改正・最新判例 2020年度(令和2年度)

ここでは、2020年度(令和2年度)の試験に関する改正(平成31年4月13日以降に施行された法令を対象とします)や最新判例の情報をお知らせ致します。

 

今年度の改正は、広範囲に影響が及ぶものが多く、なかなか厄介です。このページで概要を押さえてから、細部に入ってみて下さい。

 

 

※ 平成31年度以前の改正事項等についても、出題されていないような事項については注意が必要です。

近時の特に選択式では、直近の改正事項より数年前の改正事項の方が出題されることがあります。

 

※ 労働一般、社会一般及び安衛法については、次のページで掲載します。

なお、2020年度の試験の対象に係るすべての改正等を網羅しているものではありません。

 

 

〔1〕労働基準法

1 医師の研鑽に係る労働時間に関する通達の発出

医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方について、通達が発出されています(【令和元.7.1基発0701第9号】/【令和元.7.1基監発0701第1号】)。

こちら以下です。

 

 

2 第33条第1項の「災害その他避けることのできない事由」の判断に関する通達の改正

第33条第1項本文(労基法のパスワード)の「災害その他避けることのできない事由」による「臨時の必要がある場合」の時間外・休日労働について、「災害その他避けることのできない事由」の判断に関する通達が改正されました(【令和元.6.7基発0607第1号】)。

こちらの表とこちら以下の通達をご参照下さい。

 

 

3 医師、看護師等の宿日直許可基準に関する通達の発出 =【令和元.7.1基発0701第8号】

「医師、看護師等の宿日直許可基準」の細目について、通達(【令和元.7.1基発0701第8号】)が発出されました(従来の許可基準によりつつ、より具体化された個所があります)。

こちらの過去問の解説とこちら以下の通達をご参照下さい。

 

 

4 中小事業主に対する時間外労働等の上限規制の適用

中小事業主の事業に対する働き方改革関連法による改正後の第36条の規定(時間外労働等の上限規制)については、令和2年(旧平成32年)4月1日以後の期間のみを定めている36協定から適用されます。

本文は、こちら以下です。 

 

 

〔2〕労災保険法

1 自動変更対象額等の改正

自動変更対象額等の例年の改正が行われています。

 

・自動変更対象額 = 令和元年8月1日 ~ 令和2年7月31日までは、3,970円です(改定前は、3,950円)。本文は、こちら以下

 

・年齢階層別の最低・最高限度額 = こちらの表を参考(なお、スライド制の改正については、数字関係の把握は不要です)。

 

 

2 民法改正に伴う消滅時効に関する見直し

(1)民法の改正

 

令和2年4月1日から民法(債権法)が改正施行され、社労士試験の対象となる労働社会保険諸法令においても、民法改正により直接的・間接的に影響を受ける事項があります。

このうち、最も直接的に関係する問題が「消滅時効」です。

この「労災保険法」の個所において、消滅時効の改正に関する総論的な問題についてまとめておきます(時効には、取得時効もありますが、以下では、社労士試験で問題となる消滅時効を中心に説明します)。

 

 

(2)時効制度の趣旨

 

時効は、継続した事実状態を尊重することにより法律関係の安定を図る必要があること、また、時の経過による権利関係の立証の困難さを救済する必要もあること、他方で、権利行使を怠っていた権利者に帰責性も認められることを考慮して認められている制度です。

このうち、消滅時効とは、権利の不行使の状態が継続した場合に当該権利を消滅させるものです。

 

 

(3)時効の要件と社労士試験上の論点との関係

 

時効の要件として、(ⅰ)時効が完成すること、及び(ⅱ)時効の援用がなされることが必要です。

前者の(ⅰ)「時効の完成」については、(ア)事実状態が継続すること、及び(イ)時効障害(時効の完成猶予及び更新)がないことが要求されます(以上、民法第145条(労災保険法のパスワード。条文の少し上部に内容の説明あり)第147条第166条等)。

 

このうち、(ⅰ)「時効の完成」の(ア)「事実状態の継続」について、(a)消滅時効の期間や(b)起算点が問題となり、これらについて、民法が改正されています。

また、(イ)「時効障害」について、従来の時効の「中断」と「停止」の制度が、「更新」と「完成猶予」の制度に改められました。

 

