令和6年度版

 

§2 労働時間の算定

労基法上の労働時間は、実労働時間(手待時間等も含めたものです。具体的には、指揮命令下説(判例)によって労基法上の労働時間と判断されるもののことです)により算定されます。

この労働時間の算定について、次のような問題があります。

 

 

〇 労働時間の算定に関する問題:

 

 

〔1〕労働時間の算定方法の原則

 

・実労働時間による算定 ➡ 労働時間の把握の問題(こちら

 

 

〔2〕労働時間の算定方法の例外

 

労基法上の労働時間が実労働時間により算定されるという原則の例外が、以下の場合です(次の〈1〉は、厳密には、例外というより特則ですが)。

 

 

〈1〉事業場を異にする場合(複数の事業場で就労する場合)の労働時間の通算制第38条第1項)(こちら

 

 

〈2〉坑内労働の坑口計算制第38条第2項)(こちら

 

 

〈3〉みなし労働時間制

 

1 事業場外労働に関するみなし労働時間制(第38条の2)(こちら

 

2 専門業務型裁量労働制(第38条の3)(こちら

 

3 企画業務型裁量労働制(第38条の4)(こちら

 

 

 

上記の〈3〉みなし労働時間制は、後ほど学習することとし、ここではそれ以外について学習します。 

 

 

 

〔1〕労働時間の算定方法の原則 ➡ 労働時間の把握

◆労基法においては、労働時間、休憩、休日、深夜業等について規定を設けていますから、使用者は、労働時間適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有していることは明らかであるとされています。

 

【過去問 平成17年問7D(こちら)】/【平成25年問3D(こちら)】

 

この労働時間の把握・管理に関して、以前は、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」という通達が発出されていました(【平成13.4.6基発第339号】。以下、「平成13年通達」といいます。実務上、「46通達」といわれていました)。

 

しかし、平成29年1月に、新たに「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(労働時間適正把握ガイドライン)が策定されました。(厚労省のサイトはこちらです。)

従来の「平成13年通達」をベースに新たな内容が追加等されています(これにより、「平成13年通達」は廃止されました)。 

平成28年12月の電通の長時間労働等を背景とした事件を契機として、当該ガイドラインに改定されたのでしょう(この事件は、いわゆる「働き方改革関連法」による時間外労働等の上限規制の新設において大きな影響を与えました)。

 

以下、「平成13年通達」との違いを考慮しながら、この新しいガイドラインをご紹介します。

なお、「平成13年通達」は、前掲の【平成17年問7D(こちら)】と【平成25年問3D(こちら)】の2回、択一式で出題されており、今回のガイドラインについても、選択式を視野に入れつつ注意が必要です。

 

以下の主に下線部分が、「平成13年通達」に記載されていなかった個所です(試験対策上、必要な部分のみ下線を付しています。その他に、「平成13年通達」から削除された個所等もあります)。

なお、※の部分は、筆者のコメントです。

 

 

 

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(【平成29.1.20基発0120第3号】) :

 【平成29年度試験 改正事項

〔引用開始。〕

 

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン

 

1 趣旨

 

労働基準法においては、労働時間休日深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間適正に把握するなど労働時間適切に管理する責務を有している。

しかしながら、現状をみると、労働時間の把握に係る自己申告制(労働者が自己の労働時間を自主的に申告することにより労働時間を把握するもの。以下同じ。)の不適正な運用等に伴い、同法に違反する過重な長時間労働割増賃金の未払いといった問題が生じているなど、使用者が労働時間を適切に管理していない状況もみられるところである。

このため、本ガイドラインでは、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置を具体的に明らかにする。

 

〔※ ちなみに、上記ガイドラインの下から4行目については、「平成13年通達」では、「割増賃金の未払いや過重な長時間労働といった問題が生じているなど」となっていました。

今般のガイドラインでは、「割増賃金の未払い」と「過重な長時間労働」の順番が逆になっています。ガイドライン策定当時、とりわけ「過重な長時間労働」の問題がクローズアップされていたことが反映されているのでしょう。〕

