平成30年度版

 

〔3〕全額払の原則

一 原則

◆賃金は、その全額を支払わなければなりません(第24条第1項本文)。換言しますと、賃金の一部控除禁止されるということです。

 

○趣旨

使用者が賃金の一部を控除することを禁止し、労働者に賃金の全額を確実に受領させ、その生活の安定を図ろうとした趣旨です。 

 

・判例は、「いわゆる賃金全額払の原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするもの」としています(後掲の【日新製鋼事件=最判平成2.11.26】(こちら)/【シンガー・ソーイング・メシーン事件=最判昭和48.1.19】(こちら)等)。

【過去問 平成25年問7エ(後掲)】

 

 

・「控除」(条文上は、第24条第1項ただし書(次の「二 例外」で見ます)において、「賃金の一部を控除して支払うことができる」として使用されています)とは、履行期の到来している賃金請求権に係る賃金額についてその一部を差し引いて支払わないことをいいます。

従って、賃金請求権の発生していない賃金を支払わないことは、全額払の原則に違反しません。

具体的に「控除」に該当するかに関する諸問題については、のちにこちら以下で詳しく見ます。 

 

 

・【過去問 平成25年問7エ】

設問:

いわゆる全額払の原則の趣旨は、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするものというべきであるとするのが、最高裁判所の判例である。

 

解答:

正しいです。【日新製鋼事件=最判平成2.11.26】や【シンガー・ソーイング・メシーン事件=最判昭和48.1.19】等の判例で言及されています(これらの判例については、以下で見ていきます)。

 

 

二 例外

◆ただし、次の(一)又は(二)の2つの場合には、賃金の一部を控除して支払うことが認められます(第24条第1項ただし書)。

 

(一)法令に別段の定めがある場合

例えば、税法(所得税法第183条、地方税法第321条の5)や徴収法(徴収法第32条(徴収法のパスワード。以下も各法のパスワード使用))、健康保険法(健保法第167条)、厚生年金保険法(厚年法第84条)等に基づき、使用者が賃金から税金や社会保険料等を控除して行政官庁等に引き渡すケースです(いわゆる天引き)。

 

 

(二)労使協定がある場合

労使協定がある場合には、賃金の一部控除認められます第24第1項ただし書)。

 

第24条に基づく労使協定であるため、この労使協定は「24協定」といわれることがあります。

 

※ 既述の「通貨払の原則の例外」が「労働協約」に定めがある場合に認められること(こちらの(二))と混同しないで下さい。

 

次のような出題があります。

 

〇過去問:

 

・【平成18年問2A】

設問:

労働基準法第24条第1項本文においては、賃金は、その全額を支払わなければならないと規定されているが、同項ただし書において、法令又は労働協約に別段の定めがある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができると規定されている。

 

解答:

「労働協約に別段の定め」ではなく、「労使協定」(条文上は、「当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定」)が正しいです(第24第1項ただし書)。

 

 

・【平成20年問3E】

設問:

使用者は、賃金の全額を支払わなければならないが、労働協約に別段の定めがある場合に限って、賃金の一部を控除して支払うことができる。

 

解答:

賃金全額払の原則の例外として「賃金の一部控除」が認められるのは、「法令に別段の定めがある場合」又は「労使協定がある場合」です(第24第1項ただし書)。よって、設問は誤りです。

 

 

以上のように、「通貨払の原則 ➡ 労働協約による例外」、「全額払の原則 ➡ 労使協定による例外」という2つを混同しないようにくれぐれも注意です。

 

 

以下、この(二)の労使協定による賃金の一部控除についての注意点を述べます。 

 

 

1 要件についての注:

 

(1)この労使協定は、有効期間の定め必要なく、また、所轄労働基準監督署長への届出不要です(既述の「労働条件の決定システム」の「労使協定」のまとめの図(こちらの⑪の「賃金の一部控除」)をご参照下さい)。

 

(2)なお、労使協定による賃金の一部控除が認められるのは、「購買代金、社宅、寮その他の福利、厚生施設の費用、社内預金、組合費〔チェックオフ協定については後述します〕等、事理明白なもの」に限られるとされています(【昭和27.9.20基発第675号】/【平成11.3.31基発第168号】)。

 

つまり、労使協定で定めても、例えば、使途が不明であるものや一部の使途は明らかであるが控除額の合計が実際に必要な費用に比して均衡を欠くものなど、不合理なものについては労使協定による賃金の一部控除の対象とならないということです。