(ⅱ)「時効の援用」(民法第145条)についても改正が行われていますが、社労士試験では、さしあたりはスルーできます。

 

 

(4)消滅時効の起算点

 

以上のうち、(b)「消滅時効の起算点」については、労災保険法のこちら以下で、改正民法の概要を説明しています。

 

改正前の民法では、「債権」の原則的消滅時効期間は、権利を行使することができる時から改正前民法第166条第1項客観的起算点といいます)、10年でした(改正前民法第167条第1項)。

 

しかし、民法改正により、債権の原則的な消滅時効期間として、①「権利を行使することができる時から10年」(民法第166条第1項第2号)といういわゆる客観的起算点からの10年の消滅時効期間のほかに、②「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」(民法第166条第1項第1号)という主観的起算点からの5年の消滅時効期間が設けられ(➀と②のいずれか早い時点で債権は時効消滅します)、また、短期消滅時効の特例廃止されました。

これは、民法上の債権の消滅時効期間を単純化(一元化。短期消滅時効の特例の廃止)及び短期化させつつ、短期化(債権者に不利になります)による債権者の権利保障を考慮して、上記②の債権者の認識を基準とした主観的起算点に係る消滅時効期間を新設したものです(①の客観的起算点は、改正前の起算点と同様です)。

 

対して、社労士試験の出題対象となる労働社会保険諸法令における消滅時効については、(それらの消滅時効期間が短期化されたわけではないこと(ただし、改正の検討中です)等から)従来通り、①客観的起算点を採用し、「権利を行使することができる時から」起算することとし、消滅時効に関する各規定中にその旨の文言を追加しています(例:労災保険法第42条のリンク先の下線部分)。

これらの労働社会保険諸法令における消滅時効の起算点については、実質的には、従来の結論と異なりません。

 

労災保険法を例にしますと、同法第43条が労災保険法等の期間の計算について、原則として、民法の期間計算に関する規定を準用することを定めているため、従来は、消滅時効の期間の起算点についても、民法の消滅時効の起算点の規定を準用して処理していました。

即ち、改正前の民法では、「権利を行使することができる時」(改正後の上記①の「客観的起算点」と同様です)を消滅時効の起算点としており(改正前民法第166条第1項)、よって、労災保険法においても同様に解していました。

このように、労働社会保険諸法令における消滅時効の起算点の改正については、実質的には、改正の前後で違いはないことになります。

 

 

(5)時効障害

 

(ⅰ)他方、時効障害については、民法改正により、従来の「中断」と「停止」の制度が「更新」と「完成猶予」の制度に改められました。

これについては、従来の「中断」の主要な効果が改正後の「更新」の効果と共通し、従来の「停止」の効果が改正後の「完成猶予」の効果と共通します。

そこで、「中断 ➡ 更新」、「停止 ➡ 完成猶予」という改正の基本的なイメージが可能です。

ただし、従来の「中断」の効果には、完成猶予及び(又は)更新の効果が含まれており、また、要件面も踏まえるなら、従来の「中断」が「完成猶予」と「更新」に再構成されたと把握することも可能です。

どちらのイメージでもよいのですが、後者の視点から整理しますと、次の図の通りです。

 

 

時効の「完成猶予」とは、猶予事由が発生しても時効は進行しますが、本来の時効期間の満了時期を経過しても時効の完成が猶予(延期)されるというものです。

 

時効の「更新」とは、更新事由の発生により、進行していた時効期間がクリアされ、新たにゼロから時効が進行するものです。

 

完成猶予については、権利行使型(例:裁判上の請求)と権利行使障害型(時効が完成する際に権利者が裁判上の請求等をすることに障害がある場合に、時効の完成を延期するもの)があり、後者の権利行使障害型が改正前の「停止」にあたります。

 

大まかには、権利を行使した場合(ないし権利行使に障害がある場合)は、時効の「完成が猶予」され(実際は、本来の時効期間の満了時期から完成が猶予されます)、権利が確定した場合は、時効が「更新」されるというイメージになります(ただし、「承認」のように、完成猶予が生じず、「更新のみ」生じるものもあります)。

例えば、裁判上の請求(訴えの提起。これは、従来の「中断」事由です)をした場合、時効の「完成が猶予」され、裁判が確定した場合に、時効が「更新」され、時効が新たにゼロから進行します。

