平成30年度版

 

第2節 事業

既述の通り、労働基準法の労働者は、「事業又は事務所(以下「事業」といいます)に使用される者で賃金を支払われる者」をいいますが(第9条)、この「事業」の意義さらには労基法の適用範囲が問題になります。

 

 

§1 事業の意義と判断基準(適用単位)

◆「事業とは、工場、鉱山、事務所、店舗等の如く一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体をいうのであって必ずしもいわゆる経営上一体をなす支店、工場等を総合した全事業を指称するものではない」とされます(【平成11.3.31基発第168号】等参考。以下、このページの通達で明記のないものは、同様の通達です)。

 

一 原則

そこで、「一の事業であるか否かは主として場所的観念によって決定すべきもので、同一場所にあるものは原則として分割することなく一個の事業として場所的に分散しているものは原則として別個の事業とする」とされます。

 

つまり、事業とは、原則として、場所事業場を基準に判断するのであり、企業全体で判断するのではありません(= 事業場単位の原則ともいいます。※1)。

【過去問 平成26年問1D(後掲)】

 

例えば、ある企業の本社が東京にあり、支店が大阪、名古屋にあるケースでは、各地がそれぞれ別個の事業になるのが原則です。

そこで、就業規則の作成・届出義務の有無(常時10人以上の労働者を使用する使用者が義務を負います。第89条本文)については、各地(それぞれ)の事業場において常時10人以上の労働者を使用しているかを判断するのであり、各地の事業場における労働者数を合算して判断するのではありません。

 

 

※1 事業場単位の原則: 

 事業場単位の原則の理由としては、以下のようなことが考えられます。

 

・労基法の就業規則の作成単位(就業規則の作成・変更にあたり当該「事業場」の過半数労働組合等の意見聴取を必要とします。第90条第1項)や労使協定を締結する単位(当該「事業場」の過半数労働組合等との協定が必要です。第36条第1項等)などは、文言上、「事業場」を基準としていること。

 

・事業場ないし場所的に同一の事業を単位として労基法の適用を認めることが、各事業場の実態に応じた適切な労働条件の確保等を可能にすること(そして、行政上の監督制度としても、労働基準監督署が管轄区域内の事業場を監督する体制をとっており、労働基準監督署が、ある企業の全国に分散する全事業場(支店等)を監督するというのは困難かつ非効率的です)。 

 

 

二 例外

ただし、場所的観念のみを基準として適用単位を決定しますと、実態に合わず不合理な結論になることもあるため、以下の例外が認められています。

 

(一)「同一場所にあっても著しく労働の態様を異にする部門が存する場合に、その部門が主たる部門との関連において従事労働者、労務管理等が明確に区分され、かつ、主たる部門と切り離して適用を定めることによって労働基準法がより適切に適用できる場合には、その部門を一の独立の事業とする」とされます。

 

例えば、工場内の診療所、食堂などです。また、新聞社の本社で合わせて印刷を行う場合の印刷部門は、主たる事業と別個に扱われます。

 

※ つまり、労働の態様の観点も考慮するということです。

 

 

(二)また、場所的に分散している場合であっても、「出張所、支店等で規模が小さく組織的関連ないし事務能力を勘案して一の事業という程度の独立性のないもの」については、その直近上位の機構と一括して一の事業として取り扱われます。

 

例えば、新聞社の支社の通信部が、一名の記者のみを連絡要員として常駐させているに過ぎないケースでは、そのすぐ上位の機構と一括して一つの事業として取り扱われます。

また、現場事務所のないような建設現場のケースも同様です。

 

※ つまり、組織的独立性の観点も考慮するということです。

 

 

※ なお、以上の事業場単位の原則は、他の労働法や社会保険法でも、基本的に共通します(そして、徴収法や健保法・厚年法では、事業場単位の原則の例外として、事業ないし適用事業所の「一括」という制度があります)。

 

 

・【過去問 平成26年問1D】

設問:

労働基準法第9条にいう「事業」とは、経営上一体をなす支店、工場等を総合した全事業を指称するものであって、場所的観念によって決定されるべきものではない。

 

解答:

「事業」とは、工場、鉱山、事務所、店舗等のように一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体をいうのであって、必ずしも経営上一体をなす支店、工場等を総合した全事業を指称するものではなく、一の事業であるか否かは主として場所的観念によって決定すべきものとされています。よって、設問は誤りです。 

 

 

三 その他関連通達

(一)「許可及び認定の申請、届出、報告その他の事務は、一の独立の事業を単位として処理すべきものであるが〔=事業場単位の原則からとなります〕、一の事業の作業場が2以上の労働基準監督署の管轄区域にまたがって存在する場合は、それぞれの管轄区域にある作業場のみに関する事項については、それぞれの所轄労働基準監督署に対して提出させ、それぞれの作業場に共通の事項については、各所轄労働基準監督署に対して共通のものを提出させる」とされます(【昭22.9.13発基17号】参考)。

