令和6年度版

 

三 事案の類型化

以下、労働時間性が問題となる具体的なケースを類型化しておきます。

具体的なケースの処理の結論については、択一式で出題しやすい個所ですから、押さえておく必要があります。

 

労働時間が問題となるケースは、上記図のように類型化できます(荒木先生の相補的2要件説による整理ですが(荒木「労働法」第5版214頁(第4版204頁、初版164頁)参考)、その説を採らない場合にも参考になります。ちなみに、相補的2要件説からは、上記図の1(使用者の関与)と2(活動内容・職務性)との兼ね合い(相関関係)から労働時間にあたるかどうかが判断されます)。

 

以下、便宜上、上記図の2(2)の「不活動時間」のケースから簡単に整理していきます。

 

 

 

(一)不活動時間

不活動時間とは、実作業に従事していない時間のこととできます。労働密度の薄さのため労働時間性が問題となる場合です。

(この「不活動時間」という表現は、後述のように、判例も使用しています。)

 

 

1 手待時間、待機時間

 

(1)例えば、貨物取り扱いの事業場において、貨物の積込係が、貨物自動車の到着を待機して身体を休めている場合とか、運転手が2名乗り込んで交代で運転に当たる場合において運転しない者が助手席で休息し、又は仮眠しているときであっても、後述のように、それらは「労働」であり、その状態にある時間(このように労働者が作業を行うために待機している時間を、一般に「手待時間」といいます)は労働時間とされます(【昭和33.10.11基収第6286号】参考)。

 

【過去問 平成26年問5D(こちら)】/【平成30年問1イ(こちら)】/【令和2年問6A(こちら)】/【令和4年問2B(こちら)】

 

 

(2)また、昼食休憩中でも、来客当番をさせている場合は、実際には来客がなくても労働時間にあたります(【昭和23.47基収第1196号】等参考)。

 

 

※ このような手待時間、待機時間といった不活動時間は、休憩時間なのか、それとも労働時間なのかが問題となります。

休憩時間とは、既述の通り、「労働者が権利として労働から離れることを保障された時間」をいい、労働時間との区別も、労働からの解放・離脱の有無を考慮することになります。

もっとも、拘束時間のうち、休憩時間に該当しない時間は労働時間に当たりますから(第32条参考)、休憩時間に該当するかどうかの判断は、労働時間に該当するかどうかの判断と表裏の関係にあります。

即ち、労働時間は、使用者の指揮命令の下に置かれているものと客観的に評価できる時間と解され(指揮命令下説)、具体的には、使用者の関与の程度・態様や業務(職務)との関連性の程度、拘束性(義務性)の有無・程度など、諸事情を総合的に検討して判断すべきであり、このような労働時間に該当しない拘束時間が休憩時間に該当することになります。

 

この点、手待時間、待機時間は、一般に、状況に応じていつでも現実の業務に従事することが必要となる時間であり、労働から解放された時間とはいえないこと(業務性が強く、拘束性も強いです。そして、これらは使用者の指示等に基づくのが通常です)を考えますと、かかる時間は使用者の指揮命令の下に置かれているものとして、労働時間にあたると考えられます。

 

 

○過去問:

 

・【平成26年問5D】

設問:

労働基準法第32条にいう「労働」とは、一般的に、使用者の指揮監督のもとにあることをいい、必ずしも現実に精神又は肉体を活動させていることを要件とはしない。したがって、例えば、運転手が2名乗り込んで交替で運転に当たる場合において運転しない者が助手席で休息し、又は仮眠をとっているときであってもそれは「労働」であり、その状態にある時間は労働基準法上の労働時間である。

 

解答:

正しいです(【昭和33.10.11基収第6286号】参考)。

 

 

・【平成26年問5E】

設問:

労働基準法第34条に定める「休憩時間」とは、単に作業に従事しないいわゆる手待時間は含まず、労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間をいう。

 

解答:

正しいです(【昭和22.9.13発基第17号】参考)。

 

 

・【平成21年問5D】

設問:

労働者を就業規則に定める休憩時間に来客当番として事務所に待機させたが、その時間に実際に来客がなかった場合には、休憩時間以外の労働時間が法定労働時間どおりであれば、使用者は、労働基準法第37条第1項の規定による割増賃金を支払う義務はない。

 

解答:

誤りです。

本問の待機時間は、使用者から、来客があった場合はその対応に当たるべく待期させられている時間といえますので、労働から解放された時間とはいえず、来客の有無にかかわらず、労働時間となります。

従って、当該日の総労働時間は法定労働時間を超えていることになりますから、時間外労働の割増賃金の支払義務が生じます。

 

 

・【平成30年問1イ】

設問:

貨物自動車に運転手が二人乗り込んで交替で運転に当たる場合において、運転しない者については、助手席において仮眠している間は労働時間としないことが認められている。

 

解答:

誤りです。

前掲の【平成26年問5D】の事案(こちら)と同様です(【昭和33.10.11基収第6286号】参考)。

本問の助手席における仮眠時間についても、状況に応じていつでも運転につくことが必要となる時間であり、労働から解放された時間とはいえないこと(業務性が強く、拘束性も強いです)を考えますと、かかる時間は使用者の指揮命令の下に置かれているものとして、労働時間にあたると考えられます。

 

 

・【令和2年問6A】

設問:

運転手が2名乗り込んで、1名が往路を全部運転し、もう1名が復路を全部運転することとする場合に、運転しない者が助手席で体息し又は仮眠している時間は労働時間に当たる。

 

解答:

誤りです。

前掲の【平成30年問1イ(こちら)】等と同様の内容です。

2名の労働者が往路と復路の運転を分担し、運転しない者は助手席休息し又は仮眠しているといっても、状況に応じていつでも運転につくことが必要となるのであり、労働から解放された時間とはいえないこと(業務性が強く、拘束性も強いです)を考えますと、かかる時間は使用者の指揮命令の下に置かれているものとして、労働時間にあたると考えられます。 

 

 

・【令和4年問2B】

設問:

定期路線トラック業者の運転手が、路線運転業務の他、貨物の積込を行うため、小口の貨物が逐次持ち込まれるのを待機する意味でトラック出発時刻の数時間前に出勤を命ぜられている場合、現実に貨物の積込を行う以外の全く労働の提供がない時間は、労働時間と解されていない。

 

解答:

誤りです。

本問のトラック運転手のいわゆる手待時間・待機時間については、小口の貨物が逐次持ち込まれるのに応じていつでも現実の業務に従事することが必要となる時間であり、かつ、トラック出発時刻の数時間前に出勤を命ぜられているものですから、労働から解放された時間ではなく、使用者の指揮命令の下に置かれているものとして、労働時間に該当するものと解されます。

 

同様の事案について、【昭和33.10.11基収第6286号】は、「一部の定期路線トラック業者においては、運転手に対して路線運転業務の他、貨物の積込、積卸を行わせることとし、小口の貨物が逐次持ち込まれるのを待機する意味でトラック出発時刻の数時間前に出勤を命じている。この場合、現実に貨物の積込を行う以外の全く労働の提供はなく、いわゆる手持ち時間がそれの大半を占めているが、出勤を命ぜられ、一定の場所に拘束されている以上労働時間と解すべきか。」という問に対して、「見解のとおり」と回答しています。

 

  

 

(3)なお、訪問介護労働者の待機時間については、使用者が急な需要等に対応するため事業場等において待機を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当するとされます(【平成16.8.27基発第0827001号】参考)。

    

また、訪問介護労働者の移動時間(=事業場・集合場所・使用者宅の相互間を移動する時間をいいます)については、使用者が、業務に従事するために必要な移動を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当するとされます(同上通達)。

【過去問 平成19年問5A(こちら)】  

 

 

 

2 仮眠時間

 

仮眠時間については、前ページの大星ビル管理事件判決(こちら以下)の中で詳述しています。

 

基本的な考え方は、上記1の手待時間、待機時間と同様となります。

 

 

 

3 マンション住込み管理人の所定時間外の業務

 

マンションの住込み管理人が所定労働時間の前後、あるいは、休日において、断続的に業務に従事していた場合等の労働時間性について、最高裁判例があります。

従来未出題でしたが、【選択式 令和5年度 C=「労働からの解放」(こちら)】が出題されました。

 

