令和6年度版

 

序論 労災保険法の目的、体系

§1 労災保険法の目的、趣旨

令和3年度試験 改正事項】

 

1 労働者災害補償保険法(以下、「労災保険法」ないし「労災法」といいます)は、業務上の事由事業主が同一人でない2以上の事業に使用される労働者(以下、「複数事業労働者」といいます)の2以上の事業の業務要因とする事由又は通勤による労働者の負傷疾病障害死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて社会復帰促進等事業を実施するものです(第1条参照)。

 

労災保険法(【昭和22.4.7法律第50号】)は、昭和22年4月7日に労基法とともに公布され、同年9月1日からともに施行されました。

 

2 労災保険法は、元来、労災保険制度を定めることにより、労基法使用者の災害補償責任を実効化させようとしたものです。

即ち、労災保険制度は、労基法の使用者の災害補償責任を実効化させるために保険制度化されたものです。

 

このことは、第12条の8第2項労災保険法のパスワード。後にこちら学習します)が、業務災害に関する保険給付は労基法に規定する災害補償の事由が生じた場合に行うことを原則とする旨を定めていること、また、労基法第84条第1項労基法のパスワード。労基法のこちら以下が、労基法の災害補償の事由について、労災保険法に基づいて災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである場合は、使用者は災害補償責任を免除されるとしていることなどからもうかがえます。

 

つまり、労基法の災害補償制度労基法第75条~第88条)に基づいて、業務災害について、使用者には無過失の災害補償責任が生じますが、これにより使用者は重い負担を負うこと(使用者のリスク軽減の必要性)、また、実際は、使用者の無資力等により被災労働者等(被災労働者、その遺族又は葬祭を行う者をいいます)の迅速で充分な救済が図られないおそれもあること(被災労働者等の保護の必要性)等を考慮して、使用者保険料を拠出し、政府管掌運営)する災害保険制度とすることにより、労基法の災害補償責任を実効化させようとしたものが労災保険の制度です。

 

そして、当初、労災保険制度は、このように労基法の災害補償制度に対応した災害保険制度でしたが、その後、労災保険制度の内容の充実が図られ、現在は、労災保険制度は労基法の災害補償制度を大きく上回る内容の保険制度となっています。

 

労基法の災害補償制度と労災保険法の労災保険制度の細かな違いについては、後述します(こちら)。

 

なお、令和2年9月1日施行の改正により、前記の労災保険法の目的(第1条)において、「事業主が同一人でない2以上の事業に使用される労働者(「複数事業労働者」)の2以上の事業の業務を要因とする事由」という保険事故が追加されました。

詳しくは、こちらで見ます。

 

 

※ 以上の労災保険制度の趣旨(労基法の災害補償責任との関係)については、【学校法人専修大学事件=最判平成27年6月8日】判決においても、次のように判示されています。(詳細は、労基法の解雇制限期間のこちら以下をご覧下さい。)

 

「労災保険法は、業務上の疾病などの業務災害に対し迅速かつ公正な保護をするための労働者災害補償保険制度(以下『労災保険制度』という。)の創設等を目的として制定され、業務上の疾病などに対する使用者の補償義務を定める労働基準法と同日に公布、施行されている。業務災害に対する補償及び労災保険制度については、労働基準法第8章が使用者の災害補償義務を規定する一方、労災保険法12条の8第1項が同法に基づく保険給付を規定しており、これらの関係につき、同条〔=労災保険法第12条の82項が、療養補償給付を始めとする同条1項1号から5号までに定める各保険給付〔=業務災害に関する労災保険法の保険給付(傷病補償年金と介護保障給付を除きます)〕は労働基準法75条から77条まで〔労基法のパスワード〕79条及び80条において使用者が災害補償を行うべきものとされている事由が生じた場合に行われるものである旨を規定し、同法84条1項が、労災保険法に基づいて上記各保険給付が行われるべき場合には使用者はその給付の範囲内において災害補償の義務を免れる旨を規定するなどしている。また、労災保険法12条の8第1項1号から5号までに定める上記各保険給付の内容は、労働基準法75条から77条まで79条及び80条の各規定に定められた使用者による災害補償の内容にそれぞれ対応するものとなっている。

 

上記のような労災保険法の制定の目的並びに業務災害に対する補償に係る労働基準法及び労災保険法の規定の内容等に鑑みると、業務災害に関する労災保険制度は、労働基準法により使用者が負う災害補償義務の存在を前提として、その補償負担の緩和を図りつつ被災した労働者の迅速かつ公正な保護を確保するため、使用者による災害補償に代わる保険給付を行う制度であるということができ、このような労災保険法に基づく保険給付の実質は、使用者の労働基準法上の災害補償義務政府が保険給付の形式で行うものであると解するのが相当である(最高裁昭和50年(オ)第621号同52年10月25日第3小法廷判決・民集31巻6号836頁参照)。このように、労災保険法12条の8第1項1号から5号までに定める各保険給付は、これらに対応する労働基準法上の災害補償に代わるものということができる。」 

 