  

(二)「同一の労働基準監督署管内2以上の事業場があるときは、各事業場に係る労働基準法に基づく報告又は届出については、当該企業内の組織上、各事業場の長より上位の使用者がとりまとめて当該労働基準監督署に報告又は届出を行うこと差支えない」とされています(同上通達)。

 

→ さらに、異なる労働基準監督署の管内にまたがって複数の事業所があるとき(即ち、全国に支店があるケースなど)も、例外的に、次の場合は本社等が一括して届出等をできるものとされています。

 

(1)36協定の届出

 

(2)就業規則の届出   

 

 

§2 労基法の適用事業

一 以上のように、労基法は、原則として、場所的に同一の事業を基準として適用されます。

ただし、あらゆる「事業」について労基法が適用されるのかは、問題になります(例えば、労基法は、農林水産業等にも適用されるのかです)。

この点は、労基法は、原則として、労働者を使用するすべての事業に適用されると解されています。

 

なぜなら、平成10年の労基法の改正により、従来の適用事業の列挙方式(平成10年改正前の旧第8条では、労基法の適用対象事業を、16事業及びその他施行規則で定める事業として限定列挙していました。号別適用方式といわれます)を廃止したこと、また、労基法が適用されない事業は、第116条第2項(同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人)等で特に限定的に明示されていることからです。

 

二 ただし、事業ごとの特性に応じた規制をする必要もあることなどから、法別表第1として、15号の事業が列挙されています。

この法別表第1の事業は、下記の通りです(種類及び略称は、筆者が加筆したものです)。

 

※ この表は覚える必要はありません(深く読み込む必要もありません)。種類、略称及び事業内容をざっと眺める程度で足ります。

ただし、労基法はこの別表第1に列挙されている事業のみに適用されるのではないこと、この別表では全部で15号が列挙されていること、及びこの別表に列挙された事業はいわゆる現業(ブルーカラー、非事務職系)であることは記憶しておいて下さい。

 

 

 ■この法別表第1の列挙事業は、以下のケースで関係します。

 

※ 初学者の方は、眺めるだけで結構です。受験経験者の方は、各規制の内容を思い出せるか、チェックして下さい。

 

(一)労働時間の特例(第40条

 

◆ 常時10人未満の労働者を使用する下記の事業については、1週間について44時間、1日について8時間まで労働させられます(第40条施行規則第25条の2第1項)。

 

・商業(別表第1第8号)

・映画・演劇業(映画制作事業は除きます。同第10号)

・保健衛生業(第13号)

・接客娯楽業(第14号)

 

法定労働時間の原則の例外です(詳細は、後に学習します(こちら)。以下の他の事項についても詳細はのちに学習します)。

 

 

※【ゴロ合わせ】

・「ボボしてやってくれたら、生活永遠に保障

 (意味のないゴロ合わせですので、口調で覚えて下さい)

 

→「ボボ(=「44」時間)し・て(=常時「10(テン)」人未満使用)・や(=「8」時間)ってくれたら、

生活(=「接客」)・永遠(=「映」画・「演」劇)に・保(=「保」健衛生)・障(=「商」業)」

 

 

(二)公務のため臨時の必要がある場合の時間外・休日労働の除外事業(第33条第3項)

 

◆公務のため臨時の必要がある場合においては、官公署の事業(ただし、別表第1に掲げる事業〔=いわゆる現業です〕は除かれています)に従事する公務員について、時間外・休日労働が認められます(第33条第3項)。

 

この官公署の事業に関して、別表第1の事業は含まれておらず、即ち、別表第1の事業を行う官公署の公務員については、公務のため臨時の必要がある場合の時間外・休日労働は認められていません。

これは、一般的に、別表第1に掲げる事業「以外」の官公署の事業(いわゆる非現業の官公署の事業)について、公益性が高く、臨時の時間外・休日労働を認める必要が高いことを考慮したものといえます。

 (なお、ゴロ合わせは、後の当該個所(こちら以下)で紹介します。)

 

 

(三)一斉休憩の原則の例外(第40条、施行規則第31条)

 

◆次の事業については、一斉休憩の原則(=休憩時間は、一斉に与えなければならないという原則)は適用されません(施行規則第31条)。

 

運輸交通業(別表第1第4号)

・商業(同第8号)

・金融保険業(第9号)

・映画・演劇業(第10号)

・郵便通信業(第11号)

・保健衛生業(第13号)

・接客娯楽業(第14号)

・官公署の事業(同別表に掲げる事業は除きます)。

 

なお、以上のほかに、一斉休憩の原則の例外として、労使協定を締結した場合と坑内労働の2つも覚えることが必要です。ゴロ合わせは、当該個所(こちら)で紹介します。

   

 

(四)労働時間、休憩、休日の適用除外者(第41条)