 

【大林ファシリティーズ事件=最判平成19.10.19】

 

(事案)

 

マンションの住込み管理人〔=判決は、管理員といっています。本件事例では、夫婦による住込みです〕は、所定労働時間(9時から18時まで。休憩時間は1時間)外や休日においては、管理員室を閉じて隣の居室にいたが、住人の呼び出しに等により宅配物の受け渡し等を行っており、また、日曜日(法定休日)・祝日(法定外休日)においても、管理員室の照明の点消灯、ごみ置き場の扉の開閉等を指示されていた場合に、時間外労働及び休日労働の成否が問題となった事案。

詳しい事案は後述しますが、長いため、初めに解説しておきます。

 

 

(解説)

 

判決は、労働時間性について、前掲の三菱重工長崎造船所事件判決及び大星ビル管理事件判決で示された基準に従って判断しています。

そして、具体的な事案の処理としては、平日においては、会社の指示や対応住民の期待等を考慮して、管理員室の照明を点灯しておくよう指示されていた午前7時から午後10時まで(休憩時間を除きます)は、管理員室の隣の居室にいた不活動時間(=実作業に従事していない時間のこと)も含めて、本件会社の指揮命令下に置かれていたものと評価できるとして、労働時間と認めました。

 

他方、日曜日及び祝日については、管理員室の照明の点消灯及びごみ置場の扉の開閉以外には労務の提供が義務づけられておらず労働からの解放が保障されていたということができ、午前7時から午後10時までの時間全部について待機することが命ぜられた状態と同視することもできないとして、管理員室の照明の点消灯、ごみ置場の扉の開閉その他会社が明示又は黙示に指示したと認められる業務に現実に従事した時間に限り休日労働又は時間外労働をしたものと認めました(日曜日及び祝日においても、実際は、受付業務等による住民との対応、宅配物等の受渡し等を行っていたのですが、会社は一定行為以外は指示していなかったこと、及び受付等の業務も平日及び土曜日と比べて相当に少なかったことが考慮されて、平日等のように広範には労働時間を認めませんでした)。

 

なお、管理員が、平日の所定労働時間内に、病院に通院したり、犬を運動させたりする時間については、それらは管理員の業務とは関係のない私的な行為であり、管理員の業務形態が住み込みによるものであったことを考慮しても、管理員の業務の遂行に当然に伴う行為であるということはできないとして、会社の指揮命令下にあったということはできず、労働時間に該当しないとしました。

ここでは、当該行為の業務性(「業務とは関係のない私的な行為」であること)が考慮されています。

 

 

詳しくは、次のような事案です(参考までに掲載しておきますが、長いので読まなくても結構です)。

 

夫婦ABがマンション管理会社とマンションの住込み管理のため雇用契約を締結して、当該管理業務に従事していた。

就業規則では、 所定労働時間は、1日8時間(始業午前9時、終業午後6時、休憩正午から午後1時まで)とすること、休日は、1週につき1日の法定休日(日曜日)及び法定外休日(土曜日、祝日、夏期、年末年始等)とすること等が定められていた。

 

実際の勤務状況等は、次のようになっていた。

 

(a)まず、平日については、会社は、午前9時以前及び午後6時以降(即ち、所定労働時間外)においても、管理員室の照明点灯(午前7時)、ごみ置場の扉の開錠、テナント部分の冷暖房装置の運転開始・停止、無断駐車の確認及び発見後の対応(午後9時)、ごみ置場の扉の施錠(同)、管理員室の照明消灯(午後10時)の業務を行うよう指示していた。

また、別途手渡されていたマニュアルには、管理員が、所定労働時間外においても、住民や外来者から宅配物の受渡し等の要望があった場合はこれに随時対応すべき旨が記載されていた。

なお、夫婦が管理員室に在室するのは午前9時から午後6時までであり、それ以外の時間及び休日については、「本日の受付は終了しました」と記載された札を出し、管理員室の窓口を閉じて隣の居室にいたが、住民からのインターホンによる呼出しに応じていたほか、居住者不在の場合の書留郵便、宅配物等の受渡しもしていた。

 

(b)法定外休日である土曜日についても、原則として、平日と同様の業務を行うべきことを指示していたが、土曜日は夫婦のいずれか1人が業務を行い、業務を行った者については翌週の平日のうち1日を振替休日とすることとし定めていた。

土曜日の業務に関する本件会社の指示及び本件マニュアルの記載のうち、平日と異なる点は、土曜日の勤務は1人で行うため巡回等で管理員室を空ける場合に他方が待機する必要はないこと、冷暖房装置の運転停止の時刻が午後6時であることであった。

しかし、業務の性質が平日の業務と余り変わらないものであったことや住民の要望もあったため、実際には、被上告人らの土曜日の勤務状況は平日とほとんど変わらないものであった。

 

(c)日曜日(法定休日)及び祝日(法定外休日)については、会社は、管理員室の照明の点消灯、ごみ置場の扉の開閉以外には業務を行うべきことを指示していなかった。これらの日に夫婦がやむを得ず仕事をした場合は、振替休日を取るよう指示していた。

しかし、業務の性質が平日の業務と余り変わらないものであったことや住民の要望もあったため、実際には、夫婦は、日曜日及び祝日においても、受付業務等による住民との対応、宅配物等の受渡し、駐車の指示、自転車置場の整理、リサイクル用ごみの整理等に従事していた。もっとも、受付等の業務は平日及び土曜日と比べて相当に少なかった。

 

(d)夫婦は、会社の指示により、管理日報を日々作成し、これを会社に提出していた。会社は、管理日報等により、定期的に夫婦から業務に関する報告を受け、適宜業務についての指示をしていた。

 

 

(判旨)

 

※ 基本的に、次の判旨の(1)の太字部分に注意すればよいでしょう。(2)以下は、事例判断の部分のため、出題対象とはしにくそうですので、読まなくて結構です(次の、「本務外の活動」の問題(こちら)にお進み下さい)。

 

「(1)労働基準法32条の労働時間(以下『労基法上の労働時間』という。)とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない時間(以下『不活動時間』という。)が労基法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものというべきである(最高裁平成7年(オ)第2029号同12年3月9日第一小法廷判決・民集54巻3号801頁参照〔※ 三菱重工長崎造船所事件を参照しています〕)。そして、不活動時間において、労働者が実作業に従事していないというだけでは、使用者の指揮命令下から離脱しているということはできず、当該時間に労働者が労働から離れることを保障されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができる。したがって、不活動時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である(最高裁平成9年(オ)第608号、第609号同14年2月28日第一小法廷判決・民集56巻2号361頁参照〔※ 大星ビル管理事件を参照しています〕)。」

 

【選択式 令和5年度 C=「労働からの解放」(こちら)】

 

 

「(2)平日の時間外労働について

 

ア 前記事実関係等によれば、本件会社は、被上告人ら〔=管理人夫婦です。以下同様〕に対し、所定労働時間外においても、管理員室の照明の点消灯、ごみ置場の扉の開閉、テナント部分の冷暖房装置の運転の開始及び停止等の断続的な業務に従事すべき旨を指示し、被上告人らは、上記指示に従い、各指示業務に従事していたというのである。また、本件会社は、被上告人らに対し、午前7時から午後10時まで管理員室の照明を点灯しておくよう指示していたところ、本件マニュアルには、被上告人らは、所定労働時間外においても、住民や外来者から宅配物の受渡し等の要望が出される都度、これに随時対応すべき旨が記載されていたというのであるから、午前7時から午後10時までの時間は、住民等が管理員による対応を期待し、被上告人らとしても、住民等からの要望に随時対応できるようにするため、事実上待機せざるを得ない状態に置かれていたものというべきである。さらに、本件会社は、被上告人らから管理日報等の提出を受けるなどして定期的に業務の報告を受け、適宜業務についての指示をしていたというのであるから、被上告人らが所定労働時間外においても住民等からの要望に対応していた事実を認識していたものといわざるを得ず、このことをも併せ考慮すると、住民等からの要望への対応について本件会社による黙示の指示があったものというべきである。

