2021年度版

 

その他の判例等

以下では、労働契約法旧第20条に関して令和2年10年に判決が下されました最高裁判決について掲載しておきます。

 

これらは、実務上、非常に重要な判決ですが、試験対策上は、令和2年4月1日施行の改正(【平成30.7.6法律第71号】。働き方改革関連法)により廃止された労働契約法旧第20条に関するものであるため、直接出題されることはないかもしれません。

ただし、同改正により、この労働契約法旧第20条は、短時間・有期雇用労働法第8条(不合理な待遇の禁止)に統合されましたから、労働契約法旧第20条に関する最高裁の考え方は、短時間・有期雇用労働法第8条を解釈する際にも影響します。

そこで、これらの最高裁判決の考え方と結論をざっとチェックされるとよろしいです。

 

 

以下、判決のリンク先です。

 

1【メトロコマース事件 = 最判令和2.10.13】= こちら

 

2【大阪医科大学事件 = 最判令和2.10.13】= こちら

 

3【日本郵便事件 = 最判令和2.10.15】3判決 = こちら 

 

 

 

【メトロコマース事件 = 最判令和2.10.13】

メトロコマース事件では、地下鉄の駅構内の売店業務に従事する有期契約労働者と正社員との間の退職金の支給の有無の相違について、その不合理性が争われました(判決文は、こちら)。

 

事案、判旨(こちら)、当サイトの解説(こちら)、判決文(こちら)の順に掲載します。

太字部分を追って頂くとよいです。

 

事案

1 東京地下鉄株式会社(東京メトロ)の完全子会社であって、東京メトロの駅構内における売店業務等を行う株式会社メトロコマース(第1審被告)と期間の定めのある労働契約(「有期労働契約」)を締結して東京メトロの駅構内の売店における販売業務に従事していた第1審原告らが、第1審被告と期間の定めのない労働契約(以下、「無期労働契約」という)を締結している労働者のうち上記売店業務に従事している正社員と第1審原告らとの間で、退職金等に相違があったことは労働契約法第20条(平成30年法律第71号による改正前のもの)に違反するものであったなどと主張して、第1審被告に対し、不法行為等に基づき、上記相違に係る退職金に相当する額等の損害賠償等を求めた事案。

 

 

2 やや詳しい事実関係は、次の通りです。

 

第1審被告の従業員は、社員(以下、「正社員」という)、契約社員A(平成28年4月に職種限定社員に変更)及び契約社員Bという名称の雇用形態の区分が設けられ、それぞれ適用される就業規則が異なっていた。

第1審原告らは、契約社員Bであり、契約社員Bは、契約期間を1年以内とする有期労働契約を締結した労働者であり、一時的、補完的な業務に従事する者をいうものとされていた。同期間満了後は原則として契約が更新され、就業規則上、定年は65歳と定められていた。

第1審原告X2は平成16年4月、第1審原告X1は同年8月、それぞれ契約社員Bとして第1審被告に採用され、有期労働契約の更新を繰り返し、第1審原告X2については平成26年3月31日、第1審原告X1については同27年3月31日、いずれも65歳に達したことにより上記契約が終了した。〔X2は10年、X1は約10年と半年勤続期間。〕 

 

第1審被告における退職金制度は、退職金規程により定められ、正社員のみに適用される。

退職金は、本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給するものとされ、当該退職金の支給要件や支給内容等に照らせば、当該退職金は、職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払い継続的な勤務等に対する功労報償等複合的な性質を有するものとみられる。

 

第1審原告らにより比較の対象とされた売店業務に従事する正社員と契約社員Bである第1審原告らの業務の内容はおおむね共通するが、正社員は、休暇や欠勤で不在の売店の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を担当していたほか、複数の売店を統括し、売上向上のための指導、改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理、商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあったのに対し、契約社員Bは、売店業務に専従していたものであり、両者の職務の内容に一定の相違があった。

また、売店業務に従事する正社員については、業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があり、正当な理由なく、これを拒否することはできなかったのに対し、契約社員Bは、業務の場所の変更を命ぜられることはあっても業務の内容に変更はなく配置転換等を命ぜられることはなかった

 

なお、売店業務に従事する正社員は、関連会社等の再編成により第1審被告に雇用されることとなった互助会(売店事業を行っていた財団法人地下鉄互助会)の出身者と契約社員Bから正社員に登用された者が約半数ずつほぼ全体を占め、売店業務に従事する従業員の2割に満たないものとなっており、本社の各部署等に配置され配置転換等を命ぜられることがあった他の多数の正社員とは、職務の内容及び変更の範囲につき相違があった。

 

また、第1審被告は、契約社員A及び正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け、相当数の契約社員Bや契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していた。

 

 

3 原審の判断

 

原審(【東京高判平成31.2.20】)は、契約社員Bが有期契約労働者ではあっても、原則として契約が更新され、定年が65歳と定められており、実際に10年前後の長期間にわたって勤務したことや、契約社員Aについて職種限定社員として無期契約労働者となるとともに退職金制度が設けられたことを考慮して、少なくとも長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金、具体的には正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額すら一切支給しないことは不合理である旨を判示していました。

 

 

判旨

判決の要旨です。

 

判決は、第1審原告ら(契約社員B)と、当該者により比較の対象とされた売店業務に従事する正社員との間に、退職金の支給の有無について相違があっても、労働契約法第20条の「不合理」な相違であるとは認めませんでした。

次の理由です。

 

労働契約法20条について、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違が退職金の支給に係るものであったとしても、それが不合理と認められる場合はありえるが、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における退職金の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮して検討すべきである。

 

本件の退職金は、本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給するものとされており、その支給要件や支給内容等に照らせば、当該退職金は、職務遂行能力責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払い継続的な勤務等に対する功労報償等複合的な性質を有するものであり、第1審被告(会社)は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる。

 

「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」(「職務の内容」)については、両者の業務の内容はおおむね共通するものの、正社員は、休暇や欠勤で不在の売店の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を担当していたほか、複数の売店を統括する等のエリアマネージャー業務に従事することがあったのに対し、契約社員Bは、売店業務に専従していたものであり、両者の職務の内容に一定の相違があった。

 

職務の内容及び配置の変更の範囲(「変更の範囲」)については、売店業務に従事する正社員については、業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があり、正当な理由なく、これを拒否することはできなかったのに対し、契約社員Bは、業務の場所の変更を命ぜられることはあっても、業務の内容に変更はなく、配置転換等を命ぜられることはなかったものであり、両者の職務の内容及び配置の変更の範囲にも一定の相違があった。 

