2019年度版

 

第2款 変更

賃金の支払方法、賃金請求権の変更、賃金の支払の確保

賃金に関する変更(広義)の問題として、次の事項について学習します。

太字の個所が、労基法で学習する問題です。

 

§1 賃金の支払方法

 

〔Ⅰ〕賃金支払の5原則第24条)➡〔Ⅱ〕例外としての、非常時払第25条

 

§2 労働義務の履行不能の場合 ➡ 危険負担(民法第536条)、休業手当第26条

 

§3 賃金請求権の変動 ➡ 賃金の引上げ、引下げ

 

§4 賃金の支払の確保(企業の倒産等の場合)➡ 賃金支払確保等法など

 

 

上記のうち、§3と§4は、労働一般の問題ですので、ここでは詳しくは触れません。

以下、上記の§1と§2について、順に学習していきます。

 

 

§1 賃金の支払方法

賃金の支払方法について、賃金支払の5原則非常時払を学習します。 

 

 

〔Ⅰ〕賃金支払の5原則(第24条)

◆賃金は、原則として、(1)通貨で(= 通貨払の原則)、(2)直接労働者に(= 直接払の原則)、(3)全額を(= 全額払の原則)、(4)毎月一回以上(= 毎月一回以上払の原則)、(5)一定期日を定めて(= 一定期日払の原則)、支払うことが必要です(第24条)。

 

○趣旨

賃金を完全かつ確実に労働者本人が受領できるようにするため、賃金の支払方法を規制したものです。

 

【条文】

第24条(賃金の支払)

1.賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い〔=現物給与(通貨払の原則の例外)〕、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定〔=労使協定〕がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる〔=全額払の原則の例外〕。

 

2.賃金は、毎月一回以上一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金第89条〔=就業規則の作成及び届出の義務〕において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

 

 

※【必須事項】

 

まず、次の図が必須事項のまとめです(「例外」の個所がポイントです)。この図は、後述のゴロ合わせを併用して覚えます。この図をイメージした上で、細かい知識をこの図の中に位置づけていく形で学習するのが効率的です。

 

 

 

※【ゴロ合わせ】

・「通知表、全部毎回1ばかり

つーか、ぼやくのは、実にどんぶり大将ってゆーのが前提でボーリングなら一番正規の勝率よ

(通知表は毎回オール1で成績が悪いのですが、ご飯(どんぶりめし)は沢山よく食べ、ボーリングが得意な小学生をイメージして下さい。)

 

→「通(=「通」貨払)・知(=「直」接払)表、

全部(=「全」額払)、毎・回(=「毎」月1「回」以上払)・1(=「一」定期日払)ばかり。

つーか(=「通貨」払の原則の例外)・ぼ(=「法」令に別段の定め)・やく(=労働協「約」)のは、

実に(=確「実」な支払の方)・どん(=労働者の「同」意)・ぶり(=口座「振」込み)・大(=「退」職手当)・将(=「小(しょう)」切手)って、ゆー(=「ゆう」ちょ銀行発行の普通為替証書等)のが、

前(=「全」額払の例外)・提(=労使協「定」)で、

ボー(=「ボー」ナス)・リン(=「臨」時に支払われる賃金)グなら、1(=「1」か月を超える期間等)番、正(=「精」勤手当)・規(=「勤」続手当)の、勝(=「奨」励加給)・率(=能「率」手当)よ」

 

 

(参考)

ちなみに、「賃金支払の5原則」については、「毎月一回以上払の原則」と「一定期日払の原則」とを1つの原則ととらえて、「賃金支払の4原則」ということも多いです(多くの労働法学者は、4原則と表現しています。ただ、厚労省のコンメンタールは5原則と表現しており、社労士受験界では、一般に5原則と表現することが多いです。野川「労働法」の601頁では、「賃金支払の4原則」ないし「5原則」と称することがあるとしています)。 

 

 