 

 

2 適用の範囲

 

本ガイドラインの対象事業場は、労働基準法のうち労働時間に係る規定が適用される全ての事業場であること。

また、本ガイドラインに基づき使用者(使用者から労働時間を管理する権限の委譲を受けた者を含む。以下同じ。)が労働時間適正把握を行うべき対象労働者は、労働基準法第41条に定める者及びみなし労働時間制が適用される労働者(事業場外労働を行う者にあっては、みなし労働時間制が適用される時間に限る。)を除く全ての者であること。

なお、本ガイドラインが適用されない労働者についても、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があること。

 

〔※ 上記の下線部分の「労働基準法第41条に定める者」については、「平成13年通達」では、「いわゆる管理監督者」となっていました。

労働時間に関する規定は管理監督者だけでなく、広く第41条該当者に適用されないのですから、今般のガイドラインの記載の方が妥当となります。〕

 

令和元年度試験 改正事項

※ 上記の通り、本ガイドラインに基づき使用者が労働時間の適正な「把握」を行うべき対象労働者(以下、「本ガイドラインの適用対象労働者」といいます)は、第41条に定める者(管理監督者等)及びみなし労働時間制が適用される労働者除く全ての者であるとされています(なお、本ガイドラインの策定後に施行されました「高度プロフェッショナル制度」の対象労働者も除外されることとなります)。

ただし、本ガイドラインによる労働時間の適正な「把握」を行う必要がない労働者についても、健康確保を図る見地から、使用者において適正な労働時間「管理」を行う責務があるとされます。

 

なお、本ガイドラインの策定後、いわゆる「働き方改革関連法」による平成31年4月1日施行の労働安全衛生法の改正により、「労働時間の状況の把握義務」の規定が新設されました(安衛法第66条の8の3(安衛法のパスワード)安衛法のこちら以下

即ち、事業者は、安衛法の規定に基づく面接指導(「一般の労働者(長時間労働者)に対する面接指導」(安衛法第66条の8第1項)又は「新技術等の研究開発業務従事者に対する面接指導」(同法第66条の8の2第1項))を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(高度プロフェッショナル制度対象労働者除きます)の労働時間の状況把握しなければなりません。

この労働時間の状況の把握とは、労働者の健康確保措置を適切に実施する観点から、労働者がいかなる時間帯どの程度の時間労務を提供し得る状態にあったかを把握するものとされます(【平成31.3.29基発0329第2号】問9等)。

そして、労働時間の状況の把握においては、在社時間事業場外勤務時間を把握することで足り、休憩時間等を厳密に把握する必要はないとされます(厚労省の資料より。労働時間の状況の把握の際は、本来は、休憩時間は除くのですが、個々の事業場の事情により、休憩時間等を除くことができない場合は、休憩時間等を含めた時間により労働時間の状況を把握すればよいということです)。

 

そこで、「本ガイドラインの適用対象労働者」に該当しない「第41条に定める者(管理監督者等)」及び「みなし労働時間制が適用される労働者」についても、安衛法上の「労働時間の状況の把握必要となります。

 

この安衛法に基づく「労働時間の状況の把握義務」(安衛法第66条の8の3)は、面接指導を実施し、労働者の健康を確保する見地から、すべての事業者に対して義務づけられているものです(当該労働者に対して面接指導を実施しなければならないか(例えば、一般の労働者については、「休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が1月当たり80時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者であること」等が面接指導の要件です)を判断するために、労働時間の状況を把握している必要があります)。

この「労働時間の状況の把握義務」が法律(安衛法)に新設されたことにより、「本ガイドラインの適用対象労働者」に該当しない「第41条に定める者(管理監督者等)」及び「みなし労働時間制が適用される労働者」についても、「労働時間の状況の把握」が必要となりますが、本ガイドラインが示している労働時間の把握の方法や後掲の労働時間の考え方等が変更されるわけではありません。

