています。〕

そして、試用期間付雇用契約の法的性質については、試用期間中の労働者に対する処遇の実情や試用期間満了時の本採用手続の実態等に照らしてこれを判断するほかないところ、試用期間中の労働者が試用期間の付いていない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し、使用者の取扱いにも格段変わったところはなく、また、試用期間満了時に再雇用(すなわち本採用)に関する契約書作成の手続が採られていないような場合には、他に特段の事情が認められない限り、これを解約権留保付雇用契約であると解するのが相当である。そして、解約権留保付雇用契約における解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合に許されるものであって、通常の雇用契約における解雇の場合よりもより広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきであるが、試用期間付雇用契約が試用期間の満了により終了するためには、本採用の拒否すなわち留保解約権の行使が許される場合でなければならない。」

 

 

・【選択式 平成22年度 A】

設問:

「使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は契約の存続期間ではなく、であると解するのが相当である。」とするのが最高裁判所の判例である。

 

   

解答:

A=試用期間

 

本問は、上記の判例を知りませんと、かなり難しいものだったといえます。出題自体も、労基法というより、労働一般の労働契約法の問題ともできます。

労働契約の分野の判例は、労基法で出題されることもあり、重要な判例については、どこかで読んだことがあるという状態にはしておきたいです。 

 

 

なお、関連する近時の判例である【学校法人福原学園(九州女子短期大学)事件=平成28.12.1】については、のちに雇止め法理の個所(こちら)で見ます。

 

 

五 その他、試用期間が問題になる場合

その他、労基法上、試用期間が問題になる場合として、以下の例があります。

 

(一)平均賃金の算定期間からの控除(第12条第3項第5号)

◆試用期間の日数及びその期間中の賃金は、平均賃金の算定基礎から控除されます(第12条第3項第5号)。

 

試用期間中の賃金は、本採用後の賃金より低額なのが一般なので、かかる賃金や期間の日数を算定基礎に算入しますと平均賃金が不当に低くなることを考慮したものです。

詳しくは、「賃金」の「平均賃金」の個所(こちら)で学習します。

 

 

(二)解雇予告制度の適用除外(第21条第4号)

◆試用期間中の者については、原則として、解雇予告制度適用されません第21条第4号)。

 

本採用に適しないと判断する合理性・相当性が認められる場合に本採用の拒否を可能とする試用期間の性格上、本採用の拒否について解雇予告制度の適用を認めることはふさわしくないことによります。

 

ただし、「14日を超えて引き続き使用されるに至った場合」には、解雇予告制度も適用されます。

詳しくは、後述の「労働契約の終了」の「解雇」の個所(こちら)で学習します。

 

 

以上で、試用期間について終わります。次のページにおいて、労働契約の成立過程の問題の最後の問題である「労働条件の明示」について学習します。