以下、賃金支払の5原則を順に見ていきます。

 

 

〔1〕通貨払の原則

一 原則

◆賃金は、通貨で支払わなければなりません(第24条第1項本文)。

 

○趣旨

労働者にとって、最も安全で便利な手段である通貨により賃金を受領させようとした趣旨です。即ち、通貨以外のものによる賃金の支払を禁止したものです。

 

通貨とは、わが国で強制通用力のある貨幣(硬貨、銀行券)のことであり(「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」第2条3項)、従って、現物給与(狭義。例えば、自社製品や商品等による賃金支払)、小切手による支払及び外国通貨による支払等は、禁止されます(これら小切手や外国通貨等による賃金の支払も、広義では、現物給与といえます。以下では、現物給与はこの広義の意義で使用します)。

現物給与については、一般に、価格が不明確であったり、換価が不便・不安定であるため、労働者に不利益があることから、現物による賃金支払を禁止したものです。

 

 

・【過去問 平成25年問7ア】

設問:

いわゆる通貨払の原則の趣旨は、貨幣経済の支配する社会では最も有利な交換手段である通貨による賃金支払を義務づけ、これによって、価格が不明瞭で換価にも不便であり弊害を招くおそれが多い実物給与を禁じることにある。

 

解答:

正しいです。なお、設問では、「実物給与」と表現していますが、「現物給与」と同じ意味です。 

 

 

二 例外

◆通貨払の原則については、次の通り、3タイプの例外が定められています(第24条第1項ただし書)。

即ち、次の3タイプの場合は、通貨以外のものにより賃金を支払うことができます(現物給与が可能になるということです)。

 

(一)法令に別段の定めがある場合

 

(二)労働協約に別段の定めがある場合

 

(三)厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合(施行規則第7条の2

 

 

以下、この例外の(一)~(三)について詳しく見ていきます。

 

(一)法令に別段の定めがある場合

現在、この例外を定めている法令は存在しません。  

 

 

(二)労働協約に別段の定めがある場合

労働協約に別段の定めがある場合は、通貨払の原則の例外が認められます(第24条第1項ただし書)。

 

労働協約とは、労働組合と使用者(又は使用者の団体)との間の労働条件その他に関する書面による合意です(労働組合法第14条参考)。

 

※ 労働協約の概要については、「労働条件の決定システム」(こちら)で見ました。詳しくは、労組法のこちら以下(労働一般のパスワード)で学習します。

 

例えば、通勤手当に代えて通勤定期券を支給する場合や商品等で賃金を支払う場合には、労働協約で定めればよいことになります。

なお、本件の通貨払の原則の例外は、労使協定では定められません。労働協約であることが必要です。のちに学習します「労使協定」で定める「全額払の原則の例外」(こちらとの違いについては、くれぐれも注意です(過去問が多いです)。

 

労使協定と労働協約との違いについては、「労働条件の決定システム」の「労使協定」の個所(こちら)をご参照下さい。

両者の基本的な違いは、次の通りです。

 

・「労働協約」は、労働組合が締結するものであり(なお、過半数労働組合でなく、少数派組合でも締結できます)、その効力は締結組合の組合員に及ぶのが原則です。【過去問 平成29年問6A(後掲)】

 

・「労使協定」は、労働組合でなくても締結でき(過半数労働組合がないときは、労働者の過半数代表者が締結できます。他方、労働組合が締結する場合は、過半数労働組合であることが必要です)、その効力は当該事業場のすべての労働者に及ぶのが原則です。

 

 

〇過去問:

 

・【平成20年問3A】

設問:

使用者は、賃金を通貨で支払わなければならないが、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、通貨以外のもので支払うことができる。

 

解答:

設問の書面による協定は、「労使協定」のことであり、「労働協約」ではありません(労働協約の場合は、労働者の「過半数」で組織されている労働組合により締結されることは必要ありませんし、労働組合以外のものである労働者の過半数代表者は労働協約を締結できません)。

