2021年度版

 

【日本郵便事件 = 最判令和2.10.15】

【日本郵便事件=最判令和2.10.15】は、労働契約法第20条の待遇の相違の不合理性に関し、同一の被告(日本郵便株式会社)に対する異なる原告の3つの事件についてそれぞれ最高裁判決がなされたものです。

この3つの判決について、原審の高等裁判所により、それぞれ「東京」、「大阪」及び「福岡」と付して区別しておきます。

例えば、【日本郵便(東京)事件=最判令和2.10.15】は、原審が東京高等裁判所であった事件についての最高裁判決です。

 

 

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・【日本郵便(福岡)事件】= こちら。判決文はこちら

 

 

 

概要

 

今回の3つの最高裁判決では、有期契約労働者と正社員との間の次の待遇(手当等)の相違に関する不合理性が問題となりました。

 

①年末年始勤務手当

②祝日給

③扶養手当

④病気休暇(私傷病休暇)

⑤夏季冬季休暇

 

最高裁の東京事件判決では①と④が、大阪事件判決では①、②及び③が、福岡事件判決では⑤が問題となりました。

以上の5つすべてについて、有期契約労働者と正社員との待遇の相違が不合理であると判断されました。

 

今回の東京、大阪及び福岡事件の3判決は、基本的な考え方が共通しています。

まず、2つの判決においては、労働契約法第20条の不合理性の判断方法について、次のように、個々の労働条件の趣旨を個別に考慮して判断すべき旨が判示されています(福岡事件判決で述べられており、東京事件判決でも引用されています)。

 

「有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である(最高裁平成29年(受)第442号同30年6月1日第二小法廷判決・民集72巻2号202頁〔=長澤運輸事件〕)ところ、賃金以外の労働条件の相違についても、同様に、個々の労働条件の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。」

 

そのうえで、問題となった各待遇(手当等)の趣旨具体的に特定し、職務内容等を考慮のうえ、当該待遇の趣旨からは、有期契約労働者と正社員との間に、職務内容や変更範囲その他の事情につき相応の相違があっても、(相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば)当該待遇の相違を設けることは不合理と認められるという基本的な判断方法がとられています。

 

前ページで見ました退職金に関するメトロコマース事件判決や賞与に関する大阪医科大学事件判決(以下、「メトロコマース事件等」といいます)との大きな違いは、待遇の趣旨の捉え方です。

「メトロコマース事件等」の場合は、待遇の性質を把握しつつも、「正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的」という正社員としての人材確保・定着実現の必要性を重視した支給の目的の捉え方がなされています。

このように支給等の目的として、正社員としての人材確保・定着実現等の必要性を重視しますと、有期契約労働者と正社員との間に一定の職務内容等の違いがあれば、支給等の有無の相違は不合理でないと判断されやすいです。

対して、日本郵便事件判決において争点となった手当等の場合は、退職金や賞与などに比べて、支給等の目的をより具体的に限定・明確化して待遇の相違との関連性を判断することがしやすいものであり、かつそのようにシビアに関連性を判断しても問題が少ないようなものであるといえます。

そこで、ここでは、正社員としての人材確保・定着実現等の必要性といった支給等の目的の認定はされていません。

 

結局、前ページ(こちら以下)で触れましたように、基本的な待遇・労働条件に相当する部分(例:基本給賞与退職金等)については、その趣旨・内容をどのように設計・構成等するかは企業経営の根幹にかかわってくる側面があり、企業の自治・裁量を尊重をする必要性が強いという事情が影響しているものと思われます。

 

以下で判旨を掲載しますが、「日本郵便事件判決」で問題となりました各種手当等については、最高裁の判断は妥当なものといえるでしょう。

しかし、「メトロコマース事件等」で問題となりました退職金・賞与に関する最高裁の判断については、企業の制度設計等に関する自治・裁量を尊重しつつも、当該企業の実態に即したその待遇の客観的性質を踏まえ、職務内容等の違いの程度等も斟酌し、退職金・賞与を「全く不支給とすること」が不合理といえないのかどうか(つまり、待遇の相違が著しく大きいのではないか)、より厳密に吟味する必要があったように思われます。

