2020年度版

 

第1章 保険者(第2条)

§1 保険者

◆労災保険は、政府が、これを管掌します(第2条)。

即ち、労災保険の保険者は、政府です。「管掌」とは、運営するという意味です。

 

【条文】

第2条

労働者災害補償保険は、政府が、これを管掌する。

 

 

§2 事務の所轄

事務の所轄の全体像は、次の図の通りです。

ここは、細かい問題が多く、学習初期の段階ではまだ覚える必要はありません。

ただ、労災保険法全体の学習が終わってから再度見直して頂き、最終的には主要部分は記憶することが必要です。

 

以下、前掲の図の上から2番目の「所轄都道府県労働局長」の事務より説明していきます(なお、同図中の「厚生労働省労働基準局長」の【※】については、あとで触れます)。

 

 

〔1〕所轄都道府県労働局長

2021年度試験 改正事項

◆労働者災害補償保険(「労災保険」)に関する事務(一定の事務(※1)を除きます。以下、「労働者災害補償保険等関係事務」といいます)は、厚生労働省労働基準局長指揮監督を受けて、事業場の所在地を管轄する都道府県労働局長(以下、「所轄都道府県労働局長」といいます)が行います(施行規則第1条第2項本文)。

 

ただし、次の①及び②に掲げる場合は、それぞれに定める者を所轄都道府県労働局長とします(施行規則第1条第2項ただし書)。

 

① 事業場2以上の都道府県労働局の管轄区域にまたがる場合

 

➡ その事業の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県労働局長

 

② 当該労働者災害補償保険等関係事務が複数業務要因災害法第7条第1項第2号)に関するものである場合 ※2

 

➡ 複数事業労働者の2以上の事業のうち、その収入が当該複数事業労働者の生計を維持する程度が最も高いもの(「生計維持事業」といいます)の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県労働局長

 

 

以上を換言しますと、労働者災害補償保険等関係事務のうち、後述の〔2〕の所轄労働基準監督署長が行う事務(下記(こちら)の(A)~(D))以外の事務については、基本的に、所轄都道府県労働局長が行うこととなります。

主として、適用徴収に関する事務です。

保険給付のうち、二次健康診断等給付に関する事務も行います。

 

 

※1「労働者災害補償保険等関係事務」から除外される「一定の事務」とは、「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」(徴収法)、「失業保険法及び労働者災害補償保険法の一部を改正する法律及び労働保険の保険料の徴収等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(昭和44年法律第85号。以下「整備法」といいます)及び「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づく事務並びに厚生労働大臣が定める事務です(施行規則第1条第2項本文)。

 

 

※2 前記の②等は、令和2年9月1日施行の施行規則の改正により追加されたものです。

これは、同改正により、複数事業労働者に関する保険給付を行うこととなったため、事務の所轄についても複数の都道府県労働局及び労働基準監督署が関係する場合が想定されることから、複数業務要因災害に係る事務の所轄は、生計を維持する程度の最も高い事業生計維持事業)の主たる事務所を管轄する都道府県労働局としたものです(業務災害及び通勤災害に係る事務の所轄の取扱いは従来の通りです)。

この場合における、生計を維持する程度の最も高い事業の主たる事務所とは、原則として複数就業先のうち給付基礎日額の算定期間における賃金総額が最も高い事業場を指すとされます(以上、【令和2.8.21基発0821第1号】第1の1(こちら参考))。

(複数業務要因災害については、後にこちらで見ます。)

 

 

※ 都道府県労働局長については、労基法の監督機関のこちら(労基法のパスワード)もご参照下さい。

 

  

※ なお、労災保険法に定める厚生労働大臣権限は、厚生労働省令で定めるところにより、その一部都道府県労働局長に委任することができます(第49条の5)。

この規定に基づき、特別加入者給付基礎日額の決定に係る厚生労働大臣の権限(こちら)(第34条第1項第3号第35条第1項第6号第36条第1項第2号)が都道府県労働局長に委任されています(施行規則第1条第1項)。(詳細は、特別加入者の個所(こちら等)で学習します。)

 

 

【条文】

第49条の5

この法律に定める厚生労働大臣の権限は、厚生労働省令で定めるところにより、その一部を都道府県労働局長に委任することができる。

 

 

 

〔2〕所轄労働基準監督署長

2021年度試験 改正事項

◆労働者災害補償保険等関係事務のうち、次の(A)~(D)の事務は、都道府県労働局長指揮監督を受けて、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長(以下、「所轄労働基準監督署長」といいます)が行います(施行規則第1条第3項本文)。※3

 

