令和6年度版】 

 

社労士試験科目の全体構造

社労士試験の科目は、労働基準法以下合計10科目もありますが、ここでは、その全体構造について、図をベースに簡潔に見ておきます。

 

当サイトでは、社労士試験の対象科目について、社会保険法(社会保険科目)労働法(労働科目)という視点で整理しておきます(各科目の全体像については、各科目の序論・総論において掲載しています)。

ただし、ここは、直接的には、試験で出題対象となるものではなく、かつ、各科目をすべて学習し終えてからでないと理解が難しい個所です。

従って、初学者の方は、ざっと眺める程度で先にお進み下さい(受験経験者の方は、熟読して、頭の整理を行って下さい)。

 

 

 

〔1〕 社会保険

まず、次の【図1】は、社会保険(広義)の全体構造図です。

社会保険とは、社会保障制度(後述)の1分野であり、加入者が保険料を納付して一定の保険事故(例えば、負傷、疾病、障害、死亡などです)が生じた場合に公的責任に基づき給付を受けられるものであり、このような保険の方式によりリスクを分散しリスクに対応する公的制度をいいます。

 

社会保険は、労働保険と狭義の社会保険に大別できます。

次の図をご覧下さい(なお、図が小さい場合は、図をクリックして頂きますと、拡大します)。

 

【図1】

〈1〉労働保険

社会保険(広義)のうち「労働保険」とは、「労災保険」と「雇用保険」のことです。

労災保険は、労働者災害補償保険法(以下、略して「労災保険法」といいます)に基づく労働保険の制度であり、基本的には、業務災害や通勤災害を受けた労働者の保護等を目的としたものです。

雇用保険は、雇用保険法に基づく労働保険の制度であり、いわゆる失業保険を中心としたものです。

なお、これらの労働保険(労災保険及び雇用保険)に関する適用、保険料の徴収等の事務処理の合理化・効率化を図ることを目的としたものが「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」(以下、「徴収法」といいます)です。

 

以上、労災保険法、雇用保険法及び徴収法は、社労士試験の科目において、労働保険関係の3科目ということになります(なお、前述の通り、各法・各制度のより詳しい全体像は、それぞれの科目の序論において詳述します。また、社会保障制度及び社会保険制度についての詳細は、「白書対策講座」の「社会保障総論」において学習します(こちら以下)。ここでは、ごく大雑把なイメージの説明に留めます)。 

 

 

〈2〉狭義の社会保険

他方、狭義の社会保険は、「医療保険」(厳密には、公的医療保険です)、「年金保険」(公的年金保険)及び「介護保険」に大別できます。

 

1 医療保険

 

公的医療保険は、大別しますと、被用者医療保険(即ち、事業所(事業主)に使用される労働者を対象とする公的医療保険制度)と被用者医療保険以外の医療保険(当サイトでは、「非被用者医療保険」と表現することがあります)からなります。

前者の被用者医療保険の代表が、「健康保険」であり(健康保険法に基づくものです)、一般の被用者(民間の事業所に使用される者)及びその被扶養者を対象とするものです。

後者の非被用者医療保険は、「国民健康保険」であり(国民健康保険法に基づくものです)、被用者医療保険に加入していない者(自営業者、農業者、無職者等)を対象とするものです。

 

なお、公的医療保険として、さらに、75歳以上の者(原則)を対象とする「後期高齢者医療」があります。

後期高齢者医療は、「高齢者の医療の確保に関する法律」(以下、「高齢者医療確保法」といいます)に基づく制度であり、国民健康保険や健康保険等の加入者は、原則として、75歳に達しますと、それらの制度の加入者の資格を喪失し、後期高齢者医療制度の加入者となります。

これらの公的医療保険制度のイメージは、次の図の通りです(細部については、健康保険法で詳述します)。 

 

なお、前掲の【図1】(こちら)及び上記の「公的医療保険制度」の図において、「地域保険」と「職域保険」という表現を使用しており、これについて若干説明致します。

 