 

以上が、民法改正における「完成猶予」と「更新」の基本的知識です(より詳しくは、労災保険法のこちら以下です)。

 

 

(ⅱ)以上の時効障害に関する民法改正の労働社会保険諸法令に対する影響ですが、基本的パターンは、次の2種類です。

 

①不服申立てのパターン

 

不服申立て(審査請求等)については、従来、「審査請求(及び再審査請求)は、時効の中断に関しては、裁判上の請求とみなす」旨が規定されていたものが、改正後は、「審査請求(及び再審査請求)は、時効の完成猶予及び更新に関しては、裁判上の請求とみなす」旨に改められています。

 

即ち、審査請求等という権利行使(権利主張)をした場合に、時効の「完成が猶予」され、その後、本案の決定(裁決)(決定(裁決)は、行政庁その他の第三者を拘束します)により、時効が「更新」される(時効期間が新たにゼロから進行する)ことになります。〔「裁決」から、「決定(裁決)」に訂正:令和元年10月17日〕

 

 

②保険料等の徴収の告知又は督促のパターン

 

もう一つのパターンは、保険料等徴収の告知又は督促です(徴収法、健保法、国年法、厚年法等で問題となります。なお、国年法では、徴収の告知の制度はありません)。

即ち、従来、「保険料等の徴収の告知又は督促は、時効中断の効力を生ずる」旨が規定されていたのが、改正後は、「保険料等の徴収の告知又は督促は、時効の更新の効力を生ずる」旨に改められたというケースです(上記①のパターンと異なり、「完成猶予」が含まれていません)。

 

この場合は、保険料等の徴収権の公益性を重視して、徴収の告知又は督促について、直接、「更新」の効力を認めることにより、徴収権の適正かつ円滑な行使を可能にさせたものと解されます。

 

以上の前提知識をベースに、あとは、各科目で消滅時効が関係する個所ごとに、まずは条文(改正前と改正後の比較も含む)を十分チェックして下さい。

そして、消滅時効期間や起算点の具体例といった従来からの論点についても、併せて確認が必要です。

 

なお、以下、このページの他の科目においては、消滅時効に関する改正について触れません(国年法で少し触れます)。

 

 

 

〔3〕雇用保険法

1 自動変更対象額等の改正

雇用保険法において、例年通り、自動変更対象額、内職収入からの控除額、高年齢雇用継続給付における支給限度額に関する改正が行われています(なお、労災保険法と雇用保険法における自動変更対象額は意味が異なります)。

 

・自動変更対象額 = こちら及びこちらの図をご参照下さい(基本的に、従来の額が引き上げられています)。

 

・内職収入からの控除額は、1,306円です(こちら。従来は、1,295円)。

 

・再就職手当における基本手当の日額の上限については、こちらです(その他、就業手当、常用就職支度手当においても、上限が改正されています)。

 

・高年齢雇用継続給付における支給限度額は、363,359円です(こちら)。 

 

 

2 公共職業訓練等の受講届・通所届の提出手続

基本手当の受給資格者は、公共職業安定所長の指示により公共職業訓練等を受けることとなったときは、速やかに、公共職業訓練等受講届及び公共職業訓練等通所届に受給資格者証を添えて、原則として、公共職業訓練等を行う施設の長経由して管轄公共職業安定所の長に提出しなければなりません(施行規則第21条第1項)。

 

この受講届及び通所届の提出については、令和元年10月1日施行の改正(【平成31.3.8厚生労働省令第19号】)により、原則として、公共職業訓練等を行う施設の長を経由して行うことに改められました。

以上、詳しくは、こちら以下です。

 

 

3 特定一般教育訓練に係る教育訓練給付金(特定一般教育訓練給付金)の創設

特定一般教育訓練に係る教育訓練給付金」(以下、「特定一般教育訓練給付金」といいます)は、令和元年10月1日施行の施行規則の改正(【平成31.3.8厚生労働省令第19号】)により新設されました。

 

即ち、特定一般教育訓練給付金は、「リカレント教育」(学び直し)の重要性などを踏まえて、速やかな再就職早期のキャリア形成に資する教育訓練を対象とする教育訓練給付金です。