企業の裁量が尊重されるべきとしても、公正な待遇の確保を目的とする強行規定から導かれる防波堤は破られてはいけないはずだからです(そして、「公正」という防波堤は、働き方改革等の流れの中での新たな働き方や「生きやすい」社会の形成のために、一層重要なものとなっていると考えられます)。

 

以下では、3つの日本郵便事件判決のうち、最も多くの待遇を取り上げている大阪事件判決をベースに取り上げます。

 

 

 

【日本郵便(大阪)事件 = 最判令和2.10.15】

事案

1 日本郵便株式会社(第1審被告)と期間の定めのある労働契約(有期労働契約)を締結していた契約社員(第1審原告ら)が、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結している労働者(以下、「正社員」といいます)と第1審原告らとの間で、年末年始勤務手当祝日給扶養手当等に相違があったことが労働契約法20条に違反するものであったと主張して、第1審被告に対し、不法行為に基づき、上記相違に係る損害賠償を求めるなどの請求をした事案です。

 

原審(【大阪高判平成31.1.25】)は、更新された有期労働契約の契約期間を通算した期間(「通算雇用期間」といいます)が5年を超えていた時期における年末年始勤務手当及び年始期間の勤務に対する祝日給に係る損害賠償請求の一部を認容しました。

つまり、通算雇用期間が5年を超える有期契約労働者についてのみ年末年始勤務手当及び祝日給の不支給を不合理と判断しました。

 

また、原審は、扶養手当について、長期雇用を前提として基本給を補完する生活手当としての性質及び趣旨を有するものであるところ、本件契約社員が原則として短期雇用を前提とすること等からすると、その不支給は不合理でない旨を判断しました。

 

 

2 やや詳しい事実関係は、次の通りです。太字部分を追って下さい。

 

第1審原告には、郵便外務事務(配達等の事務)に従事し、又は従事していた時給制契約社員又は月給制契約社員がいる。

 

 

(1)基本的な労働条件

 

日本郵便株式会社に雇用される従業員には、無期労働契約を締結する正社員と有期労働契約を締結する期間雇用社員が存在し、それぞれに適用される就業規則及び給与規程は異なる。

 

正社員に適用される就業規則において、正社員の勤務時間は、1日について原則8時間、4週間について1週平均40時間とされている。

平成26年3月31日以前の人事制度(「旧人事制度」という)において、正社員は、企画職群、一般職群(「旧一般職」という)及び技能職群に区分され、このうち郵便局における郵便の業務を担当していたのは旧一般職であった。

そして、平成26年4月1日以後の人事制度(「新人事制度」という)において、正社員は、管理職、総合職、地域基幹職及び一般職(「新一般職」という)の各コースに区分され、このうち郵便局における郵便の業務を担当するのは地域基幹職及び新一般職である。

 

期間雇用社員に適用される就業規則において、期間雇用社員は、スペシャリスト契約社員、エキスパート契約社員、月給制契約社員、時給制契約社員及びアルバイトに区分されており、それぞれ契約期間の長さや賃金の支払方法が異なる。

このうち時給制契約社員は、郵便局等での一般的業務に従事し、時給制で給与が支給されるものとして採用された者であって、契約期間は6か月以内で、契約を更新することができ、正規の勤務時間は、1日について8時間以内、4週間について1週平均40時間以内とされている。

月給制契約社員は、高い知識・能力を発揮して郵便局等での一般的業務に従事し、月給制で給与が支給されるものとして採用された者であって、契約期間は1年以内で、契約を更新することができ、正規の勤務時間は、1日について6時間以上8時間以内、4週間について1週平均40時間、35時間又は30時間とされている。