要するに、労基法上の「労働時間」の把握の問題と安衛法上の「労働時間の状況」の把握の問題は、趣旨・目的が異なり、後者については、安衛法上の面接指導に係る健康確保という趣旨から判断されるものです。そして、後者については、前述のとおり、労務提供可能時間という観点から判断されることとなります(労働者の労働日ごとの出退勤時刻や入退室時刻の記録等を把握することが必要であり、休憩時間等は必ずしも厳密に把握する必要はないこととなります。なお、通常の労働者の場合は、労基法上の労働時間を把握した「賃金台帳に記入した労働時間数」をもって労働時間の状況の把握に代えることができます)。

前掲のように、「本ガイドラインが適用されない労働者についても、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務がある」とされますが、この「労働時間の管理」というのが、おそらく安衛法の「労働時間の状況の把握」とほぼ同様の概念ということになるのでしょう(ただし、「高度プロフェッショナル制度対象労働者」については、後者の安衛法の「労働時間の状況の把握」義務は生じません。高度プロフェショナル制度対象労働者については、労基法上、健康管理時間(事業場内にいた時間と事業場外で労働した時間との合計の時間)を把握する措置を使用者が講ずることが要求されているため(労基法第41条の2第1項第3号こちら以下)、安衛法の労働時間の状況の把握義務の対象とはされていないものです)。

以上について、詳しくは安衛法のこちら以下です。 

 

以下、本ガイドラインの続きです。

 

 

 労働時間の考え方

 

〔※ 以下の3については、「平成13年通達」では言及されていませんでした。

内容としては、労働時間の個所(こちら以下)で学習しました通りです。なお、この3については、下線は省略します。〕

 

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。

そのため、次のアからウのような時間は、労働時間として扱わなければならないこと。

ただし、これら以外の時間についても、使用者の指揮命令下に置かれていると評価される時間については労働時間として取り扱うこと。

なお、労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであること。また、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものであること。

 

ア 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間

 

イ 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)

 

ウ 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

 

〔※ 上記アについては、「着用を義務付けられた所定の服装への着替え等」を事業場内で行った時間については、広く労働時間に該当するという考え方を採用しているようです。この問題については、こちらで触れました。〕

 

 

4 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置

 

(1)始業・終業時刻の確認及び記録

 

使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごと始業終業時刻確認し、これを記録すること。

 

 

(2)始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法

 

使用者が始業・終業時刻確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。

 

【過去問 平成25年問3D(こちら)】/【令和5年問7E(こちら)】

 

ア 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。

 

イ タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。

 

〔※ このイについては、「平成13年通達」では、「タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること」となっていました。

今般のガイドラインでは、客観的な記録の具体例として、「パソコンの使用時間の記録」が追加されています。〕

 

 

(3)自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置

 

上記(2)の方法によることなく、自己申告制によりこれを行わざるを得ない場合、使用者は次の措置を講ずること。

 

ア 自己申告制の対象となる労働者に対して、本ガイドラインを踏まえ、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。

 

〔※ 以下、今般のガイドラインにおいて新たに追加された個所(下線部分)が多くなります。〕

 

イ 実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、本ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行うこと。

 

ウ 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。

特に、入退場記録パソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。

 

エ 自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。

その際、休憩や自主的な研修教育訓練学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。

 

オ 自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。このため、使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。

また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。

さらに、労働基準法の定める法定労働時間や時間外労働に関する労使協定(いわゆる36協定)により延長することができる時間数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間を管理する者や労働者等において、慣習的に行われていないかについても確認すること。

 

 

(4)賃金台帳の適正な調製

 

〔※ この(4)の部分は新たに追加されています(下線は省略します)。〕

 

使用者は、労働基準法第108条〔=賃金台帳の調製・記入義務〕及び同法施行規則第54条により、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければならないこと。

また、賃金台帳にこれらの事項を記入していない場合や、故意に賃金台帳に虚偽の労働時間数を記入した場合は、同法第120条〔※ 第1号〕に基づき、30万円以下の罰金に処されること。 

 

(5)労働時間の記録に関する書類の保存

 

