平成30年度版

 

第4款 平均賃金(第12条)

◆平均賃金(第12条)とは、原則として、算定事由発生日以前3箇月間に支払われた賃金総額を、当該期間の総日数で除した金額のことをいいます。

大まかには、当該労働者の1日当たりの平均的な賃金のことです。

 

○趣旨

平均賃金は、解雇予告手当、休業手当、年次有給休暇中の賃金、災害補償及び減給の制裁の制限額を算定する場合の算定基礎となるものです。

次の計算式により算定されます(詳細は、後述します)。

 

〇 平均賃金は、大きくは、次の2つの問題に分かれますが、2の算定方法の問題が複雑です。この1、2の体系については、後述します。

 

1 平均賃金を算定基礎とするもの

 

2 平均賃金の算定方法 ➡ 原則的な算定方法と例外的な算定方法に分かれます。

 

 

まず、条文を掲載しておきます。後に詳しく見ます。 

 

 

【条文】

第12条

1.この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数除した金額をいう。ただし、その金額は、次の各号の一によつて計算した金額を下つてはならない

 

一 賃金が、労働した若しくは時間によつて算定され、又は出来高払制その他の請負制によつて定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の100分の60

 

二 賃金の一部が、週その他一定の期間によつて定められた場合においては、その部分の総額その期間の総日数除した金額前号の金額合算額

 

 

2.前項の期間は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算する。

 

3.前2項に規定する期間中に、次の各号のいずれかに該当する期間がある場合においては、その日数及びその期間中の賃金は、前2項の期間及び賃金の総額から控除する。

 

一 業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間

 

二 産前産後の女性が第65条の規定によつて休業した期間

 

三 使用者の責めに帰すべき事由によつて休業した期間

 

四 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号)第2条第1号〔=育児介護休業法第2条第1号(労働一般のパスワード)〕に規定する育児休業又は同条第2号に規定する介護休業(同法第61条第3項〔=行政執行法人の職員に関する特例〕(同条第6項において準用する場合を含む。)に規定する介護をするための休業を含む。第39条第10項(労基法のパスワード)〔=年次有給休暇の出勤日に算入する日〕において同じ。)をした期間

 

五 試みの使用期間

 

4.第1項賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金一定の範囲に属しないもの算入しない

 

5.賃金が通貨以外のもので支払われる場合第1項の賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。

 

6.雇入後3箇月に満たない者については、第1項の期間は、雇入後の期間とする。

 

7.日日雇い入れられる者については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする。

 

8.第1項乃至第6項によつて算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる。

 

 

※ 上記の第12条は、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(【平成30.7.6法律第71号】第1条。以下、同法を「働き方改革関連法」といいます)による平成31年4月1日施行の改正により改められています(条文番号の整理です)。

〔即ち、第12条第3項第4号中、従来、「第39条第8項」とあったのが、「第39条第10項」に改められました。〕

 

 

第1項 平均賃金を算定基礎とするもの

初めに「平均賃金を算定基礎とするもの」及び「算定基事由発生日」について、覚えるべき事項を下記の表にしました(この表は、覚えなければなりません)。

平均賃金を算定基礎とする5つは、次のゴロ合わせで覚えます。

 

※【ゴロ合わせ】

・「カキ・値下げ

(カキフライにするカキの値段が下がりました。)

 

→「カ(=「解」雇予告手当)・キ(=「休」業手当)・値(=「年」休中の賃金)・さ(=「災」害補償)・げ(=「減」給の制裁の制限額)」

 

・なお、平均賃金の算定方法における「3箇月間」の数字も、のちに学習します雇用保険法における賃金日額(「最後の6箇月間」や「180日」が出てきます。雇用保険法のこちら)等と混同しかねませんので、「カキ値下げ」の「下げ」の「3(さん)」にこじつけて記憶しておきましょう。

 

平均賃金を算定基礎とするもの

◆平均賃金は、労基法において、次の一~五の5つの算定基礎となります。

 

一 解雇予告手当第20条こちら以下

 

使用者は、労働者を解雇する場合は、原則として、30日前までにその予告をするか、30日分以上の「平均賃金」を支払わなければなりません(両者の併用も可)。

 

 

二 休業手当第26条こちら以下

 

使用者の帰責事由(責めに帰すべき事由)による休業の場合は、使用者は、休業期間中、当該労働者に対して、「平均賃金」の100分の60以上の手当を支払わなければなりません。

 

 

三 年次有給休暇中の賃金第39条第7項こちら以下

 

使用者は、年次有給休暇の期間又は時間について、就業規則等の定めにより、(1)「平均賃金」、(2)通常の賃金、又は(3)健康保険法の規定による標準報酬月額の30分の1相当額(この(3)の場合は、労使協定の締結も必要です)のいずれかを支払わなければなりません。

 

 

四 災害補償第76条~第82条こちら以下

 

以下の災害補償において、平均賃金はその補償額の算定基礎となります(さしあたり、以下の各災害補償の内容を覚えなくて結構です。労災保険法を学習してからの方が、理解しやすいです)。

 

なお、療養補償(=労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければなりません。第75条)の場合は、使用者は、療養のため実際に要した費用を補償するものであるため、平均賃金は算定基礎とされていません。

 

(1)休業補償

 

労働者が、業務上の事由による負傷又は疾病(業務上の傷病)による療養のため、労働できないために賃金を受けない場合は、使用者は、その療養中、「平均賃金」の100分の60の休業補償を行わなければなりません(第76条第1項)。

 

 

(2)障害補償

 

労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、治った場合において、その身体に障害が存するときは、使用者は、その障害の程度に応じて、「平均賃金」に所定の日数を乗じて得た金額の障害補償を行わなければなりません(第77条)。

 

 

(3)遺族補償

 

労働者が業務上死亡した場合は、使用者は、遺族に対して、「平均賃金」の1,000日分の遺族補償を行わなければなりません(第79条)。

 

 

(4)葬祭料

 

労働者が業務上死亡した場合は、使用者は、葬祭を行う者に対して、「平均賃金」の60日分の葬祭料を支払わなければなりません(第80条)。

 

 

(5)打切補償

 

療養補償を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても傷病が治らない場合、使用者は、「平均賃金」の1,200日分の打切補償を支払えば(すべての災害補償責任について)免責されます(第81条)。

 

 

(6)分割補償

 

使用者は、支払能力のあることを証明し、補償を受けるべき者の同意を得た場合には、障害補償又は遺族補償に替えて、「平均賃金」に所定の日数を乗じて得た金額を6年にわたり毎年補償することができます(第82条)。

