2021年度版

 

〔3〕労働施策総合推進法

次に、労働施策総合推進法を見ます。 

 

労働施策総合推進法については、今回から出題対象となる改正事項として、①「職場におけるパワーハラスメント防止対策」と②「中途採用に関する情報の公表を促進するための措置等(中途採用比率の公表)」があります(「改正・最新判例」のこちら(「改正・最新判例」のパスワード))。

重要な改正事項であるため、直前対策講座でもこれらを取り上げます。

 

 

 

労総法 問1

 

「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(以下「労働施策総合推進法」という。)が定める職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題に関する施策についての次の記述のうち、正しいものはどれか。

 

A 労働施策総合推進法第30条の2第1項では、事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じるよう努めなければならないと規定されている。

 

B 労働施策総合推進法第30条の2第1項の規定する「職場」には、業務を遂行する場所であれば、通常就業している場所以外の場所であっても、出張先、業務で使用する車中及び取引先との打ち合わせの場所等も含まれる。

また、勤務時間外の「懇親の場」、社員寮や通勤中等であっても、実質上職務の延長と考えられるものは職場に該当する。その判断に当たっては、職務との関連性、参加者、参加や対応が強制的か任意か等を考慮して客観的に一律の基準によって行うものとする。

 

C 労働施策総合推進法第30条の2第1項の規定する「労働者」とは、いわゆる正規雇用労働者を対象としており、パートタイム労働者や派遣労働者については別途法律によって規律されているため同規定の対象とはならない。

 

D 派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、労働者派遣の役務の提供を受ける者についても、労働者派遣法第47条の4の規定により、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者を雇用する事業主とみなされ、労働施策総合推進法第30条の2第1項の規定が適用される。

 

E 労働施策総合推進法第30条の2第1項の規定する「労働者の就業環境が害される」とは、当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指す。

この判断に当たっては、労働者の身体的又は精神的な苦痛については当該労働者個々の受け止め方等を考慮する必要があることから、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とする。

 

 

※ 解答は、こちらです。  

 

 

労総法 問2

 

次の文中の   の部分を選択肢の中の最も適切な語句で埋め、完全な文章とせよ。 

 

常時雇用する労働者の数が  事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の職業選択に資するよう、雇い入れた通常の労働者及びこれに準ずる者として厚生労働省令で定める者の数に占める中途採用(新規学卒等採用者以外の雇入れをいう。)により雇い入れられた者の数の割合を定期的に  

 

この公表は、おおむね  、公表した日を明らかにして、  について、インターネットの利用その他の方法により、求職者等が容易に閲覧できるように行わなければならない。

 

選択肢:

 

A ①100人を超える ②100人以上の ③300人を超える ④300人以上の

 

B ①公表しなければならない ②公表するように努めるものとする ③公表するよう配慮しなければならない ④公表するよう配慮するものと努めることとする

 

C ①6月に1回以上 ②1年に1回以上 ③1年に2回以上 ④2年に1回以上

 

D ①直近の事業年度 ②直近の2事業年度 ③直近の3事業年度 ④直近の4事業年度 

 

 

※ 解答は、こちらです。  

 

 

以上、労働施策総合推進法でした。

 

続いて、均等法です。

 

 

 

〔4〕男女雇用機会均等法

男女雇用機会均等法から1問の出題です。

 

均等法については、ここ数年は出題されていません。

直近では、平成30年度において、「母性健康管理措置」(均等法第13条第1項)の択一式1肢(【平成30年問4E(こちら)】)が出題されています。 

なお、選択式については、平成22年度(こちら)に「男女雇用機会均等対策基本指針」をもとにした均等法の基本構造に関する出題がありました。

 

今回は、セクハラ及びマタハラに関する不利益取扱いの禁止の規定が新設され、また、「男女雇用機会均等推進者」の選任の努力義務規定が設けられたという改正事項があり、これらを中心に直前対策をしておきます。

 

 

均等法 問1

 

男女雇用機会均等法に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

 

A 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じるよう努めなければならない。

 

B 事業主は、労働者が職場におけるセクシュアルハラスメントに関する相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。

 

C 事業主は、他の事業主から当該事業主の講ずる職場におけるセクシュアルハラスメントの防止の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合は、これに応じなければならない。

 