使用者は、労働者名簿賃金台帳のみならず出勤簿タイムカード等の労働時間の記録に関する書類について、労働基準法第109条〔=記録の保存義務〕に基づき、3年間保存しなければならないこと。

 

〔※ なお、本ガイドライン策定後の令和2年4月1日施行の労基法の改正により、記録の保存期間は、本則では「5年間」、当分の間は「3年間」と改められています。のちにこちら以下(労基法のパスワード)で学習します。〕

 

 

(6)労働時間を管理する者の職務

 

事業場において労務管理を行う部署の責任者は、当該事業場内における労働間の適正な把握等労働時間管理の適正化に関する事項を管理し、労働時間管理上の問題点の把握及びその解消を図ること。

 

(7)労働時間等設定改善委員会等の活用

 

使用者は、事業場の労働時間管理の状況を踏まえ、必要に応じ労働時間等設定改善委員会等の労使協議組織を活用し、労働時間管理の現状を把握の上、労働時間管理上の問題点及びその解消策等の検討を行うこと。

 

〔※ 「労働時間等設定改善委員会」については、労働一般の「労働時間等設定改善法」で学習します(労働一般のこちら以下)。〕

 

 

〔引用終了。〕 

 

 

 

〇過去問:

 

・【平成17年問7D】

設問:

労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有していることは明らかである。

 

解答:

正しいです。

出題当時、「平成13年通達」(【平成13.4.6基発第339号】)において通知されていました。

その後、平成29年に策定されました「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(【平成29.1.20基発0120第3号】) においても、同様の内容が示されています(こちら)。

「労働時間を適正に把握」すること、及び「労働時間を適切に管理」することというキーワードに注意です。

 

 

・【平成25年問3D】

設問:

労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有していることは明らかであり、使用者が行う始業・就業時刻の確認及び記録の原則的な方法としては、使用者が自ら現認することにより確認し記録すること又はタイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し記録することが求められている。

 

解答:

正しいです。

出題当時の「平成13年通達」及びその後平成29年に策定されたガイドラインの内容に沿っています。

ちなみに、平成29年策定の現在のガイドラインにおいては、客観的な記録の具体例として、タイムカード、ICカードのほか、「パソコンの使用時間の記録」が追加されています(こちらのイ)。

 

 

・【令和5年問7E】

設問:

使用者は、労働時間の適正な把握を行うべき労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録することとされているが、その方法としては、原則として「使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること」、「タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること」のいずれかの方法によることとされている。

 

解答:

正しいです(「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(【平成29.1.20基発0120第3号】4(2)。こちら)。

 

労基法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有していると解され、使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・ 終業時刻を確認しこれを記録しなければなりません。

この始業・終業時刻を確認し記録する方法として、前記のガイドラインは、原則として、本問の通り、①使用者の現認又は②タイムカード等の客観的な記録に基づき確認する方法によることとされます。

例外として、労働者の自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行わざるを得ない場合はありますが、この場合、使用者は労働者、管理者に対して十分な説明を行うこと、実態調査を実施し所要の労働時間の補正をすることなどの措置を講じなければならないとします。

 

前掲【平成25年問3D(こちら)】でも類問が出題されていましたが、平成13年の通達の下での出題であり、平成29年1月に現在のガイドラインが策定されてからは初めての出題でした(本問の出題箇所でも、客観的な記録の具体例として、タイムカード、ICカードのほか、「パソコンの使用時間の記録」が追加されているなど、以前と若干文言が見直されている箇所があります)。

内容的には、そう難しくはなく、正答したいところです。

 

 

 

 

〔2〕労働時間の算定方法の例外

労基法上の労働時間は、実労働時間により算定されるのが原則ですが、以下の例外があります(ただし、下記の〈1〉は、例外というより特則です。また、みなし労働時間制は後述します)。

 

〈1〉事業場を異にする場合(複数の事業場で就労する場合)の労働時間の通算制(第38条第1項)

◆労働時間は、事業場を異にする場合においても、通算されます(第38条第1項)。

 