そうすると、平日の午前7時から午後10時までの時間(正午から午後1時までの休憩時間を除く。)については、被上告人らは、管理員室の隣の居室における不活動時間も含めて、本件会社の指揮命令下に置かれていたものであり、上記時間は、労基法上の労働時間に当たるというべきである。したがって、被上告人らが平日は午前7時から午前9時まで及び午後6時から午後10時まで時間外労働に従事した旨の原審の判断は、正当として是認することができる。

 

イ また、前記事実関係等によれば、平日においては、後述する土曜日の場合とは異なり、1人体制で執務するようにとの本件会社からの指示はなく、実際にも、被上告人らは、所定労働時間外も含め、2人で指示業務に従事したというのである。そうすると、被上告人らが2人で時間外労働に従事した旨の原審の判断についても是認することができる。

 

〔中略〕

 

(3)土曜日の時間外労働について

 

ア 土曜日〔=法定外休日です〕においても、平日と同様、午前7時から午後10時までの時間(正午から午後1時までの休憩時間を除く。)は、管理員室の隣の居室における不活動時間も含めて、労基法上の労働時間に当たるものというべきである。

また、前記事実関係等によれば、本件会社は、土曜日は被上告人らのいずれか1人が業務を行い、業務を行った者については、翌週の平日のうち1日を振替休日とすることについて、被上告人らの承認を得ていたというのであるが、他方で、被上告人らは、現実には、翌週の平日に代休を取得することはなかったというのである。そうである以上、土曜日における午前7時から午後10時までの時間(正午から午後1時までの休憩時間を除く。)は、すべて時間外労働時間に当たるというべきである。

 

イ しかしながら、上記のとおり、本件会社は、土曜日は被上告人らのいずれか1人が業務を行い、業務を行った者については、翌週の平日のうち1日を振替休日とすることについて、被上告人らの承認を得ていたというのであり、また、前記事実関係等によれば、本件会社は、被上告人らに対し、土曜日の勤務は1人で行うため、巡回等で管理員室を空ける場合に他方が待機する必要はないことなどを指示していたというのである。さらに、前記事実関係等によれば、そもそも管理員の業務は、実作業に従事しない時間が多く、軽易であるから、基本的には1人で遂行することが可能であったというのである。

上記のとおり、本件会社は、被上告人らに対し、土曜日は1人体制で執務するよう明確に指示し、被上告人らもこれを承認していたというのであり、土曜日の業務量が1人では処理できないようなものであったともいえないのであるから、土曜日については、上記の指示内容、業務実態、業務量等の事情を勘案して、被上告人らのうち1名のみが業務に従事したものとして労働時間を算定するのが相当である。」

 

「(4)日曜日及び祝日の休日労働ないし時間外労働について前記事実関係等によれば、本件会社は、日曜日及び祝日については、本件雇用契約において休日とされていたことから、管理員室の照明の点消灯、ごみ置場の扉の開閉以外には、被上告人らに対して業務を行うべきことを指示していなかったというのであり、また、日曜日及び祝日は、本件管理委託契約〔=マンションと本件管理会社との契約です〕においても休日とされていたというのである。

そうすると、被上告人らは、日曜日及び祝日については、管理員室の照明の点消灯及びごみ置場の扉の開閉以外には労務の提供が義務付けられておらず労働からの解放が保障されていたということができ、午前7時から午後10時までの時間につき、待機することが命ぜられた状態と同視することもできない。したがって、上記時間のすべてが労基法上の労働時間に当たるということはできず、被上告人らは、日曜日及び祝日については、管理員室の照明の点消灯、ごみ置場の扉の開閉その他本件会社が明示又は黙示に指示したと認められる業務に現実に従事した時間に限り、休日労働又は時間外労働をしたものというべきである。」

 

「(5)病院への通院、犬の運動に要した時間について

 

被上告人らが病院に通院したり、犬を運動させたりしたことがあったとすれば、それらの行為は、管理員の業務とは関係のない私的な行為であり、被上告人らの業務形態が住み込みによるものであったことを考慮しても、管理員の業務の遂行に当然に伴う行為であるということはできない。病院への通院や犬の運動に要した時間において、被上告人らが本件会社の指揮命令下にあったということはできない。」

 

 

以上で、「3 マンション住込み管理人の所定時間外の業務」について終わります。

次に、(二)本務外の活動です。

 

 

 

(二)本務外の活動

「本来の業務」外の活動の労働時間性が問題となるケースです。

 

考え方は、既述の労働時間性の判断の個所で述べたとおりです。

即ち、労働時間は、使用者の指揮命令の下に置かれているものと客観的に評価できる時間と解され(指揮命令下説)、具体的には、使用者の関与の程度・態様や業務(職務)との関連性の程度、拘束性(義務性)の有無・程度など、諸事情を総合的に検討して判断すべきであり、本件では、特に業務との関連性の程度等が問題となります。

 

 

1 準備、後始末業務

 

既述の三菱重工長崎造船所事件のケース(こちら)が重要です。作業服への更衣、保護具の装着などが問題となっています。前掲のリンク先をご覧下さい。 

 

 

 

2 研修・教育、企業の行事、小集団活動

 

所定労働時間外研修・教育活動企業の行事(運動会など)等が行われ労働者が参加した場合、これに要した時間が労働時間に当たるのかの問題です。

参加が義務的なもので企業の業務としての性格が強いような場合は、使用者の指揮命令下にある時間として、労働時間にあたることになります。

具体的ケースとしては、次のようなものがあります。よく出題されています。

 

 

(1)就業時間外の教育訓練

 

「労働者が使用者の実施する教育に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益取扱による出席の強制がなく自由参加のものであれば、時間外労働にならない。」とされます(【昭和26.1.20基収第2875号】/【平成11.3.31基発第168号】)。

 

即ち、「労働者が使用者の実施する教育、研修に参加する時間を労働時間とみるべきか否かについては、就業規則上の制裁等の不利益な取扱いの有無や、教育・研修の内容と業務との関連性が強く、それに参加しないことにより本人の業務に具体的に支障が生ずるか否か等の観点から、実質的にみて出席の強制があるか否かにより判断すべきものである。」とされます(厚労省コンメ平成22年版上巻400頁(令和3年版では、教育訓練について、「労働者が所定時間外に使用者の実施する教育に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益取扱いによる出席の強要がなく自由参加のものであれば、時間外労働にはならない」とします)。

「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」のこちらも参考です。

 

【過去問 平成26年問5B(こちら)】/【令和4年問2C(こちら)】

 

 

◯過去問:

 

・【平成26年問5B】

設問:

労働者が使用者の実施する教育、研修に参加する時間を労働時間とみるべきか否かについては、就業規則上の制裁等の不利益な取扱いの有無や、教育・研修の内容と業務との関連性が強く、それに参加しないことにより本人の業務に具体的に支障が生ずるか否か等の観点から、実質的にみて出席の強制があるか否かにより判断すべきものである。

 

解答:

正しいです。上記本文の通りです。

 

 

 

(2)安全衛生教育の時間

 

労働安全衛生法「第59条および第60条の安全衛生教育〔=雇入れ時・作業内容変更時の教育、特別教育、職長等教育〕は、労働者がその業務に従事する場合の労働災害の防止を図るため、事業者の責任において実施されなければならないものであり、したがって、安全衛生教育については所定労働時間内に行うのを原則とする。また、安全衛生教育の実施に要する時間労働時間と解されるので、当該教育が法定労働時間外に行われた場合には、当然割増賃金が支払われなければならないものである」とされます(【昭和47.9.18基発第602号】)。

【過去問 令和4年問2C(こちら)】等

 

この点、安衛法上の安全衛生教育は、当該労働者が従事する業務に関する安全衛生のための教育であり、業務と強い関連性があること、そして、法律上、事業者に安全衛生教育を行う義務が課されており、使用者が積極的に関与することが想定されていることを考えますと、安全衛生教育の実施に要する時間は労働時間にあたると解してよいことになります(なお、この場合、使用者の指揮命令下にあるかどうかという基準は、あまり有効とはいえません)。

 

 

【参考条文 労働安全衛生法】

安衛法第59条(安全衛生教育)

1.事業者は、労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。〔=「雇入れ時の教育」といいます〕

 