従って、設問は誤りです(第24条第1項ただし書)。 

 

 

・【平成29年問6A】

設問:

労働協約の定めによって通貨以外のもので賃金を支払うことが許されるのは、その労働協約の適用を受ける労働者に限られる。

 

解答:

正しいです。

現物給与は、労働協約に定めがある場合は行えます(第24条第1項ただし書)。

そして、労働協約は、当該労働協約の対象となる労働者に適用されますから、労働協約により現物給与を定めた場合は、その「労働協約の適用を受ける労働者」のみに対して当該現物給与が可能となります。

 

なお、この「労働協約の適用を受ける労働者」とは、原則として、当該労働協約を締結した労働組合の組合員です(例外として、労働協約の効力(規範的効力)が当該締結組合の組合員以外に拡張適用される場合がありますが(一般的拘束力。労組法第17条第18条(労働一般のパスワード)、この場合も、拡張適用の結果、当該労働者が労働協約の適用を受けることになります)、詳細は労働組合法で学習しますので、ここではスルーして下さい)。

 

 

1 現物給与の評価額

 

なお、労働協約により通貨以外のものによる賃金の支払(現物給与)を行う場合は、労働協約において、その通貨以外のもの(現物)の評価額も定めることが必要です(施行規則第2条第2項)。

現物給与も、平均賃金(第12条第4項、第5項施行規則第2条第1項)や割増賃金(第37条)の算定基礎に含まれ、通貨に換算して評価する必要があることからです。

 

労働協約に定められた評価額不適当と認められる場合又は評価額定められていない場合は、都道府県労働局長が、その評価額を定めることができます(施行規則第2条第3項)。

 

注1:各法における現物給付の範囲及び評価額の決定権者については、すぐあとで説明します(こちら)。 

 

 

【施行規則】

施行規則第2条

1.労働基準法(昭和22年法律第49号。以下「法」という。)第12条第5項〔=第12条第5項〕の規定〔=賃金が通貨以外のものにより支払われる場合は、平均賃金の算定基礎である賃金総額に算入すべきものの範囲及び評価に必要な事項は、厚生労働省令により定められる〕により、賃金の総額に算入すべきものは、法第24条第1項ただし書の規定〔=通貨払の原則の例外〕による法令又は労働協約の別段の定めに基づいて支払われる通貨以外のものとする。

 

※ つまり、法令又は労働協約の定めに基づく現物給与については、平均賃金の算定基礎である賃金総額に算入するということです。

 

2.前項の通貨以外のものの評価額は、法令に別段の定がある場合の外、労働協約に定めなければならない。

 

3.前項の規定により労働協約に定められた評価額不適当と認められる場合又は前項の評価額が法令若しくは労働協約に定められていない場合においては、都道府県労働局長は、第1項の通貨以外のものの評価額を定めることができる。

  

 

2 現物給与の支給対象者

 

労働協約の定めによる現物給与は、当該労働協約の適用を受ける組合員(労働者)に対してのみ、行うことが可能です(【昭和63.3.14基発第150号/婦発第47号】参考)。

 

先に触れましたが、労働協約の効力は、労働協約の締結当事者(労働組合と使用者等)及びその労働組合の「組合員」にのみ及ぶのが原則です。

労働協約の効力が当該協約の締結組合の組合員以外の労働者にも拡張して適用される場合(一般的拘束力。労組法第17条(労働一般のパスワード)第18条)が例外です。

 

 

〇過去問:

 

・【平成21年問4A】

設問:

賃金は通貨で支払わなければならず、労働協約に定めがある場合であっても、小切手や自社製品などの通貨以外のもので支払うことはできない。

 

解答:

労働協約により定めれば、通貨以外のものによる賃金の支払も認められます(第24条第1項ただし書)。従って、設問は誤りです。

なお、小切手については、後述のように、退職手当の場合は、労働者の同意を得れば、労働協約の定めがないときであっても、一定の要件を満たす小切手による支払が認められます。