地域保険と職域保険は、公的保険において、被保険者が地域を単位として構成されているのか、それとも職域(事業所)を単位として構成されているのかの区別です(ただし、厳密には、その定義が一義的に明確化されているわけではありません)。

例えば、健康保険の場合は、原則として、事業所に使用される者が被保険者となりますので、職域保険ということになります。
対して、国民健康保険については、保険者が「都道府県及び当該都道府県内の市町村」(以下、「都道府県等」といいます)の場合と「国民健康保険組合」の場合があり、このいずれかによって違いがあります。
即ち、都道府県等が行う(保険者となる)国民健康保険においては、原則として、都道府県の区域内に住所を有する者が被保険者となりますので、地域保険といえます。
他方、国民健康保険組合が行う国民健康保険においては、国民健康保険組合は、同種の事業又は業務に従事する者で当該組合の地区内に住所を有する者を組合員とし、組合員及び組合員の世帯に属する者を被保険者としますから、職域保険としての性格も有しています。
このように、「被用者保険 = 職域保険」・「非被用者保険 = 地域保険」であると常に対応しているわけではないことには注意ですが、大まかには、「被用者保険 ≒ 職域保険」・「非被用者保険 ≒ 地域保険」という対応関係はあります

2 年金保険

 

一方、公的年金保険の場合は、大別しますと、「国民年金」(国民年金法に基づきます)と「厚生年金保険」(厚生年金保険法に基づきます)からなります。

 

国民年金は、全国民に共通する基本的な公的年金制度です。

原則として、20歳以上60歳未満の国民のすべてが加入し(=被保険者)、老齢、障害又は死亡(=保険事故)についての基礎的な給付(=給付)を行うものです。

 

厚生年金保険は、被用者年金保険(事業所に使用される労働者を対象とする公的年金保険)です。

厚生年金保険は、被用者(民間の事業所に使用される者又は公務員等)を対象として(=被保険者)、老齢、障害又は死亡(=保険事故)について、保険給付(=給付)を行う公的年金制度です。

 

ただし、厚生年金保険の被保険者についても、原則として、国民年金の被保険者となり、国民年金の給付に上乗せして、報酬比例部分の給付が支給されます。

 

報酬比例とは、保険給付の支給額や保険料の額が、当該加入者の報酬(及び賞与)の額に応じて(比例して)決定されるという仕組みです。

 

つまり、国民年金は全国民共通の基礎年金として土台部分(1階部分)にあたり、厚生年金保険は、国民年金の上乗せ給付として2階部分にあたるという制度設計がなされています(2階建て年金制度)。

 

 

※ 被用者年金の一元化:

 

なお、以前は、被用者年金制度として、一般の被用者を対象とする厚生年金保険の制度と公務員及び私学教職員(当サイトでは、「公務員等」ということがあります)を対象とする共済年金の制度に分かれていました。

しかし、平成24年に「被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律」(【平成24.8.22法律第63号】。以下、「被用者年金一元化法」といいます)が制定されました。主要な部分は、平成27年10月1日から施行されています。

 

これにより、厚生年金保険制度に公務員等も加入することとして、共済年金制度が厚生年金保険制度に統合されることになりました。

被用者年金一元化の制度の下では、国民年金は全国民共通の基礎年金として土台部分(1階部分)にあたり、厚生年金保険が、「被用者」に共通する上乗せ給付(2階部分)にあたることになります。

 

この改正の趣旨は、主として、民間の被用者や公務員等を通じ、広く被用者について公平な公的年金制度を確保すること(同一の報酬であれば同一の保険料を負担し、同一の公的年金給付を受けるという公平性を確保すること)にあります。

このような観点から、厚生年金保険制度に公務員及び私学教職員も加入し、国民年金(基礎年金)の上乗せ部分である2階部分について厚生年金保険制度に統一し、従来の共済年金制度と厚生年金保険制度との差異については、原則として、厚生年金保険制度にそろえる方向で解消されました。