 

3 なお、労働災害に対する対応という観点からみますと、主として、労働災害の予防(事前的な対応)を図るものが労働安全衛生法であり、主として、労働災害が発生した場合の事後的な対応を図るものとして、民事上の損害賠償制度があるほか、労基法の災害補償制度と労災保険法の労災保険制度が設けられているということになります(荒木「労働法」第5版271頁(第4版257頁、初版194頁)、野川「労働法」717頁、727頁、水町「詳解労働法」第2版795頁(初版772頁)など参考)。 

 

 

 

 

§2 労災保険法の体系・全体構造

労災保険法の体系・全体構造について、下の図でざっと見てみます。

細かな内容はまだ不要ですが、「主体」、「客体」、「事業」(そして、「事業」として「保険給付」と「社会復帰促進等事業」があること)、「費用(財政)」及び「その他」という大きな視点で整理できることを押さえておかれると、頭の整理に役立ちます。

この「主体」、「客体」、「事業(保険給付等)」等による整理は、その他の保険法の科目でも基本的に共通します。

また、そのあとに掲載しています「保険給付の体系」の図(こちら)も、他の保険法の科目でも基本的に共通します。

 

 

 

 

○ 保険給付については、各保険給付ごとに、次の体系に沿って考えていきます。

 

○ 以下、主体、客体、事業及び費用(財政)について、ごく大まかな概観だけ見ておきます。

 

〔Ⅰ〕 主体

労災保険制度は、労基法の使用者の災害補償責任を実効化するために保険制度化されたものであり、政府保険者となり、事業主保険料拠出して、被災労働者(ないしその遺族又は葬祭を行う者)が保護の対象となります。

 

そして、労災保険制度においては、被保険者という概念はないことに注意です(この点で、他の保険制度と異なります)。

被災労働者等が保険給付を受けて保護されるのですが、事業主(保険加入者です)も、保険料を拠出して労基法の災害補償責任のリスクを回避できるという点で被保険者性が認められるからとできます。

 

 

 

〔Ⅱ〕客体

労災保険の対象(保険事故等)に関する問題です。

 

〔1〕労災保険の事業

 

前提として、労災保険の事業の構造をつかまないと、わかりにくいです。

労災保険の事業は、大きく、保険給付社会復帰促進等事業に分かれます(詳しくは、すぐ後で見ます)。

このうち、保険給付については、「業務災害に関する保険給付」、「複数業務要因災害に関する保険給付」及び「通勤災害に関する保険給付」並びに「二次健康診断等給付」があります。

「複数業務要因災害に関する保険給付」については、すぐ後で見ます。

 

「業務災害、複数業務要因災害又は通勤災害に関する保険給付」の保険事故(保険給付の対象となる事故のことです)は、業務上の事由複数事業労働者事業主が同一人でない2以上の事業に使用される労働者のことです)の2以上の事業業務要因とする事由又は通勤による労働者の負傷疾病障害及び死亡です。

 

二次健康診断等給付の場合は、業務上の事由による脳血管疾患心臓疾患に係る異常の所見の診断が保険事故となります(二次健康診断等給付は、業務上の事由による脳血管疾患及び心臓疾患の発生を予防するための保険給付であり(第26条参考)、予防給付であるという点で、発症後(事故後)の事後的な補償を図る業務災害、複数業務要因災害又は通勤災害に関する保険給付と異なります)

 

 

 

〔2〕業務災害と通勤災害

 

業務災害又は通勤災害に関する保険給付の支給要件においては、業務災害(労働者の業務上の事由による負傷、疾病、障害若しくは死亡)又は通勤災害(労働者の通勤による負傷、疾病、障害若しくは死亡)が発生することが必要です。

 

業務災害にあたるかどうかは、一般に、業務遂行性(労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態であること)と業務起因性(当該業務と傷病等との間に相当因果関係があること)により判断されています。

 

通勤災害にあたるかどうかも、業務災害の場合とパラレルに考えて、通勤遂行性(「通勤」にあたること。第7条第2項が「通勤」の要件(定義)を定めています。即ち、通勤とは、労働者が、就業に関し、一定の移動を、合理的な経路又は方法により行うことをいいます)と通勤起因性(当該通勤と傷病等との間に相当因果関係があること)により判断すればよいこととなります。 

 

 

〔3〕複数業務要因災害(複数事業労働者)

令和3年度試験 改正事項】

 

令和2年9月1日施行の改正(【令和2.3.31法律第14号】。「雇用保険法等の一部を改正する法律」第2条)により、複数事業労働者事業主が同一人でない2以上の事業に使用される労働者第1条)に対する労災保険による保護が強化されました。

複数事業労働者(副業、兼業等)の増加(促進)を背景とした改正です。

 

 

1 複数業務要因災害に関する保険給付

 

まず、複数事業労働者2以上の事業業務要因とする負傷、疾病、障害又は死亡が「複数業務要因災害」とされ(第7条第1項第2号)、この「複数業務要因災害に関する保険給付」が新設されました(第20条の2等)。

 