 

その他の事情」については、売店業務に従事する正社員は、関連会社等の再編成により第1審被告に雇用されることとなった互助会の出身者と契約社員Bから正社員に登用された者が約半数ずつほぼ全体を占めたものであり、再編成の経緯やその職務経験等に照らし、賃金水準を変更したり、他の部署に配置転換等をしたりすることが困難な事情があった。

 

また、第1審被告は、契約社員A及び正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け、相当数の契約社員Bや契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していた。

 

以上より、第1審被告の正社員に対する退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的を踏まえて、売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮すれば、契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ、定年が65歳と定められるなど、必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず、第1審原告らがいずれも10年前後の勤続期間を有していることをしんしゃくしても、両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。

 

 

解説

1 労働契約法第20条は、「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」と定めています(こちら以下)。

 

 

2 まず、本判決では、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が退職金の支給に係るものであったとしても、それが労働契約法第20条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられるとし、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における退職金の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえ同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべき旨を判示します。

 

即ち、労働条件(待遇)の性質やその目的を踏まえて、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して労働契約法第20条の不合理性を判断することとなります。

これは、労働契約法第20条が統合された短時間・有期雇用労働法第8条において、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して」不合理と認められる相違を設けてはならないと規定されていることと同様に、労働条件・待遇の性質とその目的を踏まえて職務の内容等の事情を考慮して不合理性を判断するというものです(前ページで見ました【ハマキョウレックス事件及び長澤運輸事件:最判平成30.6.1】の具体的な判断方法も同様です)。

この「待遇の性質及び当該待遇を行う目的」を踏まえるという点で、本判決は、労働契約法第20条の不合理性の判断方法について、短時間・有期雇用労働法第8条を参考にしている(同様の判断方法によっている)といえます。

 

本判決は、退職金の支給についての相違が労働契約法第20条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得る旨を述べていますが、この不合理性が認められる典型は、短時間・有期雇用労働法第9条こちら)の「通常の労働者と同視すべき有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止」に相当するケースとなります。

即ち、有期契約労働者の職務内容及び職務の内容及び配置の変更の範囲(人材活用の仕組み、運用等)が通常の労働者(正社員)と同一である場合は、有期契約労働者であることを理由とする待遇の差別的取扱いは基本的に認められないこととなります。

ただ、本件では、第1審原告らと正社員との間について、前述のように、職務内容及び変更範囲について一定の相違があると認定されており、この「通常の労働者と同視すべき有期雇用労働者」に相当するケースとはいえないです。

そこで、このような「通常の労働者と同視すべき有期雇用労働者」に相当しないケースについての待遇の相違の不合理性の判断が問題となります。

 

 

3 本事案における不合理性の具体的な判断について、判決は、まず、本件の退職金制度について、「職務遂行能力責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払い継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、第1審被告は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなど目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる」とします。

 

このように本件退職金の性質について、「職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質」があるとする場合、「労務の対価の後払い継続的な勤務等に対する功労報償等」という側面(特に後者の「継続的な勤務等に対する功労報償等」という側面)を考慮するなら、有期契約労働者であっても長期間雇用継続された者について退職金をまったく支給しないことは、不合理性の判断に大きく影響することとなるはずです〔この文章以下は、令和2年10月17日に修正しました〕

本判決では、後掲の通り、1名の反対意見がありますが(著名な行政法学者である宇賀先生によるものです)、この反対意見や原審は本件退職金の「継続的な勤務等に対する功労報償等」の性質を重視したものです。 

 

しかし、法廷意見(多数意見)は、本件退職金のこのような「労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等」的性質について、正社員レベルの「職務遂行能力や責任の程度等」があることを前提として考慮されるものと解しているようです。

本件退職金を支給する目的についても、「正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたもの」と認定されています。

即ち、本件退職金の「労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等」の性質は、正社員としての人材確保・定着実現等の必要性という枠内で考慮されているものといえます。

本件退職金の性質と目的をこのように捉えますと、退職金が「労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等」的性質を有していても、有期契約労働者に対しては必ずしも支給する必要はないということになります。

 

ただ、このように退職金を含む待遇・労働条件の目的について、「正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなど」(正社員としての人材確保・定着実現等の必要性)と捉える場合は、正社員と正社員でない従業員との待遇の相違は、それらの職務内容等に多少の違いがあるときは、広く不合理性が否定されることとなりかねません。当該待遇又は給付の支給は、本来、正社員に対してなされることが目的であることになるからです。

これでは、有期契約労働者の公正な待遇の確保を目的とした労働契約法第20条(さらには短時間・有期雇用労働法第8条)の趣旨は十分実現できないおそれがあります。

 

そこで、まず、当該会社の実態に照らした当該待遇の客観的な性質・目的を考慮する必要があります。

例えば、前ページで見ました【ハマキョウレックス事件=最判平成30.6.1】では、作業手当について、正社員としての人材確保・定着実現等の必要性から支給されるものであるといった認定はしていず、特定の作業を行った対価として支給されるものと限定して認定しています(そこで、同一の特定の作業を行ったにもかかわらず、作業手当が正社員には支給されて契約社員(有期契約労働者)には支給されないことについて、不合理性を認めやすくなります。こちらを参考)。

ここでは、仮に会社側が作業手当の性質・支給目的について、正社員としての人材確保・定着実現等の必要性から支給されるものといった主張があっても、当該作業手当の実態に照らして客観的な性質・支給目的を認定して、それに照らして諸事情を考慮の上で不合理性を判断すべきこととなります。

 

もっとも、手当等については、上記のように、当該手当等の本来の趣旨に照らしてその客観的な性質・目的を認定して不合理性の判断を行うことがしやすく、また、そのように判断するのが妥当といえますが、いわば基本的な待遇・労働条件に相当する部分(例:基本給、賞与、退職金等)については、その趣旨・内容をどのように設計・構成等するかは企業経営の根幹にもかかわってくる側面があり、企業の自治・裁量を尊重する必要もあるとはいえます。

そこで、かかる基本的部分について、正社員としての人材確保・定着実現等の必要性といった趣旨を含めてその制度を設計することを一概に否定することはしにくいといえます。

ただし、その場合も、当該会社の実態に照らした当該待遇の客観的な性質(例えば、退職金については、継続的な勤務等に対する功労報償的性質等があること)を軽視すべきではなく、当該待遇の客観的な性質も踏まえて、職務の内容、変更の範囲その他の事情を考慮して不合理性を具体的に判断すべきと考えます。 