 

以上の公的年金制度の大まかなイメージは、次の図のようになります(詳細は、国民年金法で学習します)。 

 

3 介護保険

 

狭義の社会保険として、以上の医療保険、年金保険のほか、介護保険もあります。

介護保険は、介護保険法に基づくものであり、高齢者等の介護を対象とした社会保険制度です。

40歳以上の者を被保険者とし(被保険者)、その要介護状態又は要支援状態に関し(保険事故)、必要な保険給付を行うこと(保険給付)を主たる目的としています。

 

 

以上が狭義の社会保険であり、社労士試験においては、健康保険法、国民年金法及び厚生年金保険法が独立の試験科目となっており、国民健康保険法、後期高齢者医療に係る高齢者医療確保法及び介護保険法等については社会一般の出題対象となります。

 

次に、労働法という視点から、社労士試験の出題科目を整理してみます。

 

 

 

 

〔2〕 労働法

労働法とは、大まかには、労働者と使用者との間の労働をめぐる法律関係を取り扱う法といえます(「労働法」という法律があるわけではありません。労働基準法など労働にかかわる個別の法律の全体を、講学上、労働法と総称しています)。

 

大別しますと、次の【図2】のように、個別的労働関係法集団的労働関係法(集団的労使関係法・団体的労使関係法)及び労働市場法雇用政策法)という3類型に整理することができます(ただし、この整理・分類を覚える必要はなく、あくまで整理の視点ですので(そして、この分類ではうまく収まらない法律もあります)、ざっと流し読みして頂く程度で結構です)。

 

【図2】

※ 労働法のより詳しい体系図については、こちらで掲載していますが、さしあたりはスルーで結構です。

 

以下、労働法の体系について、若干、説明します。 

 

 

 

〈1〉個別的労働関係法

個別的労働関係法とは、個々の労働者と使用者との間の労働契約の締結、展開及び終了をめぐる法律関係を対象とする法です。

つまり、個別の労使間の労働契約の「発生 ➡ 変更 ➡ 消滅」という時間の流れにおいて生じる法律関係の全般を取り扱うものです。

この個別的労働関係法は、労働保護法及び労働契約法広義)に大別することができます。

 

 

1 労働保護法

 

労働保護法は、労働基準法を代表とする個別的労働関係法であり、主として労働者の保護の観点から個別的労働関係を規律する法です。

労働基準法(以下、「労基法」ということがあります)のほか、労働安全衛生法(以下、「安衛法」ということがあります)、最低賃金法など、労働基準関係の一群の法律があります。

 

労働保護法においては、一般に、罰則や行政上の監督制度等が定められており、取締法規としての性格(公法的側面)が強い点が、後述の労働契約法(広義)との違いとなります。

なお、男女雇用機会均等法(以下、「均等法」ということがあります)や育児介護休業法(以下、「育休法」ということがあります)なども、個別的な労働関係を規律するものとして、個別的労働関係法の中で整理しておきます。

 

社労士試験の学習においては、通常、最初に労働基準法から学びますように、労働基準法は、個別的労働関係法の出発点にある法律といえます。

この労働基準法は、最低基準の労働条件を定めることなどにより、労働者を保護することを目的とした法律です。

この労基法の設定した労働条件の最低基準を前提として、安衛法、最低賃金法、賃金支払確保法、労働時間等設定改善法などの関連法(労働基準関係法令)が制定されています。

 

なお、詳細は、労災保険法で学習しますが、元々は、労災保険も労基法が規定する使用者の災害補償責任を実効化するために保険制度化されたものであり、労基法と深い関係があります。

即ち、労基法の災害補償制度(労基法第75条~第88条(労基法のパスワード))により、業務災害について、使用者には無過失の災害補償責任が生じますが、これにより使用者は重い責任を負うこと、また、実際は、使用者の無資力等により被災労働者の迅速で充分な救済が図られないおそれもあること等を考慮して、使用者が保険料を拠出し、政府が管掌(運営)する災害保険制度とすることによって、労基法の災害補償責任を実効化させようとしたものが労災保険制度だったのです。