複数業務要因災害は、2以上の事業の業務が要因となって初めて傷病等との因果関係が認められる場合一つの事業の業務のみでは傷病等との因果関係が認められない場合)を意味します(複数業務要因災害も、「業務に関する傷病等」であるという点では業務災害の1種とはいえますが、複数の事業の業務上の負荷を総合して初めて因果関係が認められる場合であるため、従来の「業務災害に関する保険給付」ではカバーされない類型であることから、新設されたものです。条文上、複数業務要因災害に関する保険給付からは、第7条第1項第1号の「業務災害に関する保険給付」は除かれています(第7条第1項第2号かっこ書))。

 

即ち、労災保険制度では、前述の通り、通勤災害等を除き、労働基準法に規定する使用者の災害補償責任の事由が生じた場合に保険給付が行われます。

そこでは、業務災害が発生した事業場ごとに業務起因性(業務上の事由と災害との相当因果関係)の判断が行われるものであり、使用者が実質的に同一である場合を除き、使用者が異なる複数の事業場における業務上の事由を合わせて因果関係を判断する取扱いはなされていなかったのです。

そのため、今般の改正により、被災労働者等の保護を重視する見地から、新たに「複数業務要因災害に関する保険給付」が創設されたものです(副業、兼業等の増加等が背景となっています)。

例えば、就業先Aと就業先Bで使用される労働者について、それぞれの就業先における労働時間は時間外労働には該当しませんが、両者の労働時間を合算しますと長時間の時間外労働に該当し、この長時間労働に起因して脳・心臓疾患や精神障害を発症したようなケースに対応するものです。

 

ただし、労基法の災害補償責任については、従来の取扱いと同様であり、一つの事業の業務のみでは傷病等との因果関係が認められない場合には、いずれの就業先の使用者も、災害補償責任を負担しません。

無過失責任である災害補償責任を、事業主の業務単独では起因しない災害について認めることは妥当ではないからです。

また、徴収法においても、労働保険料の負担の公平性に鑑み、「複数業務要因災害に関する保険給付」の額は、当該2以上の事業場が属する業種の労災保険率(徴収法のこちら以下(徴収法のパスワード))や当該事業場のメリット収支率(徴収法のこちら以下)には反映されません。

 

 

以上のとおり、複数業務要因災害は、複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする傷病等であり、2以上の事業の業務と傷病等の因果関係の問題(それぞれの事業の業務については傷病等との因果関係が認められないが、当該複数の事業の業務を総合すれば因果関係が認められること)を考慮して、複数業務要因災害に関する保険給付が新設されたものです(保険給付及びその支給要件が焦点となっています)。

のちにご紹介しますが(こちら以下)、複数業務要因災害に関する保険給付として、例えば、「複数事業労働者療養給付」、「複数事業労働者休業給付」といった個別の保険給付が定められています。

 

 

2 複数事業労働者に係る給付基礎日額 

 

次に、複数事業労働者に係る給付基礎日額について、複数の事業ごとに算定した給付基礎日額相当額を合算して算定することとなりました(従って、災害が発生してない事業場で支払われる賃金も合算して給付基礎日額が算定されます)。

これは、「複数業務要因災害に関する保険給付」だけでなく、「複数事業労働者に係る業務災害及び通勤災害に関する保険給付」においても同様であることに注意です。

即ち、複数事業労働者業務上の事由複数事業労働者2以上の事業の業務を要因とする事由又は複数事業労働者通勤による傷病等により保険給付が行われる場合の給付基礎日額は、原則として、当該複数事業労働者を使用する事業ごとに算定した給付基礎日額に相当する額を合算した額を基礎として算定するものとされました(第8条第3項施行規則第9条の2の2)。

 

例えば、就業先Aと就業先Bで使用される労働者が、就業先Bの業務に起因して負傷し、当該負傷により就業先Aにおいても休業の必要が生じた場合は、労災保険法は就業先Bで発生した災害に係る使用者の労基法上の災害補償責任を担保する基本的性格を有するため、従来は、療養(補償)給付等を除いて、就業先Bの使用者から被災労働者に支払われていた賃金のみに基づき算定される「給付基礎日額」等により給付額が決定されていました。

しかし、被災労働者にとっては、就業先Bにおいて被災(休業)すれば、通常、就業先Aにおいても就業できなくなりますから、就業先Aからの賃金も得られなくなり、従来の仕組みでは、被災労働者の所得保障に欠けるおそれがあります。

そこで、複数事業労働者(副業、兼業等)の増加(促進)を見据えて、労働者の稼得能力や遺族の被扶養利益の喪失の填補という労災保険制度の目的を十分に実現する見地から、複数事業労働者に関する保険給付に係る給付基礎日額については、業務災害、複数業務要因災害及び通勤災害のいずれの場合においても、複数事業労働者を使用するすべての事業ごとに算定した給付基礎日額相当額を合算した額を基礎として給付基礎日額を算定することとしたものです。

 