 

◆労働時間、休憩、休日に関する規定の適用除外者として、農水産業(=別表第1の第6号(林業を除きます)又は第7号(畜水産業))に従事する者が挙げられています(第41条第1号)。

 

※「林業」が除かれていることは、要注意です。ゴロ合わせを含めた詳細については、第41条の個所(こちら以下)で学習します。

 

 

(五)年少者関係

 

例えば、最低年齢に関する規定(第56条)では、法別表第1第1号から5号までの事業以外の事業〔=非工業的業種〕に係る職業について、児童の使用制限の例外が定められています(ゴロ合わせは、年少者の個所(こちら以下)で紹介します。次も同様)。

また、深夜業の規制(第61条)について、法別表第1第6号、第7号(以上、農林水産業)及び第13号(保健衛生業)は例外とされています。

 

 

以上で、「§2 労基法の適用事業」(法別表第1の関係)を終わります。

次に、適用関係のその他の問題に触れておきます。

 

 

§3 その他の適用関係

一 属地主義

労基法が労働者を使用するすべての事業に適用されるのが原則としても、日本国外に存在する事業についても適用されるのかは問題になります。

 

この点は、労基法の公法的側面(罰則の適用、行政上の監督に関する部分)は、日本国内にある事業についてのみ適用されると解されています(公法の属地主義の原則)。

そして、例えば、日本企業が国外に支社、支店等を有し労働者を就労させている場合、当該支社等の就労場所が独立の事業としての実態を備えているときは、事業は国外に存在するものとして労基法は適用されないとされています(対して、当該就労場所が独立の事業と認められない出張所等の場合は、その出張所等は直近上位の国内の事業に属すると解して、労基法も適用されます)。 

 

なお、労基法の私法的側面(契約上の請求権の根拠となる部分)については、基本的には、当事者自治の原則によります(法の適用に関する通則法第7条)。試験対策上は不要です。

 

二 外国人についての適用関係

(一)国内の事業

 

事業が国内にある限り、事業主が外国人(外国企業)であったり、外国人の労働者であっても、労基法は適用されます。

 

 

(二)不法就労外国人

 

不法就労外国人についても、労基法、労災法、安衛法、最低賃金法、労働契約法等のいわゆる労働保護法労働基準関係法令)は適用されると解されています。

【過去問 平成10年問7D(労基法について)】

 

不法就労外国人であっても労働者である以上、適正な労働条件の確保や労働災害等からの保護といった生命、身体の安全に直接かかわるような法は適用するのが妥当であるという考え方なのでしょう。

 

なお、その他の労働法の適用関係については、当該法の趣旨等を考慮することになるのでしょう。

 

他方、公的医療保険や公的年金保険といった社会保険の制度が、不法就労外国人に対して適用されるのかは問題があります。

社会保険の制度は、一般には、社会連帯と相互扶助の理念から、国内に適法な居住関係を有する者のみを対象者とするのが一応の原則とはいえるからです。

しかし、すべての社会保険の制度が当然に不法就労外国人に対して適用されないというわけではなく、各法の趣旨・目的や当該法における外国人に関する取り扱い方等を考慮して個別に判断されるべきです。

平成30年4月施行の国民健康保険法の保険者の改正前のものですが、【最判平成16.1.15】は、国民健康保険の被保険者性の問題において、市町村の区域内に「住所を有する者」という市町村国保の被保険者の要件(国保法第5条)につき、制限的にですが不法残留外国人についても被保険者資格を認めました。

そこで、例えば、国民年金法などの場合にも、同様に考えられないのかは、問題になるといえそうです

 

試験対策上は、さしあたり、不法就労外国人についても、労働保護法(労働基準関係法令)は適用されると覚えておけばよいでしょう。

  

 

(三)技能実習生

 

外国人の技能実習生については、平成21年の「出入国管理及び難民認定法」(いわゆる入管法)の改正(平成22年7月1日施行)により、入国1年目から労働者として労働基準関係法令の適用を受けることになりました(【平成22.2.8基発0208第2号】参考)。

 

当該改正前の研修・技能実習制度においては、入国1年目は、入管法上、報酬を受ける活動が禁止される研修生と扱われていたため、労基法上の労働者にも該当しないとされていました。

しかし、外国人研修制度を悪用して、労働基準関係法令の適用のない安価な労働力として利用する等の弊害が目立っていたため、改正により、講習の期間(受入れ団体を利用する技能実習で行われる講習に限る)を除いて、入国当初から労働者として労働基準関係法令の適用を認めることとしました。

 

その後、技能実習制度の適正化及び技能実習生の保護を目的として「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(いわゆる「技能実習法」)が制定され(【平成28.11.1法律第89号】。平成29年11月1日施行)、技能実習制度の全体について体系的に規定されました。

 

 

以上で、事業について終わります。次のページでは、適用除外について学習します。