 

そうしますと、本件退職金支給の目的について、正社員としての人材確保・定着実現等の必要性があることは認められるとしても、前述のように、そもそも本件会社における退職金の制度は、「労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等的性質もあると認められる以上、当該退職金が長期間継続勤務した有期契約労働者に一切支給されないことが不合理ではないといい切れるのかは疑問です。

とりわけ、正社員とその他の従業員との間に職務内容等の違いはあっても、その違いが大きくはないと認められる場合(本事案の契約社員Bと売店業務に従事する正社員については、そのような場合に該当するのではないかと思われます)には、退職金の「継続的な勤務等に対する功労報償等」的性質を軽視することは問題でしょう。

 

なお、後掲の補足意見で指摘されていますが、退職金の場合、原資を長期間にわたって積み立てるなどして用意する必要があり、退職金制度の在り方は、社会経済情勢や使用者の経営状況の動向等にも左右されることから、退職金制度の構築について、これら諸般の事情を踏まえて行われる使用者の裁量判断を尊重する必要はあるといえます。

もっとも、使用者が広い裁量を有するからといって、労働契約法第20条のような強行規定に違反する裁量権の行使が認められるわけではありません。

 

 

以下では、法廷意見(多数意見)と宇賀反対意見を対照する形で、判決の要旨を見ます。

 

本判決が、不合理性の基礎として考慮する事情は、以下の(1)~(3)です。

 

 

(1)業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(「職務の内容」)

 

まず、職務の内容について、多数意見は、契約社員Bである第1審原告らと、比較の対象とされた売店業務に従事する正社員の業務の内容はおおむね共通しつつも正社員は、休暇等により不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を担当していたほか、複数の売店を統括する等の業務を行うエリアマネージャー業務に従事することがあったのに対し、契約社員Bは、売店業務に専従していたものであり、両者の職務の内容に一定の相違があったとします。

 

対して、宇賀反対意見は、正社員は、代務業務を行っていたために勤務する売店が固定されておらず、複数の売店を統括するエリアマネージャー業務に従事することがあるが、契約社員Bも代務業務を行うことがあり、また、代務業務が正社員でなければ行えないような専門性を必要とするものとも考え難いこと、エリアマネージャー業務が他の売店業務と質的に異なるものであるかは評価の分かれ得るところであることを挙げ、職務の内容大きな相違はないとします。

宇賀反対意見では、職務の内容に一定の違いがあることを前提に、職務の内容の違いの程度・違いの質等も考慮されているものといえます。

 

 

(2)職務の内容及び配置の変更の範囲

 

次に、売店業務に従事する正社員については、業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があり、正当な理由なく、これを拒否することはできなかったのに対し、契約社員Bは、業務の場所の変更を命ぜられることはあっても業務の内容に変更はなく配置転換等を命ぜられることはなかったとします。

 

対して、宇賀反対意見は、上記の相違は存在するものの、売店業務に従事する正社員は、互助会において売店業務に従事していた者と、登用制度により正社員になった者とでほぼ全体を占めており、当該売店業務がいわゆる人事ローテーションの一環として現場の勤務を一定期間行わせるという位置付けのものであったとはいえないとして、売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の変更の範囲に大きな相違はないとします。

つまり、売店業務に従事する正社員は、本社の正社員のような職務の内容及び配置の変更が行われていたわけではない点が考慮されているといえます。

ここでも、職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の違いがあることを前提に、その違いの程度・違いの質等も考慮されているものといえます。

 

 

(3)その他の事情

 

その他の事情として、売店業務に従事する正社員は、関連会社等の再編成により雇用されることとなった互助会の出身者と契約社員Bから正社員に登用された者が約半数ずつほぼ全体を占め、売店業務に従事する従業員の2割に満たないものとなっていたこと、契約社員A及び正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け、相当数の契約社員Bや契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していたことが考慮されています。

 

最初の互助会の出身者であるという点は、事業再編に伴っていわばやむなく互助会出身者が地下鉄の売店専属となったのであり、そこに正社員として配置せざるを得なかった(そして、退職金制度の適用を外すなど、労働条件を引き下げるわけにはいかなかった)という事情が考慮されているのかもしれません。

 

2番目の登用制度の設置については(なお、第1審原告らは、この登用制度に合格できなかったようです)、確かに、契約社員についても、退職金制度の適用される正社員等への登用の余地があったという事情は考慮される必要があります。

ただし、登用制度が存在していても、実際にどの程度の契約社員が正社員等に登用されていたのかという登用制度の実情を考慮する必要があります。

この点、判決では、本件では、「相当数の契約社員Bや契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していた」とされています。

また、本件会社の退職金を「継続的な勤務等に対する功労報償等」の性質も有すると認める場合、登用制度が存在したとしても、実際に継続的に勤務した者に対して退職金が全く支給されないという結論を当然に正当化できるわけではなく、登用制度の存在も、一つの事情として考慮されるべきこととなります。

登用制度が全く存在しなければ、本件退職金の支給の有無の相違の不合理性に影響した可能性はあり得ます。 

 

なお、本件退職金の「継続的な勤務等に対する功労報償等」といった性質を重視する考え方からは、「その他の事情」として、何より長期間継続勤務していたという事情を斟酌する必要があることとなります。

そのほか、本事案における職務の内容の違いの程度の少なさ等も考慮して、不合理性を肯定する余地があると考えることとなります。

 

 

判決文

〔事実関係に触れた部分の後から引用開始。〕

 

3 原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、第1審原告らの退職金に係る不法行為に基づく損害賠償請求をいずれも一部認容した。

 

一般に、退職金には賃金の後払い、功労報償等の様々な性格があるところ、長期雇用を前提とする無期労働契約を締結した労働者(以下「無期契約労働者」という。)に対し、福利厚生を手厚くし、有為な人材の確保及び定着を図るなどの目的をもって退職金制度を設ける一方、本来的に短期雇用を前提とした有期労働契約を締結した労働者(以下「有期契約労働者」という。)に対し、これを設けないという制度設計自体は、人事施策上一概に不合理であるとはいえない。もっとも、第1審被告においては、契約社員Bは契約期間が1年以内の有期契約労働者であり、賃金の後払いが予定されているとはいえないが、原則として契約が更新され、定年が65歳と定められており、実際に第1審原告らは定年により契約が終了するまで10年前後の長期間にわたって勤務したことや、契約社員Aは平成28年4月に職種限定社員として無期契約労働者となるとともに退職金制度が設けられたことを考慮すれば、少なくとも長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金、具体的には正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額すら一切支給しないことは不合理である。