ただし、これについても、労基法の災害補償責任については、災害が発生していない事業場(非災害発生事業場)と災害発生事業場の平均賃金相当額が合算されて平均賃金が算定されるようなことはありません(労基法のこちらを参考です)。

また、徴収法において、当該給付基礎日額の合算により上乗せされた保険給付の額は、災害が発生していない事業場が属する業種の労災保険率や当該事業場のメリット収支率には反映されません。

 

 

以上の2は、複数事業労働者に係る給付基礎日額について、複数事業に係る給付基礎日額相当額を合算して判断するという問題であり(先に触れましたように、複数業務要因災害に関する保険給付だけでなく、複数事業労働者に係る通常の業務災害や通勤災害に関する保険給付においても問題となることには注意です)、これは、主に支給額(広くは、効果)に関連する問題といえます。

 

このような大きな視点を持ったうえで、あとは複数事業労働者、複数業務要因災害について細部を見ていきます。

細部については、のちにこちら(複数業務要因災害)、こちら(給付基礎日額)、こちら(保険給付の総論)、こちら(複数事業労働者療養給付)など個々の個所で見ます。 

 

 

 

〔Ⅲ〕 事業

労災保険の事業は、前述の通り、大きくは、保険給付と社会復帰促進事業等に分かれます。

すぐあとの目的条文の個所で、やや詳しく見ます。

 

 

 

〔Ⅳ〕 費用(財政)

労災保険の保険料は、全額事業主負担し、労働者負担しません

労災保険制度が、元来、労基法の使用者の災害補償責任を実効化させるための保険制度(事業主は、これにより災害補償責任のリスクを免れます)であることによります。

 

 

 

§3 労災保険法の目的

令和3年度試験 改正事項

続いて、労災保険法の目的条文(第1条)を学習します。とても重要です。

まず、次の第1条を熟読して下さい。

 

【条文】

 

※ 次の第1条は、令和2年9月1日施行の改正(【令和2.3.31法律第14号】。「雇用保険法等の一部を改正する法律」第2条)により改められています。

〔即ち、同条中、従来、「又は通勤による」とあったのが、「、事業主が同一人でない2以上の事業に使用される労働者(以下「複数事業労働者」という。)の2以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による」に、従来、「又は通勤により」とあったのが、「、複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤により」に改められました。〕 

 

なお、以下でも、このように条文の上部又は下部において小文字で当該条文の改正内容等を詳細に記載していますが(新旧対照表を掲載していることもあります)、このような部分はお読み頂く必要はありません。

 

第1条

労働者災害補償保険は、業務上の事由事業主が同一人でない2以上の事業に使用される労働者(以下「複数事業労働者」という。)の2以上の事業の業務要因とする事由又は通勤による労働者の負傷疾病障害死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由、複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。

 

 

【選択式 平成13年度 A=「通勤」、B=「保険給付」、C=「社会復帰の促進」、D=「労働者の安全及び衛生の確保(補正)」(こちら)】/

【選択式 平成22年度 A=「社会復帰」、B=「安全及び衛生」(こちら)】

 

このように、選択式として、「社会復帰」(平成13年度の「労働者の安全及び衛生の確保」については、出題当時は改正前の別の文言でした)というキーワードが2度出題されています。

前回は、平成22年度に出題されていますが、複数事業労働者に関する改正もあり、そろそろ再出題の危険性があります(「迅速かつ公正」や「福祉の増進」といったキーワードにも注意です)。

 

 

○趣旨

 

この第1条は、労災保険法の目的を表した条文です(目的条文といいます)。

本条が労災保険法の全体像を言い表しており、労災保険法の全体構造を把握するために役に立つ条文でもあります。

上記の太字のキーワードをすべて覚える必要があります。 

 

ポイントは、以下の通りです。 

 

 

 

〔1〕事業の全体像

労災保険法の事業は、前掲(こちら)の図の通り、保険給付とその他の事業(社会復帰促進等事業)からなります(概観は前記の通りですが、ここでは条文を中心にざっと見ます)。

 

次の第2条の2が、労災保険の事業について規定しています。

 

 

【条文】

 

※ 次の第2条の2は、令和2年9月1日施行の改正(【令和2.3.31法律第14号】。「雇用保険法等の一部を改正する法律」第2条)により改められています。

〔即ち、同条中、従来、「業務上の事由」とあった下に、「、複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする事由」が追加されました。〕 

 

第2条の2

労働者災害補償保険は、第1条の目的を達成するため、業務上の事由複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に関して保険給付行うほか、社会復帰促進等事業を行うことができる

 

【選択式 平成13年度 E=「社会復帰促進等事業(補正)」(こちら)】

 

 

〈1〉保険給付

 

保険給付については、「業務災害、複数業務要因災害及び通勤災害に関する保険給付」と「二次健康診断等給付」に大きく分かれます(第7条第1項)。

 

 

【条文】

 