D 常時雇用する労働者が300人を越える事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、男女雇用機会均等法が定める所定の措置等及び職場における男女の均等な機会及び待遇の確保が図られるようにするために講ずべきその他の措置の適切かつ有効な実施を図るための業務を担当する者(男女雇用機会均等推進者)を選任しなければならない。

 

E 「令和元年度雇用均等基本調査」(厚生労働省)によると、セクシュアルハラスメントを防止するための対策に「取り組んでいる」企業割合は80.2%であり、前回調査(平成31年度64.3%)より15.9ポイント上昇した

規模別にみると、企業規模が大きいほど割合が高く、5,000人以上の規模では100%の企業において取組が認められ、10~29人の規模においては73.7%となっている。

また、同調査によると、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを防止するための対策に「取り組んでいる」企業割合は75.7%であった。

 

 

※ 解答は、こちらです。  

 

 

次のページでは、育児介護休業法から見ます。  

 

 

 

解答

 

まず、労働施策総合推進法の解答からです。

 

 

解答(労働施策総合推進法)

 

【労総法 問1】の解答(設問は、こちら

 

正しい肢は、Dです。

 

以下、肢ごとに見ていきます。

 

 

 労働施策総合推進法第30条の2第1項では、事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じるよう努めなければならないと規定されている。

 

(解説)

 

本肢は、誤りです。

文末の「講じるよう努めなければならない」が誤りであり、正しくは、「講じなければならない」です。

即ち、設問の事業主のいわゆる職場におけるパワーハラスメント防止措置は、努力義務でなく、義務です第30条の2第1項(労働一般のパスワード)

ただし、中小事業主については、第30条の2第1項(雇用管理上の措置)は令和4年4月1日施行であり、それまでは努力義務となっています令和元年改正法附則第3条)。

この中小事業主についての経過措置があることを踏まえても、本肢は、すべての事業主について第30条の2第1項が努力義務である旨を示しているため、誤りです。 

 

正しい内容を掲げておきます。赤字部分に注意です。

 

 

◆事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない第30条の2第1項)。

 

 

この第30条の2以下の「職場におけるパワーハラスメント」の防止対策は、令和2年6月1日施行の労働施策総合推進法の改正により新設されたものであり、今回から出題対象です(上記の通り、中小事業主については、第30条の2第1項(雇用管理上の措置)は令和4年3月31日までは努力義務です)。

本文は、労働一般のこちら以下です。 

 

 

 労働施策総合推進法第30条の2第1項の規定する「職場」には、業務を遂行する場所であれば、通常就業している場所以外の場所であっても、出張先、業務で使用する車中及び取引先との打ち合わせの場所等も含まれる。

また、勤務時間外の「懇親の場」、社員寮や通勤中等であっても、実質上職務の延長と考えられるものは職場に該当する。その判断に当たっては、職務との関連性、参加者、参加や対応が強制的か任意か等を考慮して客観的に一律の基準によって行うものとする。

 

(解説)

 

本肢も、誤りです。

本肢の後段の勤務時間外の場所について「職場」に該当するかどうかの判断は、客観的に「一律の基準によって行う」のではなく、「個別に行う」ものであり、「一律の基準」があるわけではありません(通達【令和2.2.10雇均発0210第1号】第1の1(3)①参考)。

 

即ち、事業主の職場におけるパワーハラスメント防止措置義務の対象となる「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、当該労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、当該労働者が業務を遂行する場所については、「職場」に含まれます(【令和2.1.15厚生労働省告示第5号】(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」。以下、「パワハラ防止指針」といいます)2(2))。

具体的には、「職場」に該当するかどうかの判断は、職務との関連性、参加者、参加や対応が強制的か任意か等を考慮して個別に行われます。

これは、実態を考慮して個別・実質的に判断することになるものと解されます。

 

本文は、労働一般のこちら以下です。

 

 

 労働施策総合推進法第30条の2第1項の規定する「労働者」とは、いわゆる正規雇用労働者を対象としており、パートタイム労働者派遣労働者については別途法律によって規律されているため同規定の対象とはならない

 

(解説)

 

本肢も、誤りです。

パートタイム労働者や派遣労働者についても、労働施策総合推進法第30条の2第1項の規定する「労働者」に含まれ、職場におけるパワーハラスメント防止措置義務の対象となります。