 

【条文】

 

※ 次の第38条の第2項については、すぐ後で見ます。

 

第38条(時間計算)

1.労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。

 

2.坑内労働については、労働者が坑口に入つた時刻から坑口を出た時刻までの時間を、休憩時間を含め労働時間とみなす。但し、この場合においては、第34条第2項〔=一斉休憩の原則〕及び第3項〔=休憩の自由利用の原則〕の休憩に関する規定は適用しない。

 

 

○趣旨

 

労働者が複数の事業場で就労する場合においても、長時間労働等から労働者を保護するため、労働時間を通算して算定するものです。

 

 

一 要件

 

◆事業場を異にする場合であること。

 

例えば、労働者が1日のうちに、A事業場で労働した後にB事業場で労働する場合、又は1週間のうち、特定の曜日はA事業場で労働し、その他の曜日はB事業場で労働する場合を想定しています。

前者では、1日の労働時間が通算され、1日の法定労働時間である8時間を超えないことが原則として必要です。後者では、1週間の労働時間が通算され、週40時間の法定労働時間を超えないことが原則として必要です。

 

 

(一)「事業場を異にする場合」については、同一事業主に属する複数の事業場において労働する場合だけでなく、事業主が異なる場合も含まれるとされています(【昭和23.5.14基発第769号】参考)。

 

長時間労働等からの労働者の保護という趣旨からは、本規定は異なる事業主の場合にも適用されることとなります。

ただ、後述のように時間外労働の場合に複雑な問題が生じます。

 

 

○過去問:

 

・【平成22年問5D】

設問:

労働基準法第38条第1項に定める事業場を異にする場合の労働時間の通算については、同一事業主に属する異なった事業場において労働する場合にのみ適用されるものであり、事業主を異にする複数の事業場において労働する場合には適用されない。

 

解答:

誤りです。

上述の通り、本規定は、事業主が異なる場合にも適用されます(【昭和23.5.14基発第769号】参考)。

 

 

・【平成26年問5A】

設問:

労働基準法上の労働時間に関する規定の適用につき、労働時間は、同一事業主に属する異なった事業場において労働する場合のみでなく、事業主を異にする事業場において労働する場合も、通算される。

 

解答:

正しいです。

前掲の平成22年の出題と実質的には同問です。

 

 

・【令和5年問7C】

設問:

労働基準法に定められた労働時間規制が適用される労働者が事業主を異にする複数の事業場で労働する場合、労働基準法第38条第1項により、当該労働者に係る同法第32条、第40条に定める法定労働時間及び同法第34条に定める休憩に関する規定の適用については、労働時間を通算することとされている。

 

➡ 本問については、労働委一般の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の箇所(労働一般のこちら)で解説します。

 

 

 

(二)本規定は、派遣労働者にも適用され、それぞれの派遣の事業場において労働した時間が通算されます(【昭和61.6.6基発第333号】参考)。

労働時間に関する規定は、基本的に、派遣先について適用されることは、こちらで学習しました。

 

   

 

二 効果

 

◆労働時間に関する規定の適用については、複数の事業場に係る労働時間が通算されます。

 

ただし、次のようなケースが問題となります。

例えば、労働者が1日のうち、A事業場で5時間労働した後、事業主の異なるB事業場で4時間労働した場合は、1日の労働時間は通算して9時間となり時間外労働となりますが、このとき、どちらの事業主が時間外労働の手続(36協定の締結等)をし、割増賃金の支払義務を負うのかです。

 

この点は争いがあり、労働者を時間的に後から使用する者が責任を負うという考え方もありますが、一般的には、労働者と後から労働契約を締結した者が責任を負うという考え方がとられています。

これは、時間的に後に労働契約を締結した事業主は、当該契約の締結に当たって、当該労働者が他の事業場で労働しているかを確認した上で契約を締結すべきだからとされます。

ただし、具体的妥当性からの修正も行われています。

例えば、A事業場で4時間、B事業場で4時間労働している者の場合、A事業場の使用者が、労働者がこの後B事業場で4時間労働することを知りながら労働時間を延長するときは、A事業場の使用者が時間外労働の手続をすべきとされます。