※ 次の第7条は、令和2年9月1日施行の改正(【令和2.3.31法律第14号】。「雇用保険法等の一部を改正する法律」第2条)により改められています。

〔即ち、同条第1項中、第3号を第4号とし、第2号を第3号とし、第1号の次に後掲の1号〔=第2号〕が追加されました。

また、同条第2項中、従来、「前項第2号」とあったのが、「前項第3号」に改められ、第3項中、従来、「第1項第2号」とあったのが、「第1項第3号」に改められました。〕  

 

第7条

1.この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする。

 

一 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付

 

二 複数事業労働者これに類する者として厚生労働省令〔=施行規則第5条〕で定めるものを含む以下同じ。)の2以上の事業の業務要因とする負傷、疾病、障害又は死亡(以下「複数業務要因災害」という。)に関する保険給付前号に掲げるものを除く。以下同じ。)

 

三 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付

 

四 二次健康診断等給付

 

 

〔※ 次の第2項以下は、通勤災害に関する規定です。のちにこちら以下で見ます。〕

 

 

2.前項第3号通勤とは、労働者が、就業に関し次に掲げる移動を、合理的経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。

 

一 住居就業の場所との間の往復

 

二 厚生労働省令〔=施行規則第6条で定める就業の場所から他の就業の場所への移動

 

三 第1号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令〔=施行規則第7条〕で定める要件に該当するものに限る。)

 

 

3.労働者が、前項各号に掲げる移動の経路逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後同項各号に掲げる移動は、第1項第3号通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令〔=施行規則第8条〕で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除きこの限りでない。 

 

 

 

一 業務災害・複数業務要因災害・通勤災害に関する保険給付

 

業務災害、複数業務要因災害及び通勤災害に関する保険給付(保険給付のうち、二次健康診断等給付は除外しておきます)については、健康保険との違いに注意です。

 

即ち、労災保険の場合は、業務上の事由複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による負傷、疾病、障害、死亡について保険給付を行いますが(つまり、業務災害、複数業務要因災害又は通勤災害を対象とします。なお、複数業務要因災害も業務災害の変形・修正ではあり、この一の健康保険との違いにおける記載では、便宜上、業務災害と複数業務要因災害をまとめて業務災害(複数業務要因災害)と表現しておきます)、健康保険の場合は、基本的には、業務外の事由による疾病、負傷、死亡又は出産に関して保険給付を行うものです。

つまり、健康保険も労災保険も、ともに事業(ないし適用事業所)に使用される労働者(被用者)を対象とする社会保険制度ですが(被用者保険制度とか職域保険制度といわれます。対して、国民健康保険は、健康保険の被保険者等には適用されない非・被用者保険制度です。地域保険制度ともいわれます)、

そのうち、労災保険の保険給付は、業務災害(複数業務要因災害)と通勤災害を対象とするのに対して、健康保険の保険給付は、基本的には、業務外の災害を対象とする点が異なります。※1

 

なお、通勤災害は、本来は、業務災害ではなく、業務外の災害なのですが(事業主の支配下において生じた災害とは評価されていません。従って、元々は健康保険の対象でした)、通勤は労働の提供に随伴するものであり、業務との関連性はあること(また、通勤途中の災害も増加していたこと)などから、昭和48年の労災保険法の改正により労災保険の保険給付の対象として追加されたものです。

 

 

 

※1 健康保険法との関係:

 

ところで、平成25年に健康保険法の第1条(目的条文)が改正され、健康保険法と労災保険法の適用関係が修正されました(平成25年10月1日施行)。

 

即ち、従来は、健康保険法は、労働者の業務の事由による傷病等(及びその被扶養者の傷病等)を対象としていましたが、改正により、健康保険法は「労働者又はその被扶養者の業務災害労働者災害補償保険法第7条第1項第1号に規定する業務災害〔=労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡〕をいう)以外」の傷病等を対象とするものと改められました。

これは、労災保険法の業務災害にあたらない傷病等は健康保険法の対象とするものであり、労災保険法で保護されない場合を健康保険法の対象としようとする趣旨です。

 

具体的には、例えば、健康保険の被保険者が、副業で行った請負の業務で負傷した場合(シルバー人材センターの会員の請負契約による就業中の負傷など)やインターンシップで負傷した場合など、健康保険の被保険者又はその被扶養者の業務上の傷病等について、労災保険法からも健康保険法からも給付がなされない事態が生じうるといった問題を解決するためになされた改正です。

 

即ち、例えば、健康保険の被保険者が副業で行った請負業務のケースは、実質的に請負関係であるときは、当該請負人は「労働者」(使用従属関係・指揮命令関係にある者)にはあたりませんから、労災保険法は適用されません。

また、健康保険法の適用対象は、従来、労働者(なお、健康保険法の労働者は、代表取締役も含まれるなど、労基法等の労働者より広義です)の「業務の事由による」傷病等であったため(改正前健康保険法第1条)、業務遂行中(業務遂行性及び業務起因性あり)の負傷等については、健康保険法の適用もないこととなり、被災者の保護に欠けるおそれがありました。

そこで、このように労災保険法で保護されない傷病等については、健康保険法により保護しようとしたものです。

 

