2019年度版

 

第1章 労働者

第1節 労働者の要件

§1 総論

【条文】

第9条

この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

 

 

○趣旨

この第9条は、労働基準法における「労働者」の要件(定義)を定め、労働基準法の保護の対象者を明らかにした規定です。

 

 

一 一般的な判断基準

 

労働基準法における「労働者」とは、事業に使用される者で、賃金を支払われる者をいいます。

従って、労働者の要件に該当するかどうか(以下、「労働者の判断基準」ということがあります)は、基本的には、次のようになります。 

 

(一)事業に使用される者であること

 

1 使用される者

 

事業に「使用される者」とは、使用者の指揮命令を受けて労働に従事する者を意味します。

使用従属関係(狭義)にあることといわれることもあります。

ただし、具体的にいかなる場合にこの指揮命令関係、使用従属関係にあると判断するかは、後記のように様々な要素を考慮する必要があり、その判断は難しいケースが少なくないです。

 

 

2 事業

 

「事業」とは、のちにこちら以下で詳しく見ますが、「工場、鉱山、事務所、店舗等の如く一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体をいうのであって必ずしもいわゆる経営上一体をなす支店、工場等を総合した全事業を指称するものではない」とされます(【平成11.3.31基発第168号】等参考)。

 

例えば、個人一時的に大工を報酬を支払って使用する場合は、通常、業としての継続性(事業性)が認められないため、当該大工は労働者に該当しません(即ち、この個人(依頼者)と大工の関係は、「使用者」・「労働者」の関係ではなく、通常、「注文者」・「請負人」の関係となります。こちらでも触れています)。

 

 

・【過去問 平成29年問2ア】

設問:

何ら事業を営むことのない大学生が自身の引っ越しの作業を友人に手伝ってもらい、その者に報酬を支払ったとしても、当該友人は労働基準法第9条に定める労働者に該当しないので、当該友人に労働基準法は適用されない。

 

解答:

労基法上の「労働者」とは、事業に使用される者で、賃金を支払われる者をいいます(第9条)。

設問の「大学生」は、引っ越し等の事業を営んでいませんから、引っ越しの作業を手伝った「友人」は、「事業」に使用される者でなく、労基法上の労働者に該当しません。よって、設問は正しいです。

 

「事業」性について出題してくるのは、初めてではないでしょうか。

上記本文のリンク先でも少しだけ触れてはいましたが、「事業」に使用される者かどうかは、労基法上の労働者と労働契約法上の労働者との判断において異なる点です。 

 

 

(二)賃金を支払われる者であること

 

賃金とは、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいいます(第11条)。(後にこちら以下で詳しく見ます。)

従って、賃金を支払われる者とは、使用者から労働の対償を支払われる者をいうことになります。

 

 

二 具体的な判断基準

 

(一)実態の考慮

 

上記の労働者に該当するかどうかの判断の際は、雇用、請負、委任等の契約の形式にとらわれず実態を考慮して、使用者の指揮命令を受けて労働に従事するのか等を検討します。

なぜなら、契約形式が請負、委任等であっても、実質的には使用従属関係が認められる場合には、労働者として保護する必要がありますし(=必要性の視点です)、そうしないと契約形式の操作によって労基法の規制が潜脱されるからです(=許容性(そのような解釈が相当であること)の視点です)。

 

 

〇過去問:

 

・【平成27年問1E】

設問:

形式上は請負契約のようなかたちをとっていても、その実体において使用従属関係が認められるときは、当該関係は労働関係であり、当該請負人は労働基準法第9条の「労働者」にあたる。

 

解答:

上記本文の解説の通り、正しいです。

 

 

・【平成29年問2オ】

設問:

工場が建物修理の為に大工を雇う場合、そのような工事は一般に請負契約によることが多く、また当該工事における労働は工場の事業本来の目的の為のものでもないから、当該大工が労働基準法第9条の労働者に該当することはなく、労働基準法が適用されることはない。

 

解答:

労基法上の「労働者」とは、事業に使用される者で、賃金を支払われる者をいいます(第9条)。

まず、設問の「当該工事における労働は工場の事業本来の目的の為のものでもない」という点については、設問では、事業として利用する設備の修理のために作業をさせるのですから、事業の実施に必要な作業をさせるものであり、実質的には、事業のための作業と評価できます。そこで、当該建物修理についても「事業」性を肯定できます。

 

次に、「使用される者」に該当するかは、雇用、請負、委任等の契約の形式にとらわれず、実態を考慮して、使用者の指揮命令を受けて労働に従事するのか(使用従属関係があるのか)等を検討します。