 

 

・【平成25年問7C】

設問:

いわゆる通貨払の原則は強行的な規制であるため、労働協約に別段の定めがある場合にも、賃金を通貨以外のもので支払うことは許されない。

 

解答:

労働協約に別段の定めがある場合には、労基法上、通貨払の原則の例外が認められているため、現物給与が可能となります(第24条第1項ただし書)。よって、設問は誤りです。 

 

 

※1 各法における現物給与の範囲・評価額の決定権者:

 

参考として、各法における現物給与の範囲及び評価額の決定権者についての横断整理の表を掲載しておきます。初学者の方は、流し読みして下さい。 

 

 

 

元に戻り、通貨払の原則の例外の3番目です。

 

(三)厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合

◆厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合は、通貨払の原則の例外が認められます(第24条第1項ただし書前段施行規則第7条の2)。

 

この「厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合」とは、 具体的には、以下の通りです。

 

◆使用者は、労働者の同意を得た場合は、次の図の方法により賃金を支払うことができます(施行規則第7条の2)。

 

上記の図について詳しく見ます。

 

1 賃金一般(退職手当も含む)の場合

 

◆使用者は、労働者の同意(※1)を得た場合は、以下の(1)又は(2)の方法により賃金を支払うことができます(施行規則第7条の2第1項)。

 

(1)当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込み施行規則第7条の2第1項第1号)※1

 

 

※1 同意等について: 

 

「『同意』については、労働者の意思に基づくものである限り、その形式は問わないものであり、『指定』とは、労働者が賃金の振込み対象として銀行その他の金融機関に対する当該労働者本人名義の預貯金口座を指定するとの意味であって、この指定が行われれば同項の同意が特段の事情のない限り得られているものである」と解されています(【昭和63.1.1基発第1号】)。

【過去問 平成28年問3A(後掲)】

 

また、「『振込み』とは、振り込まれた賃金の全額が所定の賃金支払日に払い出し得るように行われることを要するもの」とされます(前掲昭和63年基発第1号)。

 

 

〇過去問:

 

・【平成20年問3B】

設問:

使用者は、賃金を、銀行に対する労働者の預金への振込みによって支払うためには、当該労働者の同意を得なければならない。

 

解答:

正しいです。賃金の通貨払の原則の例外です(第24条第1項ただし書前段施行規則第7条の2第1項)。

なお、労働協約や労使協定により、この労働者の同意に代えることなどはできません。

 

 

・【平成28年問3A】

設問:

使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払について当該労働者が指定する銀行日座への振込みによることができるが、「指定」とは、労働者が賃金の振込み対象として銀行その他の金融機関に対する当該労働者本人名義の預貯金口座を指定するとの意味であって、この指定が行われれば同意が特段の事情のない限り得られているものと解されている。

 

解答:

正しいです。上記本文の※1(こちら)で記載していました部分から出題されました。  

 

 

(2)当該労働者が指定する金融商品取引業者(金融商品取引法(以下、「金商法」といいます)第2条第9項に規定する金融商品取引業者(第1種金融商品取引業を行う者に限り、金商法第29条の4の2第9項に規定する第1種少額電子募集取扱業者を除きます)をいう)に対する当該労働者の預り金(一定の要件(※2)を満たすものに限ります)への払込み(施行規則第7条の2第1項第2号) 

 

※2 当該預り金により投資信託及び投資法人に関する法律第2条第4項の証券投資信託の受益証券以外のものを購入しないこと、などの要件がつけられています

要するに、上記(2)の払込みとは、労働者が指定する証券会社に対する当該労働者の預り金のうち一定の要件を満たす証券総合口座への払込みのことです。

  

※3 上記の「金商法第29条の4の2第9項に規定する第1種少額電子募集取扱業者を除く」という部分は、平成27年5月29日施行の改正による追加部分です。

 