したがって、売店業務に従事している正社員と契約社員Bとの間の退職金に関する労働条件の相違は、労使間の交渉や経営判断の尊重を考慮に入れても、第1審原告らのような長期間勤務を継続した契約社員Bに全く退職金の支給を認めない点において、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる。

 

4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

 

(1)労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり、両者の間の労働条件の相違が退職金の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。もっとも、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における退職金性質やこれを支給することとされた目的踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。

 

(2)ア 第1審被告は、退職する正社員に対し、一時金として退職金を支給する制度を設けており、退職金規程により、その支給対象者の範囲や支給基準、方法等を定めていたものである。そして、上記退職金は、本給勤続年数に応じた支給月数乗じた金額を支給するものとされているところ、その支給対象となる正社員は、第1審被告の本社の各部署や事業本部が所管する事業所等に配置され、業務の必要により配置転換等を命ぜられることもあり、また、退職金の算定基礎となる本給は、年齢によって定められる部分と職務遂行能力に応じた資格及び号俸により定められる職能給の性質を有する部分から成るものとされていたものである。このような第1審被告における退職金の支給要件支給内容等に照らせば、上記退職金は、上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払い継続的な勤務等に対する功労報償等複合的な性質を有するものであり、第1審被告は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたものといえる。

 

イ そして、第1審原告らにより比較の対象とされた売店業務に従事する正社員契約社員Bである第1審原告らの労働契約法20条所定の「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」(以下「職務の内容」という。)をみると、両者の業務の内容はおおむね共通するものの正社員は、販売員が固定されている売店において休暇や欠勤で不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務を担当していたほか、複数の売店を統括し、売上向上のための指導、改善業務等の売店業務のサポートやトラブル処理、商品補充に関する業務等を行うエリアマネージャー業務に従事することがあったのに対し、契約社員Bは、売店業務に専従していたものであり、両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。

 

また、売店業務に従事する正社員については、業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があり、正当な理由なく、これを拒否することはできなかったのに対し、契約社員Bは、業務の場所の変更を命ぜられることはあっても業務の内容に変更はなく配置転換等を命ぜられることはなかったものであり、両者の職務の内容及び配置の変更の範囲(以下「変更の範囲」という。)にも一定の相違があったことが否定できない。

 

さらに、第1審被告においては、全ての正社員が同一の雇用管理の区分に属するものとして同じ就業規則等により同一の労働条件の適用を受けていたが、売店業務に従事する正社員と、第1審被告の本社の各部署や事業所等に配置され配置転換等を命ぜられることがあった他の多数の正社員とは、職務の内容及び変更の範囲につき相違があったものである。そして、平成27年1月当時に売店業務に従事する正社員は、同12年の関連会社等の再編成により第1審被告に雇用されることとなった互助会の出身者契約社員Bから正社員に登用された者が約半数ずつほぼ全体を占め、売店業務に従事する従業員の2割に満たないものとなっていたものであり、上記再編成の経緯やその職務経験等に照らし、賃金水準を変更したり、他の部署に配置転換等をしたりすることが困難な事情があったことがうかがわれる。このように、売店業務に従事する正社員が他の多数の正社員と職務の内容及び変更の範囲を異にしていたことについては、第1審被告の組織再編等に起因する事情が存在したものといえる。また、第1審被告は、契約社員A及び正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け、相当数の契約社員Bや契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していたものである。これらの事情については、第1審原告らと売店業務に従事する正社員との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり、労働契約法20条所定の「その他の事情」(以下、職務の内容及び変更の範囲と併せて「職務の内容等」という。)として考慮するのが相当である。

 

ウ そうすると、第1審被告の正社員に対する退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的を踏まえて、売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮すれば、契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ、定年が65歳と定められるなど、必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず、第1審原告らがいずれも10年前後の勤続期間を有していることをしんしゃくしても、両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価することができるものとはいえない

なお、契約社員Aは平成28年4月に職種限定社員に改められ、その契約が無期労働契約に変更されて退職金制度が設けられたものの、このことがその前に退職した契約社員Bである第1審原告らと正社員との間の退職金に関する労働条件の相違が不合理であるとの評価を基礎付けるものとはいい難い。また、契約社員Bと職種限定社員との間には職務の内容及び変更の範囲に一定の相違があることや、契約社員Bから契約社員Aに職種を変更することができる前記の登用制度が存在したこと等からすれば、無期契約労働者である職種限定社員に退職金制度が設けられたからといって、上記の判断を左右するものでもない。

 

(3)以上によれば、売店業務に従事する正社員に対して退職金を支給する一方で、契約社員Bである第1審原告らに対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。

 

 

〔中略。以下、宇賀反対意見を掲載しておきます。〕

 

私は、多数意見とは異なり、本件の事実関係の下で、長年の勤務に対する功労報償の性格を有する部分に係る退職金、具体的には正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額すら契約社員Bに支給しないことが不合理であるとした原審の判断は是認することができ、第1審被告の上告及び第1審原告らの上告は、いずれも棄却すべきものと考える。その理由は、以下のとおりである。

 

多数意見のいうように、第1審被告の正社員に対する退職金の性質やこれを支給する目的を踏まえ、売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容等を考慮して、退職金に係る労働条件の相違が不合理と評価することができるかどうかを検討すべきものとする判断枠組みを採ることには異論はない。また、林景一裁判官の補足意見が指摘するとおり、退職金は、その原資を長期間にわたって積み立てるなどして用意する必要があること等からすれば、裁判所が退職金制度の構築に関する使用者の裁量判断を是正する判断をすることには慎重さが求められるということもできる。

 

〔林景一裁判官の補足意見では、次のように述べられています。

 

「退職金は、その支給の有無や支給方法等につき、労使交渉等を踏まえて、賃金体系全体を見据えた制度設計がされるのが通例であると考えられるところ、退職金制度を持続的に運用していくためには、その原資を長期間にわたって積み立てるなどして用意する必要があるから退職金制度の在り方は、社会経済情勢や使用者の経営状況の動向等にも左右されるものといえる。そうすると、退職金制度の構築に関し、これら諸般の事情を踏まえて行われる使用者の裁量判断を尊重する余地は、比較的大きいものと解されよう。」〕

 