設問の場合は、「建物修理の為に大工を雇う」場合に、「そのような工事は一般に請負契約によることが多」いとしても、当該労務供給の実態が使用従属関係にあれば、当該大工が「使用される者」といえることがあり得ます。

従って、設問では、事業における使用従属関係が認められて労働者に該当する場合があり得ますので、設問は誤りとなります。 

 

なお、【昭和23年12月25日基収4281号】、【平成11.3.31基発第168号】は、「農家又は工場がその事業経営上必要な建物その他の施設を大工に修理させる場合は、一般に請負契約によることが多いが、請負契約によらず雇用契約によりその事業主と大工との間に使用従属関係が認められる場合は、法第9条の労働者であるから、基準法の適用を受ける。なお、基準法の適用は該事業固有の業務に従事する労働者であるか付随的業務に従事する労働者であるかによって差異はない。」としています。

 

 

(二)判断基準

 

ただし、上記の労働者の要件は抽象的であり、具体的な事案では労働者に該当するかどうかの判断が困難な場合も多いことなどから、昭和60年の労働基準法研究会(旧労働大臣の私的諮問機関です)の「労働基準法の『労働者』の判断基準について」の報告がより細かな判断基準を示しており、一般に参考にされています。 

 

概要としては、労働者性の判断基準を、(1)「使用従属性」に関する判断基準と(2)「労働者性の判断を補強する要素(基準)」に大別しています。

そして、(1)「使用従属性」に関する判断基準について、(ア)「指揮監督下の労働」に関する判断基準と(イ)「報酬の労務対償性」に関する判断基準に分けています。

そして、前者の(ア)「指揮監督下の労働」に関して、(a)仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、(b)業務遂行上の指揮監督の有無、(c)拘束性の有無、(d)代替性の有無を判断の要素としています。

 

※ 結局は、労基法(他の労働法にも配慮が必要です)の労働者として保護する必要があるのか(必要性)、労基法等の労働者とすることにより不都合・弊害が生じないのか(許容性)といった実質的考慮も要求される難しい問題です。

試験対策上は、下記の太字のキーワードは把握しておいて下さい。 

 

上記の判断基準について、やや細かく見ておきます。

 

(1)使用従属性に関する判断基準 ※1

 

(ア)指揮監督下の労働に関する判断基準

 

(a)仕事の依頼業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無(諾否の自由があれば指揮監督関係を否定する重要な要素となる)

 

(b)業務遂行上の指揮監督の有無

 

(c)拘束性の有無(勤務場所及び勤務時間に関する拘束性の有無)

 

(d)代替性の有無(他人によって代替可能であれば、指揮監督関係を否定する要素の一つになる)

 

 

(イ)報酬の労務対償性

 

報酬が「賃金」であるか否かによって「使用従属性」を判断することはできないが、報酬が時間給を基礎として計算される等労働の結果による較差が少ない、欠勤した場合には応分の報酬が控除され、残業をした場合には手当が支給される等、報酬の性格が使用者の指揮監督のもとに一定時間労働を提供していることに対する対価と判断される場合には、「使用従属性」を補強することになる。

 

 

(2)労働者性の判断を補強する要素

 

以上(ア)(イ)の観点のみでは判断ができない場合には、事業者性の有無(機械・器具の負担関係、報酬の高額性、損害に対する責任、商号使用の有無等)、専属制の程度(他社の業務への従事が事実上制約されているか)、公租公課の負担(給与所得の源泉徴収や社会保険料等の控除の有無)等も判断の補強要素とする。

 

 

※1(参考)

 

上記の報告では、「使用従属性」という用語を、(ア)指揮監督下の労働と(イ)報酬の労務対償性の2点から成るものと考えています。

他方、「使用従属性」という用語を、(ア)の指揮監督下の労働のみを指して使用することもあります。 

 

 

※2 労働契約法上の労働者に関する通達

 

なお、労働契約法に関する通達である【平成24.8.10基発第0810号第2号】では、労働契約法上の「労働者」について、下記の通り言及しており、参考になります。

 

まず、前提知識です。

労働契約法上の「労働者」とは、「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」をいうと定義されています(労働契約法第2条第1項)。

他方、労働基準法上の労働者とは、上記の通り、「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という)に使用される者で、賃金を支払われる者」をいいます(労基法第9条)。

 これら両法における「労働者」は、「事業」に使用されるかどうかという点では異なりますが、「使用される」者であること、及び「賃金を支払われる者」であること、という「使用」性と「賃金」性を基本的要素としている点で共通しているため、両者は基本的には同様の概念と解されます。

 

以下、上記の通達を引用します。 

 