第1種少額電子募集取扱業者とは、「インターネットを通じた有価証券の募集の取扱いのうち、非上場の株券又は新株予約権証券の募集又は私募の取扱いであって、当該株券又は新株予約権証券の発行総額や一人当たり払込額が少額であるものを扱う業者」のことをいうとされます。

いわゆるクラウドファンディングのことです。

 

第1種少額電子募集取扱業者は、証券会社等の第1種金融商品取引業を行う者に比べて資産の安全性が高くなく、労働者の賃金の払込み先としてはふさわしくないと考えられるため、賃金の払込先となり得る第1種金融商品取引業を行う者から第1種少額電子募集取扱業者を除くこととしたものとされます(【平成27.5.29基発0528第7号】参考)。 

 

 

2 退職手当の場合

 

退職手当の場合は、労働者の同意を得た場合は、上記1の支払方法の他に、次の(1)~(3)の支払方法によることも可能です(施行規則第7条の2第2項)。

 

これは、退職手当の場合、その額が高額になることがあり、現金の保管、持ち運び等に伴う危険を回避する必要があるため、安全性のある支払方法については、労働者の同意を得た上で通貨払の原則の例外を認めたものです。

 

(1)銀行その他の金融機関によって振り出された当該銀行その他の金融機関を支払人とする小切手を当該労働者に交付すること(施行規則第7条の2第2項第1号

 

即ち、いわゆる自己宛小切手(銀行が振出人となっている小切手)の交付です。不渡りになる危険性が極めて低いため、確実な支払方法として許容されています。

 

(2)銀行その他の金融機関が支払保証をした小切手を当該労働者に交付すること(同項第2号

 

(3)郵政民営化法第94条に規定する郵便貯金銀行がその行う為替取引に関し負担する債務に係る権利を表章する証書を当該労働者に交付すること(同項第3号)。

 

※ この「郵便貯金銀行がその行う為替取引に関し負担する債務に係る権利を表章する証書」とは、具体的には、通達により、「株式会社ゆうちょ銀行が発行する普通為替証書及び定額小為替証書」のこととされています(【平成24.9.28基発0928第2号】/前掲【昭和63.1.1基発第1号・婦発第1号】)。

 

この(3)は、以前は、「郵便為替を当該労働者に交付すること」となっていましたが、「郵政民営化法等の一部を改正する等の法律」の制定により(平成24年5月8日公布、同年10月1日施行)、郵便局株式会社法の一部が改正されたことに伴い改められたものです。ただ、実質的な内容は、従来の「郵便為替」と異なりません。

 

以下、「厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合」(労基法第24条第1項ただし書前段)を受けた施行規則第7条の2の重要部分を抜粋しておきますが、読まなくて結構です。

 

【施行規則】

施行規則第7条の2

1.使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払について次の方法によることができる。

 

一 当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込み

 

二 当該労働者が指定する金融商品取引業者(金融商品取引法(昭和23年法律第25号。以下「金商法」という。)第2条第9項に規定する金融商品取引業者(金商法第28条第1項に規定する第一種金融商品取引業を行う者に限る。)をいう。以下この号において同じ。)に対する当該労働者の預り金(次の要件を満たすものに限る。)への払込み

 

イ 当該預り金により投資信託及び投資法人に関する法律(昭和26年法律第198号)第2条第4項の証券投資信託(以下この号において「証券投資信託」という。)の受益証券以外のものを購入しないこと。

 

ロ 当該預り金により購入する受益証券に係る投資信託及び投資法人に関する法律第4条第2項の投資信託約款に次の事項が記載されていること。

 

〔※ 以下、このロの続きと、ハは、試験対策上は不要なため省略し、第2項を記載します。〕

 

2.使用者は、労働者の同意を得た場合には、退職手当の支払について前項に規定する方法によるほか、次の方法によることができる。

 