 

 

2 効果についての注:

 

(1)労使協定は、労基法違反とならなくする効果(労基法の規制を解除する効果)はありますが(広義の免罰的効力)、労使協定のみでは労働者に対して拘束力がないと解されています。

従って、使用者は、原則として、労使協定のみを根拠として、労働者に対して当該労使協定で定めた内容を強制することはできず、別に就業規則、労働協約、労働契約等の正当な根拠に基づくことが必要です(詳しくは、「労使協定」の個所(こちら)をご参照下さい)。

 

(2)なお、賃金の一部控除の限度については、「控除される金額が賃金の一部である限り、控除額についての限度はない」とされています(上記の例外の(一)「法令に別段の定めがある場合」及び(二)「労使協定がある場合」に共通です)(【昭和63.3.14基発第150号】)。

 

※ 対して、就業規則により減給の制裁を定める場合は、一回の額が平均賃金の1日分の半額を超えられない等の減給の限度があります(第91条(労基法のパスワード)。就業規則のこちらで学習します)。

これら両者の違いは、次の点に基づくものと解されます。

即ち、就業規則により減給の制裁を定める場合は、使用者が一方的に定めるものであること、また、減給の制裁(懲戒処分です)は、義務違反者に対して契約上通常行使できる手段(契約の解除権や損害賠償請求権等)とは異なる特別の制裁であることに鑑み、就業規則による減給の制裁に対する規制を強めることが妥当といえます。

対して、労使協定により賃金の一部控除を定める場合は、労使双方による合意であるため、労働者側の意思も反映されていますから、私的自治に委ねてよいといえます。  

 

 

三 その他の重要問題

上述のように、禁止される賃金の一部「控除」とは、履行期の到来している賃金請求権に係る賃金額についてその一部を差し引いて支払わないことをいいますが、具体的にこの禁止される控除にあたるかどうかが問題となる以下のようなケースがあります(これらは試験対策上も重要です)。

 

(一)賃金請求権が不存在等の場合

1 例えば、労働者が遅刻早退欠勤等をした場合は(かかる場合も賃金が支払われるといった完全月給制のような特約がない限りは)、ノーワーク・ノーペイの原則により、債務の本旨に従った労働がなされなかった部分に対応する賃金請求権は発生しないと解されます(賃金の労働との対償性(労契法第6条民法第623条労基法第11条)及び報酬の後払の原則(民法第624条)。こちらを参考)。

 

そして、賃金の全額払の原則により禁止される賃金の「控除」とは、賃金請求権が発生した賃金についてその一部を差し引いて支払わないことをいいますから(こちら)、労働不提供の部分に応じて減額された賃金を支払うことは、賃金の控除にはあたらず、全額払の原則には違反しません。

 

全額払の原則等、賃金支払の5原則は、賃金請求権が発生したことを前提として、その賃金の支払方法を規律したものです。

従って、本件のように賃金請求権が発生していない場合は、その不発生部分については、5原則も問題となりません。

 

・【水道機工事件=最判昭和60.3.7】も、労働者が債務の本旨に従った労務の提供をしたものといえない場合、使用者はその労務不提供の時間に対応する賃金の支払義務は負わない旨の原審の判断を是認しています(詳しくは、「労働契約の成立」の「効果」の「労働義務」の個所(こちら))。

 

なお、例えば、遅刻の場合に、5分の遅刻を30分の遅刻として賃金をカットすることは、労働の提供のなかった限度を超えるカット(25分についてのカット)については、全額払の原則に違反します。

ただし、遅刻等は企業秩序の違反行為として懲戒処分の対象にはなりますので、上記のような取扱いを懲戒処分である減給の制裁として就業規則に定めておく場合は、第91条の制限内(=就業規則で減給の制裁を定める場合、減給は一回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならない等の制限があります。こちら)であるなら、許容され、全額払の原則にも反しないと解されています(【昭和63.3.14基発第150号/婦発第47号】参考)。

労基法上、一定の減給の制裁は認められている以上、その範囲内では、当然に全額払の原則の適用を排除しているものと解されます。

【過去問 平成23年問6D(下記)】

 

 

・【過去問 平成23年問6D】

設問:

労働者が5分遅刻をした場合に、30分遅刻したものとして賃金カットをするという処理は、労務の提供のなかった限度を超えるカット(25分についてのカット)について労働基準法第24条の賃金の全額払の原則に反し違法であるが、このような取扱いを就業規則に定める減給の制裁として同法第91条の制限内で行う場合には、同法第24条の賃金の全額払の原則に反しない。