 

 

(2)正社員の諸手当

 

正社員に適用され、就業規則の性質を有する給与規程において、郵便の業務を担当する正社員の給与は、基本給と諸手当で構成されている。諸手当には、扶養手当、住居手当、祝日給、特殊勤務手当、夏期手当、年末手当等がある。

このうち扶養手当は、所定の扶養親族のある者に支給されるものであり、その額は、扶養親族の種類等に応じて、扶養親族1人につき月額1500円~1万5800円である。

また、祝日給は、正社員が祝日において割り振られた正規の勤務時間中に勤務することを命ぜられて勤務したとき(祝日代休が指定された場合を除く)及び祝日を除く1月1日から同月3日までの期間(「年始期間」という)に勤務したときに支給されるものであり、その額は、月の初日から末日までの間における祝日給の支給対象時間(勤務時間)に次の算式により求められる額を乗じて得た額である。

なお、正社員に適用される就業規則において、郵便の業務を担当する正社員には、年始期間について特別休暇が与えられるものとされている。

 

((基本給の月額+基本給及び扶養手当の月額に係る調整手当の月額+隔遠地手当の月額)×12/年間所定勤務時間数)×100分の135

 

さらに、特殊勤務手当は、著しく危険、不快、不健康又は困難な勤務その他の著しく特殊な勤務で、給与上特別の考慮を必要とし、かつ、その特殊性を基本給で考慮することが適当でないと認められるものに従事する正社員に、その勤務の特殊性に応じて支給するものとされている。

特殊勤務手当の一つである年末年始勤務手当は、12月29日から翌年1月3日までの間において実際に勤務したときに支給されるものであり、その額は、12月29日から同月31日までは1日につき4000円、1月1日から同月3日までは1日につき5000円であるが、実際に勤務した時間が4時間以下の場合は、それぞれその半額である。

このほか、正社員に適用される就業規則では、郵便の業務を担当する正社員に夏期冬期休暇が与えられることとされている。夏期休暇は6月1日から9月30日まで、冬期休暇は10月1日から翌年3月31日までの各期間において、それぞれ3日まで与えられる有給休暇である。

 

 

(3)契約社員の諸手当

 

期間雇用社員に適用され、就業規則の性質を有する給与規程において、郵便の業務を担当する時給制契約社員の給与は、基本賃金と諸手当で構成されている。諸手当には、祝日割増賃金、特殊勤務手当、臨時手当等がある。

このうち祝日割増賃金は、時給制契約社員が祝日に勤務することを命ぜられて勤務したときに支給されるものであり、その額は、月の初日から末日までの期間における祝日割増賃金の支給対象時間(勤務時間)に、基本賃金額(時給)の100分の35を乗じて得た額である。

 

期間雇用社員に適用され、就業規則の性質を有する給与規程において、郵便の業務を担当する月給制契約社員の給与は、基本賃金と諸手当で構成されている。

諸手当には、祝日割増賃金、特殊勤務手当、臨時手当等がある。

このうち祝日割増賃金は、月給制契約社員が祝日において割り振られた正規の勤務時間中に勤務することを命ぜられて勤務したときに支給されるものであり、その額は、月の初日から末日までの間における祝日割増賃金の支給対象時間(勤務時間)に次の算式により求められる額を乗じて得た額である。

 

(基本賃金額(月給)×12/年間所定勤務時間数)×100分の135

 

郵便の業務を担当する時給制契約社員及び月給制契約社員(併せて「本件契約社員」という)に対して、扶養手当及び年末年始勤務手当支給されず祝日割増賃金は、正社員に対する祝日給とは異なり年始期間に勤務したときには支給されない。なお、本件契約社員には年始期間について特別休暇与えられていない

また、本件契約社員に対して、夏期冬期休暇与えられていない

 

 

(4)職務内容等

 