2.前項の規定は、労働者の作業内容を変更したときについて準用する。〔=「作業内容変更時の教育」といいます〕

 

3.事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。〔=「特別教育」といいます〕

 

 

安衛法第60条  

事業者は、その事業場の業種が政令で定めるものに該当するときは、新たに職務につくこととなつた職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者(作業主任者を除く。)に対し、次の事項について、厚生労働省令で定めるところにより、安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。〔=「職長等教育」といいます〕

 

一  作業方法の決定及び労働者の配置に関すること。

 

二  労働者に対する指導又は監督の方法に関すること。

 

三  前2号に掲げるもののほか、労働災害を防止するため必要な事項で、厚生労働省令で定めるもの

 

 

過去問としては、安衛法で出題されているものもあります。

 

 

〇過去問:

 

・【安衛法 平成17年問8D】

設問:

労働安全衛生法第59条第3項の規定に基づく安全又は衛生のための特別の教育の実施に要する時間は、業務との関連性が深く、労働時間と解されるが、同条第1項の規定に基づく雇入れ時の安全衛生教育が法定労働時間外に行われた場合には、労働基準法第37条の規定に基づく割増賃金を支払うまでの必要はない。

 

解答:

誤りです。

安衛法第59条第1項の雇入れ時の安全衛生教育の実施に要する時間についても、労働時間にあたるとされています(【昭和47.9.18基発第602号】)。

雇入れ時の安全衛生教育も、業務との関連性が深いという点では、特別教育と異なりません。

従って、当該教育が法定労働時間外に行われた場合は、時間外労働にあたりますので、割増賃金の支払が必要です。

 

 

・【安衛法 平成26年問10B】

設問:

労働安全衛生法第59条および第60条の安全衛生教育については、それらの実施に要する時間は労働時間と解されるので、当該教育が法定労働時間外に行われた場合には、当然割増賃金が支払われなければならない。

 

解答:

正しいです(【昭和47.9.18基発第602号】)。

 

 

・【令和4年問2C】

設問:

労働安全衛生法第59条等に基づく安全衛生教育については、所定労働時間内に行うことが原則とされているが、使用者が自由意思によって行う教育であって、労働者が使用者の実施する教育に参加することについて就業規則上の制裁等の不利益取扱による出席の強制がなく自由参加とされているものについても、労働者の技術水準向上のための教育の場合は所定労働時間内に行うことが原則であり、当該教育が所定労働時間外に行われるときは、当該時間は時間外労働時間として取り扱うこととされている。

 

解答:

誤りです。

本問は、前段が安衛法の安全衛生教育の問題であるのに対して、後段は安衛法には基づかない自主的な教育訓練・研修の問題であることに注意です。

 

まず、「労働安全衛生法第59条等に基づく安全衛生教育については、所定労働時間内に行うことが原則とされている」という点は、正しいです(【昭和47.9.18基発第602号】)。

当該安全衛生教育は、労働者がその業務に従事する場合の労働災害の防止を図るため、事業者の責任において実施されなければならないものだからとされます。

そして、当該安全衛生教育の実施に要する時間は労働時間とされます(以上は、こちらです)。

 

他方、「使用者が自由意思によって行う教育であって、労働者が使用者の実施する教育に参加することについて就業規則上の制裁等の不利益取扱による出席の強制がなく自由参加とされているもの」は、労働安全衛生法に基づき事業者に実施が義務づけられている安全衛生教育ではありません。

そして、当該教育は、出席の強制がなく自由参加のものである以上、「労働者の技術水準向上のための教育」ではあっても、使用者による強制性・拘束性は弱いですから、使用者の指揮命令の下に置かれているものとは評価できず、当該教育が所定労働時間外に行われても当該時間は時間外労働時間には該当しないものと解されます。

【昭和26.1.20基収第2875号】も、「労働者が使用者の実施する教育に参加することについて、就業規則上の制裁等の不利益取扱による出席の強制がなく自由参加のものであれば、時間外労働にならない。」としています(以上は、こちらです)。

 

 

 

(3)健康診断の受診時間

 

健康診断の受診時間については、先に少し触れましたが、試験対策上、次のように暗記して下さい。

 

〇 健康診断の受診時間の労働時間性:

 

一般健康診断(の受診時間)➡ 労基法上の労働時間にあたらない ×

 

特殊健康診断(の受診時間)➡ 労基法上の労働時間にあたる ○ 

 

 

【過去問 平成21年問5A(こちら)】/【平成21年問5E(こちら)】/【安衛法 平成27年問10オ(こちら)】/【令和4年問2A(こちら)】

 

 

通達は、次の通りです。

 

「健康診断の受診に要した時間についての賃金の支払いについては、労働者一般に対して行われる、いわゆる一般健康診断は、一般的な健康の確保を図ることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり、業務遂行との関連において行われるものではないので、その受診のために要した時間については、当然には事業者の負担すべきものではなく労使協議して定めるべきものであるが、労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると、その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましい

特定の有害な業務に従事する労働者について行われる健康診断、いわゆる特殊健康診断は、事業の遂行にからんで当然実施されなければならない性格のものであり、それは所定労働時間内に行われるのを原則とする。また、特殊健康診断の実施に要する時間労働時間と解されるので、当該健康診断が時間外に行われた場合には、当然割増賃金を支払わなければならないものである。」(前掲の【昭和47.9.18基発第602号】)

 

 

※ この通達は、前段の一般健康診断の実施に要する時間について、後段の特殊健康診断との対比からして、労働時間にはあたらないと解していることになります(なお、賃金支払の対象になるのかという賃金時間の問題と労基法上の労働時間になるのかの問題とは、既述のように、一応別個の問題です。ただ、労基法上の労働時間といえる場合は、労働契約の合理的解釈として、基本的には、賃金支払義務の生じる賃金時間にあたると解される旨を、大星ビル管理事件の判例が言及しています)。

 

この通達は、労働時間性の判断において一般健康診断と特殊健康診断とを区別する理由として、業務との関連性の程度の違いを考慮しているものと解されます。

確かに、この両者の健診については、業務との関連性の程度に違いがありますし、また、常時使用する労働者全員に対して原則的に実施が要求される一般健康診断について、その受診時間を常に労働時間と解することは、使用者に過度の負担が強いられるおそれもあり、その点でも、一般健診と特殊検診を区別する合理性があるとはいえます。

一方、使用者の指揮命令下にあるかどうかという基準(ないし使用者の関与の程度・態様)という点では、両健康診断を区別する合理性はないことになります。

そこで、指揮命令下説をあまり形式的に考えてしまいますと、本件の通達の立場は説明できないことになります。

 

いずれにしましても、試験対策上は、前掲の青の枠囲みの部分を記憶しておきます。

 

 

【参考条文 安衛法】

安衛法第66条(健康診断)

1.事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第66条の10第1項(安衛法のパスワード)に規定する検査〔=心理的な負担の程度を把握するための検査。いわゆるストレスチェック〕を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行なわなければならない。〔=一般健康診断

〔※ この第1項は、一般健康診断です。次の第2項、3項が特殊健康診断です。〕

 

2.事業者は、有害な業務で、政令で定めるもの従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。〔=有害業務従事者の特殊健康診断

 

3.事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、歯科医師による健康診断を行なわなければならない。〔=歯科医師による健康診断(特殊健康診断)〕

 

〔以下、省略(全文は、安衛法のこちら)。〕

 

 

 

※ なお、安衛法の「面接指導」の時間の労働時間性については、安衛法のこちら以下で見ています。

 

 

○過去問:

 

・【平成21年問5E】

設問:

労働安全衛生法に定めるいわゆる一般健康診断が法定労働時間外に行われた場合には、使用者は、当該健康診断の受診に要した時間について、労働基準法第37条第1項の規定による割増賃金を支払う義務はない。

 

解答:

正しいです。

前掲の【昭和47.9.18基発第602号】は、その通達中の後段の特殊健康診断の受診時間について労基法上の労働時間と解していることとの対比から、前段の一般健康診断の受診時間については労基法上の労働時間と解していないこととなります。

従って、一般健康診断が法定労働時間外に行われた場合においては、割増賃金の問題は生じないものと解されます。

 