一 銀行その他の金融機関によつて振り出された当該銀行その他の金融機関を支払人とする小切手を当該労働者に交付すること。

 

二 銀行その他の金融機関が支払保証をした小切手を当該労働者に交付すること。

 

三 郵政民営化法(平成17年法律第97号)第94条に規定する郵便貯金銀行がその行う為替取引に関し負担する債務に係る権利を表章する証書を当該労働者に交付すること。

 

〔第3項は省略します〕

 

 

 

以上で、通貨払の原則を終わります。 

 

 

〔2〕直接払の原則

一 原則

◆通貨は、直接労働者に支払わなければなりません(第24条第1項本文)。

 

○趣旨

親方、仲介人、親権者等の第3者(労働者以外の者)による賃金の中間搾取(ピンハネ)等を防止し、労働者本人に直接賃金の全額を受領させようとする趣旨です。

 

そこで、賃金は、当該労働者以外の者には支払うことはできませんから、労働者の委任を受けた任意代理人(例えば、弁護士(【過去問 平成21年問4B】)など)に賃金を支払うことや法定代理人に賃金を支払うことも禁止されます

 

なお、法定代理人に関し、未成年者については、特に第59条(下記でも掲載)により、法定代理人に賃金を支払うことを禁止する旨が明記されており、直接払の原則が強調されています(未成年者の親権者・後見人による代理受領の弊害が目立っていたという歴史的沿革を考慮して、未成年者の賃金を受領する側に対しても規制をしたものです)。

 

 

【条文】

第59条  

未成年者は、独立して賃金を請求することができる。親権者又は後見人は、未成年者の賃金を代つて受け取つてはならない

 

※ この条文の「親権者又は後見人」というキーワードは、記憶して下さい。 

 

 

二 例外

直接払の原則は、他の賃金支払の原則とは異なり、条文上例外規定されていません

ただ、一切の例外を認めないのも不都合なケースがあるため(例えば、労働者本人が病気や出張等で直接賃金を受領できないケースなど)、以下のような場合には例外が認められています

 

(一)使者に対する支払の場合

単に労働者本人の意思を伝達して賃金を受け取り本人に手渡すという事実行為を行うに過ぎない「使者」に支払うことは、本規定に違反しないと解されています(【昭和63.314基発第150号】参考)。

例えば、労働者本人が病気のため妻子に賃金を支払うようなケースです。

 

※ もっとも、賃金の受領が許されない代理人と使者との区別は困難なことが多く、いかなる場合に使者に対する支払として許容されるのかは問題もあります。

労働者本人に支払うのと同視できるような事情があること(労働者本人が直接受領できない事情があり、家族に支払う場合など)が必要になると解されます(実際上は、賃金の銀行振込みが一般化しているため、使者に対する支払が必要となるケースは少なくなっています)。

 

なお、派遣労働者の賃金を派遣元の使用者派遣先の使用者を通じて支払うことは、派遣先の使用者が派遣労働者本人に対して、派遣元の使用者からの賃金を手渡すことだけであれば、直接払の原則に違反しないとされています(【昭和61.6.6基発第333号】参考)。

【過去問 平成30年問6A(下記)】

この場合も、派遣先の使用者を一種の使者のように考えているのかもしれません。 

 

 

・【過去問 平成30年問6A】

設問:

派遣先の使用者が、派遣中の労働者本人に対して、派遣元の使用者からの賃金を手渡すことだけであれば、労働基準法第24条第1項のいわゆる賃金直接払の原則に違反しない。

 

解答:

前記本文の通り、本肢の場合は、直接払の原則に違反しないとされます(【昭和61.6.6基発第333号】)。よって、設問は正しいです。

 

 

(二)振込み等

通貨払の原則の例外である「厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合(第24条第1項ただし書前段施行規則第7条の2)(例えば、振込みなど)」(こちら)も、直接払の原則の例外にもあたることになります。

 

 