〔引用開始。〕

 

(2)労働者(法第2条第1項関係)〔なお、この通達における「法」とは、労働契約法のことをいいます。〕

 

ア 法第2条第1項の「労働者」とは、「使用者」と相対する労働契約の締結当事者であり、「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」のすべてが含まれるものであること。

 

イ 法第2条第1項の「労働者」に該当するか否かは、同項に「使用者に使用されて」と規定されているとおり、労務提供の形態や報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素を勘案して総合的に判断し、使用従属関係が認められるか否かにより判断されるものであり、これが認められる場合には、「労働者」に該当するものであること。これは、労働基準法第9条「労働者」の判断と同様の考え方であること。

 

ウ 民法第623条の「雇用」の労働に従事する者は、法第2条第1項の「労働者」に該当するものであること。

また、民法第623条の「請負」、同法第643条の「委任」又は非典型契約で労務を提供する者であっても、契約形式にとらわれず実態として使用従属関係が認められる場合には、法第2条第1項の「労働者」に該当するものであること。

 

エ 法第2条第1項の「賃金」とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいうものであること。これは、労働基準法第11条の「賃金」と同義であること。

 

〔引用終了。〕   

 

 

§2 労働者性の判断が問題となる具体的ケース

次に、労働者に該当するかどうかが問題となる具体的ケースについて見ておきます。

 

一 個人経営の事業主(個人事業主)

 

◆個人事業主は、労基法上の労働者にはあたりません。(他の法においても労働者や被保険者に該当しません。)

 

※ 個人事業主については、まず、円滑な経営等の要請から、労働条件等の労基法の規制を除外する必要が大きいです(例えば、個人事業主の場合、長時間労働となっても自らが仕事をしなければならないことがあります)。

また、個人事業主については、私生活と仕事との区別が不明確なことも多く、厳格な労働時間・休憩・休日等の規制は実態に合いません。

そして、個人事業主は、本来、他人の指揮命令を受けて業務に従事しているわけではありません(従って、広範な経営上の裁量権を有し、自ら労働時間等も管理できますし、報酬等の待遇面でも自らを優遇しうる地位にありますから、労基法の適用を受けなくてもその保護に欠けるおそれは少ないです)。

その反面で、経営につき個人的債務・責任を負うなど、重い負担も有しており、これらの事情から、個人事業主は、単なる労働者とは異なる地位・性格を有しているといえます。

 

以上を考慮して、個人事業主は、「事業に使用される者で、賃金を支払われる者」にはあたらないと解することになります。

 

※ もっとも、抽象的には上記のようにいえるにしても、具体的には判断が難しいケースが多いです。

例えば、以下の判例で見ますように、自己所有のトラックを持ち込み特定企業の運送業務に従事する雇用運転手あるいは一人親方である大工などが請負契約や委任契約に基づき労務を提供するようなケース(いわゆる業務委託のケース)は、労働者なのか個人事業主なのか微妙なことがあります。

 

かかる場合、当該契約の形式にとらわれずに、実態に照らして、上記の昭和60年の研究会の報告で示された基準を参考に「他人の指揮命令を受けて労働に従事する者であるのか」を個別的に検討することになります。

 

○【判例】

 

若干、判例を見ておきます。

 

(一)【横浜南労基署長(旭紙業)事件=最判平成8年11月28日】

 

1 事案

 

自己所有トラックを特定企業(以下、「A紙業」とします)の工場に持ち込み、専属的に同社製品の運送業務に従事していた運転手(以下、「B」とします)が、同工場倉庫内で積み込み作業中に転倒し負傷し、労働基準法及び労災保険法上の労働者にあたるかが問題となった事案。

 

 

2 結論

 

労基法及び労災保険法上の労働者と認められませんでした。

 

 

3 判旨

 

※ 最高裁の労働者性の判断方法の参考になりますので、判旨の主要部分を掲載しておきますが、一般的な判示はなく、事案に即した事案判断がなされているに留まります。

下記の紫の色の字の部分に注意して下さい。

初学者の方は、以下の2つの判例は、さしあたりは読まれる必要はありません。飛ばして、下の「二 法人等の代表者等」の個所(こちら)に進んで下さい。

 