なお、この通達は、一般健康診断は、「業務遂行との関連において行われるものではないので、その受診のために要した時間については、当然には事業者の負担すべきものではなく労使協議して定めるべきものである」としていますが、この部分は、厳密には、本問の解答のための直接的な手掛かりとはならないことになります。

なぜなら、労基法上の労働時間と賃金支払対象となる時間(賃金時間)とは一応区別されるため、例えば、一般健康診断の受診時間について労基法上の労働時間にあたらないとしても、労働契約等において当該受診時間について賃金を支払う旨の定めをすることは可能なのであり、逆に、当該受診時間について当然には賃金を支払う必要はないものと解した場合であっても、だからといって当然に労基法上の労働時間にあたらないとはいえないからです(要するに、労基法上の労働時間に該当するかどうかは、指揮命令下説等の基準にあたるかどうかを個別に判断することが必要です)。

 

 

・【平成21年問5A】

設問:

労働安全衛生法に定めるいわゆる特殊健康診断が法定労働時間外に行われた場合には、使用者は、当該健康診断の受診に要した時間について、労働基準法第37条第1項の規定による割増賃金を支払わなければならない。

 

解答:

正しいです(【昭和47.9.18基発第602号】)。

特殊健康診断の受診に要した時間は労働時間に当たるとされるため、法定労働時間外に受診した場合は時間外労働となり、割増賃金の支払義務が生じます。

 

 

・【安衛法 平成27年問10オ】

設問:

健康診断の受診に要した時間に対する賃金の支払について、労働者一般に対し行われるいわゆる一般健康診断の受診に要した時間については当然には事業者の負担すべきものとはされていないが、特定の有害な業務に従事する労働者に対して行われるいわゆる特殊健康診断の実施に要する時間については労働時間と解されているので、事業者の負担すべきものとされている。

 

解答:

正しいです(【昭和47.9.18基発第602号】)。

本文の説明(こちら以下)の通りです。  

 

 

・【令和4年問2A】

設問:

労働安全衛生法により事業者に義務付けられている健康診断の実施に要する時間は、労働安全衛生規則第44条の定めによる定期健康診断、同規則第45条の定めによる特定業務従事者の健康診断等その種類にかかわらず、すべて労働時間として取り扱うものとされている。

 

解答:

誤りです。

本問は、労働安全衛生法により事業者に義務付けられている健康診断の実施に要する時間について、健康診断の「種類にかかわらず、すべて労働時間として取り扱う」という内容です。

しかし、通達(【昭和47.9.18基発第602号】)は、健康診断の種類によってその実施に要する時間が労働時間に該当するかどうかを区別しています。

即ち、通達は、「いわゆる特殊健康診断は、事業の遂行にからんで当然実施されなければならない性格のものであり、それは所定労働時間内に行われるのを原則とする。また、特殊健康診断の実施に要する時間は労働時間と解される」としており、それとの対比から、「労働者一般に対して行われる、いわゆる一般健康診断は、一般的な健康の確保を図ることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり、業務遂行との関連において行われるものではない」ものであり、一般健康診断の実施に要する時間は労働時間に該当しないものと解しているといえます。

 

なお、本問の「特定業務従事者の健康診断」(労働安全衛生規則第45条(安衛法のパスワード)安衛法のこちら)は、「特殊健康診断」(特定の項目についての健康診断)ではなく、「一般健康診断」(一般の項目についての健康診断)に位置づけられることが多いと思います。

ただ、「特定業務従事者の健康診断」は、「労働者一般に対して行われる、いわゆる一般健康診断」として「一般的な健康の確保を図ることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり、業務遂行との関連において行われるものではない」というものではなく、当該業務との関連で行われるものであり、当該事業の遂行にからんで当然実施されなければならない性格であるものといえますから、労働時間との関係では、上記通達の「特殊健康診断」と同様に取り扱うことができると解されます。

 

 

 

(4)安全・衛生委員会の会議開催時間

 

「安全委員会〔=安衛法第17条(安衛法のパスワード)安衛法のこちら以下〕の会議の開催に要する時間は労働時間と解される。したがって、当該会議が法定労働時間外に行われた場合には、それに参加した労働者に対し、当然、割増賃金が支払われなければならない。衛生委員会〔=安衛法第18条〕及び安全衛生委員会〔=同法第19条〕についても同様である」とされます(前掲【昭和47.9.18基発第602号】参考)。

【過去問 平成21年問5C(こちら)】

 

 

安全委員会、衛生委員会及び安全衛生委員会は、安衛法上、一定の事業場(業種と規模の要件があります)について、当該事業場における安全や衛生に関する事項を調査審議させ、事業者に対し意見を述べさせるために設置が義務づけられるものです。

そこで、これらの委員会の開催は、当該事業場の労働者の業務と密接に関連するものであること、また、法律上、一定の事業場の事業者にかかる委員会を設置する義務が課されており、使用者が積極的に関与することが想定されていることを考えますと、かかる委員会の開催時間は労働時間に当たると解してよいことになります。

 

 

○過去問: 

 

・【平成21年問5C】

設問:

労働安全衛生法に定める安全委員会の会議が法定労働時間外に行われた場合には、使用者は、当該会議への参加に要した時間について、労働基準法第37条第1項の規定による割増賃金を支払わなければならない。

 

解答:

正しいです(【昭和47.9.18基発第602号】)。 

 

 

 

(5)その他の会議

 

その他の会議の場合も、参加が義務的なもので企業の業務としての性格が強いような場合は、使用者の指揮命令下にある時間として、労働時間にあたることになります。

 

 

○過去問: 

 

・【平成21年問5B】

設問:

使用者から会議への参加を命じられた場合に、その会議が法定労働時間を超えて引き続き行われたときは、使用者は、当該引き続き行われた時間について、労働基準法第37条第1項の規定による割増賃金を支払わなければならない。

 

解答:

正しいです。

参加が命じられるなど出席の強制がある場合には労働時間として取り扱われ、法定労働時間を超えて行われたものは時間外労働となるため、割増賃金の支払が必要です。

 

 

 

3 通勤時間

 

通勤時間は、労働時間にはあたらないのが原則です。

 

なぜなら、通勤時間は、直接、業務に従事している時間ではなく(通勤時間中に何をするかは労働者の自由です)、また、使用者が直接的に関与をしている時間でもないため(例えば、使用者は、通勤の経路、通勤手段、通勤開始・終了の時間等を通常指示等しているわけではありません)、使用者の指揮命令下に置かれた時間とは評価できないからです(そして、社会通念上も、通勤時間については、労働時間として賃金が支払われるのではなく、通勤に係る実費の支給としての通勤手当のみが支払われるのが一般です)。 

 

 

〇過去問:

 

・【平成19年問5A】

設問:

訪問介護事業に使用される者であって、月、週又は日の所定労働時間が、一定期間ごとに作成される勤務表により非定型的に特定される短時間労働者が、事業場、集合場所、利用者宅の相互間を移動する時間については、使用者が、訪問看護の業務に従事するため必要な移動を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当する。

 

解答:

正しいです(【平成16.8.27基発第0827001号】参考)。

本問の移動時間は、事業場と利用者宅等の間を移動する時間です。そこで、使用者により訪問看護の業務に従事するため必要な移動を命じられたものであり、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、自宅と事業場間を移動する「通勤時間」のようなものではなく、「労働時間」に該当することになります。

こちら以下を参考です。

 

 

 

4 出張による移動時間等

 

出張による移動時間等が、労働時間に該当するか問題です。

 

この点、通達では、「日曜日の出張は、休日労働に該当するか」という問について、次のように判断しています。

 

「出張中の休日はその日に旅行する等の場合であっても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の他は、休日労働として取扱わなくても差し支えない。」

(【昭和23.3.17基発第461号】/【昭和33.2.13基発第90号】)

 

これは、法定休日に出張する場合に、その移動時間等について、原則として休日労働と取り扱わないという意味のようです。 

また、出張中に休日が到来した場合において、この日が当然に休日労働となるのかという問題も含むのかもしれません。

先に前者について見ます。

 

 

(1)出張による移動時間等

 