 

即ち、同規定の「労働者」とは、いわゆる正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員等いわゆる非正規雇用労働者を含む事業主が雇用する労働者の全てをいいます(「パワハラ指針」2(3))。

 

本文は、労働一般のこちら以下です。

 

 

 派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、労働者派遣の役務の提供を受ける者についても、労働者派遣法第47条の4の規定により、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者を雇用する事業主とみなされ、労働施策総合推進法第30条の2第1項の規定が適用される。

 

(解説)

 

本肢は、正しい内容です。

 

派遣労働者については、派遣元事業主のみならず労働者派遣の役務の提供を受ける者についても労働者派遣法第47条の4〔=派遣法の労働施策総合推進法における特例〕の規定により、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者を雇用する事業主とみなされ労働施策総合推進法第30条の2第1項〔=職場におけるパワーハラスメント防止の雇用管理上の措置〕及び第30条の3第2項〔=事業主の研修の実施等の配慮・努力義務〕の規定が適用されます。

 

派遣労働者について職場におけるパワハラを防止すべき必要性は、派遣元であっても派遣先であっても違いはありませんから、両方の事業主が当該義務を負うことになります。

 

本文は、労働一般のこちら以下です。

 

 

 労働施策総合推進法第30条の2第1項の規定する「労働者の就業環境が害される」とは、当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指す。

この判断に当たっては、労働者の身体的又は精神的な苦痛については当該労働者個々の受け止め方等を考慮する必要があることから、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とする。

 

(解説)

 

本肢も、誤りです。

本肢の後段が誤りであり、「当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とする」のではなく、「平均的な労働者の感じ方」を基準とするとされます。

 

即ち、「労働者の就業環境が害される」とは、当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指しますが、この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とします(「パワハラ防止指針」2(6)。こちら) 。

 

基準の明確化による法定安定性が考慮されています。

 

本文は、労働一般のこちら以下です。

 

 

なお、以上の本問でご紹介できなかった重要な知識として、次の点もチェックして下さい。

 

第30条の2第1項の「優越的な関係を背景とした」言動とは、当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が当該言動の行為者とされる者(以下、「行為者」といいます)に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指します(「パワハラ防止指針」2(4)。こちら)。

上司による言動に限られるものではなく、例えば、「同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの」、又は「同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの」なども、「優越的な関係を背景とした」言動に含まれます。

本文は、労働一般のこちら以下です。

 

 

以上、労働施策総合推進法の問1の解説でした。

 

 

【労総法 問2】の解答(設問は、こちら

 

A=③300人を超える(第27条の2第1項

 

B=①公表しなければならない(同上)

 

C=②1年に1回以上(施行規則第9条の2第1項

 

D=③直近の3事業年度(同上) 

 

 

(解説)

 

本問は、中途採用に関する情報の公表を促進するための措置等(中途採用比率の公表)の制度に関する出題です。

本制度は、令和3年4月1日施行の改正により新設された直近の改正事項です。本文は、こちら以下です。

 

本問は選択式として作成していますが、出題される場合は択一式になると思われます。

ただし、選択式の空欄を解いて頂くことによっても知識は定着しますので、選択式の形式で練習して頂くことも有用です。

 

まず、空欄を埋めて設問を再掲します。

 

 

常時雇用する労働者の数が A(300人を超える 事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の職業選択に資するよう、雇い入れた通常の労働者及びこれに準ずる者として厚生労働省令で定める者の数に占める中途採用(新規学卒等採用者以外の雇入れをいう。)により雇い入れられた者の数の割合を定期的 B(公表しなければならない 

 

この公表は、おおむね C(1年に1回以上 、公表した日を明らかにして、 D(直近の3事業年度 について、インターネットの利用その他の方法により、求職者等が容易に閲覧できるように行わなければならない。

 

 

 

1 空欄のA及びBについて:

 

中途採用比率の公表の制度は、中途採用に関する情報の公表により、職場情報を一層見える化し、中途採用を希望する労働者と企業のマッチングをさらに促進する趣旨です。

従業員規模が大きい企業ほど中途採用・経験者採用比率が低い状況にあることから、大企業を対象として、中途採用者の比率を定期的に(毎年)公表させようとしたものです。  

 