なお、通勤災害(第7条第1項第3号)や複数業務要因災害(第7条第1項第2号)は、健保法第1条の文言上、健康保険の保険事故に含まれています。

ただし、給付の過剰を防止する見地から、同一の傷病、死亡について、健康保険法による保険給付と労災保険法による保険給付等が競合する場合には、健康保険法による保険給付は行われない旨の健康保険法の規定があるため(健保法第55条第1項(健保法のパスワード))、労災保険法で保護される通勤災害や複数業務要因災害については、健保法による保険給付は行われません。

 

詳細は、健康保険法の「目的」の個所(健康保険法のこちら以下)で説明します。

 

 

 

※2 保険給付の体系:

 

参考までに、業務災害、複数業務要因災害及び通勤災害に関する保険給付の体系表と体系図を掲載しておきます(まだ覚えなくて結構です)。詳細は、保険給付の総論(こちら以下)で学習します。

 

なお、業務災害に関する保険給付は、元来は、労基法の使用者の災害補償責任(業務災害に関する責任です)を実効化するために保険制度化されたものですから、保険給付の名称に「補償」と入ります。

対して、通勤災害に関する保険給付は、労基法の災害補償責任とは関係しませんから、名称に「補償」と入りません。

複数業務要因災害に関する保険給付の名称は、「通勤災害に関する保険給付」の名称の先頭に「複数事業労働者」が追加されたものとなります。

複数業務要因災害に関する保険給付も、労基法の災害補償責任を基礎としたものではないため(使用者の事業と直接の因果関係はない災害だからです)、名称に「補償」と入らず、「複数事業労働者A」のAの部分が「通勤災害に関する保険給付」と同じ名称となっていると押さえます。

 

 

 

※ ちなみに、①「業務災害に関する保険給付」と②「通勤災害に関する保険給付」をまとめて表現する場合は、かっこ書をするのが一般です。

例えば、「療養補償給付」と「療養給付」とまとめて表現する場合は、「療養(補償)給付」と表現します(通達上の表現です。なお、条文上は、例えば、特定の規定中において「療養補償給付」と表現されていることがあります)。

「葬祭料」と「葬祭給付」については、「葬祭料(葬祭給付)」と表現することがあります。

 

以上の①及び②に加えて、さらに③「複数業務要因災害に関する保険給付」をまとめて表現する場合は、通達上、例えば、「療養(補償)給付」においては、「療養(補償)給付」と表現されています(【令和2.8.21基発0821第1号】第1の2(3)ア(こちら)を参考)。

例えば、「療養(補償)給付『等』」と表現しますと、「給付」以外のものも含まれてしまう意味となりかねないため、上記のように、「等」を中に入れたようです。

(ただし、前払一時金や差額一時金については、今のところ、まとめて表現する表記方法はないようです。しかし、まとめて表現する方法がありませんと、テキスト上ではわかりにくくなりますので、当サイトでは、例えば、「障害(補償)年金前払一時金」などと表現しています。) 

なお、「葬祭料(葬祭給付)」については、「葬祭料(葬祭給付)」と表現している厚労省のパンフレットがあります。

 

 

以上の略称を含めました保険給付の表は、次の通りです。左側の灰色の部分が略称です。

この「略称」は、法令上の用語ではありませんから、この「略称」が選択式で空欄となるようなことはないでしょうが、覚えておかれると便利です。

ただし、おいおいと自然に覚えられますので、ここで覚えなくて結構です。このような略称が使用されることがあることを知っておいて下さい。

 

 

 

複数業務要因災害に関する保険給付の創設によって、特に、障害に関する保険給付と死亡に関する保険給付の用語がわかりにくくなっています。

①「複数業務要因災害に関する保険給付か」、②「年金一時金か」という2つの視点により整理するとわかりやすいです。

そして、③「業務災害に関する保険給付」と「通勤災害に関する保険給付」は、「補償」という文言の有無により区別します(両者を併せて、例えば「障害(補償)年金」と表現しますが、「障害補償年金」が「業務災害に関する保険給付」であり、「障害年金」が「通勤災害に関する保険給付」です)。

例えば、障害に関する保険給付については、次の図を参考にして下さい(小さい場合はクリックして下さい。死亡に関する保険給付についても、基本的にパラレルであり、「障害」を「遺族」に読み替えます)。

 

 

 

 

次に、労災保険法の保険給付の体系のイメージ図を掲載しておきます。

 

 

 

 

二 二次健康診断等給付

 

前掲の第1条及び第2条の2の「業務上の事由、複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡」の「」とは、二次健康診断等給付における「業務上の事由による脳血管疾患又は心臓疾患に係る異常の所見の診断」のことを指しています。

 

二次健康診断等給付は、過労死等の増加を背景として、業務上の事由による脳血管疾患及び心臓疾患の発症を予防することを目的とする保険給付です(平成12年の労災保険法の改正により創設されました)。

即ち、労働安全衛生法の規定による直近の定期健康診断等において、業務上の事由による脳血管疾患又は心臓疾患の発生にかかわる一定の項目について異常の所見があると診断された場合に、当該労働者の請求に基づき、二次健康診断と特定保健指導を保険給付として行う制度です(第26条~第28条)。