災害補償制度(労基法の災害補償制度、労災保険法の労災保険制度)の下では、出張中は出張過程の全般が使用者の支配下にある状態と考えられており、出張中の災害は基本的に業務上の災害にあたると取り扱われています。

従って、法定休日における出張中に災害にあった場合も、原則として、業務災害にあたることになります(詳しくは、労災保険法のこちらで学習します)。

他方、労基法の労働時間制度においては、上記の通達の通り、法定休日における出張の移動時間等は、原則として労働時間に該当しないと考えられています(なお、これは、法定休日に限定されたものではなく、広く「出張の際の移動時間」は、原則として労働時間として取り扱う必要はないものと解されています。厚労省コンメ令和3年版上巻415頁参考)。 

 

この両者の取り扱いの違いは、一見、不均衡にも見えます。

即ち、災害補償制度において、出張中を使用者の支配下にあると考えるなら、労基法の労働時間においても、出張中は、使用者の支配下・指揮命令下にあるものとして、労働時間にあたるともいえるからです。 

 

ただ、災害補償制度と労働時間制度の目的・趣旨は異なりますから、両制度において出張の取り扱いを同様に解さなければならないという必然性もありません。  

そして、労災保険においては、通常の通勤時間中の災害についても、(業務災害ではありませんが)通勤災害として労働者は保護されます。すると、出張による移動時間についても、(これは業務災害ですが)労災保険上の保護を受けるというのはアンバランスなことではありません。

他方、労基法上、通勤時間は、前述(こちら)の通り、原則として労働時間にはあたりません。通勤時間は、直接、業務に従事している時間ではなく、また、使用者が直接的に関与をしている時間でもないため、使用者の指揮命令下に置かれた時間とは評価できないからです。 

この通常の通勤時間とのバランスからは、出張先との往復に要する時間(移動時間)についても、基本的には、労働時間に該当しないと考えてよいのでしょう。

 

結局、労災保険法において、業務災害に該当するかどうかは、事業主(保険料を拠出しています)に共同でリスクを負担させるのが妥当といえるような業務における危険の実現・現実化と評価できるのかという視点が採られているものといえ、業務遂行性を判断するための「事業主の支配下にある状態」という考え方(詳細は、労災保険法のこちら以下で学習します)については、使用者の指揮命令下にあるかどうかという労基法上の労働時間制を判断する考え方よりは広く解することが可能であるということでしょう。

 

 

裁判例としては、出張の際の往復に要する時間は、労働者が日常の通勤に費す時間と同一性質のものと考えられるから、右所要時間は労働時間には算入されないとするものがあります(【日本工業検査事件=横浜地裁川崎支部決定昭和49.1.26】)。

 

ただし、前掲の通達が参考になりますが、出張による移動時間中において、物品を運搬し監視するといったように、出張による移動時間自体に業務性が強く認められるようなときは、当該移動時間も労働時間に当たることとなるのでしょう(厚労省コンメ令和3年版上巻415頁参考)。 

 

 

(参考)

 

なお、水町「詳解労働法」第2版822頁注74(初版798頁注72)では、要旨、次のように記載されています。

 

労災保険法上の「業務上」の災害にあたるか否かの「業務性」(事故性傷病では「業務遂行性」)判断は、労基法上の「労働時間」性(労基法32条の「労働させ〔る〕」時間にあたるか)判断と異なり、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあるか否かによって判断されるため、両者の射程が異なる(労災保険法上の「業務」は労基法上の「労働時間」より広い))ことは、理論的にも適切である。

 

 

(2)出張中に休日が到来した場合の休日労働性

 

次に、出張中に休日(法定休日)が到来した場合において、この日が当然に休日労働となるのかも問題です。

休日とは、のちに学習しますが、労働者が労働契約において労働義務を負わない日のことです。

災害補償制度における考え方のように、出張中を使用者の支配下にあると考えるなら、出張中は休日についても(法定労働時間に相当する程度の時間は)休日労働にあたるともなり得ます。

ただ、前述の通り、労基法上の労働時間等について、災害補償制度の考え方を当然に及ぼす必然性はありません。

そして、出張中であっても、労働義務を負わず自由に過ごせる日であるなら、労働時間性を肯定できる日とはいえなさそうですし(当該日については、業務との直接的な関連性は薄いですし、使用者が業務を指示しているわけでもありません)、当該日について、労働の継続による労働者の心身の疲労を回復させるという休日保障の趣旨も満たされているといえます。

そこで、労基法上の休日労働の問題としては、出張中の休日は、その日の自由利用が保障されている限り、休日労働にはあたらないと解してよいといえます。

 

 

〇過去問:  

 

・【平成18年問3D】

設問:

出張中の休日は、その日に旅行する等の場合であっても、旅行中における物品の監視別段の指示がある場合のほかは、その日が労働基準法第35条の休日に該当するときであっても、休日労働として取り扱わなくても差し支えないとされている。

 

解答:

正しいです。

前掲の通達(【昭和23.3.17基発第461号】/【昭和33.2.13基発第90号】)が通知している内容です。 

 

 

 

5 その他の本務外の活動

 

・任意に出勤して従事した消化作業時間について、次の出題がありました。 

 

 

〇過去問:

 

・【令和4年問2D】

設問:

事業場に火災が発生した場合、既に帰宅している所属労働者が任意に事業場に出勤し消火作業に従事した場合は、一般に労働時間としないと解されている。

 

解答:

誤りです。

通達は、本問の事案について、一般に労働時間に該当すると通知しています(【昭和23.10.23基収第3141号】/【昭和63.3.14基発第150号】)。

 

本問の消化作業は、当該労働者の本来の業務というわけではなく、かつ、既に帰宅していた労働者が任意に再出勤して行ったものであるという点で、本来業務とはやや距離のある労働者の自発的な行為であるという側面はあります。

ただ、この消火作業は、他の事業場の火災に対するようなものではなく、自己の所属する事業場で発生した火災に対して行ったものですから、業務との関連性は認められます。

そして、労働者の自発的行為ではあっても、本件消火活動は、緊急状況のもとにおける業務環境の保全行為ですから、通常、使用者の期待に反するようなものではなく、むしろ使用者の意向に沿ったものであることが多いであろうことを考えますと、当該消火活動は労働契約の本旨に従った業務関連活動として、当該活動に要した時間は労働時間として評価すべきであるものと考えられます(なお、本問の消火作業を使用者が命じたとか、当該労働者から消火作業を行う旨の打診に対して使用者が黙示的に承諾したといった事情がある場合は、使用者による指揮命令が肯定されることは問題が少ないです)。

(ちなみに、労災保険法の業務災害性の問題ですが、事業主の命令がない場合に、業務に従事していない労働者が緊急行為を行ったケースについて、こちらの(2)のように処理されます。

労災保険法の業務災害性の判断と労基法の労働時間性の判断は異なりますので、あくまで参考程度です。)  

 

 

(三)使用者の関与

使用者の明白な超過勤務の指示により、又は使用者の具体的に指示した仕事が、客観的に見て正規の勤務時間内ではなされ得ないと認められる場合の如く、超過勤務の黙示の指示によって法定労働時間を超えて勤務した場合には、時間外労働となるものと解されています(【昭和25.9.14基収第2983号】参考)。【過去問 平成13年問5D(こちら)】

つまり、使用者の指揮命令下に置かれたといえるためには、必ずしも使用者の明示の指示等がある必要はなく、黙示的な指示があったといえる場合でもよいことになります。

 

他方、労働者が自発的に残業をしたり、自宅に持ち帰って業務を行った場合、労働者は一応業務は行っていることになりますが、使用者が全く関与していないとき(使用者が黙認すらしていないようなとき)は、労働時間とは認められないと解されます。

例えば、使用者が明示的に残業禁止の業務命令を発しているときに、労働者が時間外に労働をしていても、原則としては労働時間にあたりません。  

 

 

〇過去問: 

 

・【平成13年問5D】

設問:

変形労働時間制を採用していない事業場において、使用者が具体的に指示した仕事が客観的に見て1日の法定労働時間内では完了することができないと認められる場合のように、超過勤務の黙示の指示によって労働者が当該法定労働時間を超えて労働した場合には、使用者は、労働基準法第37条の規定による割増賃金を支払わなければならない。

 

解答:

正しいです(【昭和25.9.14基収第2983号】参考)。

使用者による超過勤務の黙示の指示によって労働者が当該法定労働時間を超えて労働した場合には、実質的には、使用者の指揮命令の下に当該時間外労働に該当する業務を行ったものと評価できますから、割増賃金の支払義務が生じます。

 

 

 

※ 医師の研鑽に係る労働時間について:

令和2年度試験 改正事項

なお、医師の研鑽(けんさん)に係る労働時間に関する考え方について、通達が発出されています。

これまで見てきました「労働時間」の判断方法に関する一つの類型として参考になります。

 

即ち、労働時間に該当するかどうかについては、「使用者の指揮命令の下に置かれているものと客観的に評価できる時間」を労働時間とする判例の指揮命令下説の基準をとった上で、具体的には、使用者の関与の程度や業務との関連性等を総合的に考慮して判断するのがよさそうですが、この見地から以下の通達をチェックしてみて下さい。

 

以下、引用します。太字部分をざっとチェックして下さい。

 

 

・【令和元.7.1基発0701第9号】

 

〔引用開始。〕

 

医療機関等に勤務する医師(以下「医師」という。)が、診療等その本来業務の傍ら、医師の自らの知識の習得や技能の向上を図るために行う学習研究等(以下「研鑽」という。)については、労働時間に該当しない場合と労働時間に該当する場合があり得るため、医師の的確な労働時間管理の確保等の観点から、今般、医師の研鑽に係る労働時間該当性に係る判断の基本的な考え方並びに医師の研鑽に係る労働時間該当性の明確化のための手続及び環境整備について、下記のとおり示すので、その運用に遺憾なきを期されたい。

 

 

1 所定労働時間内の研鑽の取扱い

 

所定労働時間内において、医師が、使用者に指示された勤務場所(院内等)において研鑽を行う場合については、当該研鑽に係る時間は、当然労働時間となる。

 

〔通常の労働者において、例えば、営業職の労働者が、所定労働時間内に、職場で、営業の技術を磨くために勉強・研究するケース(業務に直接必要な活動です)と同様となります。〕

 

 

2 所定労働時間外の研鑽の取扱い

 

所定労働時間に行う医師の研鑽は、診療等の本来業務と直接の関連性なく、かつ、業務の遂行を指揮命令する職務上の地位にある者(以下「上司」という。)の明示・黙示の指示によらずに行われる限り、在院して行う場合であっても一般的労働時間該当しない

他方、当該研鑽が、上司の明示・黙示の指示により行われるものである場合には、これが所定労働時間に行われるものであっても、又は診療等の本来業務との直接の関連性なく行われるものであっても、一般的に労働時間に該当するものである 。

 

所定労働時間において医師が行う研鑽については、在院して行われるものであっても、上司の明示・黙示の指示によらず自発的に行われるものも少なくないと考えられる。このため、その労働時間該当性の判断が、当該研鑽の実態に応じて適切に行われるよう、また、医療機関等における医師の労働時間管理の実務に資する観点から、以下のとおり、研鑽の類型ごとに、その判断の基本的考え方を示すこととする。

 

(1)一般診療における新たな知識、技能の習得のための学習

 

ア 研鑽の具体的内容

 

例えば、診療ガイドラインについての勉強、新しい治療法や新薬についての勉強、自らが術者等である手術や処置等についての予習や振り返り、シミュレーターを用いた手技の練習等が考えられる。

 

イ 研鑽の労働時間該当性

 

業務上必須ではない行為を、自由な意思に基づき、所定労働時間に、自ら申し出て、上司の明示・黙示による指示なく行う時間については、在院して行う場合であっても、一般的に労働時間に該当しないと考えられる。

ただし、診療の準備又は診療に伴う後処理として不可欠なものは、労働時間に該当する。

 

 

(2)博士の学位を取得するための研究及び論文作成や、専門医を取得するための症例研究や論文作成

 

ア 研鑽の具体的内容

 

例えば、学会や外部の勉強会への参加・発表準備、院内勉強会への参加・発表準備、本来業務とは区別された臨床研究に係る診療データの整理・症例報告の作成・論文執筆、大学院の受験勉強、専門医の取得や更新に係る症例報告作成・講習会受講等が考えられる。

 

イ 研鑽の労働時間該当性

 

上司や先輩である医師から論文作成等を奨励されている等の事情があっても業務上必須ではない行為を、自由な意思に基づき、所定労働時間に、自ら申し出て、上司の明示・黙示による指示なく行う時間については、在院して行う場合であっても、一般的に労働時間に該当しないと考えられる。

ただし、研鑽の不実施について就業規則上の制裁等の不利益が課されているため、その実施を余儀なくされている場合や、研鑽が業務上必須である場合、業務上必須でなくとも上司が明示・黙示の指示をして行わせる場合は、当該研鑽が行われる時間については労働時間に該当する。

 

上司や先輩である医師から奨励されている等の事情があっても、自由な意思に基づき研鑽が行われていると考えられる例としては、次のようなものが考えられる。

 

・ 勤務先の医療機関が主催する勉強会であるが、自由参加である

 

・ 学会等への参加・発表や論文投稿が勤務先の医療機関に割り当てられているが、医師個人への割当はない

 

・ 研究を本来業務とはしない医師が、院内の臨床データ等を利用し、院内で研究活動を行っているが、当該研究活動は、上司に命じられておらず、自主的に行っている

 

 

(3)手技を向上させるための手術の見学

 

ア 研鑽の具体的内容

 

例えば、手術・処置等の見学の機会の確保や症例経験を蓄積するために、所定労働時間外に、見学(見学の延長上で診療(診療の補助を含む。下記イにおいて同じ。)を行う場合を含む。)を行うこと等が考えられる。

 

イ 研鑽の労働時間該当性

 

上司や先輩である医師から奨励されている等の事情があったとしても、業務上必須ではない見学を、自由な意思に基づき、所定労働時間に、自ら申し出て、上司の明示・黙示による指示なく行う場合、当該見学やそのための待機時間については、在院して行う場合であっても、一般的に労働時間に該当しないと考えられる。

ただし、見学中に診療を行った場合については、当該診療を行った時間は、労働時間に該当すると考えられ、また、見学中に診療を行うことが慣習化、常態化している場合については、見学の時間全てが労働時間に該当する。

 

 

3 事業場における研鑽の労働時間該当性を明確化するための手続及び環境の整備

 

研鑽の労働時間該当性についての基本的な考え方は、上記1及び2のとおりであるが、各事業場における研鑽の労働時間該当性を明確化するために求められる手続及びその適切な運用を確保するための環境の整備として、次に掲げる事項が有効であると考えられることから、研鑽を行う医師が属する医療機関等に対し、次に掲げる事項に取り組むよう周知すること。

 

(1)医師の研鑽の労働時間該当性を明確化するための手続

 

医師の研鑽については、業務との関連性制裁等の不利益の有無上司の指示の範囲明確化する手続を講ずること

例えば、医師が労働に該当しない研鑽を行う場合には、医師自らがその旨を上司に申し出ることとし、当該申出を受けた上司は、当該申出をした医師との間において、当該申出のあった研鑽に関し、

 

・ 本来業務及び本来業務に不可欠な準備・後処理のいずれにも該当しないこと

 

・ 当該研鑽を行わないことについて制裁等の不利益はないこと

 

・ 上司として当該研鑽を行うよう指示しておらず、かつ、当該研鑽を開始する時点において本来業務及び本来業務に不可欠な準備・後処理は終了しており、本人はそれらの業務から離れてよいこと

 

について確認を行うことが考えられる。

 

(2)医師の研鑽の労働時間該当性を明確化するための環境の整備

 

上記(1)の手続について、その適切な運用を確保するため、次の措置を講ずることが望ましいものであること。

 

ア 労働に該当しない研鑽を行うために在院する医師については、権利として労働から離れることを保障されている必要があるところ、診療体制には含めず、突発的な必要性が生じた場合を除き、診療等の通常業務への従事を指示しないことが求められる。

また、労働に該当しない研鑽を行う場合の取扱いとしては、院内に勤務場所とは別に、労働に該当しない研鑽を行う場所を設けること、労働に該当しない研鑽を行う場合には、白衣を着用せずに行うこととすること等により、通常勤務ではないことが外形的に明確に見分けられる措置を講ずることが考えられること。