 

 

五 減給の制裁の制限額第91条こちら以下

 

就業規則で減給の制裁を定める場合は、1回の額が「平均賃金」の1日分の半額を超えるか、総額が1賃金支払期の賃金総額の10分の1を超えてはなりません。

 

算定事由発生日については、次の算定方法の個所で詳述します。

 

 

第2項 平均賃金の算定方法

◆平均賃金の算定方法には、原則的な算定方法と例外的な算定方法があり、また、原則的な算定方法についても、修正される点が多いなど、複雑です。

初めに、次の大きなフレームを頭に入れておきますと、混乱を避けられます。

 

 

 

§1 原則的な算定方法

◆平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいいます(第12条第1項本文)。

以下、この算定方法について、詳しく学習します。

 

〔1〕算定事由発生日

一 基本型

◆算定事由発生日(即ち、平均賃金の算定事由の起算日です)は、具体的には、下記の(一)~(五)のようになります(この算定事由発生日は出題が多いため、暗記する必要があります。前掲の表(こちら)も参考にして下さい)。

 

ただし、賃金締切日がある場合は、算定事由発生日直前の賃金締切日から起算します(第12条第2項)。

即ち、上記計算式の図の「『算定事由発生日』以前3箇月間」が、「『算定事由発生日の直前の賃金締切日』以前3箇月間」に代わるということです。

 

この方が、通常の給与計算における額をベースとして平均賃金を算定でき、便利だからです。そして、賃金締切日があるのが普通ですから、実際は、この賃金締切日から起算する方法が一般となります。

 

この賃金締切日については、後述の二で詳細を見ます。

以下、賃金締切日がない場合の算定事由発生日です。

 

 

(一)解雇予告手当の場合

 

➡「労働者に解雇の通告をした日」が、算定事由発生日となります。

【過去問 平成16年問3A(後掲)】

 

※ なお、解雇予告をした後において、当該労働者の同意を得て解雇日を変更した場合であっても、当初の解雇予告に係る通告日を算定事由発生日とします(【昭和39.6.12基収第2316号】参考)。

 

変更された解雇日ではありません。

なぜなら、例えば、当初の解雇予告後に休業を命じられ60%の休業手当を受けていたような場合に、新たな解雇日を算定事由発生日として算定しては、平均賃金が当初の算定事由発生日を起算日として算定するより低下することがありえ、労働者に酷になるからです。

 

 

(二)休業手当の場合

 

➡「その休業日(休業が2日以上にわたるときは、その最初の日)」が、算定事由発生日となります。

 

休業が2日以上にわたるときにその最初の休業日を算定事由発生日とする理由としては、休業が長期間にわたる場合に、例えば、当該休業日ごとに算定事由発生日とするような取扱いをしては、休業中に賃金請求権を有しないとき(使用者に休業手当の帰責事由は認められるが、危険負担・債権者主義の帰責事由は認められないケースで生じます)は、次第に平均賃金が低下していくという不合理が生じること、また、最初の休業日を基準とすることで算定の複雑化も防止できることが考えられます。

 

 

(三)年次有給休暇中の賃金の場合

 

➡「その年次有給休暇を与えた日(年次有給休暇が2日以上にわたるときは、その最初の日)」が、算定事由発生日となります。

 

年休が2日以上にわたるときに最初の年休日を基準とする理由は、算定の複雑化の防止にあるといえます。

後述のように、年休中の賃金も、平均賃金の算定基礎となる賃金総額に算入されますから、上記の休業手当の場合とは異なり、最初の年休日を基準としなくても必ずしも平均賃金が不当に低下するわけではありません。

 

 

(四)災害補償の場合

 

➡「死傷の原因たる事故発生の日又は診断によって疾病の発生が確定した日」(施行規則第48条)が、算定事由発生日となります。

 

 

【施行規則】

施行規則第48条

災害補償を行う場合には、死傷の原因たる事故発生の日又は診断によつて疾病の発生が確定した日を、平均賃金を算定すべき事由の発生した日とする。

 

 

※「死傷」とは、死亡と負傷のことです。

死亡の場合は、算定事由発生日は「死亡日」ではなく、死亡の原因たる「事故発生日」であることに注意です(【過去問 平成27年問2C(後掲)】)。

 

なお、この事故発生日について、「障害」が問題となっていない点については、労災保険法で問われることがあります。

労災保険法の保険給付の支給額の算定基礎として「給付基礎日額」が用いられますが、この「給付基礎日額」は、原則として労基法の平均賃金相当額とする旨が規定されているため、労基法の平均賃金についての考え方が反映されるのです。

障害は、負傷や疾病から生じるもの(傷病が治ゆした場合に問題となるもの)という考え方から、算定事由発生日については、障害に言及していないものです。

 

 

(五)減給の制裁の制限額の場合

 

➡「減給の制裁の意思表示相手方に到達した日」(【昭和30.7.19基収第5875号】)が、算定事由発生日となります。

 

その理由としては、理論上は、減給の制裁という懲戒処分の場合、懲戒事由が発生しただけでは必ずしも懲戒権が行使されるわけではありませんので、懲戒権の行使の効力が発生した時点(減給の制裁の意思表示の到達時点)を算定事由発生日と解したものと推測されます。

 

・減給の制裁事由が発生した日ではありません(【過去問 平成17年7E(後掲)】/【平成30年問7D(後掲)】)。

 

・減給の制裁が決定された日でもありません(【過去問 平成25年問1A(後掲)】)。 

 

 

算定事由発生日に関する過去問を見てみます。

 

○過去問:

 

・【平成16年問3A】

設問:

労働基準法第20条の規定に基づき、解雇の予告に代えて支払われる平均賃金(解雇予告手当)を算定する場合における算定すべき事由の発生した日は、労働者に解雇の通告をした日である。

 

解答:

正しいです。

 

 

・【平成25年問1A】

設問:

労働基準法第91条に規定する減給の制裁に関し、平均賃金を算定すべき事由の発生した日は、減給制裁の事由が発生した日ではなく、減給の制裁が決定された日をもってこれを算定すべき事由の発生した日とされている。

 

解答:

減給の制裁の意思表示が相手方に到達した日を算定事由発生日とします。よって、設問は誤りです。

 

 

・【平成17年問7E】

設問:

労働基準法第91条に規定する減給の制裁に関し、平均賃金を算定すべき事由の発生した日は、減給の制裁の事由が発生した日ではなく、減給の制裁の意思表示が相手方に到達した日である。

  

解答:

正しいです。

 

 

・【平成27年問2C】

設問:

労働災害により休業していた労働者がその災害による傷病が原因で死亡した場合、使用者が遺族補償を行うに当たり必要な平均賃金を算定すべき事由の発生日は、当該労働者が死亡した日である。

  

解答:

遺族補償とは、労基法の災害補償の1つです(第79条)。

そして、災害補償の場合の平均賃金の算定事由発生日は、「死傷の原因たる事故発生の日又は診断によって疾病の発生が確定した日」(施行規則第48条)となります(つまり、死傷に係る事故発生日又は診断による疾病発生確定日です)。

従って、遺族補償の場合は、死亡の原因たる事故発生日が算定事由発生日となりますから、設問は誤りです。  

 

 

・【平成30年問7D】

設問:

労働基準法第91条による減給の制裁に関し平均賃金を算定すべき事由の発生した日は、制裁事由発生日(行為時)とされている。

 

解答:

本肢は、誤りです。

減給の制裁に関し平均賃金を算定すべき事由の発生した日は、制裁事由発生日(行為時)ではなく、「減給の制裁の意思表示が相手方に到達した日」(【昭和30.7.19基収第5875号】)とされています。こちら をご参照下さい。

本問は、前掲の【平成17年7E(こちら)】と類問です。

 

 

二 賃金締切日がある場合

◆賃金締切日がある場合は、算定事由発生日直前賃金締切日から起算します(第12条第2項)。

即ち、平均賃金の計算式の「『算定事由発生日』以前3箇月間」が、「『算定事由発生日の直前の賃金締切日』以前3箇月間」に代わります(既述のように、賃金締切日から起算した方が、計算しやすいからです。そして、賃金締切日があるのが普通ですから、実際は、この賃金締切日から起算する方法が一般となります)。

 

 

○ 賃金締切日に関する問題:

 

(一)出来高払制の労働者、雇入れ後の期間が3箇月未満の労働者

 

出来高払制の労働者(第12条第1項第1号)や雇入れ後の期間が3箇月未満の労働者(第12条第6項)であっても、賃金締切日がある場合は、直前の賃金締切日から起算して平均賃金を算定します(条文の規定上、そのような構造になっていますし、賃金締切日がある場合の平均賃金算定の簡易化の趣旨にも適合するからです)。(これらは、後に学習します。)

 

 

(二)賃金ごとに賃金締切日が異なる場合

 

賃金ごとに賃金締切日が異なる場合は、それぞれ各賃金ごとの賃金締切日により算定しま

す(【昭和26.12.27基収第5926号】参考)。【過去問 平成27年問2E(後掲)】

 

 

(三)賃金締切日に算定事由が発生した場合

 

例えば、賃金締切日が毎月月末と定められていた場合に、6月30日に算定事由が発生したときは、直前の締切日である5月末日よりさかのぼって3箇月の期間をとります(【昭和24.7.13基収第2044号】参考)。

(「算定事由発生日(6月30日)の直前の賃金締切日(5月31日)・以前の3箇月間」という計算式のルールに従ったものです。)【過去問 平成27年問2D(後掲)】

  

 

三 その他

所定労働時間が2暦日にわたる勤務を行う労働者(一昼夜交代勤務のごとく1勤務が明らかに2日の労働と解することが適当な場合を除きます)について、当該勤務の2暦日目に算定事由が発生した場合においては、当該勤務の始業時刻の属する日に事由が発生したものとして取り扱われます(【昭和45.5.14基発第374号】参考)。

例えば、月曜の午後4時(16時)から翌日火曜の午前8時までの勤務の場合において、火曜の早朝に業務災害を受けたようなケースです。月曜を事故発生日とすることになります。

 

労基法の場合、継続する勤務が2暦日にまたがる場合は、1勤務として取り扱って、始業時刻の属する日の労働と考えるのが基本的ルールです(そうしないと、例えば上記のケースでは、月曜と火曜の労働を分断して2労働日と考えることになり、月曜は午後4時からの勤務のため午前0時まで8時間しか勤務していないとして法定労働時間内の勤務となってしまい、同様に火曜も午前8時までの勤務として法定労働時間内の勤務となり、結局、このケースでは時間外労働が生じないという不都合が起こるからです)。

かかるルールを平均賃金の算定事由発生日においても及ぼしたものとなります。

 

 

〇過去問:

 

・【平成27年問2D】

設問:

賃金締切日が毎月月末と定められていた場合において、例えば7月31日に算定事由が発生したときは、なお直前の賃金締切日である6月30日から遡った3か月が平均賃金の算定期間となる。 

 

解答:

前述二の(三)(こちら)の賃金締切日に算定事由が発生した場合のパターンになります。よって、設問は正しいです。実務上の問題が出題されました。

 

 

・【平成27年問2E】

設問:

賃金締切日が、基本給は毎月月末、時間外手当は毎月20日とされている事業場において、例えば6月25日に算定事由が発生したときは、平均賃金の起算に用いる直前の賃金締切日は、基本給、時間外手当ともに基本給の直前の締切日である5月31日とし、この日から遡った3か月が平均賃金の算定期間となる。

  

解答:

前述二の(二)(こちら)の「賃金ごとに賃金締切日が異なる場合」のパターンとなります。

この場合は、それぞれ各賃金ごとの賃金締切日により算定します(【昭和26.12.27基収第5926号】参考)。

設問の場合は、基本給は5月31日、時間外手当は6月20日から起算した3か月を算定期間とします。

よって、設問は誤りです。前問と共に、かなり細かい実務に関する出題です。

 

 

 以上で、〔1〕「算定事由発生日」の問題を終わります。   

 

 

〔2〕算定事由発生日「以前3箇月間」

一 以前3箇月間

(一)「平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前3箇月間」(=算定対象期間)とは、算定事由の発生した日の「前日」から遡る3箇月間とされ、算定事由の発生日含まれないと解されています。

「以前3箇月」という文言上は、算定事由発生日も含むことになるはずなのですが、当該算定事由発生日には労働の提供が完全にはなされないことが多く、(時間給制のような場合は)賃金も全額支払われないことになるため、これを3箇月間に入れることにより平均賃金が不当に低下する不都合があることによります(そして、期間計算における初日不算入の原則(民法第140条)にも適合します)。

 

(二)もっとも、上述の賃金締切日がある場合は、算定事由発生日の直前の賃金締切日から起算し(第12条第2項)、従って、平均賃金の計算式の「『算定事由発生日』以前の3箇月間」は、「『算定事由発生日の直前の賃金締切日』以前の3箇月間」に代わるのであり、この場合は、賃金締切日も含めて賃金締切日を初日として算定します。