 

予防給付である点が、業務災害、複数業務要因災害又は通勤災害に関する保険給付との大きな違いです。

また、二次健康診断等給付は、「業務上の事由」による脳血管疾患及び心臓疾患の発症の予防を目的とする保険給付であり、従って、業務災害に関連する保険給付なのであり、通勤災害に関連する保険給付ではないことは注意です(即ち、通勤による脳血管疾患等の発症の予防を目的とするものではありません。もっとも、二次健康診断等給付は、「業務上の事由による脳血管疾患及び心臓疾患の発生にかかわる身体の状態に関する検査」(一次健康診断)において異常の所見があると診断されたことが支給要件であり、一次健康診断において異常の所見があれば、それ以上は業務との関連性が支給要件として問われることはありません)。

 

 

以上が、労災保険法の事業のうち、保険給付です。

次に、労災保険法の保険給付以外の事業である「社会復帰促進等事業」の概観を見ます。

 

 

 

〈2〉社会復帰促進等事業

 

社会復帰促進等事業とは、保険給付以外労災保険法の事業であり、具体的には、次の1~3の3つの事業をいいます(第1条第2条の2第29条

 

1.社会復帰促進事業 = 被災労働者の円滑な社会復帰を促進するために必要な事業

 

2.被災労働者等援護事業 = 被災労働者及びその遺族の援護を図るために必要な事業

 

このうち、特に重要なものが、特別支給金の支給に係る事業です。

 

3.安全衛生確保・賃金支払確保等事業 = 労働者の安全衛生の確保、保険給付の適切な実施の確保、賃金の支払の確保等を図るために必要な事業

 

(なお、この3の事業の名称については、単に「安全衛生確保等事業」などとされることも多いです。当サイトでは、賃金支払確保の事業も含んでいることを記憶する観点から、「安全衛生確保・賃金支払確保等事業」とすることがあります。)

 

 

社会復帰促進等事業の3種類は、次のゴロ合わせでも利用して覚えます。

 

※【ゴロ合わせ】

・「復縁で、安心(あんちん)

(恋人と復縁したため、安心です。)

 

→「復(=社会「復」帰促進事業)、縁(=被災労働者等「援」護事業)で、あん・ちん(=「安」全衛生確保・「賃」金支払確保等事業)」 

 

 

以上で、目的条文からみた〔1〕事業の全体像を終わります。続いて、目的条文における「迅速かつ公正な保護」の問題です。

 

 

 

〔2〕迅速かつ公正な保護

第1条(目的条文)では、労災保険は、業務上の事由、複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して「迅速かつ公正な保護」をするため、必要な保険給付等を行う旨を定めていますが、この「迅速かつ公正な保護」の意味は次の通りです。

 

労災保険制度では、事業主が保険料を拠出しますから、保険制度の建前からは、本来は、事業主に保険給付を支給し、これを事業主から被災労働者に対して交付させるという構成も考えられます。

しかし、それでは被災労働者の保護の迅速性に欠けるおそれもありますし、また、事業主による不正等の危険もありうることから、労災保険制度では、直接、被災労働者に対して保険給付を行うこととしています。

これにより、政府が労災保険を管掌することとあいまって、被災労働者等の「迅速かつ公正な保護」が図られるという意味です。

 

以上で、労災保険法の概観、目的等を終えます。

 

 

次に、便宜上、第5条(命令の制定)についても、ここで言及しておきます。

 

 

 

命令の制定(第5条)

次の第5条を一読して下さい。【過去問 平成20年問5E(こちら)】

 

 

【条文】

第5条

この法律に基づく政令及び厚生労働省令並びに労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号。以下「徴収法」という。)に基づく政令及び厚生労働省令(労働者災害補償保険事業に係るものに限る。)は、その草案について、労働政策審議会意見を聞いて、これを制定する。

 

※ 選択式対策として、赤字部分に注意して下さい。

 

 

○趣旨

 

労災保険法及び徴収法に基づく政令及び厚生労働省令の制定について、その立案の公正・適切性の確保と施行の円滑を図るため、労働政策審議会の意見を聴取すべき旨を定めたものです。

 

(1)労働政策審議会とは、厚生労働大臣の諮問に応じて労働政策に関する重要事項を調査審議し、厚生労働大臣等に意見を述べること等の事務を行う独立行政委員会です(厚労省設置法第9条参照)。

労働法の各所で登場します(対して、社会保険の各法においては、社会保障審議会が登場します)。

 

労災保険法の中では、事業主責任災害(使用者行為災害。法附則第64条第2項こちら以下)でも登場し、支給調整基準を厚生労働大臣が定める際に、労働政策審議会の議を経ることが必要です。

 

また、労基法でも登場しました。

即ち、1年単位の変形労働時間制において、厚生労働大臣が労働日数等の限度を定める場合(労基法第32条の4第3項(労基法のパスワード)。こちら)、及び企画業務型裁量労働制において、厚生労働大臣が指針を定める場合(労基法第38条の4第3項こちら)について、労働政策審議会の「意見を聴く」ことが必要です。