「原審の適法に確定した事実関係によれば、上告人〔B(この〔 〕の部分は、筆者が加筆したものです。以下同様)〕は、自己の所有するトラックをA紙業株式会社の工場に持ち込み、同社の運送係の指示に従い、同社の製品の運送業務に従事していた者であるが、(1)同社の上告人に対する業務の遂行に関する指示は、原則として、運送物品、運送先及び納入時刻に限られ、運転経路、出発時刻、運転方法等には及ばず、また、一回の運送業務を終えて次の運送業務の指示があるまでは、運送以外の別の仕事が指示されるということはなかった、(2)勤務時間については、同社の一般の従業員のように始業時刻及び終業時刻が定められていたわけではなく、当日の運送業務を終えた後は、翌日の最初の運送業務の指示を受け、その荷積みを終えたならば帰宅することができ、翌日は、出社することなく、直接最初の運送先に対する運送業務を行うこととされていた、(3)報酬は、トラックの積載可能量と運送距離によって定まる運賃表により出来高が支払われていた、(4)上告人の所有するトラックの購入代金はもとより、ガソリン代、修理費、運送の際の高速道路料金等も、すべて上告人が負担していた、(5)上告人に対する報酬の支払に当たっては、所得税の源泉徴収並びに社会保険及び雇用保険の保険料の控除はされておらず、上告人は、右報酬を事業所得として確定申告をしたというのである。

 

右事実関係の下においては、上告人は、業務用機材であるトラックを所有し、自己の危険と計算の下に運送業務に従事していたものである上、A紙業は、運送という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻の指示をしていた以外には、上告人の業務の遂行に関し、特段の指揮監督を行っていたとはいえず時間的、場所的な拘束の程度も、一般の従業員と比較してはるかに緩やかであり、上告人がA紙業の指揮監督の下で労務を提供していたと評価するには足りないものといわざるを得ない。そして、報酬の支払方法、公租公課の負担等についてみても、上告人が労働基準法上の労働者に該当すると解するのを相当とする事情はない。そうであれば、上告人は、専属的にA紙業の製品の運送業務に携わっており、同社の運送係の指示を拒否する自由はなかったこと、毎日の始業時刻及び終業時刻は、右運送係の指示内容のいかんによって事実上決定されることになること、右運賃表に定められた運賃は、トラック協会が定める運賃表による運送料よりも1割5分低い額とされていたことなど原審が適法に確定したその余の事実関係を考慮しても、上告人は、労働基準法上の労働者ということはできず、労働者災害補償保険法上の労働者にも該当しないものというべきである。」 

 

 

(二)【藤沢労基署長事件=最判平成19年6月28日】

 

1 事案

 

一人親方の大工が工務店からマンションの内装工事を請け負っていたが、当該工事の際に負傷し、労基法及び労災保険法上の労働者性が問題となった事案。

 

 

2 結論

 

労基法及び労災法上の労働者と認められませんでした。

 

 

3 判旨

 

本件事案の下では、本件大工は、工務店の指揮監督の下に労務を提供していたものと評価することはできず、支払われた報酬は、仕事の完成に対して支払われたものであって、労務の提供の対価として支払われたものとみることは困難であり、本件大工の自己使用の道具の持込み使用状況、工務店に対する専属性の程度等に照らしても、本件大工は労働基準法上の労働者や労災法上の労働者に該当しないとしました。

 

⇔ 他方、請負契約によらず、雇用契約により、使用従属関係が認められる大工は、労働者にあたります(【平成11.3.31基発第168号】。【平成29年問2オ】を参考)。

つまり、一人親方の大工であっても、具体的な事案において、実質的に使用従属関係が認められるかによって、結論が変わってきます。

 

 

以上で、個人経営の事業主(個人事業主)については終わります。 

 

 

二 法人、団体、組合等の代表者(代表取締役など)又は執行機関たる者(監査役など)

 

◆法人、団体、組合等の代表者(代表取締役など)又は執行機関たる者(監査役など)(以下、「代表取締役等」といいます)も、労働者にはあたりません

 

 

・【昭和23年1月9日基発第14号】

 

「法人、団体、組合の代表者又は執行機関たる者の如く、事業主体との関係において使用従属の関係に立たない者は労働者ではない。」

 

 

※ このケースも、基本的な考え方は、上記「一 個人経営の事業主」の場合と類似するといえます(細部は異なりますが)。

即ち、まず、代表取締役等については、円滑な経営等の要請から、労働条件等の労基法の規制を除外する必要が大きいです。

そして、代表取締役等は、他人の指揮命令を受けて業務に従事しているわけではありません。従って、広範な経営上の裁量権を有し、自ら労働時間等も管理できるし、報酬等の待遇面でも優遇されうる地位にありますから、労基法の適用を受けなくてもその保護に欠けるおそれが少ないです。

〔反面、代表取締役等と企業との関係は委任関係であり、対企業、対株主等との関係で重い義務と責任が課せられています。これらの事情から、代取等は、単なる労働者とは異なる地位・性格を有しているといえます。〕