(三)差押債権者に対する賃金の支払

民事執行法や国税徴収法に基づき賃金債権が差し押さえられた場合に、使用者差押債権者に賃金を支払うこと認められると解されています(民事執行法第155条の金銭債権の差押債権者による直接取立権を参考)。【過去問 平成27年問4A(後掲)】

 

これらの法律による執行の実効化のためであり、これらの差押債権者に対して支払っても、刑法第35条 (労働一般のパスワード)〔=法令又は正当な業務による行為は、罰しない〕の正当行為として違法性が阻却されるため、労基法上の罰則は適用されないものと解されています。

ただし、賃金債権の差押は、無制約には認められず、差押限度額があります(民事執行法第152条、国税徴収法第76条)。 

 

〇過去問:

 

・【平成25年問7イ】

設問:

行政官庁が国税徴収法の規定に基づいて行った差押処分に従って、使用者が労働者の賃金を控除のうえ当該行政官庁に納付することは、いわゆる直接払の原則に抵触しない。

 

解答:

上記の通り、設問の場合に使用者が差押債権者である行政官庁に賃金を支払うことは認められ、直接払の原則に抵触しません。よって、設問は正しいです。

 

 

 ・【平成27年問4A】

設問:

労働基準法第24条第1項に定めるいわゆる賃金直接払の原則は、例外のない原則であり、行政官庁が国税徴収法の規定に基づいて行った差押処分に従って、使用者が労働者の賃金を控除のうえ当該行政官庁に納付することも、同条違反となる。

 

解答:

前問の【平成25年問7イ】と類似する問題です。

直接払の原則は、他の賃金支払の原則とは異なり、条文上は例外が規定されていないのですが、一切の例外を認めないのも不都合なケースがあるため、一定の例外が認められています。

設問の国税徴収法に基づき賃金債権が差し押さえられた場合に、使用者が差押債権者に賃金を支払うことも、執行の実効化の見地から、当然に認められるものと解されています(この場合に使用者が差押債権者に対して支払っても、刑法第35条 (労働一般のパスワード)の正当行為として違法性が阻却されるため、労基法上の罰則は適用されないものと解されています)。

 

 

三 その他の問題

以下、直接払の原則に関するその他の問題を見ます。

 

(一)賃金債権の譲受人に対する支払

労働者が賃金債権を第三者に譲渡した場合に、その譲受人に使用者が賃金を支払うことは、本規定の直接払の原則に違反すると解されています。

即ち、賃金債権が譲渡された場合であっても、使用者は譲渡人である労働者に対して賃金を支払うことが必要であり、また、賃金債権の譲受人は使用者に対して譲り受けた賃金債権の請求はできないとされます。【過去問 平成28年問3B(後掲)】

【小倉電話局事件=最判昭和43.3.12】/【伊予相互金融事件=最判昭和43.5.28】

 

この点、賃金債権の譲渡自体は、労基法その他の法律により禁止されていませんから、認められることになります(債権の自由譲渡の原則。民法第466条)。

すると、賃金債権を取得した譲受人(上記の図のC)は、当該賃金債権の債務者である使用者(B)に対して当該賃金債権を請求でき、使用者(B)はその賃金債務を譲受人(C)に対して支払うことが必要ともなります。

 

ただ、これを認めますと、実際上、親方、仲介人等の第三者(C)が労働者(A)に対して賃金債権の譲渡を強要して自ら賃金の支払を受けるといった直接払の原則を潜脱するような事態が生じるおそれがあることも無視できません。

そこで、判例は、直接払の原則を重視して、あくまで賃金は直接労働者に支払うことが必要であるとの立場をとったのかもしれません。

 

 

【小倉電話局事件=最判昭和43.3.12】

 

(事案)

旧公社職員の国家公務員等退職手当法に基づく退職手当債権が譲渡され、譲受人が使用者に請求したケース。

 

※ 判示の下線部分は、チェックして下さい。

 