しかし、契約社員Bは、契約期間を1年以内とする有期契約労働者として採用されるものの、当該労働契約は原則として更新され、定年が65歳と定められており、正社員と同様、特段の事情がない限り65歳までの勤務が保障されていたといえる。契約社員Bの新規採用者の平均年齢は約47歳であるから、契約社員Bは、平均して約18年間にわたって第1審被告に勤務することが保障されていたことになる。他方、第1審被告は、東京メトロから57歳以上の社員を出向者として受け入れ、60歳を超えてから正社員に切り替える取扱いをしているというのであり、このことからすると、むしろ、正社員よりも契約社員Bの方が長期間にわたり勤務することもある。第1審被告の正社員に対する退職金は、継続的な勤務等に対する功労報償という性質を含むものであり、このような性質は、契約社員Bにも当てはまるものである。

また、正社員は、代務業務を行っていたために勤務する売店が固定されておらず、複数の売店を統括するエリアマネージャー業務に従事することがあるが、契約社員Bも代務業務を行うことがあり、また、代務業務が正社員でなければ行えないような専門性を必要とするものとも考え難い。エリアマネージャー業務に従事する者は正社員に限られるものの、エリアマネージャー業務が他の売店業務と質的に異なるものであるかは評価の分かれ得るところである。

正社員は、配置転換、職種転換又は出向の可能性があるのに対して、契約社員Bは、勤務する売店の変更の可能性があるのみという制度上の相違は存在するものの、売店業務に従事する正社員は、互助会において売店業務に従事していた者と、登用制度により正社員になった者とでほぼ全体を占めており、当該売店業務がいわゆる人事ローテーションの一環として現場の勤務を一定期間行わせるという位置付けのものであったとはいえない。そうすると、売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容や変更の範囲に大きな相違はない。

以上のとおり、第1審被告の正社員に対する退職金の性質の一部は契約社員Bにも当てはまり、売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容や変更の範囲に大きな相違はないことからすれば、両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものといえる。

他方、多数意見も指摘するとおり、第1審被告の正社員に対する退職金は、職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いの性質も有するものであるし、一般論として、有為な人材の確保やその定着を図るなどの目的から、継続的な就労が期待される者に対して退職金を支給する必要があることは理解することができる。そして、売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容や変更の範囲に一定の相違があることは否定できず、当該正社員が他の多数の正社員と職務の内容及び変更の範囲を異にしていたことについて、第1審被告の組織再編等に起因する事情が存在したものといえること等も考慮すると、売店業務に従事する正社員と契約社員Bとの間で退職金に係る労働条件に相違があること自体は、不合理なことではない。退職金制度の構築に関する使用者の裁量判断を尊重する余地があることにも鑑みると、契約社員Bに対し、正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額を超えて退職金を支給しなくとも、不合理であるとまで評価することができるものとはいえないとした原審の判断をあえて破棄するには及ばないものと考える。

 

〔引用終了。〕

 

 

続いて、メトロコマース事件と同日に判決された大阪医科大学事件を見ます。

 

 

 

【大阪医科大学事件 = 最判令和2.10.13】

大阪医科大学事件は、主に薬理学教室内の秘書業務に携わっていたアルバイト職員が、教室事務員である正職員との間に賞与、業務外の疾病病(以下、「私傷病」といいます)による欠勤中の賃金等に相違があったことが労働契約法第20条に違反するとして、不法行為に基づき損害賠償を求めた事案です(判決文は、こちら)。

 

事案、判旨(こちら)、当サイトの解説(こちら)、判決文(こちら)の順に掲載します。

太字部分を追って頂くとよいです。

 

事案

1 第1審被告(大阪医科大学。現在は大阪医科薬科大学)には、当時、事務系の職員として正職員、契約職員、アルバイト職員及び嘱託職員が存在したが、このうち無期労働契約を締結している職員は正職員のみであった。

 

第1審原告は、アルバイト職員であり、平成25年1月29日、第1審被告との間で契約期間を同年3月31日までとする有期労働契約を締結し勤務した後、契約期間を1年として上記契約を3度にわたって更新し、平成28年3月31日をもって退職した(平成27年3月に適応障害と診断され、同月9日から退職日までは不出勤)。

(従って、勤務開始後2年余りで欠勤扱いとなっており、欠勤期間を含む在籍期間は3年余りということになります。)

 

就業場所は本件大学薬理学教室、主な業務の内容は薬理学教室内の秘書業務、賃金は時給950円(その後若干引き上げ)であった。

また、その所定労働時間はフルタイムであった。

 

アルバイト職員は、アルバイト職員就業内規上、雇用期間を1年以内とし、更新する場合はあるものの、その上限は5年と定められており、その業務の内容は、定型的で簡便な作業が中心であった。

また、アルバイト職員については、アルバイト職員就業内規上、他部門への異動を命ずることがあると定められていたが、業務の内容を明示して採用されていることもあり、原則として業務命令によって他の部署に配置転換されることはなく、人事異動は例外的かつ個別的な事情によるものに限られていた。

 

他方、正職員は、大学等のあらゆる業務に携わり、定型的で簡便な作業等ではない業務が大半を占め、業務に伴う責任は大きいものであった。

また、正職員就業規則上、正職員は、出向や配置換え等を命ぜられることがあると定められ、人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていた。

 

本件大学には、診療科を持たない基礎系の教室の事務を担当する職員(「教室事務員」)が1、2名ずつ配置されている。平成11年当時、正職員である教室事務員が9名配置されていたが、教室事務員の業務の内容の過半が定型的で簡便な作業等であったため、第1審被告は、平成13年頃から正職員を配置転換するなどしてアルバイト職員に置き換え、同25年4月から同27年3月までの当時、正職員は4名のみであった。

正職員が配置されていた教室では、学内の英文学術誌の編集事務や広報作業、病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務又は毒劇物等の試薬の管理業務等が存在していた。

 

正職員には、正職員就業規則等が適用され、基本給、賞与、年末年始及び創立記念日の休日における賃金、年次有給休暇(正職員就業規則の定める日数)、夏期特別有給休暇、私傷病による欠勤中の賃金並びに附属病院の医療費補助措置が支給又は付与されていた。

正職員給与規則上、基本給は、採用時の正職員の職種、年齢、学歴、職歴等をしんしゃくして決定するものとされ、勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するものとされていた。

また、賞与に関しては、第1審被告が必要と認めたときに臨時又は定期の賃金を支給すると定められているのみであったが、実際は、年2回の賞与が支給されており、その支給額は通年で基本給4.6か月分が一応の基準となっていた。