以上の事情を考慮して、代取等は、「事業に使用される者で、賃金を支払われる者」にはあたらないと解することになります。

 

 

※  対して、代表取締役以外の役員等で、従業員として労働して賃金を受けている場合使用人兼務役員)は、労働者にあたるとされています。

【過去問 平成19年問1B(後掲)】/【労災保険法 平成28年問1B(後掲)】/【平成29年問2エ(後掲)】

なぜなら、役員としての側面の他に、従業員として代表者の指揮命令を受けて労働に従事しその対償として賃金を受けているという側面があり、この後者の側面については通常の労働者と共通するからです。

 

 

・【昭和23年3月17日基発第461号】

 

「法人の所謂重役等業務執行権又は代表権を持たない者が、工場長部長の職にあって賃金を受ける場合は、その限りにおいて法第9条に規定する労働者である。」

 

 

 ○過去問:

 

・【平成19年問1B】

設問:

労働基準法でいう「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事業所に使用される者で賃金を支払われる者をいい、法人のいわゆる重役で業務執行権又は代表権を持たない者が、工場長、部長の職にあって賃金を受ける場合は、その限りにおいて同法第9条に規定する労働者である。

 

解答:

 設問のいわゆる使用人兼務役員の場合は、役員としての側面の他に、従業員として代表者の指揮命令を受けて労働に従事しその対償として賃金を受けているという側面があり、この後者の側面については通常の労働者と共通しますから、その限りにおいて、労働者に該当します。よって、設問は正しいです(【昭和23年3月17日基発第461号】)。

 

 

・【労災保険法 平成28年問1B】

設問:

法人のいわゆる重役で業務執行権又は代表権を持たない者が、工場長、部長の職にあって賃金を受ける場合は、その限りにおいて労災保険法が適用される。

 

解答:

本問は労災保険法からの出題ですが、前問のように、いわゆる使用人兼務役員は労基法の労働者に該当し、従って、労災保険法の適用される労働者にも該当します(労災保険法で学習しますが、労災保険法の適用の対象となる労働者は、労働基準法第9条に規定する「労働者」のことと解されています労災保険法のこちら以下(労災保険法のパスワード)。このページの下部のこちらでも触れます))。

よって、設問は正しいです。

 

 

・【平成29年問2エ】

設問:

株式会社の取締役であっても業務執行権又は代表権を持たない者は、工場長、部長等の職にあって賃金を受ける場合には、その限りにおいて労働基準法第9条に規定する労働者として労働基準法の適用を受ける。

 

解答:

正しいです。前掲の【平成19年問1B】と類問です。   

 

 

※ 注意点として、本件二の代表取締役等も、健康保険法厚生年金保険法等社会保険)においては、被保険者に該当すると解されていることです。(初学者の方は、ここは参考程度で素通りして下さい。)

 

即ち、健康保険法(以下、「健保法」ということがあります)や厚生年金保険法(以下、「厚年法」ということがあります)における被保険者(いわゆる当然被保険者)は、原則として、適用事業所に使用される者のことをいいますが(従って、使用されるという点において、労基法上の労働者の要件と類似する面があります)、その判断の際には、健保法や厚年法による保護の必要性があるのか、健保法等により保護しても不都合がないのか(保護の相当性)といった観点が重要といえ、適正な労働条件の確保等を目的とする労基法の労働者の判断とは異なりうることになります(法の目的・趣旨が異なることによる法概念の相対性の考え方です)。

 

この点、健保法において、代表取締役等も「使用される者」として被保険者にあたると解されているのは、次のような事情が考えられます。

即ち、業務災害以外の事由により疾病、負傷、死亡又は出産という保険事故が生じる場合に、代表取締役等も療養の給付等の健康保険の制度による保護の必要性があることには通常の労働者と違いがないといえること、また、代表取締役等も法人等から労働の対償として報酬を得ている場合、被用者たる労働者と共通する性格はあり、国民健康保険上の被保険者(典型例は、自営業者や無職の者です)よりは、被用者たる労働者に近いといえ、被用者医療保険制度である健康保険の適用を認める基盤があるといえることです。

 

また、厚年法の適用についても、類似に考えられます。

即ち、老齢、障害又は死亡という保険事故が生じる場合に、代表取締役等も老齢厚生年金や障害厚生年金等の制度による保護の必要性があることには通常の労働者と違いがないといえること、また、代表取締役等も法人等から労働の対償として報酬を得ている場合、被用者たる労働者と共通する性格もあり、国民年金制度にとどまらず、厚生年金保険制度(被用者年金制度)の適用を認める基盤があるといえること、といった点が考慮されたものと解されます。