【令和元年度試験 改正事項】

高度プロフェッショナル制度において、厚生労働大臣が指針を定める場合についても、同様です(労基法第41条の2第3項 → 企画業務型裁量労働制の同法第38条の4第3項の準用。こちら)。

 

下記の※2(こちら)で、労働政策審議会のまとめの表を掲載しておきます。

 

 

(2)「意見を聞く(聴く)」とは、諮問し、その答申を参考にするという意味であり、当該意見に拘束されるわけではありません。

 

 

 

◯過去問: 

 

・【平成20年問5E】

設問:

労災保険法に基づく政令及び厚生労働省令は、その草案について、労働政策審議会の意見を聞いて、制定される。

 

解答:

正しいです(第5条)。

 

 

なお、労基法においては、次の規定があったことも参考です(労基法のこちら)。

 

労働基準法第113条(命令の制定)

 

「この法律〔=労基法〕に基いて発する命令は、その草案について、公聴会で労働者を代表する者、使用者を代表する者及び公益を代表する者の意見を聴いて、これを制定する。」

 

 

 

※1 労災保険法の災害保険制度と労基法の災害補償制度の主な違い:

労災保険法の災害保険制度労基法の災害補償制度主な違いについて表でまとめておきます(労基法の災害補償の個所でご紹介しました。記憶する必要まではなく、何かのときに参考にして下さい)。

 

 

 

 

※2 労働政策審議会のまとめ:

○過去問:

 

・【選択式 平成13年度(一部補正)】

設問:

次の文は、労働者災害補償保険法第1条及び第2条の2の規定であるが、   の部分を選択肢の中の適当な語句で埋め、完全な文章とせよ。

 

第1条 労働者災害補償保険は、業務上の事由、事業主が同一人でない2以上の事業に使用される労働者(以下「複数事業労働者」という。)の2以上の事業の業務を要因とする事由又は  による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な  を行い、あわせて、業務上の事由、複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする事由又は  により負傷し、又は疾病にかかった労働者の  、当該労働者及びその遺族の援護、  等を図り、もって労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。

 

第2条の2 労働者災害補償保険は、第1条の目的を達成するため、業務上の事由、複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする事由又は  による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に関して  を行うほか、  を行うことができる。

 

選択肢:

①援護措置 ②救済措置 ③業務遂行中の事故 ④業務と関連する事故 ⑤健康回復の促進 ⑥雇用環境の整備の促進 ⑦社会復帰事業 ⑧社会復帰の促進 ⑨就業の促進 ⑩職場復帰の促進 ⑪通勤 ⑫通勤途上の事故 ⑬労働者の安全及び衛生の確保 ⑭保険給付 ⑮保険給付その他の援護 ⑯労働安全衛生事業 ⑰労働環境整備事業 ⑱労働環境の改善 ⑲労働条件の改善の促進 ⑳社会復帰促進等事業

 

 

解答:

 

A=⑪「通勤」(第1条

 

B=⑭「保険給付」(同上)

 

C=⑧「社会復帰の促進」(同上)

 

D=⑬「労働者の安全及び衛生の確保」(同上)

 

E=⑳「社会復帰促進等事業」(第2条の2

 

 

※ なお、出題当時は、空欄のDは「適正な労働条件の確保」が、空欄のEは「労働福祉事業」が正しい内容でした。

その後、平成19年の法改正(【平成19.4.23法律第30号】、同日施行)により、空欄のEの「労働福祉事業」が「社会復帰促進等事業」に改められ、従来の「労働条件確保事業」(空欄のDの「適正な労働条件の確保」に対応していました)が廃止されました。

上記の本問の選択肢については、出題当時の⑬「適正な労働条件の確保」を「労働者の安全及び衛生の確保」に補正しているほか、出題当時の⑳「労働福祉事業」を「社会復帰促進等事業」に補正しています。

 

※ また、令和2年9月1日施行の改正により、第1条及び第2条の2では、「複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする事由」に関する改正事項が追加されている点に要注意です。

 

 

 

・【選択式 平成22年度(一部補正)】

設問:

次の文中の   の部分を選択肢の中の最も適切な語句で埋め、完全な文章とせよ。

 

1 業務災害とは労働者の業務上の事由による、複数業務要因災害とは複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする事由による、通勤災害とは労働者の通勤による、負傷、疾病、傷害又は死亡である。労働者災害補償保険は業務災害、複数業務要因災害又は通勤災害等に関する保険給付を行い、あわせて、被災した労働者の  の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の  の確保等を図り、もって労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。

 

選択肢(本問に関連するもののみ):

①安全及び衛生 ②救済 ⑤社会復帰 ⑥収入 ⑨職場復帰 ⑩生活 ⑬治療 ⑳労働条件

 

 

解答:

 

A=⑤「社会復帰」(第1条

 

B=①「安全及び衛生」(同上)

 

 

次のページからは、主体について学習します。