なお、契約職員には正職員の約80%の賞与が支給されていた。

 

アルバイト職員には、アルバイト職員就業内規が適用され、時給制による賃金の支給及び労働基準法所定の年次有給休暇の付与がされていたが、賞与、年末年始及び創立記念日の休日における賃金、その余の年次有給休暇、夏期特別有給休暇、私傷病による欠勤中の賃金並びに附属病院の医療費補助措置は支給又は付与されていなかった

 

 

2 原審の判断

 

原審(【大阪高判平成31.2.15】)は、次の通り、賞与及び私傷病による欠勤中の賃金に関する相違を不合理と認めました。

 

(1)賞与については、正職員に対する賞与は、その支給額基本給にのみ連動し、正職員の年齢や成績のほか、業績にも連動していないことから、当該賞与は、正職員としてその算定期間に在籍し就労していたことの対価としての性質を有する。

従って、同期間に在籍し、就労していたフルタイムのアルバイト職員に対し、賞与を全く支給しないことは不合理である。

そして、正職員に対する賞与には付随的に長期就労への誘因という趣旨が含まれることや、アルバイト職員の功労は正職員に比して相対的に低いことが否めないことに加え、契約職員には正職員の約80%の賞与が支給されていることに照らすと、正職員と比較し、その支給基準の60%を下回る部分の相違は不合理と認められるものに当たる。

 

(2)私傷病による欠勤中の賃金については、正職員として長期にわたり継続して就労したことに対する評価又は将来にわたり継続して就労することに対する期待から、その生活保障を図る趣旨であると解される。

そうすると、フルタイムで勤務し契約を更新したアルバイト職員については、職務に対する貢献の度合いも相応に存し、生活保障の必要があることも否定し難いから、欠勤中の賃金を一切支給しないことは不合理である。

そして、アルバイト職員の契約期間は原則1年であり、当然に長期雇用が前提とされているものではないことに照らすと、第1審原告につき、欠勤中の賃金のうち給料1か月分及び休職給2か月分を下回る部分の相違は不合理と認められるものに当たる。

 

 

判旨

最高裁は、第1審原告と、当該者により比較の対象とされた教室事務員である正職員との間に、賞与及び私傷病手当の支給の有無について相違があっても、労働契約法第20条の「不合理」な相違であるとは認めませんでした

 

次の理由です。

 

(1)賞与について

 

労働契約法20条について、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違が賞与の支給に係るものであったとしても、それが不合理と認められる場合はありえるが、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における賞与の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮して検討すべきである。

 

第1審被告の正職員に対する賞与は、正職員給与規則において必要と認めたときに支給すると定められているのみであり、基本給とは別に支給される一時金として、その算定期間における財務状況等を踏まえつつ、その都度、第1審被告により支給の有無や支給基準が決定されるものである。

また、上記賞与は、通年で基本給の4.6か月分が一応の支給基準となっており、その支給実績に照らすと、第1審被告の業績に連動するものではなく、算定期間における労務の対価の後払い一律の功労報償将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものと認められる。

そして、正職員基本給については、勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するものとされており、勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有するものといえる上、おおむね、業務の内容の難度や責任の程度が高く、人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていたものである。

このような正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば、第1審被告は、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正職員に対して賞与を支給することとしたものといえる。

 

「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」(「職務の内容」)については、両者の業務の内容は共通する部分はあるものの、第1審原告の業務は、相当に軽易であることがうかがわれるのに対し、教室事務員である正職員は、学内の英文学術誌の編集事務等、病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務又は毒劇物等の試薬の管理業務等にも従事する必要があったのであり、両者の職務の内容に一定の相違があった。

 

職務の内容及び配置の変更の範囲(「変更の範囲」)については、教室事務員である正職員については、正職員就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があったのに対し、アルバイト職員については、原則として業務命令によって配置転換されることはなく、人事異動は例外的かつ個別的な事情により行われていたものであり、両者の職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の相違があった。

 

その他の事情」については、教室事務員は、その業務の内容の過半が定型的で簡便な作業等であったため、平成13年頃から、原則としてアルバイト職員に置き換えられており、教室事務員である正職員は、僅か4名にまで減少することとなり、業務の内容の難度や責任の程度が高く、人事異動も行われていた他の大多数の正職員と比較して極めて少数となっていた。このように、教室事務員である正職員が他の大多数の正職員と職務の内容及び変更の範囲を異にするに至ったことについては、教室事務員の業務の内容や第1審被告が行ってきた人員配置の見直し等に起因する事情が存在した。

 

また、アルバイト職員については、契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていた。

 

以上より、第1審被告の正職員に対する賞与の性質やこれを支給する目的を踏まえて、教室事務員である正職員とアルバイト職員の職務の内容等を考慮すれば、教室事務員である正職員と第1審原告との間に賞与に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。

 

 

(2)私傷病による欠勤中の賃金について

 

第1審被告が、正職員休職規程において、私傷病により労務を提供することができない状態にある正職員に対し給料(6か月間)及び休職給(休職期間中において標準給与の2割)を支給することとしたのは、正職員が長期にわたり継続して就労し、又は将来にわたって継続して就労することが期待されることに照らし、正職員の生活保障を図るとともに、その雇用を維持し確保するという目的によるものと解される。

このような第1審被告における私傷病による欠勤中の賃金の性質及びこれを支給する目的に照らすと、同賃金は、このような職員の雇用を維持し確保することを前提とした制度であるといえる。

 

職務の内容等については、前記のとおり、正職員が配置されていた教室では病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務等が存在し、正職員は正職員就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があるなど、教室事務員である正職員とアルバイト職員との間には職務の内容及び変更の範囲一定の相違があった。

 

その他の事情については、教室事務員である正職員が、極めて少数にとどまり、他の大多数の正職員と職務の内容及び変更の範囲を異にするに至っていたことについては、教室事務員の業務の内容や人員配置の見直し等に起因する事情が存在したほか、職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたという事情が存在する。

 

このような職務の内容等に係る事情に加えて、アルバイト職員は、契約期間を1年以内とし、更新される場合はあるものの、長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとはいい難いことにも照らせば、教室事務員であるアルバイト職員は、上記のように雇用を維持し確保することを前提とする制度の趣旨が直ちに妥当するものとはいえない。

 

また、第1審原告は、勤務開始後2年余りで欠勤扱いとなり、欠勤期間を含む在籍期間も3年余りにとどまり、その勤続期間が相当の長期間に及んでいたとはいい難く、第1審原告の有期労働契約が当然に更新され契約期間が継続する状況にあったことをうかがわせる事情も見当たらない