 

賃金締切日を含めても、上記のような平均賃金が低下する問題はないのであり、初日に端数がない場合と考えられ、初日算入とできることになります。

 

 

二 3箇月

「3箇月」とは、暦日によるものです(90日ではありません)。

期間計算の方法について、労基法で特に規定がないため、民法の期間計算の規定が適用され(民法第138条)、民法第143条第1項の「週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。」が適用されるからです。

その他の労基法上の期間の計算方法も、民法の期間計算に従います。

 

例えば、5月10日に算定事由が発生した場合は、5月9日(上記一の(一)で触れましたように、10日は算入しません)から2月10日まで(89日、閏年で90日)となります。

ただし、上述の通り、通常は、賃金締切日がありますから、その場合は賃金締切日から起算して3箇月を計算します。

例えば、上記のケースにおいて毎月の賃金締切日が25日だとしますと、算定事由発生日(5月10日)直前の賃金締切日は4月25日となり、この日以前3箇月間が算定対象期間になるため、1月26日から4月25日まで(90日、閏年で91日)となります。 

 

 

〔3〕「その労働者に支払われた賃金の総額」

平均賃金を算定する計算式の分子における「賃金の総額」の問題です(第12条第1項本文及びこちらの図を参考)。

 

一 支払われた

「支払われた」とは、現実に既に支払われた金額だけでなく、実際に支払われてはいなくても、算定事由発生日において既に債権として確定している賃金含むと解されています。

 

例えば、賃金の支払が遅延したような場合、この未払分を算入しなくては、不当に平均賃金が低下する問題があるからです。

 

二 賃金の総額

(一)賃金の総額

 

「賃金の総額」には、第11条の「賃金」の全てが含まれるのが原則です。

例えば、通勤手当や通勤定期券も、支給基準が就業規則等に明確に定められている場合は、賃金にあたると解されていますから(既述の「賃金の要件」の個所(こちら))、平均賃金の「賃金の総額」にも算入します(なお、通勤定期券については、現物給付の問題として後述します)。【過去問 平成27年問2A(通勤手当、家族手当のケース。後掲)】

 

また、年次有給休暇中の賃金(こちら)も賃金にあたり、「賃金の総額」に含められます(【昭和22.11.5基発第231号】参考)。 【択一式 平成5年】

 

 

・【過去問 平成27年問2A】

設問:

平均賃金の計算の基礎となる賃金の総額には、3か月を超える期間ごとに支払われる賃金、通勤手当及び家族手当は含まれない。

  

解答:

上述のように、「賃金の総額」には、第11条の「賃金」の全てが含まれるのが原則です。

まず、通勤手当及び家族手当については、すでに「賃金」の個所で学習しましたように、第11条の「賃金」に含まれます(家族手当についてはこちら。通勤手当についてはこちら)。

そして、後述しますが、これらの賃金については、平均賃金の算定基礎となる「賃金の総額」から控除される旨の規定もありませんので(第12条第4項)、これらは平均賃金の算定基礎となる「賃金の総額」に含まれます。

 

対して、「3か月を超える期間ごとに支払われる賃金」については、平均賃金の算定基礎となる「賃金の総額」から控除される旨の規定があります(第12条第4項)。

 

以上より、設問は、平均賃金の計算の基礎となる賃金の総額に「通勤手当及び家族手当は含まれない」としている点が誤りです。 

 

 

(二)賃金が遡及的に引き上げられた場合

 

賃金が労働協約等により過去にさかのぼって引き上げられた場合(例えば、8月10日にその年の4月にさかのぼって賃金ベースが改定され、4、5、6、7月分の追加額が支払われたケース)は、その追加額は各月に支払われたものとして賃金の総額に算入するとされます。

 

ただし、平均賃金は、「算定事由発生において、労働者が現実に受け、又は受けることが確定した賃金」によって算定すべきものとされているため(前述の一(こちら)参考)、既に算定事由の発生した「」において賃金が遡及的に引き上げられても、その場合は元の引き上げ前の賃金により算定するとされます。

 

例えば、上記の8月10日に賃金ベースの改定が決定されたケースにおいては、もし8月5日に算定事由が発生した場合(例:解雇予告をした等)は、賃金の総額に追加額を含めるべきでなく、対して、8月20日に算定事由が発生した場合は、追加額を含めることになるとされます(【昭和24.5.6基発第513号】参考)。

 

 

(三)複数の事業場から賃金の支払を受けている場合

 

労働者が複数の事業場で使用され、当該複数の事業場の使用者から賃金の支払を受けている場合は、「賃金の総額」とは、当該複数の使用者から支払われた賃金の合算額ではなく、算定事由の発生した事業場で支払われる賃金のみをいいます(【昭和28.10.2基収第3048号】参考)。

 

例えば、休業手当の場合において、使用者に帰責事由があって休業する際に労働者が他の事業場でも使用されているとき、休業手当の算定基礎となる平均賃金について他の事業場に係る賃金も算入されるというのは、労働者の所得保障を目的とする休業手当の趣旨に照らして過剰な保護になるといえます(当該休業する事業場についての所得保障が図られれば十分といえます)。

使用者としても、他の事業場に係る収入まで考慮されるというリスクを負うのは酷になるといえます。

 

 

〔4〕「その期間の総日数」

平均賃金を算定する計算式の分母における「総日数」の問題です(第12条第1項本文及びこちらの図を参考)。

 

この「総日数」とは、平均賃金の算定基礎となる3箇月間の総暦日数のことであり(上述の〔2〕の二(こちら)参考)、労働日数のことではありません

 

 

〔5〕「除した金額」

「賃金の総額」を「その期間の総日数」で除して得た金額に端数が生じた場合は、「銭位未満の端数切り捨て」をします(【昭和22.11.5基発第232号】参考)。

 

※ 銭は、1円の100分の1です(10厘にあたります)。従って、銭未満の端数の切り捨てとは、小数点以下第2位まで残すことになります。

例えば、「9,782円.608695」のケースは、「9,782円60銭」とします。

 

ただし、このように算定した平均賃金を基礎として、実際に解雇予告手当、休業手当等を支払う場合は、「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」第3条の問題となり、特約がある場合はその特約により端数処理がなされ、特約がない場合は1円未満の端数が四捨五入されます。 

 

今まで出題もないですから、上記太字部分の「銭位未満の端数は切り捨て」と覚えておけばよいでしょう。

 

 

〔6〕算定基礎から控除されるもの

平均賃金の算定基礎から控除されるものを学習します(試験対策上、重要です)。

 