一般教育訓練に係る教育訓練給付金」の支給要件ベースとしつつ、ITスキルなどキャリアアップ効果の高い講座の受講を対象としたものであり、支給率上限額が「一般教育訓練に係る教育訓練給付金」の2倍となり、支給率は100分の40上限額20万円です。

そして、受講開始前の手続(具体的には、担当キャリアコンサルタントによるキャリアコンサルティングを受けること等)が必要であるという特徴もあります。

本文は、こちら以下です。 

 

 

4 氏名変更届の廃止

従来、氏名変更届が規定されていましたが(改正前施行規則第14条)、令和2年1月1日施行の施行規則の改正(【平成31.3.8厚生労働省令第19号】)により廃止されました。

 

従来、事業主は、その雇用する被保険者が氏名を変更したときは、当該被保険者に係る所定の届出又は当該被保険者が当該事業主を経由して行う支給申請手続の際、氏名変更届を所轄公共職業安定所長に提出しなければなりませんでした(改正前施行規則第14条第1項)。

今回の改正では、所定の届出の際に、当該届書に「新氏名」と「氏名変更年月日」を記載することによって、別途、氏名変更届を提出する必要をなくしたものです。

詳しくは、こちらです。

 

 

5 特定法人に係る電子申請の義務化

令和2年4月1日施行の改正により、特定法人(資本金の額等が1億円を超える法人等)の事業所の事業主が労働保険及び社会保険の一定の手続(届出、申請)を行う場合は、原則として、いわゆる電子申請によることが義務づけられました。

 

近年、行政手続のコストを削減するとともに行政手続に要する事業主の負担を軽減するために、電子申請の利用促進が図られており、この一環として、特定法人に係る労働社会保険諸法令の一定の手続における電子申請の義務化が定められたものです。

 

今回、雇用保険法(施行規則)の他、労働保険徴収法(施行規則)、健康保険法(施行規則)及び厚生年金保険法(施行規則)における一定の手続について、特定法人に係る電子申請が義務化されました。

 

電子申請が義務化される手続については、年間の届出(手続)件数が多く、また、添付書類が少ないものといった視点で選定されています。

つまり、電子申請を義務化する必要性(行政コスト削減の必要性)が高い手続であって、義務化による支障も少ない手続が対象となっているものといえます。

 

雇用保険の場合は、施行規則第6条第7項(資格取得届)において、特定法人の定義等が規定され、その他の所定の届出ごとに規定があります。

雇用保険以外の上記各法においても、それぞれの施行規則に規定があります。

 

雇用保険以外も含め、こちら以下でまとめています。

 

以下、このページの他の科目においては、「特定法人に係る電子申請の義務化」に関する改正について触れません。

 

 

6 統一様式による届出(届書)の経由提出

令和2年1月1日施行の改正(【令和元.9.27厚生労働省令第52号】)により、労働保険・社会保険の適用事務に係る事業主の事務負担の軽減及び行政コストの削減のため、労働社会保険諸法令に基づく手続のうち届出契機が同一のものを一つづりとした届出様式(「統一様式」といいます)を設け、統一様式を用いる場合はワンストップでの届出が可能となるよう届出先の経由規定が設けられる等の見直しが行われました。

 

具体的には、(ⅰ)健康保険厚生年金保険雇用保険及労働保険の各手続において届出契機が同じ4種類の手続(※1)について統一化した届出様式が新たに設けられました(届出様式の統一化)。(新規適用届等の様式については、通達により通知されます。)

また、(ⅱ)統一様式については、受付窓口も統一化し、年金事務所(機構)、労働基準監督署及び公共職業安定所においてそれぞれ一括して受け付けられる(経由できる)こととされました。

 

※1 統一様式が設けられた届出は、次の4種類です。

 

① 新規適用届適用事業所設置届労働保険関係成立届

 

② 適用事業所全喪届(適用事業所廃止届

 

③ 被保険者資格取得届 

 

④ 被保険者資格喪失届 

 

 

※ 以下のページにおいて詳細なリンク先を掲載しています。

 

・雇用保険法はこちら、徴収法はこちら以下こちら以下、厚年法ではこちら、健保法はこちら

 

 

以下、このページの他の科目においては、「統一様式による届出の経由提出」に関する改正ついては触れません。 

 

 