 

なお、健保法と厚年法の「使用される者」は一般に同義と解されており、両法は、保険関係の「適用」の問題について、原則として一体的に処理されます。

これは、両法は、医療保険法と年金保険法という違いはありますが、ともに被用者に関する公的な社会保険制度であること(つまり、労基法等の労働法よりは、健保法と厚年法の間には共通性があることになります)、そして、法適用の明確性・安定性の確保の必要もあることを重視して、原則として適用の取扱いを同様にしているものと解されます。 

 

 

三 その他の通達・判例

 

以下、試験対策上、一読しておいた方がよい通達・判例を挙げておきます。

初学者の方も、読むだけはお読み下さい。

学習が進みましたら、このような細部もじっくり読んで頂き、万が一出題されたときに、「どこかで読んだ」、「多分、正しい(誤り)だろう」という状態になれる程度になじんで頂く必要があります)。(なお、近時は、以下からの出題も増えてきました。)

 

 

(一)共同経営事業の出資者

 

共同経営事業の出資者〔=形式的には事業主です〕であっても、当該組合又は法人との間に使用従属関係があり、賃金を受けて働いている者は、第9条の労働者にあたるとされます(【昭和23.3.24基発第498号】参考)。

  

 

(二)いわゆるインターンシップにおける学生

 

一般に、インターンシップ〔=学業の過程において事業場で実習などに従事する学生です〕 においての実習が、見学や体験的なものであり使用者から業務に係る指揮命令を受けていると解されないなど使用従属関係が認められない場合には、第9条の労働者に該当しませんが、直接生産活動に従事するなど当該作業による利益・効果が当該事業場に帰属し、かつ、事業場と学生との間に使用従属関係が認められる場合には、労働者に該当するとされます(【平成9.9.18基発第636号】参考)。

【過去問 労災保険法 平成28年問1D(労災保険法のこちら(労災保険法のパスワード)】/【平成30年問4エ(下記)】

 

 

・【過去問 平成30年問4エ】

設問:

いわゆるインターンシップにおける学生については、インターンシップにおいての実習が、見学や体験的なものであり使用者から業務に係る指揮命令を受けていると解されないなど使用従属関係が認められない場合でも、不測の事態における学生の生命、身体等の安全を確保する限りにおいて、労働基準法第9条に規定される労働者に該当するとされている。

 

解答:

労働者(事業に使用される者で、賃金を支払われる者)に該当するかどうかの判断は、一般に、使用従属関係の有無(等)について、こちら以下の諸事情を考慮して行われます。

 

本肢は、インターンシップにおける学生については、使用従属関係が認められない場合であっても、当該学生の生命・身体等の安全を確保すべき場合においては、労働者性を肯定するという考え方となります(このような解釈は、特に、労災保険法(労基法と同じ労働者の概念が用いられます)において、業務災害を受けた者の保護に資することにはなります)。

 

しかし、諸事情を考慮して使用従属関係が否定された場合において、なお、生命・身体等の保護の見地から労働者性を肯定すべき例外があるという考え方は、一般には採られていません。

このような考え方を採用しますと、極端にいえば、本来の労働者に該当しない者についても、業務災害が発生したような場合には、広く労災保険法等の適用対象となりかねないというおそれはあり、法適用の安定性や公平性の観点からは問題が生じます。

また、本肢のインターンシップにおける学生のみ例外的取扱いになると考えるのも、その他の非労働者(例:請負人)との違いの合理性について説明しにくいです。

以上より、設問は誤りです。

試験対策上は、前記(こちら以下)の通達の考え方を押さえていれば、本肢の当否を推測できました。

 

 

(三)医科大学付属病院に勤務する研修医 

 

「臨床研修は、医師の資質の向上を図ることを目的とするものであり、教育的な側面を有しているが、そのプログラムに従い、臨床研修指導医の下に、研修医が医療行為等に従事することを予定している。そして、研修医がこのようにして医療行為等に従事する場合には、これらの行為等は病院の開設者のための労務の遂行という側面を不可避的に有することになるのであり、病院の開設者の指揮監督の下にこれを行ったと評価することができる限り、上記研修医は労働基準法第9条所定の労働者に当たるものというべきである。」(【関西医科大学研修医事件=最判平成17.6.3】参考)【過去問 平成29年問5オ(下記)】

 

 

・【過去問 平成29年問5オ】

設問:

医科大学附属病院に勤務する研修医が、医師の資質の向上を図ることを目的とする臨床研修のプログラムに従い、臨床研修指導医の指導の下に医療行為等に従事することは、教育的な側面を強く有するものであるため、研修医は労働基準法第9条所定の労働者に当たることはないとするのが、最高裁判所の判例の趣旨である。