旧一般職及び地域基幹職は、郵便外務事務、郵便内務事務等に幅広く従事すること、昇任や昇格により役割や職責が大きく変動することが想定されている。

他方、新一般職は、郵便外務事務、郵便内務事務等の標準的な業務に従事することが予定されており、昇任や昇格は予定されていない。

また、正社員の人事評価においては、業務の実績そのものに加え、部下の育成指導状況、組織全体に対する貢献等の項目によって業績が評価されるほか、自己研さん、状況把握、論理的思考、チャレンジ志向等の項目によって正社員に求められる役割を発揮した行動が評価される。

 

これに対し、本件契約社員は、郵便外務事務又は郵便内務事務のうち、特定の業務のみに従事し、上記各事務について幅広く従事することは想定されておらず、昇任や昇格は予定されていない

また、時給制契約社員の人事評価においては、上司の指示や職場内のルールの遵守等の基本的事項に関する評価が行われるほか、担当する職務の広さとその習熟度についての評価が行われる。

月給制契約社員の人事評価においては、業務を適切に遂行していたかなどの観点によって業績が評価されるほか、上司の指示の理解、上司への伝達等の基本的事項や、他の期間雇用社員への助言等の観点により、月給制契約社員に求められる役割を発揮した行動が評価される。

他方、本件契約社員の人事評価においては、正社員とは異なり、組織全体に対する貢献によって業績が評価されること等はない。

 

旧一般職を含む正社員には、配転が予定されている。ただし、新一般職は、転居を伴わない範囲において人事異動が命ぜられる可能性があるにとどまる。

これに対し、本件契約社員は、職場及び職務内容を限定して採用されており、正社員のような人事異動は行われず、郵便局を移る場合には、個別の同意に基づき、従前の郵便局における雇用契約を終了させた上で、新たに別の郵便局における勤務に関して雇用契約を締結し直している。

 

本件契約社員に対しては、正社員に登用される制度が設けられており、人事評価や勤続年数等に関する応募要件を満たす応募者について、適性試験や面接等により選考される。

 

 

判旨

〔引用開始。〕

 

(1)年末年始勤務手当について

 

第1審被告における年末年始勤務手当は、郵便の業務を担当する正社員の給与を構成する特殊勤務手当の一つであり、12月29日から翌年1月3日までの間において実際に勤務したときに支給されるものであることからすると、同業務についての最繁忙期であり、多くの労働者が休日として過ごしている上記の期間において、同業務に従事したことに対し、その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものであるといえる。

また、年末年始勤務手当は、正社員が従事した業務の内容やその難度等に関わらず所定の期間において実際に勤務したこと自体を支給要件とするものであり、その支給金額も、実際に勤務した時期と時間に応じて一律である。

上記のような年末年始勤務手当の性質支給要件及び支給金額に照らせば、これを支給することとした趣旨は、本件契約社員にも妥当するものである。

そうすると、前記第1の2(5)~(7)〔=職務内容等の事実関係〕のとおり、郵便の業務を担当する正社員と本件契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、両者の間に年末年始勤務手当に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものといえる。

したがって、郵便の業務を担当する正社員に対して年末年始勤務手当を支給する一方で、本件契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

 

(2)年始期間の勤務に対する祝日給について

 

第1審被告における祝日給は、祝日のほか、年始期間の勤務に対しても支給されるものである。年始期間については、郵便の業務を担当する正社員に対して特別休暇が与えられており、これは、多くの労働者にとって年始期間が休日とされているという慣行に沿った休暇を設けるという目的によるものであると解される。

これに対し、本件契約社員に対しては、年始期間についての特別休暇は与えられず、年始期間の勤務に対しても、正社員に支給される祝日給に対応する祝日割増賃金は支給されない

そうすると、年始期間の勤務に対する祝日給は、特別休暇が与えられることとされているにもかかわらず最繁忙期であるために年始期間に勤務したことについて、その代償として、通常の勤務に対する賃金に所定の割増しをしたものを支給することとされたものと解され、郵便の業務を担当する正社員と本件契約社員との間の祝日給及びこれに対応する祝日割増賃金に係る上記の労働条件の相違は、上記特別休暇に係る労働条件の相違を反映したものと考えられる。