〔4〕労働保険徴収法

1 免除対象高年齢労働者の制度の廃止

「免除対象高年齢労働者」の制度については、令和2年4月1日施行の改正(【平成28.3.31法律第17号】第3条)により廃止されました。

 

免除対象高年齢労働者とは、保険年度の初日において64歳以上の労働者であって、短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者以外の者をいいました。

この免除対象高年齢労働者については、従来、雇用保険に係る労働保険料(いわゆる雇用保険料です)に相当する額(高年齢者賃金総額に雇用保険率を乗じて得た額)が免除されていました。

 

しかし、前記の平成28年の改正法(平成29年1月1日施行)により、従来の「高年齢継続被保険者」の制度が廃止され、65歳以上の者であっても被保険者となるという「高年齢被保険者」の制度が新設されました。

これに伴い、高年齢求職者給付金が1回のみの支給ではなくなり、支給要件を満たせば複数回支給されることになったこと、高年齢被保険者に支給される失業等給付の種類も増えたことなど、高年齢被保険者に対する保護が強化されました。

そこで、高年齢被保険者についても雇用保険に係る労働保険料を徴収することとされ、免除対象高年齢労働者の制度は廃止されることになりました(第11条の2の削除等)。

ただし、65歳以上の高年齢被保険者を使用する特に中小事業主について労働保険料の額が増加する負担を考慮する必要があるため、激変緩和措置として、免除対象高年齢労働者の制度の廃止は、約3年間適用を猶予され、令和2年度から施行されたものです。 

 

なお、平成31年4月1日に64歳以上であった者に係る「平成31年度(令和元年度)」の「確定保険料」(即ち、「平成31年度(令和元年度)」の「概算保険料」に対応するものです)の申告・納付(令和2年6月1日から40日以内に確定保険料を申告・納付します)については、引き続き、免除対象高年齢労働者の制度が適用されます(平成31年度分の労働保険料の額を確定するものだからです)。

「令和2年度」分の「概算保険料」の申告・納付から、免除対象高年齢労働者の制度は適用されなくなります。

 

以上について、詳しくは、徴収法のこちら以下です。

 

 

〔5〕国民年金法

1 第1号被保険者及び第3号被保険者の要件の改正

令和2年4月1日施行の改正(【令和元.5.22法律第9号】第15条)により、第1号被保険者と第3号被保険者の要件が改正されました。

健康保険法の被扶養者の要件の改正等に連動したものです。

 

 

(1)第1号被保険者

 

まず、第1号被保険者の要件は、次のようになりました(赤字部分が改正による追加個所のポイントです)。

 

◆第1号被保険者とは、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者であって、第2号被保険者及び第3号被保険者のいずれにも該当しないものです。

ただし、厚生年金保険法に基づく老齢給付等の受給権者その他国民年金法の適用を除外すべき特別の理由がある者として厚生労働省令〔=施行規則第1条の2〕で定める者〔=厚生労働省令で定める適用除外者除きます第7条第1項第1号)。

 

令和2年4月1日施行の改正により、「厚生労働省令で定める適用除外者」は第1号被保険者及び第3号被保険者に該当しないことに改められました。

厚生労働省令(施行規則第1条の2)において、医療滞在ビザにより国内に滞在する外国人及び観光等(ロングステイビザ)による短期滞在の外国人(以上、要旨)が定められています。

以上は、国年法のこちら等で触れています。

  

これらの適用除外は、健康保険法の被扶養者の適用除外と同様です(健保法のこちら以下)。

また、国民健康保険法では、すでにこの適用除外の取扱いが行われていました(社会一般のこちら以下(社会一般のパスワード)の2~4)。 

 

 

(2)第3号被保険者

 

次に、第3号被保険者です。その要件を文章で表現しますと、次の通りです(赤字部分が改正による追加個所のポイントです)。

 

◆第3号被保険者とは、被扶養配偶者(第2号被保険者の配偶者(日本国内に住所を有する者又は外国において留学をする学生その他の日本国内に住所を有しないが渡航目的その他の事情を考慮して日本国内に生活の基礎があると認められる者として厚生労働省令〔=施行規則第1条の3(国年法のパスワード)で定める者に限りますであって、主として第2号被保険者の収入により生計を維持するもの。第2号被保険者である者その他国民年金法の適用を除外すべき特別の理由がある者として厚生労働省〔=施行規則第1条の2で定める者〔=厚生労働省令で定める適用除外者。第1号被保険者の場合と同様です〕は除きます)のうち、20歳以上60歳未満のものです(第7条第1項第3号)。