手術・処置の見学等であって、研鑚の性質上、場所や服装が限定されるためにこのような対応が困難な場合は、当該研鑚を行う医師が診療体制に含まれていないことについて明確化しておくこと。

 

イ 医療機関ごとに、研鑽に対する考え方、労働に該当しない研鑽を行うために所定労働時間外に在院する場合の手続、労働に該当しない研鑽を行う場合には診療体制に含めない等の取扱いを明確化し、書面等に示すこと。

 

ウ 上記イで書面等に示したことを院内職員に周知すること。周知に際しては、研鑽を行う医師の上司のみではなく、所定労働時間外に研鑽を行うことが考えられる医師本人に対してもその内容を周知し、必要な手続の履行を確保すること。

また、診療体制に含めない取扱いを担保するため、医師のみではなく、当該医療機関における他の職種も含めて、当該取扱い等を周知すること。

 

エ 上記(1)の手続をとった場合には、医師本人からの申出への確認や当該医師への指示の記録を保存すること。

なお、記録の保存期間については、労働基準法(昭和22年法律第49号)第109条において労働関係に関する重要書類を3年間〔※〕保存することとされていることも参考として定めること。

 

〔※ ただし、本通達発出後の令和2年4月1日施行の労基法の改正により、記録の保存期間は、本則では「5年間」、当分の間は「3年間」と改められています。のちにこちら以下(労基法のパスワード)で学習します。〕

 

 

〔引用終了。〕

 

※ なお、前掲の研鑽に係る時間の労働時間制に関する通達(【令和元.7.1基発0701第9号】)における医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方について、運用に当たっての留意事項が次の通達により通知されています。

 

前掲の通達は、平成31年3月28日に取りまとめられた「医師の働き方改革に関する検討会報告書」(以下、「報告書」とされます)を踏まえて、解釈の明確化を図ったものであり、これまでの労働基準の取扱いを変更するものではないとされます。

 

以下、太字部分を流し読みして下さい。

 

 

・【令和元.7.1基監発0701第1号】

 

〔引用開始。〕

 

第2 医師の研鑽に係る労働時間通達の取扱いについて

 

1 趣旨

 

医師の働き方改革に関する検討会においては、「医師の研鑽については、医学は高度に専門的であることに加え、日進月歩の技術革新がなされており、そのような中、個々の医師が行う研鑽が労働であるか否かについては、当該医師の経験、業務、当該医療機関が当該医師に求める医療提供の水準等を踏まえて、現場における判断としては、当該医師の上司がどの範囲を現在の業務上必須と考え指示を行うかによらざるを得ない。」とされている。

また、同検討会の報告書では、「医師については、自らの知識の習得や技能の向上を図る研鑽を行う時間が労働時間に該当するのかについて、判然としないという指摘がある。このため、医師の研鑽の労働時間の取扱いについての考え方と『労働に該当しない研鑽』を適切に取り扱うための手続を示すことにより、医療機関が医師の労働時間管理を適切に行えるように支援していくことが重要である」とされたところである。

このような同検討会における検討結果に基づき、医師の研鑽の実態を踏まえ、医師の研鑽に係る労働時間通達において、医師本人及び当該医師の労働時間管理を行う上司を含む使用者が、研鑽のうち労働時間に該当する範囲を明確に認識し得るよう、研鑽の労働時間該当性に関する基本的な考え方とともに、労働時間該当性を明確化するための手続等が示されたところである。

 

2 医師の研鑽に係る労働時間通達の運用における留意事項

 

ア 医師の研鑽に係る労働時間通達と「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」の関係について

 

労働時間は、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)〔こちら〕において示されているとおり、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものである。この考え方は医師についても共通であり、医師の研鑽に係る労働時間通達においても、この考え方を変更するものではないこと。

 

イ 医師の研鑽と宿日直許可基準について

 

医師の研鑽に係る労働時間通達の記の2〔こちら〕により、労働時間に該当しないと判断される研鑽については、当該研鑽が宿日直中に常態的に行われているものであったとしても、宿日直許可における不許可事由とはならず、又は許可を取り消す事由とはならないものである。〔医師、看護師等の宿日直許可基準について、のちにこちら以下(労基法のパスワード)で見ます。〕

 

ウ 医師の研鑽に係る労働時間通達の記の3(1)〔こちら〕の手続(以下「手続」という。)について

 

・ 上司は、業務との関連性を判断するに当たって、初期研修医、後期研修医、それ以降の医師といった職階の違い等の当該医師の経験、担当する外来業務や入院患者等に係る診療の状況、当該医療機関が当該医師に求める医療提供の水準等を踏まえ、現在の業務上必須かどうかを対象医師ごとに個別に判断するものであること。

 

・ 手続は、労働に該当しない研鑽を行おうとする医師が、当該研鑽の内容について月間の研鑽計画をあらかじめ作成し、上司の承認を得ておき、日々の管理は通常の残業申請と一体的に、当該計画に基づいた研鑽を行うために在院する旨を申請する形で行うことも考えられること。

 

・ 手続は、労働に該当しない研鑽を行おうとする医師が、当該研鑽のために在院する旨の申し出を、一旦事務職が担当者として受け入れて、上司の確認を得ることとすることも考えられること。

 

エ 諸経費の支弁と労働時間該当性について

 

医療機関は、福利厚生の一環として、学会等へ参加する際の旅費等諸経費を支弁することは、その費目にかかわらず可能であり、旅費等諸経費が支弁されていること労働時間に該当するかどうかの判断に直接関係しないものであること。

 

オ 医師以外の職種も参加する研鑽

 

医師の研鑽に係る労働時間通達の記の2〔こちら〕に掲げられる研鑽について、看護師等の医師以外の職種が参加するものであったとしても、当該研鑽が、労働時間に該当するかどうかの判断に直接関係しないものであること。

 

令和6年度試験 改正事項

※ 次のカは、【令和6.1.15基監発0115第2号】により追加されました。

 

カ 大学の附属病院等に勤務する医師の研鑽について

 

大学の附属病院等に勤務し、教育・研究を本来業務に含む医師は、医師の研鑽に係る労働時間通達の記の2(1)ア〔こちら〕の「新しい治療法や新薬についての勉強」や記の2(2)ア〔こちら〕の「学会や外部の勉強会への参加・発表準備」、「論文執筆」をはじめ、同通達で「研鑽の具体的内容」として掲げられている行為等を、一般的に本来業務として行っている。

このため、当該医師に関しては、同通達中の「診療等その本来業務」及び「診療等の本来業務」の「等」に、本来業務として行う教育・研究が含まれるものであること。

この場合の労働時間の考え方として、当該医師が本来業務及び本来業務に不可欠な準備・後処理として教育・研究を行う場合(例えば、大学の医学部等学生への講義試験問題の作成・採点学生等が行う論文の作成・発表に対する指導大学の入学試験や国家試験に関する事務これらに不可欠な準備・後処理など)については、所定労働時間内であるか所定労働時間外であるかにかかわらず当然に労働時間となること。

また、現に本来業務として行っている教育・研究直接の関連性がある研鑽を、所定労働時間内において、使用者に指示された勤務場所(院内等)において行う場合については、当該研鑽に係る時間は、当然に労働時間となり、所定労働時間上司の明示・黙示の指示により行う場合については、一般的に労働時間に該当すること。

上記のとおり、当該医師は、同通達で「研鑽の具体的内容」として掲げられている行為等を本来業務として行っているため、研鑽と本来業務の明確な区分が困難な場合が多いことが考えられる。したがって、研鑽の実施に当たっては、本来業務との関連性について、同通達の記の3(1)〔こちら〕の「医師の研鑽の労働時間該当性を明確化するための手続」として医師本人と上司の間で円滑なコミュニケーションを取り、双方の理解の一致のために十分な確認を行うことに特に留意する必要があること。

 

〔引用終了。〕 

 

 

 

以上で、労働時間性の問題は終わります。次ページにおいて、労働時間に関連するその他の問題に移り、第40条の労働時間の特例及び年少者の労働時間を学習します。