しかしながら、本件契約社員は、契約期間が6か月以内又は1年以内とされており、第1審原告らのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者も存するなど、繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれている

そうすると、最繁忙期における労働力の確保の観点から、本件契約社員に対して上記特別休暇を付与しないこと自体には理由があるということはできるものの、年始期間における勤務の代償として祝日給を支給する趣旨は、本件契約社員にも妥当するというべきである。

そうすると、前記第1の2(5)~(7)のとおり、郵便の業務を担当する正社員と本件契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、上記祝日給を正社員に支給する一方で本件契約社員にはこれに対応する祝日割増賃金を支給しないという労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものといえる。

したがって、郵便の業務を担当する正社員に対して年始期間の勤務に対する祝日給を支給する一方で、本件契約社員に対してこれに対応する祝日割増賃金を支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

 

〔引用終了。中略。〕

 

 

(3)扶養手当について

 

〔引用開始。)

 

第1審被告において、郵便の業務を担当する正社員に対して扶養手当が支給されているのは、上記正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。このように、継続的な勤務が見込まれる労働者に扶養手当を支給するものとすることは、使用者の経営判断として尊重し得るものと解される。

もっとも、上記目的に照らせば、本件契約社員についても、扶養親族があり、かつ、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、扶養手当を支給することとした趣旨は妥当するというべきである。

そして、第1審被告においては、本件契約社員は、契約期間が6か月以内又は1年以内とされており、第1審原告らのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。

そうすると、前記第1の2(5)~(7)のとおり、上記正社員と本件契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、両者の間に扶養手当に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものというべきである。

したがって、郵便の業務を担当する正社員に対して扶養手当を支給する一方で、本件契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

 

〔引用終了。〕

 

 

次に、東京事件判決です。事案は簡略化しています。

 

 

 

【日本郵便(東京)事件 = 最判令和2.10.15】

事案

日本郵便株式会社(第1審被告)と有期労働契約を締結して勤務している時給制契約社員である第1審原告らが、無期労働契約を締結している労働者(「正社員」)と第1審原告らとの間で、年末年始勤務手当、病気休暇、夏期休暇及び冬期休暇(「夏期冬期休暇」)等に相違があったことが労働契約法20条に違反するものであったと主張して、不法行為に基づき上記相違に係る損害賠償を求めるなどの請求をした事案。

 

原審(【東京高判平成30.12.13】)は、郵便の業務を担当する正社員に対して年末年始勤務手当を支給する一方で、同業務を担当する時給制契約社員である第1審原告らに対してこれを支給しないという労働条件の相違及び私傷病による病気休暇として、上記正社員に対しては有給休暇を与えるものとする一方で、上記時給制契約社員である第1審原告X2に対しては無給の休暇のみを与えるものとするという労働条件の相違について、いずれも労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると判断した。

 

 

判旨

〔引用開始。)

 

2(1)年末年始勤務手当について

 

第1審被告における年末年始勤務手当は、郵便の業務を担当する正社員の給与を構成する特殊勤務手当の一つであり、12月29日から翌年1月3日までの間において実際に勤務したときに支給されるものであることからすると、同業務についての最繁忙期であり、多くの労働者が休日として過ごしている上記の期間において、同業務に従事したことに対し、その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものであるといえる。また、年末年始勤務手当は、正社員が従事した業務の内容やその難度等に関わらず、所定の期間において実際に勤務したこと自体を支給要件とするものであり、その支給金額も、実際に勤務した時期と時間に応じて一律である。