そこで、空欄のA(こちら)は、「100人」ではなく、「300人超える」となります。

なお、「越える」と「以上」が論点として問われることはないと思われますが、労働一般における労働者(企業)の規模の要件として「以上・越える」が問題となる場合は、通常、「越える」が用いられます。

 

例えば、「女性活躍推進法」における「一般事業主行動計画」の策定等の義務は、常時雇用する労働者の数が「300人を超える」一般事業主に課されています(女性活躍推進法のこちら)。

 

次世代育成支援対策推進法」における「一般事業主行動計画」の策定等の義務は、常時雇用する労働者の数が「100人を超える」一般事業主に課されています(次世代法のこちら)。

 

そして、本制度は大企業を対象としている以上、中途採用比率を毎年公表させても、企業側の負担も重くはないものとして、実施が「努力義務」ではなく、「義務」とされています。これが、空欄のB(こちら)です。

 

 

2 空欄のC及びDについて:

 

空欄のC及びDは、細かい知識です。両者をセットにして、おおむね「1年に1回以上の直近の事業年度」についての公表義務と押さえて下さい。

空欄Aの「00人超え」の「3」が共通すると記憶します。

 

 

以上で、労働施策総合推進法を終わります。

次は、男女雇用機会均等法です。設問は、こちらです。

 

 

 

解答(男女雇用機会均等法)

 

【均等法 問1】の解答(設問は、こちら

 

正しい肢は、Eです。

以下、肢ごとに見ます。最初に肢を再掲します。

 

 

 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じるよう努めなければならない。 

 

(解説)

 

本肢は、誤りです。

文末について、「措置を講じるよう努めなければならない」という努力義務ではなく、「措置を講じなければならない」という義務が正しいです(第11条第1項)。

 

本肢は、事業主の「職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置義務」(職場におけるセクシュアルハラスメント防止措置義務)に関する出題です。

同規定は、平成9年の改正により、事業主の「配慮義務」として新設され、平成18年の改正(平成19年4月1日施行)により、配慮義務から「措置義務」に強化されました。

この事業主のセクハラ防止措置が単なる努力義務ではないことは、常識上、判断しやすいと思います。

本文は、こちら以下です。 

 

 

 事業主は、労働者が職場におけるセクシュアルハラスメントに関する相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない

 

(解説)

 

本肢も、誤りです。

文末について、不利益な取扱いを「しないようにしなければならない」ではなく、不利益な取扱いを「してはならない」が正しいです(第11条第2項)。本文は、こちら以下です。

 

「しないようにしなければならない」という文言は、努力義務規定や訓示的規定のように解されることがあります。

 

例えば、労基法の年休取得に係る不利益取扱いの禁止について、労基法附則第136条(労基法のパスワード)が、「使用者は、年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない」旨を規定していますが、この「しないようにしなければならない」と規定されている文言を一つの理由として、同条が訓示的規定に過ぎないと説明されることがあります(労基法のこちら以下)。

 

そこで、本肢についても、第11条第2項の文言通り、「不利益な取扱いをしてはならない」が正しい内容となります。

 

この第11条第2項は、事業主について、労働者が職場におけるセクシュアルハラスメントに関する相談を行ったことを等を理由とする不利益取扱いを禁止することによって、職場におけるセクシュアルハラスメントの防止を実効化しようとした趣旨です。

令和2年6月1日施行の改正により新設されたものであり、今回の試験から出題対象です。

 

 

 事業主は、他の事業主から当該事業主の講ずる職場におけるセクシュアルハラスメントの防止の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合は、これに応じなければならない

 

(解説)

 

本肢も、誤りです。

「これに応じなければならない」(義務)ではなく、「これに応ずるように努めなければならない」が正しいです(第11条第3項)。

即ち、事業主は、他の事業主から当該事業主の講ずる第11条第1項の措置〔=職場におけるセクシュアルハラスメントの防止措置〕の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければなりません。

 

本規定も、令和2年6月1日施行の改正により新設されました。

例えば、自社の労働者が取引先の他社の労働者に対してセクハラを行ったために、他社から事実関係の調査への協力を求められたような場合において、協力を求められた事業主に協力に応ずる努力義務を課したものです。

 