(A)保険給付二次健康診断等給付除きます)に関する事務

 

(B)社会復帰促進等事業のうち労災就学等援護費に関する事務(のちにこちらで見ます)

 

(C)社会復帰促進等事業のうち特別支給金の支給に関する事務

 

(D)厚生労働省労働基準局長定める給付に関する事務〔= 休業補償特別援護金(【昭和57.5.26基発第361号】)。社会復帰促進等事業のうちの被災労働者等援護事業の一つです。〕(のちにこちらで見ます) 

 

 

※3 ただし、次の①及び②に掲げる場合は、それぞれに定める者を所轄労働基準監督署長とします(施行規則第1条第3項ただし書)。(こちらと同様の趣旨による令和2年9月1日施行の改正事項です。)

 

① 事業場が2以上の労働基準監督署の管轄区域にまたがる場合

 

➡ その事業の主たる事務所の所在地を管轄する労働基準監督署長

 

② 当該労働者災害補償保険等関係事務が複数業務要因災害に関するものである場合

 

➡ 生計維持事業主たる事務所の所在地を管轄する労働基準監督署長 

 

 

※ なお、労働基準監督署長については、労基法の監督機関のこちらもご参照下さい。 

 

 

【施行規則】

 

※ 次の施行規則第1条のうち、第2項及び第3項が、上記の事務の所轄に関する規定です。

 

第1項は、「特別加入者の給付基礎日額〔=特別加入者に係る保険給付の額を算定する基礎となる日額のことです〕を決定する厚生労働大臣の権限、及び厚生労働大臣が労災保険法の施行に関し関係行政機関又は公私の団体に対し資料の提供その他必要な協力を求めることができる権限は、都道府県労働局長に委任される」という規定ですが、現段階では、後回しにして下さい(前者については、特別加入者の個所で検討します)。 

 

※ 本条は、令和2年9月1日施行の改正(【令和2.7.17厚生労働省令第141号】第1条)により改められました(次は、読まなくて結構です)。

〔即ち、同条第2項柱書中、従来、「事務を除く。」とあった下に、「以下「労働者災害補償保険等関係事務」という。」が追加され、従来、「都道府県労働局長」とあった次の「(事業場が2以上の都道府県労働局の管轄区域にまたがる場合には、その事業の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県労働局長)」が削除され、従来、「行う。」とあった下に、後掲のただし書及び第1号第2号が新設されました。

同条第3項中、従来、「前項の事務」とあったのが、「労働者災害補償保険等関係事務」に改められ、従来、「労働基準監督署長」とあった次の「(事業場が2以上の労働基準監督署の管轄区域にまたがる場合には、その事業の主たる事務所の所在地を管轄する労働基準監督署長)」が削除され、同項の下に、後掲のただし書並びに第1号及び第2号が追加されました。〕

 

 

施行規則第1条(事務の所轄)

 

1.労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号。以下「法」という。)第34条第1項第3号〔=特別加入者である中小事業主等に係る給付基礎日額の決定(法第36条第1項第2号〔=特別加入者である海外派遣者に係る給付基礎日額の決定〕において準用する場合を含む。)、第35条第1項第6号〔=特別加入者である一人親方等に係る給付基礎日額の決定〕及び第49条の3第1項〔=「厚生労働大臣は、この法律の施行に関し、関係行政機関又は公私の団体に対し、資料の提供その他必要な協力を求めることができる」〕に規定する厚生労働大臣の権限は、都道府県労働局長に委任する。ただし、法第49条の3第1項の規定による権限は、厚生労働大臣が自ら行うことを妨げない。

 

2.労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)に関する事務(労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号。以下「徴収法」という。)、失業保険法及び労働者災害補償保険法の一部を改正する法律及び労働保険の保険料の徴収等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(昭和44年法律第85号。以下「整備法」という。)及び賃金の支払の確保等に関する法律(昭和51年法律第34号)に基づく事務並びに厚生労働大臣が定める事務除く。以下「労働者災害補償保険等関係事務」という。)は、厚生労働省労働基準局長指揮監督を受けて、事業場の所在地を管轄する都道府県労働局長(以下「所轄都道府県労働局長」という。)が行う。ただし、次の各号に掲げる場合は、当該各号に定める者を所轄都道府県労働局長とする。

 

一 事業場が2以上の都道府県労働局の管轄区域にまたがる場合

 

 その事業の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県労働局長

 

二 当該労働者災害補償保険等関係事務が法第7条第1項第2号に規定する複数業務要因災害に関するものである場合

 