〇 算定基礎から控除されるものは、次の2タイプがあります。

 

(A)日数(分母)及び賃金総額(分子)の両者から控除されるもの(第12条第3項

 

(B)賃金総額(分子)のみから控除されるもの(第12条第4項

 

一気にゴロ合わせで覚えておきます。

 

※【ゴロ合わせ】

・「変な兄ちゃんがぎょうさん飼育を試みたのですっとのぞいたらちゃんは、サリンの現物を違法にボヤしていた

(変な兄ちゃんが、動物を飼育しているようなので、ちょっと覗いてみたら、サリンを作っていたというイメージです。かんばしくないゴロですので、密かに使用して下さい。)

 

→「変な(=「平」均賃金)・兄・ちゃん(=「日」数と「賃」金から控除するもの)が、

ぎょう(=「業」務上傷病療養休業期間」・さん(=「産」前産後休業期間」)・飼(=「使」用者の帰責事由による休業」・育(=「育」児介護休業期間)を・試みたので(=「試み」の使用期間)、

すっと(=「スト」ライキ等の正当な争議行為の期間)・のぞいたら(=控除する)、

ちゃんは(=「賃」金から控除するもの)・サ(=「3」箇月を超える期間ごとに支払われる賃金)・リン(=「臨」時に支払われた賃金)の・現物を・違法にボヤしていた(=「現物」給与で、「法」令又は労働協「約」に基づかないもの(「違法」なもの))」 

 

 

(A)日数及び賃金総額の両者から控除されるもの

◆平均賃金の算定対象期間(=算定事由発生日以前3箇月間(賃金締切日がある場合は修正されます。以下同様です))中に、次の(一)から(五)のいずれかに該当する期間がある場合には、その日数及びその期間中の賃金は、平均賃金の算定基礎となる「期間(日数)」及び「賃金の総額」から控除します(第12条第3項)。

 

○趣旨

平均賃金が不当に低くなることを防止する趣旨です(具体的には、以下で見ます)。 

 

 

(一)業務上傷病療養休業期間第12条第3項第1号

 

◆「業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間」

 

○趣旨

業務上傷病療養による休業期間において、使用者は、当該業務上傷病による休業について帰責事由(民法第536条第2項の危険負担・債権者主義)がない場合は、原則として賃金支払義務は負いません(ノーワーク・ノーペイの原則(こちら))。

ただし、使用者に休業補償を行う義務が生じ得ますが(第76条。もっとも、通常は、労災保険法の休業補償給付の問題となります)、これらは労基法上の賃金にはあたりません(既述の「賃金の要件」の個所(こちら))。

そこで、かかる休業期間を平均賃金の算定基礎に考慮しますと、平均賃金が不当に低下するおそれがあるため、その控除を認めたものです。

 

1「業務上」の傷病療養であることが必要ですから、「通勤など業務外による傷病療養の休業の場合は、控除の対象となりません(業務外の災害の場合は、使用者の関与(支配性)が乏しいですから、例えば、解雇予告手当や休業手当等の算定において平均賃金を低下しないように調整することが必ずしも妥当とはいえないということになります)。

 

2 なお、「業務上傷病療養休業期間」は、すでに学習しました「解雇制限の期間」(第19条こちら)でも問題になりました。

 

 

(二)産前産後休業期間第12条第3項第2号

 

◆「産前産後の女性が第65条の規定によって休業した期間」

 

○趣旨

6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合及び産後8週間(原則)を経過しない場合には、使用者はその者を就業させてはなりません(第65条こちらで学習します)。

この産前産後休業期間中も、使用者は(帰責事由がありませんから)原則として賃金支払義務を負いません(賃金支払の特約等が存在する場合は別です)。従って、平均賃金の低下を防止するため、これらの産前産後休業期間について控除の対象としています。

 

 

(三)使用者の帰責事由による休業期間第12条第3項第3号

 

◆「使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間」

 

○趣旨

使用者の帰責事由による休業の場合は、使用者は、休業期間中、平均賃金の60%以上の手当(休業手当)の支払が必要です(第26条)。(そして、この休業手当は、賃金にあたると解されています。既述の「賃金の要件」の個所(こちら)。)

しかし、休業手当は平均賃金の60%以上であればよいため、通常の賃金より低下することになり、従って、かかる休業期間について、控除の対象としています。

 

(なお、かかる使用者の帰責事由による休業の場合は、危険負担の債権者主義により、労働者は賃金請求権を有することが多いですが(そして、平均賃金の算定基礎となる「支払われた賃金の総額」は、算定事由発生時において、労働者が現実に受けたものだけでなく、受けることが確定した賃金も含みます(こちら))、休業手当の帰責事由には該当するが、危険負担・債権者主義の帰責事由には該当しないケースもあります(両者の判断基準が異なることは、こちら以下で見ました)。

そこで、使用者の帰責事由による休業については、事務処理の安定の見地から、一律に、当該休業に係る日数及び賃金総額を平均賃金の算定基礎から控除していることになります。)

 

※ なお、一部休業の場合(例えば、午前中は労働をしていたが、午後から使用者の帰責事由により休業をしたケース)についても、その日は休業とみなし、その日の労働に対して支払われた賃金が平均賃金の100分の60を超えると否とにかかわらず、休業日としてその日及びその日の賃金を控除するとされます(【昭和25.8.26基収第2397号】参考)。

 

 

(四)育児介護休業期間第12条第3項第4号

 

◆「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 〔=いわゆる育児介護休業法です〕第2条第1号〔=育児介護休業法第2条第1号(労働一般のパスワード)〕に規定する育児休業又はは同条第2号に規定する介護休業(同法第61条第3項〔=行政執行法人の職員に関する特例〕(同条第6項において準用する場合を含む。)に規定する介護をするための休業を含む。第39条第10項〔=年次有給休暇の出勤日に算入する日〕において同じ。)をした期間」

 

○趣旨

育児介護休業法により、労働者はその事業主に申し出ることにより育児休業又は介護休業をすることができますが(同法第5条第11条)、この育児休業及び介護休業の期間中についても、使用者は原則として賃金支払義務は負いません。

従って、平均賃金の低下を防止するため、これらの休業期間についても、控除の対象としています。

 

なお、育児介護休業法第2条第1号に規定する育児休業・以外の育児休業についても、同様に算定基礎から控除されると解されています(【平成3.12.20基発第712号】)(下記の(六)及び後述の例外的な算定方法を参考)。