したがって、教室事務員である正職員と第1審原告との間に私傷病による欠勤中の賃金に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものとはいえない。 

 

 

解説

1 有期契約労働者に対する賞与の不支給が労働契約法第20条の不合理な労働条件の禁止に違反しないかについては、すでに【長澤運輸事件 = 最判平成30.6.1】において判断されていました(不合理性が否定されました。こちら)。

しかし、長澤運輸事件は、「定年退職後に有期労働契約により再雇用された者」が対象であったという特殊性があったため、そのような事情のない通常の有期契約労働者に係る賞与についての判断としては、本最高裁判決がリーディングケースとなります。

 

2 本判決においても、労働契約法第20条の判断方法については、前述の【メトロコマース事件】の場合と同様です(こちらの1及び2を参考)。

 

3 本事案における不合理性の具体的な判断ですが、まず、賞与について、本判決は、本件賞与の性質について、通年で基本給の4.6か月分が一応の支給基準となっており、その支給実績に照らし、業績に連動するものではなく算定期間における労務の対価の後払い一律の功労報償将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものとします。

そして、正職員の基本給は、勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有するものとします。

このような正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正職員に対して賞与を支給することとしたものとします。

 

ここでは、賞与の性質について、算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものとしつつ、賞与の支給の目的は、「正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなど」とし、【メトロコマース事件】と同様に、正社員としての人材確保・定着実現等の必要性を支給の目的としています。

このように支給の目的をとらえると、正社員とアルバイトとの間に職務内容や職務内容及び配置の変更の範囲が異なれば、正社員としての人材確保等の必要性は認められやすく、アルバイトとの賞与の支給の有無の相違は不合理でないとしやすいです。

 

ただし、実態に照らした賞与の客観的な性質も考慮する必要があり、本件では、算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものとされており、これらの事情は、アルバイトにも当てはまるといえます。

この点を重視すれば、正社員とアルバイトとの間に職務内容等が異なっていても、アルバイトに一切賞与が支給されないのは、不合理であると判断することは可能です。

正社員とアルバイトとの間の職務内容等の違いがどの程度なのか、それまでの継続就労期間がどの程度なのかといった事情も総合的に考慮して判断することが必要でしょう。

原審では、算定期間に在籍し、就労していたことの対価としての性質であることが重視され、アルバイトに対する賞与の不支給が不合理と判断されました。

 

 

4 私傷病による欠勤中の賃金については、判決では、正職員が長期にわたり継続して就労し、又は将来にわたって継続して就労することが期待されることに照らし、正職員の生活保障を図るとともに、その雇用を維持し確保することが目的であると認定されています。

このうち、継続して就労したという点及び傷病中の期間の生活保障の必要性という点を重視すれば、正社員とアルバイトとの間の職務内容等が異なっていても、アルバイトに一切私傷病による欠勤中の賃金を支給しないのは不合理であると判断しやすいです。

原審は、このような考え方です。

 

しかし、判決は、本件の私傷病による欠勤中の賃金支給の制度が、「長期にわたり」継続して就労し、又は将来にわたって継続して就労することが期待されるものに基づくものとして、継続就労が長期であることを前提とした制度であると判断しています。

このように判断するなら、短期就労であるアルバイトには、同制度が適用されないことが不合理でないと判断されやすいです。

 

 

【追記:令和2年10月21日】

 

なお、私傷病による有給の病気休暇(私傷病手当)については、【日本郵便(東京)事件 = 最判令和2.10.15】では、「長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的」であるとし、「時給制契約社員についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、私傷病による有給の病気休暇を与えることとした趣旨は妥当する」とし、契約社員に対して私傷病手当を支給しないことを不合理と認めました。

 

当該有期契約労働者が、「相応に継続的な勤務が見込まれる」といえる場合は、私傷病手当の不支給は不合理と認められやすいこととなります(令和2年10月21日に実施の水町教授の講演会を参考に追記しました)。

 

 

5 なお、宇賀裁判官は、前掲の【メトロコマース事件】においては、退職金の不支給について不合理と判断していましたが、本件の【大阪医科大学事件】においては、賞与の不支給について不合理と判断していません。

これは、本件の【大阪医科大学事件】において、アルバイト職員の継続就労期間がさほど長期に及んでいない点が一つの考慮事情となっているのかもしれません。

賞与の趣旨について、労務の対価の後払いである側面を強調すれば、就労期間の長短は問題となりにくいのですが、本事案の賞与については、労務の対価の後払いという側面のほか、一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものと認定されており、「功労報償」・「将来の労働意欲の向上」という側面も考慮しますと、就労期間の長短を斟酌せざるを得ないこととなり得ます。

そのほか、本事案におけるアルバイト職員と教室事務員である正職員との職務内容等の違いの程度も考慮されているのかもしれません。

  

 

判決文

〔事実関係に触れた部分の後から引用開始。〕

 

3 原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、第1審原告の賞与及び私傷病による欠勤中の賃金に係る損害賠償請求を一部認容した。

 

(1)第1審被告の正職員に対する賞与は、その支給額が基本給にのみ連動し、正職員の年齢や成績のほか、第1審被告の業績にも連動していない。そうすると、上記賞与は、正職員としてその算定期間に在籍し就労していたことの対価としての性質を有するから、同期間に在籍し、就労していたフルタイムのアルバイト職員に対し、賞与を全く支給しないことは不合理である。そして、正職員に対する賞与には付随的に長期就労への誘因という趣旨が含まれることや、アルバイト職員の功労は正職員に比して相対的に低いことが否めないことに加え、契約職員には正職員の約80%の賞与が支給されていることに照らすと、第1審原告につき、平成25年4月に新規採用された正職員と比較し,その支給基準の60%を下回る部分の相違は不合理と認められるものに当たる。

 

(2)第1審被告における私傷病による欠勤中の賃金は、正職員として長期にわたり継続して就労したことに対する評価又は将来にわたり継続して就労することに対する期待から、その生活保障を図る趣旨であると解される。そうすると、フルタイムで勤務し契約を更新したアルバイト職員については、職務に対する貢献の度合いも相応に存し、生活保障の必要があることも否定し難いから、欠勤中の賃金を一切支給しないことは不合理である。そして、アルバイト職員の契約期間は原則1年であり、当然に長期雇用が前提とされているものではないことに照らすと、第1審原告につき、欠勤中の賃金のうち給料1か月分及び休職給2か月分を下回る部分の相違は不合理と認められるものに当たる。