 同号に規定する複数事業労働者の2以上の事業のうち、その収入が当該複数事業労働者の生計を維持する程度が最も高いもの次項第2号及び第2条の2において「生計維持事業」という。)の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県労働局長

 

3.労働者災害補償保険等関係事務のうち、保険給付二次健康診断等給付除く。)並びに社会復帰促進等事業のうち労災就学等援護費及び特別支給金の支給並びに厚生労働省労働基準局長が定める給付に関する事務は、都道府県労働局長の指揮監督を受けて、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長(以下「所轄労働基準監督署長」という。)が行う。ただし、次の各号掲げる場合は、当該各号に定める者を所轄労働基準監督署長とする。

 

一 事業場が2以上の労働基準監督署の管轄区域にまたがる場合

 

 その事業の主たる事務所の所在地を管轄する労働基準監督署長

 

二 当該労働者災害補償保険等関係事務が法第7条第1項第2号に規定する複数業務要因災害に関するものである場合

 

 生計維持事業主たる事務所の所在地を管轄する労働基準監督署長 

 

 

※ 次の施行規則第2条の2は、令和2年9月1日施行の改正(【令和2.7.17厚生労働省令第141号】第1条)により新設されました。

本条は、業務災害に係る事務を所轄する都道府県労働局(以下、ここでは「局」といいます)又は労働基準監督署(以下、ここでは「署」といいます)と複数業務要因災害に係る事務を所轄する局又は署が異なる場合、業務災害に係る事務を所轄する局又は署において保険給付に係る調査を優先して行う仕組みとされているため、複数業務要因災害に係る事務を所轄する局又は署の事務の全部又は一部を、業務災害に係る事務を所轄する局又は署に委嘱することができることとした趣旨です。

 

 

施行規則第2条の2(事務の委嘱) 

第1条第2項第2号に掲げる都道府県労働局長及び同条第3項第2号に掲げる労働基準監督署長は、次に定めるところにより、同条第2項第2号及び第3項第2号に掲げる労働者災害補償保険等関係事務の全部又は一部を他の都道府県労働局長及び労働基準監督署長に委嘱することができる。

 

一 生計維持事業の主たる事務所の所轄都道府県労働局長と他の事業の主たる事務所の所轄都道府県労働局長が異なる場合、生計維持事業の主たる事務所の所轄都道府県労働局長は、事務の全部又は一部を他の事業の主たる事務所の所轄都道府県労働局長に委嘱することができる。

 

二 前号の規定による委嘱を受けた所轄都道府県労働局長の事務のうち、第1条第3項の事務は、当該所轄都道府県労働局長の指揮監督を受けて、所轄労働基準監督署長が行う。

 

三 生計維持事業の主たる事務所の所轄都道府県労働局長と他の事業の主たる事務所の所轄都道府県労働局長が同一である場合、生計維持事業の主たる事務所の所轄労働基準監督署長は、事務の全部又は一部を他の事業の主たる事務所の所轄労働基準監督署長に委嘱することができる。

 

 

 

〔3〕厚生労働省労働基準局長

◆厚生労働省労働基準局長が行う労災保険に関する事務には、以下のようなものがあります(基準を定めます)。前掲の図(こちら)の【】の部分です。

 

以下は、まだ学習していない事項であり、しかも、かなり細かいです。本来は、労災保険法の全体を学習し終えてから、学習すべき事項です。

さしあたっては、それぞれの個所を学習する際に、ここに記載があったことを思い出せる程度に把握して頂ければ大丈夫です。

しかし、2~5は、最終的には記憶することが必要です。

 

なお、厚生労働省労働基準局長(労働基準主管局長)については、労基法の監督機関のこちらでも触れました。

 

 

1 給付基礎日額について、厚生労働省労働基準局長定める基準に従って算定する額とする場合(施行規則第9条第1項施行規則第9条の2の2第3号)。

 

次の場合が規定されています(以下、詳しい内容は、給付基礎日額の個所(上記リンク先)で学習し、ここでは要点のみ記載します。前提知識から記憶することが必要であり、断片的知識を記憶しますと混乱も生じますので、ここでは記憶・暗記しないで下さい)。

 

(1)一般の給付基礎日額の場合

 

(ⅰ)船員につき変動する賃金がある場合(施行規則第9条第1項第3号)。

 

(ⅱ)施行規則第9条第1項第1号~第3号(= 私傷病休業者の特例、じん肺患者の特例及び上記(ⅰ)の船員の変動賃金の特例)に定めるほか、平均賃金に相当する額給付基礎日額とすることが適当でないと認められる場合(施行規則第9条第1項第4号)。

 