 

解答:

設問は、前掲の【関西医科大学研修医事件=最判平成17.6.3】を素材としています。

同判決は、臨床研修は、「教育的な側面を有している」が、臨床研修のプログラムに従い、臨床研修指導医の下に、研修医が医療行為等に従事する場合には、これらの行為等は病院の開設者のための労務の遂行という側面を不可避的に有することになるのであり、病院の開設者の指揮監督の下にこれを行ったと評価することができる限り、当該研修医は労基法上の労働者に該当する趣旨を判示しています。

従って、「研修医は労働基準法第9条所定の労働者に当たることはないとするのが、最高裁判所の判例の趣旨である」とする設問は、誤りです。

 

 

(四)組合専従職員

 

企業の従業員が、企業からは報酬を受けずに、その所属する労働組合から報酬を受けて当該労働組合の業務に専従する場合の当該組合専従職員と使用者との法律関係については、労働協約等により労使間で自由に定めることができます。

この点、使用者が専従職員に対し在籍のまま企業に対する労働提供の義務は免除し、組合事務に専従することを認める場合は、労働基準法上、当該企業との労働関係は存続するものと解されています(これを「在籍専従(者)」ということがあります)。(【昭和24.6.13基収第1073号】/【平成11.3.31基発第168号】参考)

 

例えば、わが国で一般的な企業別組合(特定の企業又は事業所に使用される労働者から組織される労働組合のことです)において、使用される企業の業務は行わずに、労働契約関係は維持したまま、当該企業の労働組合の事務に専従することを使用者から認められる場合があり、かかる場合の在籍専従者は、当該企業に対する関係で労働者と取り扱われるということです。

 

組合専従者・在籍専従者についての関連問題として、平均賃金の算定基礎からの控除の問題(こちら)があります。

 

 

・【過去問 平成19年問1C】

設問:

会社からは給料を受けず、その所属する労働組合より給料を受ける組合専従職員の労働関係については、使用者が当該専従職員に対し在籍のまま労働提供の義務を免除し、労働組合の事務に専従することを認める場合には、労働基準法上当該会社との労働関係は存続するものと解される。

  

解答:

上記本文の通り、正しいです。 

 

 

(五)生活困窮者自立支援法に基づく就労準備支援事業及び就労訓練事業において就労する者 

 

生活困窮者自立支援法(平成27年4月1日施行)に基づく就労準備支援事業(生活保護法に基づく被保護者就労準備支援事業を含みます)及び就労訓練事業において就労する者(以下、「対象者」といいます)が、労基法第9条の労働者に該当するかどうかは、次の通りです(【平成27.3.26基発0326第7号】参考)。

 

 

1 就労準備支援事業

 

就労準備支援事業とは、福祉事務所設置自治体を事業主体として(民間事業者に委託をすることが可能)、雇用による就業が著しく困難な生活困窮者に対し、一定期間にわたり、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練を行う事業です。

この就労準備支援事業は、雇用関係を前提としていないため、当該事業において就労体験を行う対象者は、原則として、労基法第9条労働者ではないものとして取り扱われます。

 

 

2 就労訓練事業

 

就労訓練事業とは、都道府県知事等の認定を受けた事業者が、雇用による就業を継続して行うことが困難な生活困窮者に対し、就労の機会を提供するとともに、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の便宜を供与する事業です。

就労訓練事業における就労形態としては、雇用契約を締結せず訓練として就労を体験する段階(以下、「非雇用型」といいます)と、雇用契約を締結した上で、支援付きの就労を行う段階(以下、「雇用型」といいます)の2つが想定されています。

就労訓練事業を雇用型として開始するか、非雇用型として開始するかについては、対象者の意向や対象者が行う業務の内容、同事業を行う者(「就労訓練事業所」といいます)の受入に当たっての意向等を勘案して、生活困窮者自立支援法に基づく自立相談支援事業を行う者が判断し、自治体による支援決定を経て確定します。

 

(1)この就労訓練事業において、雇用型で就労する対象者については、原則として、労基法第9条労働者に該当します。

 

(2)就労訓練事業において、非雇用型で就労する対象者については、原則として労基法第9条労働者ではないものとして取り扱われます。 

 

 

§3 労働者の横断整理

最後に、労働法各法における労働者の要件(定義)をまとめておきます。

初学者の方は、一読するだけで足ります。労働法各法の労働者の箇所を勉強する際、労基法の労働者との比較が問題となることを思い出して下さい。

受験経験者の方は、下記で言及します労働組合法の労働者の要件を再チェックして下さい。

 