即ち、同法第2条第1号の「育児休業」とは、「労働者(日々雇用される者を除く)が、同法第2章に定めるところにより、その子(原則)を養育するための休業」をいい、従って、同号の「育児休業」においては、例えば子が1歳6か月(2歳)に達するまでの休業が最長期間となりうるものですが、これを超えるような育児休業であっても、本件の平均賃金の算定基礎からの控除の問題については、本来の育児休業の場合と同様に取り扱うということになります。

(ちなみに、介護休業のケースについて、通達は言及していません。)

 

※ なお、本件の育児休業等に係る控除の対象には「子の看護休暇」は含みません(【過去問 平成19年問3B(後掲)】)。

(看護休暇は、日数も少ないため、平均賃金に対する影響が弱いことによると思われます。)

 

 

(五)試みの使用期間第12条第3項第5号

 

○趣旨

試みの使用期間とは、いわゆる試用期間のことで、試用期間についての主要問題については、すでに「労働契約の成立過程の問題」の個所(こちら)で学習しました。

試用期間中の賃金は、本採用後の賃金より低いのが一般であるため、かかる賃金及び試用期間は平均賃金の算定基礎から控除したものです。

 

 

(六)その他

 

以上のほかにも、第12条第8項の「第1項乃至第6項によって算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる」という規定によって、平均賃金の算定基礎である日数及び賃金総額から控除されるものがあります(なお、この第12条第8項については、施行規則第3条第4条及び昭和24年労働省告示第5号によって具体化されており、通達により具体的な算定方法が定められているものもあります。詳しくは、のちにこちら以下で後述します)。

ここでは、注意すべきものを数点挙げておきます。

 

 

1 争議行為による休業期間

 

平均賃金の算定対象期間中に、労働争議により正当な同盟罷業〔=ストライキ〕をし、若しくは怠業し〔=サボタージュ・スローダウン〕、又は正当な作業所閉鎖〔=使用者によるロックアウト〕のため休業した期間がある場合には、その期間及びその期間の賃金は、平均賃金の算定対象期間及び賃金の総額から控除するものとされます(【昭和29.3.31基収第4240号】参考)。

 

 

2 組合専従期間

 

平均賃金の算定期間中の一部に組合専従のための休業期間がある場合には、その期間中の日数及び賃金を控除して算定するとされます(【昭和25.1.18基収第621号】等参考)。

 

組合専従(在籍専従)(こちら)とは、組合員である労働者が、労働協約等の定めにより、労働時間に就労することを免除されて、労働組合の管理運営等の活動を行うことです。

組合専従員の賃金関係については、労働協約等の定めによることになりますが、組合専従員の賃金を使用者(企業)が支払わず、労働組合が支払う場合は、企業について算定する当該専従者の平均賃金は低下することがあり、労働基本権(組合活動権)の実質的保障も考慮して、控除の例外を設けたことになります。

 

なお、組合専従者でない者が、労働協約の規定に従って臨時に組合用務に就いた期間についても、以上と同様に取り扱われます(【昭和26、8.18基収第3783号】参考)。

 

他方、算定対象期間中の「全部」が組合専従のための休業期間の場合は、後述の「平均賃金が算定できない場合」の「休業期間が算定事由発生日以前3箇月以上にわたる場合」の問題(こちら以下)とされます。

 

 

〇過去問:

 

・【平成16年問3B】

設問:

平均賃金の計算においては、業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間、産前産後の女性が労働基準法第65条の規定によって休業した期間、使用者の責めに帰すべき事由によって休業した期間、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下「育児介護休業法」という。)の規定によって育児休業若しくは介護休業をした期間又は子の看護休暇を取得した期間及び試みの使用期間については、その日数及びその期間中の賃金を労働基準法第12条第1項及び第2項に規定する期間及び賃金の総額から控除する。

 

解答:

設問のうち、「子の看護休暇を取得した期間」についての日数及びその期間中の賃金は、平均賃金の算定基礎から控除されません(第12条第3項参考)。よって、設問は誤りです。

 

 

・【平成27年問2B】

設問:

平均賃金の計算において、労働者が労働基準法第7条に基づく公民権の行使により休業した期間は、その日数及びその期間中の賃金を労働基準法第12条第1項及び第2項に規定する期間及び賃金の総額から除外する。

 

解答:

設問の公民権の行使により休業した期間(公民権の行使・公の職務執行による休業期間。こちら)については、平均賃金の算定基礎となる日数及び賃金から控除される旨の規定はありません。よって、設問は誤りとなります。

 

なお、公民権の行使・公の職務執行による休業期間は、年次有給休暇の年休権発生の要件としての「出勤率」の算定においては、「全労働日」から除外されている(のちに、年休のこちらで学習します)ことと混乱しないように注意です。

 

両者の取扱いの違いの合理性については、両者の制度の目的が異なる以上、当然に不合理であるといえるわけではありませんが、合理的な違いなのかと考えますと疑問も残るところです。 

 

以上、「日数及び賃金総額の両者から控除されるもの」でした。

 

 

(B)賃金総額から控除されるもの

〇 平均賃金の算定基礎の「賃金の総額」から以下の(一)~(三)の賃金等控除されます(第12条第4項)。

 

(一)臨時に支払われた賃金

 

(二)3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

 

(三)通貨以外のもので支払われた賃金一定の範囲に属しないもの〔=法令又は労働協約の別段の定めに基づかない現物給与(即ち、違法な現物給与)のことです〕

 

 

○趣旨

臨時の賃金等の一定の賃金を平均賃金の算定基礎の賃金総額(分子)に算入しますと、算定事由発生時期によって、平均賃金に著しい高低を生じるおそれがあること等を考慮して、平均賃金の算定の合理化の見地から、当該賃金等を賃金総額から控除するものです。

 

 

【条文】

第12条

 

〔第3項までは、省略(全文は、こちら)。〕

 

4.第1項賃金の総額には、臨時に支払われた賃金及び3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金並びに通貨以外のもので支払われた賃金一定の範囲に属しないもの算入しない

 

〔第5項以下は、省略。〕

 

 

 

以下、この3つについて詳しく見ます。

 

 

(一)臨時に支払われた賃金

 

1「臨時に支払われた賃金」とは、「臨時的、突発的事由にもとづいて支払われたもの及び結婚手当等支給条件は予め確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、且つ非常に稀に発生するもの」のことです(【昭和22.9.13基発第17号】)。

 

例えば、私傷病手当(【昭和26.12.27基収第3857号】)、病気欠勤等の月給者に支給される加療見舞金(【昭和27.5.10基収第6054号】)、退職手当(退職金)(【昭和22.9.13発基第17号】などです(これらが就業規則等により予め支給条件が明確化されている場合に、「賃金」にあたり、算定基礎からの控除の有無の問題が生じることになります)。