 

上記の「日本国内に生活の基礎があると認められる者として厚生労働省令で定める者」として、留学生、海外赴任被保険者の同行者、観光等の一時的渡航者等が定められています(施行規則第1条の2)。

 

以上、分かりにくいので、図にしますと、次の通りです。

 

 

上記表のうち、②と④が新たに追加された部分です。ともに、健康保険法の被扶養者の要件の改正と連動して追加されたものです。

このうち、④は、前述の第1号被保険者の場合と共通します(適用除外の要件)。

②の国内居住要件(原則)が、健康保険法の被扶養者の要件の改正のメインとなるものです。

 

グローバル化が進展する中、生活の拠点が日本にない親族までが健康保険等の医療給付を受けることができるという在外被扶養者に関する課題等が従来から指摘されていた中、平成31年4月1日施行のいわゆる「出入国管理法(入管法)」(正式には、「出入国管理及び難民認定法」)の改正(【平成30.12.14法律第102号】)により、新たな在留資格として「特定技能」が創設されるなど、今後、外国人労働者の増加が見込まれることを背景として、健康保険(船員保険も同様です)の被扶養者の要件が改められるとともに、連動する国民年金の第3号被保険者の要件も見直されたものです。

本文は、こちら以下です。

 

以上の第1号被保険者及び第3号被保険者の要件の改正により、資格取得・資格喪失の時期に関する条文も改められています(第8条及び第9条。リンク先の下線部分が改正個所です)。

 

 

2 20歳前傷病による障害基礎年金の受給権者等が行う届出の指定日の改正

いわゆる「現況届」は、毎年、厚生労働大臣が指定する日(「指定日」)までに提出することが必要であり、この指定日は、原則として、「受給権者の誕生日属する月末日」となります(【平成21.12.28厚生労働省告示第520号】/最終改正【平成30.12.28厚生労働省告示第426号】等)

 

令和元年7月1日施行の改正(【平成30.12.28厚生労働省告示第426号】)により、「20歳前傷病による障害基礎年金」の受給権者が行う届出及び「母子福祉年金又は準母子福祉年金が裁定替えされた遺族基礎年金」の受給権者が行う届出についても、原則として、この「受給権者の誕生日の属する月の末日」を指定日とすることに改められました。

例外として、それぞれの届出のうち、「所得状況届」(例:「20歳前傷病による障害基礎年金の受給権者の障害基礎年金所得状況届」)についてのみ、「毎年7月31日」の指定日とされました(従来は、上記それぞれの届出は、すべて「毎年7月31日」を指定日としていました)。

 

結論としては、こちらの表の通りです。詳しくは、こちら以下です。

 

なお、前記の「20歳前傷病による障害基礎年金の受給権者の障害基礎年金所得状況届」については、厚生労働大臣が第108条第2項〔=資料の提供の請求等〕の規定に基づき前年の所得に関する当該書類に係る事実を確認することができるときは、提出が不要となりました(施行規則第36条の5。令和元年7月1日施行(【平成30.12.28厚生労働省令第152号】第1号))。本文は、こちら以下です。

 

 

3 医師等の診断書・レントゲンフィルムの作成期限の延長

障害基礎年金や遺族基礎年金に係る所定の届出等の添付書類として、障害の現状に関する「医師又は歯科医師の診断書」や所定の障害についてその障害の現状を示す「レントゲンフィルム」が必要とされています。

これらは、従来は、「指定日前1月以内」に作成されたものであることが必要でしたが、受給権者の負担軽減及び機構における審査事務の効率化を図る趣旨から、「指定日前3月以内」に作成されたものであれば足りることに改められました。詳しくは、こちら以下です。

 

※ なお、同様の改正は、厚年法においても行われています。詳しくは、厚年法のこちら以下です。

   

 

4 民法改正に伴う消滅時効に関する見直し

国民年金法においても、民法改正に伴う消滅時効に関する見直しがあります。

総論的な問題については、前記の労災保険法の個所(こちら以下)で触れましたが、ここでは、国民年金法に特有の問題を見ます。

今回の国民年金法における消滅時効に関する改正では、次の表のように、起算点を明確化する見直しなどが行われています。

 