この(ⅱ)は、具体的には、通達により、次の(ア)と(イ)が定められています。

 

(ア)看護休業者の特例(【昭和52.3.30基発第192号】)。

 

(イ)振動障害患者の特例(【昭和57.4.1基発第219号】)。

 

2021年度試験 改正事項

(2)複数事業労働者に係る給付基礎日額の場合

 

複数事業労働者を使用する事業ごとに算定した給付基礎日額に相当する額を合算した額を給付基礎日額とすること(これが原則です)が適当でないと認められる場合(第8条第3項施行規則第9条の2の2こちら

 

 

2 遺族(補償)給付(年金又は一時金)に係る生計維持の認定の基準施行規則第14条の4こちら

 

 

3 事業主からの費用徴収の額の基準施行規則第44条。 こちら

 

 

【施行規則】

施行規則第44条(事業主からの費用徴収)

法第31条第1項〔=事業主からの費用徴収〕の規定による徴収金の額は、厚生労働省労働基準局長が保険給付に要した費用、保険給付の種類、徴収法第10条第2項第1号(徴収法のパスワード)の一般保険料の納入状況その他の事情を考慮して定める基準に従い所轄都道府県労働局長が定めるものとする。

 

 

◆事業主が労災保険に係る保険関係成立届を提出しない期間中に生じた事故等、事業主に帰責性がある一定の場合には、政府は事業主から保険給付に要した費用を徴収できますが(事業主からの費用徴収といいます。第31条第1項)、この事業主からの費用徴収の額については、厚労省労働基準局長定める基準に従い所轄都道府県労働局長定めます

 

ここでは、労働基準局長と所轄都道府県労働局長の両者が登場するため、注意です。ゴロ合わせにより覚えます。

 

※【ゴロ合わせ】

・「事業主からの費用徴収はダブル局長

→「事(=「2」)、業主からの費用徴収」として「2」を連想し、「ダブル」局長と思い出します。

 

 

4 ボーナス特別支給金算定基礎年額の特例特別支給金規則第6条第1項ただし書第2項ただし書こちら以下

 

◆特別給与の総額を算定基礎年額とすることが適当でないと認められるときは、厚生労働省労働基準局長が定める基準に従って算定する額を算定基礎年額とします。

 

即ち、社会復帰促進等事業のうちの被災労働者等援護事業の一つとして特別支給金の制度があり、この特別支給金には、一般の特別支給金とボーナス特別支給金があります。

ボーナス特別支給金は、賞与等の特別給与(=3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金のこと)の総額を基礎として算定された額(算定基礎年額といいます)に基づいて支給されます。

そして、この算定基礎年額は、原則として、負傷・発病日以前1年間に支払われた特別給与の総額としますが(支給金規則第6条第1項本文。なお、複数事業労働者に係る算定基礎年額は、原則として、当該複数事業労働者を使用する事業ごとに算定した算定基礎年額に相当する額を合算した額とします(支給金規則第6条第2項本文))、この特別給与の総額を算定基礎年額とすることが適当でないと認められる場合に、厚生労働省労働基準局長が定める基準に従って算定する額を算定基礎年額とします(同条第1項ただし書同条第2項ただし書)。

 

 

5 特別加入者業務災害複数業務要因災害通勤災害認定の基準

 

◆特別加入者に係る業務災害、複数業務要因災害及び通勤災害の認定は、厚生労働省労働基準局長が定める基準によって行います第37条施行規則第46条の26こちら以下

 

※【ゴロ合わせ】

・「ニートは、特別の基準で

→「ニート(業務災害等の「認定」)は、特別(=「特別」加入者)の基準で(=厚労省労働「基準」局長が定める基準)」

 

2020年度試験 改正事項】 

6 社会復帰促進等事業に関する基準の設定等

 

その他に、厚生労働省労働基準局長は、社会復帰促進等事業について、基準や要件の設定等を行います。

この点、社会復帰促進等事業のうち、従来、通達(要綱等を含みます)のみで事業内容を定めていたもののうち、処分性を有する事業(行政処分に該当するもの)について、令和2年4月1日施行の改正(【令和2.3.31厚生労働省令第70号】第1条)により、施行規則に根拠規定が明記されました。

これらの施行規則上の根拠規定において、厚生労働省労働基準局長が当該社会復帰促進等事業に関する基準や要件の設定等を行う旨が定められているものが多いです。

詳細は、のちにこちら以下で見ます。

   

 

以上で、事務の所轄について終わります。

これにて、主体の保険者の問題は終了です。次のページにおいて、適用労働者の問題を学習します。