そして、当初、労災保険制度は、このように労基法の災害補償制度に対応した災害保険制度でしたが、その後、労災保険制度の内容の充実が図られ、現在は、労災保険制度は労基法の災害補償制度を大きく上回る内容を持つ独自性を有する保険制度となっています。

 

 

2 労働契約法

 

他方、個別的労働関係法には、労働契約法(広義)の分野も存在します。

具体的には、労働契約法(狭義)や労働契約承継法などであり、これらは労使間の個別的労働契約関係を規律する契約法という側面が強いものです(罰則や行政上の監督制度等といった取締法規としての性格が弱いです)。

 

以上の個別的労働関係法のうち、社労士試験では、労働基準法及び労働安全衛生法が独立の出題対象となっており、その他の法律は基本的には「労働一般」として出題対象となります。

 

 

 

〈2〉集団的労働関係法

次に、集団的労働関係法(集団的労使関係法、団体的労働関係法)とは、労働組合等と使用者等との法律関係を対象とする法です。 

 

労働組合法労働関係調整法が代表的な法律です。これらは、「労働一般」で学習します。

 

 

 

〈3〉労働市場法(雇用政策法)

さらに、労働市場における労働力の需給関係等を対象とする法として、労働市場法とか雇用政策法などと総称される一群の法律があります。

例えば、労働施策総合推進法(旧雇用対策法)、職業安定法労働者派遣法などです。これらも、「労働一般」で学習します。

 

 

以上、労働法の概観でした。

 

 

 

〔3〕社会保障

なお、社会保険は、社会保障の一環として位置づけられます。

社会保障とは、基本的に、様々な生活上の困難に陥った国民に対して、公的責任によりその生活の安定を図る制度といえます。

 

この社会保障は、一般には、社会保険、公的扶助(生活保護等)、社会福祉及び公衆衛生(感染症予防・医療法(旧結核予防法です)等)の4部門から構成されるものと解されます(より詳しくは、「白書対策講座」の「社会保障総論」(こちら以下)で見ます)。

 

憲法第25条は国民の生存権を定めていますが、社会保障はこの国民の生存権の保障を実現する制度です。

即ち、憲法第25条は、社会的・経済的弱者の救済といった社会福祉国家理念の見地から、生存権を保障することにより、人間らしい生活を可能にさせ、もって個人の尊厳(憲法第13条)を実質的に確保しようとした趣旨です。

かかる個人の尊厳・生存権の保障を図るために、国は、全ての生活部面について、社会保障等の向上及び増進に努めるべき旨が定められています。

 

 

 【憲法】

憲法第25条

 1.すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

 

2.国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

 

 

憲法第13条  

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

 

 

※ 上記の憲法第13条は、憲法の条文の中でもとりわけ重要な規定です。

即ち、この憲法第13条は、個人の人格、人間性を尊重しようとする個人の尊厳(個人の尊重)の実現を目的とした規定です。

従って、この憲法第13条は、自由権、社会権、平等権、参政権といったすべての人権の基盤となる包括的な規定となっています。

 

そこで、憲法が直接規定していない一定の権利・利益についても(例えば、人格権の一環としてのプライバシー権等)、この憲法第13条を根拠として、憲法上の人権と認められることがあります。

 

※ なお、憲法第27条(勤労権及び勤労の義務)については、雇用保険法の序論であるこちら以下をご覧下さい。 

 

 

以上で、社労士試験科目の全体構造を終わります。より詳しい内容は、社会一般及び労働一般を含む各法において学習していきますので、とりあえず大まかなイメージをつかんで頂ければ結構です。

 

次ページからは、さっそく、労働基準法の学習に入ります。まずは、目次を掲載しています。

ページごとの細かい目次は、サイト右側のコラムの個所にも掲載されています。