 

なお、使用者が、当該労働者が別の使用者の下でも労働していることを知らない場合には、故意がないため、労働時間の通算による時間外労働に係る違反は成立しないとされています。

 

※ 以上については、 平成30年1月に策定されました「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の補足資料である「Q&A」においてまとめられていますので、このページの最後(こちら)でご紹介します。

 

 

 

〈2〉坑内労働の坑口計算制(第38条第2項)

◆坑内労働においては、坑口に入った時刻から坑口を出た時刻までの時間を休憩時間を含めて労働時間とみなし(即ち、坑内にいる時間は、休憩時間も含めて労働時間とみなします)、代わりに、当該時間において休憩の一斉付与の原則及び休憩の自由利用の原則適用が排除されています(第38条第2項)。

 

 

 

【条文】

第38条(時間計算) 

1.労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。

 

2.坑内労働については、労働者が坑口に入つた時刻から坑口を出た時刻までの時間を、休憩時間を含め労働時間とみなす。但し、この場合においては、第34条第2項〔=一斉休憩の原則〕及び第3項〔=休憩の自由利用の原則〕の休憩に関する規定は適用しない。

 

 

 

○趣旨

 

坑内労働においては、入坑後に休憩のため地上に戻ることは通常困難であり、また、労働条件が過酷であることも考慮して、在坑時間中は休憩時間も含めて労働時間とみなすこととし、他方で、休憩の一斉付与や休憩の自由利用も困難なことが多いため、これらの適用を排除した趣旨です。

 

この坑内労働において、坑口に入った時刻から坑口を出た時刻までの時間について、休憩時間を含めて労働時間とみなすことを坑口計算制といいます。在坑時間そのものを規制の対象とするものです。

 

以下、注意点です。

 

 

(1)坑外労働

 

本規定は、坑内労働の労働時間の算定方法の問題であり、坑内労働者が坑外で労働している時間は、通常通り、労働時間に算入されます(例えば、坑内に入る前に坑外で作業の準備をしていた時間などです)。

 

 

(2)坑内労働者が一団として入坑・出坑する場合(集団入坑)の特

 

◆一団として入坑及び出坑する労働者に関しては、使用者が、その入坑開始から入坑終了までの時間について所轄労働基準監督署長許可を受けた場合には、入坑終了から出坑終了まで時間を、その団に属する労働者の労働時間とみなします施行規則第24条)。

 

 

○趣旨

 

一団として入坑・出坑する場合には、最初に入坑した者と最後に入坑した者との間に、労働時間について不均衡を生じることから、入坑終了から出坑終了までの時間をその団に属する労働者全体の労働時間とみなして、労働時間を集団的に算定することとしたものです。

 

 

【施行規則】

施行規則第24条  

使用者が一団として入坑及び出坑する労働者に関し、その入坑開始から入坑終了までの時間について様式第11号によつて所轄労働基準監督署長許可を受けた場合には、法第38条第2項〔=坑内労働の労働時間の算定〕の規定の適用については、入坑終了から出坑終了までの時間を、その団に属する労働者の労働時間とみなす。

 

 

・この場合の「入坑開始」とは、人車の最先端が坑口を通過する時刻をいい、「入坑終了」とは、人車の最後部が坑口を通過した時刻をいいます。

 

・所轄労働基準監督署長の許可の基準としては、20人以下の団体入坑許可しないこと等が定められています(【昭和22.9.13基発第17号】参考)。

 

 

以上で、法定労働時間に関する原則的な規定を終わります。

次に、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」Q&Aについてご紹介します。

 

 

 

「副業・兼業の促進に関するガイドライン」Q&A

働き方改革実行計画(平成29年3月28日)において、労働者の健康確保に留意しつつ、原則として、副業・兼業を認める方向で、副業・兼業の普及促進を図ることが決定されました。