(1)まず、支分権については、「支払期月の翌月初日」が起算点とされました(第102条第1項)。上記表の②です。

これは、実務の取扱いを明文化したものです(従来からの実務の取扱い(反対する学説もありました)について、消滅時効の起算点に関する理屈から導き出しにくいため規定を設けたものと解されます)。

 

(2)また、上記表の③(「保険料等の徴収権等」及び「死亡一時金を受ける権利」)の消滅時効の起算点については、「権利を行使することができる時」とする旨が明確化されました(第102条第4項)。

これも、従来の取扱いと実質的には同様であり、他法における消滅時効に関する改正とも共通します。 

 

※ ちなみに、今回の改正により、第102条において、死亡一時金を除く一時金についての消滅時効に関する文言がなくなりました。

この改正により、死亡一時金については、保険料等の徴収権等と同様に、会計法第31条が適用され、消滅時効の援用をしなくても、時効消滅することに改められたものと解されます(こちらで詳しく説明していますが、余り深入りしないで大丈夫でしょう)。

 

第102条がどのように改められたかは、一度確認して頂いた方がよく、上記リンク先条文の下部に新旧対照表も掲載していますので、チェックしてみて下さい。

 

 

5 第1号被保険者に係る20歳到達による資格取得届の省略

第1号被保険者の資格を取得したときは、資格取得届の提出が必要ですが、20歳に達したことにより第1号被保険者の資格を取得する場合であって、厚生労働大臣が住民基本台帳法の規定により当該第1号被保険者に係る機構保存本人確認情報の提供を受けることにより20歳に達した事実を確認できるときは、資格取得届の提出不要となりました(施行規則第1条の4第1項ただし書)。

令和元年10月1日施行の改正(【令和元.9.5厚生労働省令第41号】)です。

詳しくは、こちら です。

 

 

6 申請全額免除・納付猶予において所得状況等の記載を省略できる場合等

市町村から提供を受けた所得及び世帯の情報その他の情報により、厚生労働大臣が申請全額免除又は納付猶予の要件(所得の要件に係るものに限ります)に該当する蓋然性が高いと認める者に係る当該免除の申請書について、「所得の状況その他の事実」を記載することは不要とする等の見直しが行われました(施行規則第77条第4項の新設等。令和元年10月18日施行)。

詳しくは、国年法のこちら以下です。

 

 

7 裁定請求書等の添付書類の有効期限の一部改正(厚年法も共通)

裁定請求所等に添える添付書類の有効期間について、通達の一部改正がありました。

国年法のこちら以下です。

 

 

〔6〕厚生年金保険法

1 短時間労働者の要件(定義)について

令和2年4月1日施行の改正(【平成30.7.6法律第71号】。働き方改革関連法附則第17条)により、短時間労働者の要件について、表現が改められましたが、結論としては、従来の取扱いと異なりません。詳しくは、以下の通りです(健保法の場合も同様です)。

 

短時間労働者とは、「1週間の所定労働時間が同一の事業に使用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比し短い者」をいいます(第12条第5号かっこ書)。

 

従来は、短時間労働者の要件(定義)として、パートタイム労働法の短時間労働者の要件を援用していました(改正前第12条第5号。下線部分です)。

しかし、令和2年4月1日施行の改正により、「パートタイム労働法」(通称)から「短時間・有期雇用労働法」(通称)に改められ、「短時間・有期雇用労働法」では、「パートタイム労働法」の短時間労働者と少し異なる要件を採用しました。

ただ、厚年法においては、従来のパートタイム労働法で規定されていた短時間労働者と同様の要件を用いるために、厚年法独自に従来と同内容の短時間労働者の要件を規定したものです。

 

即ち、従来は、厚年法(健保法)の短時間労働者とは、パートタイム労働法(「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)第2条に規定する短時間労働者と定義されていました(改正前第12条第5号)。

パートタイム労働法第2条(労働一般のパスワード)の規定する短時間労働者とは、「1週間の所定労働時間が同一の事業に雇用される通常の労働者(当該事業に雇用される通常の労働者と同種の業務に従事する当該事業に雇用される労働者にあっては、厚生労働省令で定める場合を除き、当該労働者と同種の業務に従事する当該通常の労働者)の1週間の所定労働時間に比し短い労働者」をいいました。