 

2 なお、この「臨時に支払われる(た)賃金」は、労基法上次のような取り扱いがなされます(「臨時に支払われる賃金」と規定されている場合と「臨時に支払われた賃金」と規定されている場合がありますが、同様の内容です)。

 

 

「臨時に支払われる(た)賃金」の労基法上の取扱い :

 

(a)平均賃金

 

「臨時に支払われた賃金」は、平均賃金の算定基礎である賃金総額から控除されます(本件です。第12条第4項)。

 

 

(b)毎月一回以上払、一定期日払の原則の例外

 

「臨時に支払われる賃金」は、毎月一回以上払一定期日払の原則の例外になります(第24条第2項こちら)。

 

 

(c)割増賃金

 

「臨時に支払われた賃金」は、割増賃金算定基礎から除外されます(第37条第5項施行規則第21条第4号こちら)。

 

 

(d)就業規則の相対的必要記載事項

 

「臨時に支払われる賃金」は、就業規則相対的必要記載事項の「臨時の賃金等」になります(第89条第4号第24条第2項ただし書こちら

 

 

(e)労働契約締結の際の労働条件の相対的明示事項

 

「臨時に支払われる賃金」は、労働契約締結の際労働条件の相対的明示事項になります(第15条第1項施行規則第5条第1項第5号こちらの(2))。


     

 

(二)3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

 

1「3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」とは、例えば、年3回以内の賞与等です(年2期の賞与など)。

 

2 なお、賞与(ボーナス、一時金)といえるためには、「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの」であることが必要とされます(【昭和22.9.13発基第17号】/【平成12.3.8基収第78号】)。

 

そこで、例えば、年俸制で毎月払部分と賞与部分を合計して予め年棒額が確定している場合の平均賃金の算定については、このように予め支給額が確定しているものは、労基法上の賞与にはあたらず、平均賃金の算定基礎である賃金総額に算入することが必要です。

その場合、賞与部分を含めた年俸額の12分の1を1箇月の賃金として算定します(それが公平な算定になるからとできます)。

 

例えば、年俸額の17分の1を月例給与として支給し、残りの17分の5を6月と12月に賞与として支給するような場合、かかる支給額が予め確定されている賞与は平均賃金の算定対象として算入することが必要であり、賞与部分を含めた年俸額の12分の1を1箇月の賃金として平均賃金を算定することが必要です。

 

他の「賞与」の問題については、「賃金」の個所(こちら)で学習しました。

 

 

3 3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金かどうかは、当該賃金の計算期間3箇月を超えるかどうかにより定まります。

 

(1)例えば、10月から翌年3月までの期間にわたって支払われる冬営手当については、それが10月に一括支給されても、月割計算の建前をとっている限り、毎月分の前渡と認められますから、3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金ではないとされます(【昭和25.4.25基収第392号】参考)。

 

(2)また、使用者が、通勤手当の代わりとして6か月ごとに通勤定期乗車券(いわゆる通勤定期券です)を購入し、これを労働者に支給している場合、この通勤定期乗車券が本件の「3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」となるか問題です。

【過去問 平成17年問1D(後掲)】/【平成24年問1D(後掲)】/【平成26年問3ウ(後掲)】)。

(【昭和25.1.18基収第130号】/【昭和33.2.13基発第90号】)

 

まず、本件定期券が、3箇月を超える期間ごとに支払われる「賃金」(第11条)にあたるかですが、使用者が、通貨以外で支給するいわゆる現物給与(現物給付)も、「労働の対償」として支給される場合には、賃金にあたります。

具体的には、現物給付の支給分だけ賃金が減額される場合や当該現物給付の支給条件が予め明確化されているような場合に賃金にあたることになります。

本件では、通勤手当(これは「賃金」にあたります)の代わりとして通勤定期乗車券が支給されているのですから、この定期券は「労働の対償」として支給されているものといえ、「賃金」にあたります(厳密には、その支給基準が就業規則等に明確に定められている場合は、使用者はその支払義務を負いますから、賃金にあたると解してよいことになります。詳細は、「賃金の要件」の個所(こちら)で学習しました)

 

次に、「3箇月を超える期間ごとに支払われる」賃金にあたるかですが、その判断は、上記の通り、当該賃金の計算期間が3箇月を超えるかどうかにより決定します。本件では、6箇月ごとに支給することになっている点が問題です。

 

この点、定期券は、本来は、各月ごとに支給できるはずであるところを、支給事務の簡略化等のため3箇月を超える期間ごとに支給することがあるものと解され、本件でも、実質的には、各月分の賃金をまとめて6箇月分前払しているものと評価できます。

従って、本件定期券は、その計算期間は3箇月を超えるものではなく、平均賃金の算定基礎である賃金総額に算入することが必要となります。

(実際上、こう解しませんと、通勤手当として金銭が支払われた場合は、平均賃金の賃金総額に算入されるのに対して、通勤手当が3箇月を超える期間に係る定期券として現物給付されると平均賃金の賃金総額に算入されずに平均賃金が低下することになり、同じ通勤に係る手当について不均衡な結果になります。)

 

なお、本件は、通勤定期券(現物)による賃金の支払となり、賃金の通貨払の原則の例外(第24条第1項ただし書)にあたりますから、労働協約に定めがあることが必要です。

そして、かかる現物給与であっても、次の(三)(こちら)の通り、労働協約の定めに基づくものは、平均賃金の算定基礎に算入されます。

 

 

 ○過去問:

 

・【平成17年問1D】

設問:

使用者が、通勤手当の代わりとして、6か月ごとに通勤定期乗車券を購入し、これを労働者に支給している場合、通勤手当は賃金ではあるが、6か月ごとに支給される通勤定期乗車券は、労働基準法第12条第4項に定める「3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当するので、平均賃金算定の基礎となる賃金には算入されない。

 

解答:

通勤定期券や通勤手当は、その支給基準が就業規則・労働協約等に明確に定められている場合は、賃金にあたると解されます。

 

そして、通勤定期券が賃金に該当する場合、賃金の通貨払の原則から、かかる通貨以外のもので賃金が支給されるとき(現物給与)は、法令又は労働協約の定めによること等が必要です。

 

次に、「3箇月を超える期間ごとに支払われる」賃金は平均賃金の算定基礎から除外されますが、その判断は、当該賃金の計算期間が3箇月を超えるかどうかにより決定されます。