 

 

 ※ 労災保険法の労働者について:

 

労災保険法の労働者については、同法において明文はありませんが、労基法の労働者と同義と解されています(判例、通説)。

 

なぜなら、労災保険制度は、元来、労基法の災害補償制度(労基法第75条~第88条(労基法のパスワード)。こちら以下)を基礎としており、労働者に対する使用者の災害補償責任を実効化するため保険制度化されたもの(使用者の無資力のリスク等から労働者の保護を図ると共に、使用者の過重な負担を回避させようとしたもの)であるからです(詳細は、労災保険法のこちら以下)。

 

 

※ 労働基準法の労働者と労働組合法の労働者との違いについて:

 

労働基準法の労働者労働組合法の労働者は、同一ではないと解されています。

これは、次の理由によるものと考えられます。

 

まず、両法において、労働者を定義する文言が異なっています。

つまり、労働基準法の労働者は、「事業に使用される者で、賃金を支払われる者」をいいますが(労基法第9条)、労働組合法(以下、「労組法」ということがあります)の労働者は、「職業の種類を問わず、賃金給料その他これに準ずる収入によって生活する者」をいいます(労組法第3条(労働一般のパスワード))。

そこで、労組法の労働者は、事業に使用されていることは要件ではありませんので、失業者も含まれることになります。

 

そして、両法の労働者が異なる実質的な理由は、両法の目的・趣旨が異なる点にあります(法概念の相対性)。

つまり、労働基準法は、主として、労働者の適正な労働条件の確保を目的とするものであるのに対して、労働組合法は、憲法第28条(労働一般のパスワード)の労働基本権(労働3権)の保障を受けて、労働者の経済的地位の向上を図ることを目的とするものですから(労組法第1条第1項(目的条文)、第2条本文参考)、労働組合法の労働者は、労働組合法による保護(団体交渉など)を認める必要性と適切性(許容性)を有する者であれば足りると解されるのです。

 

そこで、例えば、失業者についても、解雇された会社に対して、解雇の不当性を争うため組合を通じて団体交渉を求めることなどを認めるべきですから、労組法の労働者としてよいことになります。

 

また、例えば、プロ野球の選手は、特殊な熟練技能者といえ、労働時間・休憩・休日といった労基法の厳格な労働条件の規制を及ぼすことが妥当なのかは問題もあり、労基法の労働者にあたるとはいいにくい面があります(争いがあります)。

他方、最低年棒、年金、障害補償、トレード制などの待遇面について団体交渉を認める必要性はあります。

また、選手は、プロ野球という事業の実施に不可欠な労働力として球団あるいは日本プロ野球組織に組み入れられているといえ、さらに、選手は、球団あるいは日本プロ野球組織から、練習スケジュール、競技の日時・場所等など指揮監督を受けている面も少なくなく、団体交渉等を認めることが相当といえます。

 

判例も、高裁レベルですが、プロ野球の選手会に団体交渉の当事者となることを認め、プロ野球選手の労働組合法上の労働者性を前提とした判断をしています(【東京高決平成16.9.8】)。【過去問 労働一般 平成25年問2B(後掲)】

要するに、労基法上の労働者には該当しない者であっても、労働組合法上の労働者には該当することがある点に注意が必要です。

 

最高裁は、労働組合法上の労働者性について、事業組織に組み入れられているか、契約内容が一方的・定型的に決定されるか、報酬の労務対償性、業務の依頼に応ずべき関係、指揮監督関係などを考慮して判断しています。

 

即ち、労基法上の労働者性の判断基準(使用従属性が中心)と少し異なり、労基法上の労働者より若干労働者の範囲を広げやすい(労働組合法の労働者と認めやすい)解釈を採っているといえます。

最高裁判例の詳細については、労働組合法(労働一般のこちら以下)で学習します。

 

 

・【過去問 労働一般 平成25年問2B】

設問:

プロ野球選手、プロサッカー選手等のスポーツ選手は、労働組合法上の労働者に当たらないため、これらのプロスポーツ選手が労働組合を作っても、団体交渉を行う権利は認められない。

 

解答:

上記の本文の説明の通り、プロ野球選手について、高裁レベルで団体交渉権が認められています。

また、プロサッカー選手についても、上記本文のプロ野球選手についてと同様の考え方により、団体交渉権を認めてよいと解されます(実際に、プロサッカー選手について、平成23年に日本プロサッカー選手会が東京都労働委員会により労働組合と認められました)。

 

 

以上で、労働者性の判断の問題を終わります。次のページでは、事業と適用の範囲の問題を学習します。