(判旨)

「国家公務員等退職手当法(以下『退職手当法』という。)に基づき支給される一般の退職手当は、同法所定の国家公務員または公社の職員(以下『国家公務員等』という。)が退職した場合に、その勤続を報償する趣旨で支給されるものであつて、必ずしもその経済的性格が給与の後払の趣旨のみを有するものではないと解されるが、退職者に対してこれを支給するかどうか、また、その支給額その他の支給条件はすべて法定されていて国または公社に裁量の余地がなく、退職した国家公務員等に同法8条に定める欠格事由のないかぎり、法定の基準に従つて一律に支給しなければならない性質のものであるから、その法律上の性質は労働基準法11条にいう『労働の対償』としての賃金に該当し、したがつて、退職者に対する支払については、その性質の許すかぎり、同法24条1項本文の規定が適用ないし準用されるものと解するのが相当である。

 

※ 本件は国家公務員又は公社の職員に関する事案ですが、その退職手当について、予め支給基準が明確化されているとして、労基法上の賃金にあたり、賃金支払の5原則が適用(ないし準用)される旨が判示されています。

 

ところで、退職手当法による退職手当の給付を受ける権利については、その譲渡を禁止する規定がないから、退職者またはその予定者が右退職手当の給付を受ける権利を他に譲渡した場合に譲渡自体を無効と解すべき根拠はないけれども、労働基準法24条1項が『賃金は直接労働者に支払わなければならない。』旨を定めて、使用者たる貸金支払義務者に対し罰則をもつてその履行を強制している趣旨に徴すれば、労働者が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても、その支払についてはなお同条が適用され、使用者直接労働者に対し賃金を支払わなければならず、したがつて、右賃金債権の譲受人自ら使用者に対してその支払を求めることは許されないものと解するのが相当である。そして、退職手当法による退職手当もまた右にいう賃金に該当し、右の直接払の原則の適用があると解する以上、退職手当の支給前にその受給権が他に適法に譲渡された場合においても、国または公社はなお退職者に直接これを支払わなければならず、したがつて、その譲受人から国または公社に対しその支払を求めることは許されないといわなければならない。」

 

・【伊予相互金融事件=最判昭和43.5.28】は、民間の労働者の退職金債権の譲渡のケースについても、上記判例を前提として同様の結論をとりました。

 

 

〇過去問:

 

・【平成21年問4C】

設問:

労働者が賃金債権を第三者に譲渡した場合、譲渡人である労働者が債務者である使用者に確定日付のある証書によって通知した場合に限り、賃金債権の譲受人は使用者にその支払を求めることが許されるとするのが最高裁判所の判例である。

 

解答:

上記本文の通り、賃金債権の譲受人は、使用者にその支払を求めることはできません。従って、設問は誤りです。 

 

 

・【平成28年問3B】

設問:

労働者が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合でも、使用者は当該賃金債権の譲受人に対してではなく、直接労働者に対し賃金を支払わなければならないとするのが、最高裁判所の判例である。

 

解答:

上記本文の こちら以下の通り、正しいです。前回出題の上記【平成21年問4C】より、素直な出題となっています。  

 

 

(二)事業主のために行為をする者が支払う場合

賃金支払の手数を省くため、何人かの労働者から委任を受けた者に一括して賃金を支払う方法をとることは、直接払違反となるので許されません。

ただし、本規定は、事業主が労働者個々人にじかに賃金を手渡すことを要求するものではないため、係長等に支払事務の補助を命じ、これらの者をして事業主のために労働者に賃金を手渡させることは、これらの者が使用者の立場において行うものですから、本規定に抵触しないとされます。

 

支払事務を行った係長等は、第10条の「その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」として、「使用者」にあたりますから、使用者が直接労働者に賃金を支払ったことになり、直接払に違反しません。

 

以上で、直接払の原則は終了です。全額払の原則からは、次ページで見ます。