 

4 しかしながら、原審の上記判断はいずれも是認することができない。その理由は、次のとおりである。

 

(1)賞与について

 

ア 労働契約法20条は、有期労働契約を締結した労働者と無期労働契約を締結した労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期労働契約を締結した労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり、両者の間の労働条件の相違が賞与の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。もっとも、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における賞与の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。

 

イ(ア)第1審被告の正職員に対する賞与は、正職員給与規則において必要と認めたときに支給すると定められているのみであり、基本給とは別に支給される一時金として、その算定期間における財務状況等を踏まえつつ、その都度、第1審被告により支給の有無や支給基準が決定されるものである。また、上記賞与は、通年で基本給の4.6か月分が一応の支給基準となっており、その支給実績に照らすと、第1審被告の業績に連動するものではなく、算定期間における労務の対価の後払い一律の功労報償将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものと認められる。そして、正職員の基本給については、勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するものとされており、勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有するものといえる上、おおむね、業務の内容の難度や責任の程度が高く、人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていたものである。このような正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば、第1審被告は、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正職員に対して賞与を支給することとしたものといえる。

 

(イ)そして、第1審原告により比較の対象とされた教室事務員である正職員アルバイト職員である第1審原告の労働契約法20条所定の「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」(以下「職務の内容」という。)をみると、両者の業務の内容は共通する部分はあるものの、第1審原告の業務は、その具体的な内容や、第1審原告が欠勤した後の人員の配置に関する事情からすると、相当に軽易であることがうかがわれるのに対し、教室事務員である正職員は、これに加えて、学内の英文学術誌の編集事務等、病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務又は毒劇物等の試薬の管理業務等にも従事する必要があったのであり、両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。

また、教室事務員である正職員については、正職員就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があったのに対し、アルバイト職員については、原則として業務命令によって配置転換されることはなく、人事異動は例外的かつ個別的な事情により行われていたものであり、両者の職務の内容及び配置の変更の範囲(以下「変更の範囲」という。)に一定の相違があったことも否定できない。

さらに、第1審被告においては、全ての正職員が同一の雇用管理の区分に属するものとして同一の就業規則等の適用を受けており、その労働条件はこれらの正職員の職務の内容や変更の範囲等を踏まえて設定されたものといえるところ、第1審被告は、教室事務員の業務の内容の過半が定型的で簡便な作業等であったため、平成13年頃から、一定の業務等が存在する教室を除いてアルバイト職員に置き換えてきたものである。その結果、第1審原告が勤務していた当時、教室事務員である正職員は、僅か4名にまで減少することとなり、業務の内容の難度や責任の程度が高く、人事異動も行われていた他の大多数の正職員と比較して極めて少数となっていたものである。このように、教室事務員である正職員が他の大多数の正職員と職務の内容及び変更の範囲を異にするに至ったことについては、教室事務員の業務の内容や第1審被告が行ってきた人員配置の見直し等に起因する事情が存在したものといえる。

また、アルバイト職員については、契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたものである。これらの事情については、教室事務員である正職員と第1審原告との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たり、労働契約法20条所定の「その他の事情」(以下、職務の内容及び変更の範囲と併せて「職務の内容等」という。)として考慮するのが相当である。

 

(ウ)そうすると、第1審被告の正職員に対する賞与の性質やこれを支給する目的を踏まえて、教室事務員である正職員とアルバイト職員の職務の内容等を考慮すれば、正職員に対する賞与の支給額がおおむね通年で基本給の4.6か月分であり、そこに労務の対価の後払いや一律の功労報償の趣旨が含まれることや、正職員に準ずるものとされる契約職員に対して正職員の約80%に相当する賞与が支給されていたこと、アルバイト職員である第1審原告に対する年間の支給額が平成25年4月に新規採用された正職員の基本給及び賞与の合計額と比較して55%程度の水準にとどまることをしんしゃくしても、教室事務員である正職員と第1審原告との間に賞与に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価することができるものとはいえない。

 

ウ 以上によれば、本件大学の教室事務員である正職員に対して賞与を支給する一方で、アルバイト職員である第1審原告に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。

 

 

(2)私傷病による欠勤中の賃金について

 

第1審被告が、正職員休職規程において、私傷病により労務を提供することができない状態にある正職員に対し給料(6か月間)及び休職給(休職期間中において標準給与の2割)を支給することとしたのは、正職員が長期にわたり継続して就労し又は将来にわたって継続して就労することが期待されることに照らし、正職員の生活保障を図るとともに、その雇用を維持し確保するという目的によるものと解される。このような第1審被告における私傷病による欠勤中の賃金の性質及びこれを支給する目的に照らすと、同賃金は、このような職員の雇用を維持し確保することを前提とした制度であるといえる。

そして、第1審原告により比較の対象とされた教室事務員である正職員とアルバイト職員である第1審原告の職務の内容等をみると、前記(1)のとおり、正職員が配置されていた教室では病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務等が存在し、正職員は正職員就業規則上人事異動を命ぜられる可能性があるなど、教室事務員である正職員とアルバイト職員との間には職務の内容及び変更の範囲に一定の相違があったことは否定できない。さらに、教室事務員である正職員が、極めて少数にとどまり、他の大多数の正職員と職務の内容及び変更の範囲を異にするに至っていたことについては、教室事務員の業務の内容や人員配置の見直し等に起因する事情が存在したほか、職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたという事情が存在するものである。

そうすると、このような職務の内容等に係る事情に加えて、アルバイト職員は、契約期間を1年以内とし、更新される場合はあるものの、長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとはいい難いことにも照らせば、教室事務員であるアルバイト職員は、上記のように雇用を維持し確保することを前提とする制度の趣旨が直ちに妥当するものとはいえない。

また、第1審原告は、勤務開始後2年余りで欠勤扱いとなり、欠勤期間を含む在籍期間も3年余りにとどまり、その勤続期間が相当の長期間に及んでいたとはいい難く、第1審原告の有期労働契約が当然に更新され契約期間が継続する状況にあったことをうかがわせる事情も見当たらない。したがって、教室事務員である正職員と第1審原告との間に私傷病による欠勤中の賃金に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものとはいえない。

以上によれば、本件大学の教室事務員である正職員に対して私傷病による欠勤中の賃金を支給する一方で、アルバイト職員である第1審原告に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。

 

【令和2年10月15日】 

 

 

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