上記のような年末年始勤務手当の性質支給要件及び支給金額に照らせば、これを支給することとした趣旨は、郵便の業務を担当する時給制契約社員にも妥当するものである。

そうすると、前記第1の2(5)~(7)〔=職務内容等の事実関係〕のとおり、郵便の業務を担当する正社員と上記時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、両者の間に年末年始勤務手当に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものといえる。

したがって、郵便の業務を担当する正社員に対して年末年始勤務手当を支給する一方で、同業務を担当する時給制契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

 

(2)病気休暇について

 

ア 有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当であるところ、賃金以外の労働条件の相違についても、同様に、個々の労働条件が定められた趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である(最高裁平成30年(受)第1519号令和2年10月15日第一小法廷判決・公刊物未登載〔=福岡事件判決〕)。

 

イ 第1審被告において、私傷病により勤務することができなくなった郵便の業務を担当する正社員に対して有給の病気休暇が与えられているのは、上記正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。このように、継続的な勤務が見込まれる労働者に私傷病による有給の病気休暇を与えるものとすることは、使用者の経営判断として尊重し得るものと解される。

もっとも、上記目的に照らせば、郵便の業務を担当する時給制契約社員についても相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、私傷病による有給の病気休暇を与えることとした趣旨は妥当するというべきである。

そして、第1審被告においては、上記時給制契約社員は、契約期間が6か月以内とされており、第1審原告らのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。

そうすると、前記第1の2(5)~(7)のとおり、上記正社員と上記時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても私傷病による病気休暇の日数につき相違を設けることはともかく、これを有給とするか無給とするかにつき労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものといえる。

したがって、私傷病による病気休暇として、郵便の業務を担当する正社員に対して有給休暇を与えるものとする一方で、同業務を担当する時給制契約社員に対して無給の休暇のみを与えるものとするという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

 

〔引用終了。)

 

 

最後に、夏期冬期休暇の福岡事件判決です。

 

 

 

【日本郵便(福岡)事件 = 最判令和2.10.15】

事案

上告人(日本郵便株式会社)と有期労働契約を締結して勤務した時給制契約社員である被上告人が、無期労働契約を締結している労働者(「正社員」)と被上告人との間で、夏期休暇及び冬期休暇(「夏期冬期休暇」という)等に相違があったことは労働契約法20条に違反するものであったと主張して、上告人に対し、不法行為に基づき、上記相違に係る損害賠償を求めるなどの請求をした事案。

 

原審(【福岡高判平成30.5.24】)は、郵便の業務を担当する正社員に対して夏期冬期休暇を与える一方で、同業務を担当する時給制契約社員に対してこれを与えないという労働条件の相違は労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると判断した。

 

 

判旨

〔引用開始。)

 

4(1)有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である(最高裁平成29年(受)第442号同30年6月1日第二小法廷判決・民集72巻2号202頁〔=長澤運輸事件〕)ところ、賃金以外の労働条件の相違についても、同様に、個々の労働条件の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。

 

上告人において、郵便の業務を担当する正社員に対して夏期冬期休暇が与えられているのは、年次有給休暇や病気休暇等とは別に、労働から離れる機会を与えることにより、心身の回復を図るという目的によるものであると解され、夏期冬期休暇の取得の可否取得し得る日数は上記正社員の勤続期間の長さに応じて定まるものとはされていない。そして、郵便の業務を担当する時給制契約社員は、契約期間が6か月以内とされるなど、繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれているのであって、夏期冬期休暇を与える趣旨は、上記時給制契約社員にも妥当するというべきである。

そうすると、前記2(2)のとおり、郵便の業務を担当する正社員と同業務を担当する時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、両者の間に夏期冬期休暇に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものといえる。

したがって、郵便の業務を担当する正社員に対して夏期冬期休暇を与える一方で、郵便の業務を担当する時給制契約社員に対して夏期冬期休暇を与えないという労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

 

〔引用終了。)

 

 

以上、【日本郵便事件 = 最判令和2.10.15】の3判決でした。

 

【令和2年10月16日】

 

 

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