上記のパートタイム労働法第2条のかっこ書の部分については、新たに厚年法施行規則第9条の3が新設されて、当該かっこ書と同様の規定が定められました。

従って、厚年法(及び健保法)における短時間労働者は、従来のパートタイム労働法の短時間労働者と同義であり、従来の取扱いと変更はないことになります。

 

しかし、令和2年4月1日施行の改正により、「パートタイム労働法」が「短時間・有期雇用労働法」に改められ、そこでの短時間労働者の要件は少々見直されました。

即ち、改正後の「短時間・有期雇用労働法」においては、短時間労働者とは、「1週間の所定労働時間が同一の事業に雇用される通常の労働者(当該事業に雇用される通常の労働者と同種の業務に従事する当該事業に雇用される労働者にあっては、厚生労働省令で定める場合を除き、当該労働者と同種の業務に従事する当該通常の労働者)の1週間の所定労働時間に比し短い労働者」をいいます(短時間・有期雇用労働法第2条第1項)。

 

つまり、「短時間・有期雇用労働法」における短時間労働者とは、基本的に、「1週間の所定労働時間が同一の事業に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比し短い労働者」のことです。

即ち、従来は、「パートタイム労働法」における短時間労働者とは、「同一の事業」に雇用される通常の労働者の所定労働時間より短い労働者のことだったのが(つまり、「事業所単位で判断されました)、「短時間・有期雇用労働法」においては、「同一の事業」に雇用される通常の労働者の所定労働時間より短い労働者のこと(つまり、「事業主単位で判断します)に改められたものです。

これは、近年、非正規雇用労働者が店長などの事業所の長となり、同一の事業所内に正規雇用労働者がいないようなケースもみられるようになったことから、同一の事業(使用者)に雇用される通常の労働者を比較対象として待遇の不合理性等を判断することによって、短時間・有期雇用労働者の保護が図られるという考え方です(短時間・有期雇用労働法のこちらを参考)。

 

これに対して、厚年法・健保法の短時間労働者については、従来通り、「事業単位」で判断します。

 

例えば、所定労働時間の少ない労働者と同一の事業所に正社員が配置されていない場合は、「短時間・有期雇用労働法」においては、当該労働者は当然に短時間労働者に該当しないのではなく、同一の企業(法人)の別の事業所に正社員がいる場合には、この正社員の1週間の所定労働時間より短ければ、原則として、短時間労働者に該当することになります。

これにより、「短時間・有期雇用労働法」が適用されるため、「不合理な待遇の禁止」の規定が適用されるなど、当該労働者の保護に資することになります。

 

他方、厚年法・健保法の場合は、上記の例において、当該労働者は短時間労働者ではなく、被用者保険が適用される被保険者であるということとなりえ、格別の問題を生じないことになります。

このように、「短時間・有期雇用労働法」と「厚年法・健保法」の性格・目的の違いから、「短時間労働者」の定義の微妙な違いが発生したものです。

 

 

2 事業所の適用情報等の公表の改正

事業所の適用情報等の公表(施行規則第129条)について、公表できる事項が追加されました。詳細は、こちら以下です。

 

※ なお、健保法においても、同様の改正が行われています(健保法施行規則第159条の10健保法のこちら以下)。

 

 

〔7〕健康保険法

1 被扶養者の要件の改正

令和2年4月1日施行の改正により、健康保険法の被扶養者の要件として、新たに、国内居住要件(原則)及び厚生労働省令で定める適用除外者に該当しないことが追加されました(第3条第7項。このリンク先の下線部分が追加されました)。

内容的には、先に国民年金法の第3号被保険者の個所で述べたものと共通します。

 

被扶養者の要件は、次の表の通りです。この表の◆のオレンジ色の部分と〔2〕の部分が追加されたものです。

 

 

今回の改正の趣旨については、健保法のこちら以下、「国内居住の要件(原則)」については、こちら以下、「厚生労働省令で定める適用除外者」については、こちら以下で詳しく見ています。

 

 

※ 次のページでは、労働一般、社会一般及び安衛法について見ます。