これに基づき、平成30年1月には、「モデル就業規則」について、原則として、副業・兼業を認める内容に改定され、また、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(労働一般のこちら(労働一般のパスワード))が策定される〔このガイドラインは、令和2年9月さらに令和4年7月に改定されました〕など、副業・兼業の問題点に配慮しつつ、労働者の希望に応じて幅広く副業・兼業を行える環境を整備することの重要性が指摘されています。

 

この「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の補足資料として、平成30年に「Q&A」(こちら)が公表され(以下、「平成30年版Q&A」といいます)、この中で副業・兼業における労働時間の通算の問題が整理されています。

複数の事業場(事業主が異なる場合)に係る労働時間の通算については、こちらで概要を説明しましたが、この「平成30年版Q&A」では、いくつかの具体例に触れています。

 

その後、上述の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の令和2年9月改定後の令和3年7月に、「Q&A」が改定されました(以下、「令和3年版Q&A」といいます)。

令和5年度試験 改正事項】 

さらに、令和4年7月に、同「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が改定されたことに伴い、前掲の「Q&A」も改定されました(以下、「令和4年版Q&A」といいます。改正個所はそれほど多くはありません。「副業・兼業に関する情報の公表」の追加が中心です)。

 

「令和3年版Q&A」以降は、ボリュームがかなりあり、内容的にも複雑になっており、ここでは、基本的な考え方を示しシンプルでわかりやすい「平成30年版Q&A」をご紹介します。 

 

「令和4年版Q&A」については、主要科目の学習が終了後等に上記の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(労働一般のこちら)とともにお読み頂ければと思います(「令和4年版Q&A」は、労働一般のこちらです)。

 

 

以下、「平成30年版Q&A」を引用します(太字にしているなど、デザイン面は改変しています)。

 

【労働時間管理等】

 

自社、副業・兼業先の両方で雇用されている場合の、労働基準法における労働時間等の規定の適用はどうなるのか。

 

(答)

 

1 労働基準法第38条では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されており、「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含みます。(労働基準局長通達(昭和23年5月14日基発第769号))

 

2 労働時間を通算した結果、労働基準法第32条又は第40条に定める法定労働時間を超えて労働させる場合には、使用者は、自社で発生した法定外労働時間について、同法第36条〔労基法のパスワード〕に定める時間外及び休日の労働に関する協定(いわゆる36(サブロク)協定)を締結し、また、同法第37条に定める割増賃金を支払わなければなりません。

 

3 このとき、労働基準法上の義務を負うのは、当該労働者を使用することにより、法定労働時間を超えて当該労働者を労働させるに至った(すなわち、それぞれの法定外労働時間を発生させた使用者です。

 

4 従って、一般的には、通算により法定労働時間を超えることとなる所定労働時間を定めた労働契約を時間的に後から締結した使用者が、契約の締結に当たって、当該労働者が他の事業場で労働していることを確認した上で契約を締結すべきことから、同法上の義務を負うこととなります。(参照:実例(1)、(2))

 

5 通算した所定労働時間が既に法定労働時間に達していることを知りながら労働時間を延長するときは、先に契約を結んでいた使用者も含め、延長させた各使用者が同法上の義務を負うこととなります。(参照:実例(3)、(4))

 

 

実例(甲乙事業場ともに、双方の労働時間数を把握しているものとします。) 

 

(1)甲事業主と「所定労働時間8時間」を内容とする労働契約を締結している労働者が、甲事業場における所定労働日と同一の日について、乙事業主と新たに「所定労働時間5時間」を内容とする労働契約を締結し、それぞれの労働契約のとおりに労働した場合。

 

(答)

 

1 甲事業場の所定労働時間は8時間であり、法定労働時間内の労働であるため、所定労働時間労働させた場合、甲事業主に割増賃金の支払義務はありません。

 

2 甲事業場で労働契約のとおりに労働した場合、甲事業場での労働時間が法定労働時間に達しているため、それに加え乙事業場で労働する時間は、全て法定時間外労働時間となります。

 