設問の6か月ごとに支給される通勤定期乗車券は、本来は、各月ごとに支給できるはずであるところを、支給事務の簡略化等のため3か月を超える期間ごとに支給しているものと解され、実質的には、各月分の賃金をまとめて6か月分前払しているものと評価できます。従って、本件定期券は、その計算期間は3箇月を超えるものではなく、「3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」には該当しないため、平均賃金算定の基礎となる賃金に算入されます。よって、設問は誤りです。

 

 

・【平成24年問4E】

設問:

労働基準法に定める「平均賃金」とは、これを算定すべき事由の発生した日以前3か月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいい、年に2回6か月ごとに支給される賞与が当該3か月の期間内に支給されていた場合には、それも算入して計算される。

 

解答:

設問の「年に2回6か月ごとに支給される賞与」は、「3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当しますから、賃金総額には算入されません。よって、設問は誤りです。 

 

 

・【平成26年問3ウ】

設問:

ある会社で労働協約により6か月ごとに6か月分の通勤定期乗車券を購入し、それを労働者に支給している。この定期乗車券は、労働基準法第11条に規定する賃金であり、各月分の賃金の前払いとして認められるから、平均賃金算定の基礎に加えなければならない。

 

解答:

通勤定期券や通勤手当は、その支給基準が就業規則・労働協約等に明確に定められている場合は、賃金にあたると解されます。そして、通勤定期券が賃金に該当する場合、賃金の通貨払の原則から、かかる通貨以外のもので賃金が支給されるとき(現物給与)は、法令又は労働協約の定めによること等が必要であり、設問の通勤定期乗車券は、労働協約に基づき支給されているものです。

 

次に、「3箇月を超える期間ごとに支払われる」賃金は平均賃金の算定基礎から除外されますが、その判断は、当該賃金の計算期間が3箇月を超えるかどうかにより決定されます。

この点、定期券は、本来は、各月ごとに支給できるはずであるところを、支給事務の簡略化等のため3箇月を超える期間ごとに支給することがあるものと解され、本件でも、実質的には、各月分の賃金をまとめて6箇月分前払しているものと評価できます。従って、本件定期券は、その計算期間は3箇月を超えるものではなく、平均賃金の算定基礎である賃金総額に算入することが必要となります。よって、設問は正しいです。

  

 

4 なお、労基法上、賞与は次のような取扱いがなされます(すでにご紹介済みです)。   

 

「賞与」の労基法上の取扱い :

 

(1)賃金性

 

賞与も、就業規則等により予め支給条件が明確化され使用者が支払義務を負う場合は、労基法上の賃金にあたります。

こちら。なお、関連問題は、「毎月一回以上払・一定期日払の原則」の個所(こちら)。)

 

 

(2)就業規則の相対的必要記載事項、労働契約締結の際の労働条件の相対的明示事項

 

臨時の賃金等」(第89条第4号)としての「賞与」(第24条第2項ただし書)は、就業規則相対的必要記載事項となります(こちら)。

また、労働契約締結の際労働条件の明示事項としての相対的明示事項になります(第15条第1項施行規則第5条第1項第5号こちらの(2))。

  

 

(3)毎月一回以上払、一定期日払の原則の例外 

 

賞与は、「毎月一回以上払、一定期日払の原則」の例外となります(第24条第2項ただし書こちら)。

 

 

(4)平均賃金

 

賞与は、平均賃金の算定基礎である賃金総額から控除されます(本件です。第12条第4項)。

即ち、平均賃金の算定基礎である賃金総額には、「臨時に支払われた賃金及び3箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」等は含まれません)。

 

 

(5)割増賃金

 

賞与は、割増賃金の算定基礎から除外されます第37条第5項施行規則第21条第5号こちら)。

即ち、「1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」は、割増賃金の算定基礎から除外されています)。  

  

 

(三)通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないもの

 

この「通貨以外のもので支払われた賃金〔=いわゆる現物給与です〕で一定の範囲に属しないもの」とは、第12条第5項及び施行規則第2条第1項により「法令又は労働協約の別段の定めに基づかない現物給与」〔=即ち、違法な現物給与〕のことです(もっとも、賃金の通貨払の原則(第24条第1項)から、賃金は、法令若しくは労働協約に別段の定めがなければ通貨以外のもの(現物)で支払うことはできないため、一般には、この(三)の違法な現物給与に該当するケースは生じない建前になりますが)。

 

即ち、賃金が通貨以外のもので支払われる場合〔=現物給与〕、平均賃金の賃金総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定められるとされ(第12条第5項)、これに基づいて、施行規則第2条が次の旨を定めています(現物給与の評価額についてはこちらで見ました)。

 

(ア)賃金が通貨以外のもので支払われる場合〔=現物給与)に、平均賃金の賃金総額に算入すべきものは、法令又は労働協約の別段の定めに基づいて支払われるものに限られる(施行規則第2条第1項)。

 

(イ)この場合の通貨以外のもの〔=現物〕の評価額は、法令に別段の定がある場合のほかは、労働協約に定めなければならない(施行規則第2条第2項)。

 

(ウ)労働協約に定められた評価額が不適当と認められる場合又は当該評価額が法令もしくは労働協約に定められていない場合は、都道府県労働局長が当該評価額を定めることができる(施行規則第2条第3項)。

 

※ なお、各法の現物給与の比較は、既述の「賃金支払の5原則」の「通貨払の原則の例外」の個所(こちら)を参考にして下さい。

 

 

【条文】

第12条

 

〔第4項までは、省略(全文は、こちら)。〕

 

5.賃金が通貨以外のもので支払われる場合〔=現物給与〕、第1項の賃金の総額に算入すべきものの範囲及び評価に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。

 

〔第6項以下は、省略。〕

 

 

 

【施行規則】

施行規則第2条

1.労働基準法(昭和22年法律第49号。以下「法」という。)第12条第5項〔=法第12条第5項〕の規定により、賃金の総額に算入すべきものは、法第24条第1項ただし書〔=通貨払の原則の例外が認められる場合〕の規定による法令又は労働協約の別段の定めに基づいて支払われる通貨以外のものとする。

 

2.前項の通貨以外のものの評価額は、法令に別段の定がある場合の外、労働協約に定めなければならない。

 

3.前項の規定により労働協約に定められた評価額が不適当と認められる場合又は前項の評価額が法令若しくは労働協約に定められていない場合においては、都道府県労働局長は、第1項の通貨以外のものの評価額を定めることができる。

 

 

以上で、原則的な算定方法を終わります。次ページにおいて、例外的な算定方法を学習します。