努力義務に過ぎない点については、どのような場合にどのような事情からどのような協力を求められるかが多様であり、一律に協力義務を発生させるまでには要件が明確化されていない(明確化しなかった)ということでしょう。 

本文は、こちら以下です。

 

 

 常時雇用する労働者が300人を越える事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、男女雇用機会均等法が定める所定の措置等及び職場における男女の均等な機会及び待遇の確保が図られるようにするために講ずべきその他の措置の適切かつ有効な実施を図るための業務を担当する者(男女雇用機会均等推進者)を選任しなければならない

 

(解説)

 

本肢も、誤りです。2点の誤りがあります。

本肢は、男女雇用機会均等推進者の選任に関する出題ですが、まず、男女雇用機会均等推進者の選任について、「常時雇用する労働者が300人を越える」という規模の要件は課されていません。即ち、すべての「事業主」が対象です。

次に、男女雇用機会均等推進者を「選任しなければならない」(義務)ではなく、「選任するように努めなければならない」(努力義務)が正しいです(第13条の2)。

 

令和2年6月1日施行の改正により、事業主に対して、男女雇用機会均等推進者を選任する努力義務の規定が新設されました(本文は、こちら以下)。

同改正により、均等法が規定する事業主の措置等が拡大したこともあり、均等法の趣旨に従った取組みの実施体制を明確化する見地から新設された規定であると押さえておきます。

 

均等法の定める措置等は、男女平等という平等原則に関わるものであり、均等法の趣旨に従った取組みの実施体制を備えることについて、大企業と中小企業とを区別する合理性は乏しいですから、すべての事業主を対象とする必要があります。

ただし、中小企業については、人手不足が顕著であり、従業員や事業主の負担についても考慮する必要があること等を踏まえて、さしあたりは男女雇用機会均等推進者の選任を努力義務に留めているものと把握しておきます。

 

※ ちなみに、女性活躍推進法が定める「特例認定一般事業主」(女性活躍推進に関する取組の実施の状況が特に優良なものであること等の基準に適合するものである旨の認定を受けた一般事業主であり、「プラチナえるぼし」を商品に付すること等を行えます)として認定されるためには、男女雇用機会均等推進者及び職業家庭両立推進者育児介護休業法第29条)を選任していることが必要です(女性活躍推進法第12条こちら以下)。

 

 

 「令和元年度雇用均等基本調査」(厚生労働省)によると、セクシュアルハラスメントを防止するための対策に「取り組んでいる」企業割合は80.2%であり、前回調査(平成31年度64.3%)より15.9ポイント上昇した

規模別にみると、企業規模が大きいほど割合が高く5,000人以上の規模では100%の企業において取組が認められ、10~29人の規模においては73.7%となっている。

また、同調査によると、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを防止するための対策に「取り組んでいる」企業割合は75.7%であった。

 

(解説)

 

本肢は、正しいです。

最新の「令和元年度雇用均等基本調査」からの出題であり、本肢の前段は、「白書対策講座」のこちら(白書対策講座のパスワード)の【設問5】に、本肢の後段はこちらの1に基づくものです。

 

本肢の細かな数字を記憶する必要はありませんが、次の点は押さえます。

 

(1)①「セクシュアルハラスメントを防止するための対策」及び②「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを防止するための対策」のいずれについても、「取り組んでいる」企業割合は80%前後はあること。

 

(2)①、②のいずれについても、企業規模が大きいほど実施割合が高いこと(設問では取り上げていませんが、②についても、企業規模が大きいほど実施割合が高いです)。

 

(3)①について、「5,000人以上の規模では100%の企業」において取組みが行われていること。

 

 

以上、均等法の問1の解説でした。

 

なお、本問では、セクハラ防止措置等について設問化しましたが、マタハラ防止措置等についても注意は必要です。 

このマタハラ防止措置等のエッセンスは、労働一般のこちらの青線の枠内をチェックして下さい。

「マタハラ防止措置等」についても、基本的には、本問の肢A~Dで確認してきました「セクハラ防止措置等」の内容とパラレルな内容が定められています(もっとも、肢C(こちら)でみました「他の事業主から必要な協力を求められた場合に対応する努力義務」については、「マタハラ防止措置等」では定められていません。現状では、他企業との関係でマタハラが発生する事象は多くないということなのでしょう)。

 

 

次のページでは、育児介護休業法等について見ます。