3 よって、乙事業場では時間外労働に関する労使協定の締結・届出がなければ当該労働者を労働させることはできず、乙事業場で労働した5時間は法定時間外労働であるため、乙事業主はその労働について、割増賃金の支払い義務を負います。

 

 

(2)甲事業主と「所定労働日は月曜日から金曜日、所定労働時間8時間」を内容とする労働契約を締結している労働者が、乙事業主と新たに「所定労働日は土曜日、所定労働時間5時間」を内容とする労働契約を締結し、それぞれの労働契約のとおりに労働した場合。

 

(答)

 

1 甲事業場での1日の労働時間は8時間であり、月曜から金曜までの5日間労働した場合、労働時間は40時間となり、法定労働時間内の労働であるため、労働契約のとおりさせた場合、甲事業主に割増賃金の支払義務はありません。

 

2 日曜日から土曜日の暦週で考えると、甲事業場で労働契約のとおり労働した場合、労働時間が週の法定労働時間に達しているため土曜の労働は全て法定時間外労働となります。

 

3 よって、乙事業場では時間外労働に関する労使協定の締結・届出がなければ当該労働者を労働させることはできず、乙事業場で土曜日に労働した5時間は、法定時間外労働となるため、乙事業主は5時間の労働について、割増賃金の支払い義務を負います。

 

 

(3)甲事業主と「所定労働時間4時間」という労働契約を締結している労働者が、新たに乙事業主と、甲事業場における所定労働日と同一の日について、「所定労働時間4時間」という労働契約を締結し、甲事業場5時間労働して、その後乙事業場4時間労働した場合。

 

(答)

 

1 労働者が甲事業場及び乙事業場で労働契約のとおり労働した場合、1日の労働時間は8時間となり、法定労働時間内の労働となります。

 

2 1日の所定労働時間が通算して8時間に達しており、甲事業場では時間外労働に関する労使協定の締結・届出がなければ当該労働者を労働させることはできず、法定労働時間を超えて労働させた甲事業主は割増賃金の支払い義務を負います。

 

 

(4)甲事業主と「所定労働時間3時間」という労働契約を締結している労働者が、新たに乙事業主と、甲事業場における所定労働日と同一の日について、「所定労働時間3時間」という労働契約を締結し、甲事業場5時間労働して、その後乙事業場4時間労働した場合。

 

(答)

 

1 労働者が甲事業場及び乙事業場で労働契約のとおり労働した場合、1日の労働時間は6時間となり、法定労働時間内の労働となります。

 

2 ここで甲事業主が、労働時間を2時間延長した場合、甲事業場での労働が終了した時点では、乙事業場での所定労働時間も含めた当該労働者の1日の労働時間は法定労働時間内であり、甲事業場は割増賃金の支払等の義務を負いません。

 

3 その後乙事業場で労働時間を延長した場合は法定労働時間外労働となるため、乙事業場では時間外労働に関する労使協定の締結・届出がなければ当該労働者を労働させることはできず、当該延長した1時間について乙事業主は割増賃金の支払義務を負います。

 

〔引用終了。〕

 

 

※ 以上の兼業・副業における労働時間の通算の問題については、前掲の通り、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の特にこちら以下(労働一般のパスワード)にも注意です(ただし、これから学習する事項が多く、初学者の方は、リンク先は後回しにし、次のページにお進み下さい(36協定の箇所で、上記リンク先を再度ご紹介します))。

 

このガイドラインにおいて、副業・兼業の場合の労働基準法における労働時間等の規定の適用の考え方が次のように示されています。

 

・まず労働契約の締結先後の順所定労働時間を通算し、

 

・次に所定労働の発生順に所定労働時間を通算することによって、

 

労働時間の通算を行い、労働基準法が適用されます。

 

即ち、①まず所定労働時間については「労働契約の先後の順」に通算し、②次に所定労働時間については「労働の先後(時間外労働の発生順)」に通算し、結果として、法定時間外に労働させた方が法的責任を負うとするものです。

 

 

次のページでは、法定労働時間の例外について学習します。