 

解答:

前記本文の通り、正しいです。

 

 

2 なお、賃金の一部を後述の非常時払(第25条)その他により前払した場合は、前払分はすでに履行済みでありその分だけ賃金請求権が消滅(減縮)しているのですから、残部の賃金のみを支払期日に支給しても、賃金の控除にはあたらず、全額払の原則に違反しないのは当然です。

 

3 また、退職手当(総論的事項は、こちらで既述しました)については、就業規則等において、退職事由によって退職手当を不支給又は減額支給とする旨の規定(退職手当減額・不支給条項)が定められている場合があり(例えば、懲戒解雇や自己都合退職の場合は、退職金を減額支給するなど)、かかる規定が賃金の全額払の原則に違反しないか問題となります。

(なお、既述のように、退職手当も、就業規則等により予め支給条件が明確化されている場合は、賃金にあたり、全額払の原則が適用されます。)

 

この点は、退職手当は、賃金の後払的性格を有する(一般に、賃金を算定基礎とし、勤続年数に応じた支給率を乗じて算定されるためです)とともに、功労報償的性格も有するもの(勤続年数が増えるにつれて支給率が上昇すること、退職事由により支給率が異なること等のためです)といえ、従って、かかる退職手当の性格上、功労の程度に応じて減額や不支給をすることも、原則としては認められるものと解されます。

そこで、退職手当の額は、退職事由、勤続年数等の諸条件に照らして年功等を総合的に評価して退職時に初めて確定されるものであり、退職時までは退職手当は債権として成立しているわけではないとして、その減額や不支給も全額払の原則に違反しないと解されています。

以上については、退職手当の個所(こちら以下)で触れました(【三晃社事件=最判昭和52.8.9】(こちら)を参考)。

 

 

(二)相殺の可否

次に相殺の問題について学習します。この問題は、少し難しいですが、出題も多いです。

 

1 相殺の禁止

 

使用者は、労働者に対して有する債権を自働債権として、労働者が有する賃金債権(賃金請求権)を受働債権とする相殺を行うことができるか、即ち、全額払の原則により禁止される一部「控除」に「相殺」も含まれるのか問題となります。

賃金債権との相殺の禁止に関しては、労基法は、第17条により前借金の相殺の禁止を定めています(「使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない」)。

そこで、労基法は、この第17条の場合に限って、労働者に対する債権と賃金債権との相殺を禁止したものなのか、それとも第24条第1項の全額払の原則によりおよそ賃金債権との相殺は一般的に禁止されていると解すべきかが問題なのです。

(なお、相殺や自働債権・受働債権の意味等については、前借金相殺の禁止の個所(こちら)をご参照下さい。)

 

この点は、第24条第1項全額払の原則は、使用者による賃金債権を受働債権とする相殺の禁止の趣旨も含むと解されています(【関西精機事件=最判昭和31.11.2】/【日本勧業経済会事件=最大判昭和36.5.31】)。

なぜなら、そう解さないと、使用者が労働者に対して有すると主張する自働債権(例えば、損害賠償請求権)の存在や額について労働者が争っている場合にも、使用者による一方的な相殺が可能となり、労働者は相殺された賃金額について訴訟を提起して請求するリスクを負うことになってしまう問題があるからです。

そこで、労働者に賃金の全額を確実に受領させその生活の安定を図ろうとした第24条第1項の全額払の原則を重視して、全額払の原則は賃金債権を受働債権とする相殺禁止の趣旨も包含するものと解すべきとなります。

 

なお、第17条の前借金相殺の禁止との関係については、第17条は、第24条第1項の全額払の原則に基づく相殺禁止の特則ということになります。

即ち、第17条の場合は、全額払の原則と異なり、罰則が重く(第24条違反は、30万円以下の罰金。第17条違反は、6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金)、また、労使協定による例外も認められていないという違いがあります。

 

 

【日本勧業経済会事件=最大判昭和36.5.31】

 

(事案)

労働者の不法行為(背任)を理由とする損賠賠償債権を自働債権として、労働者の賃金債権との相殺を行った事案。

 

※ 次の判旨のアンダーライン及び太字部分を押さえます。

 

(判旨)

「労働者の賃金は、労働者の生活を支える重要な財源で、日常必要とするものであるから、これを労働者に確実に受領させ、その生活に不安のないようにすることは、労働政策の上から極めて必要なことであり、労働基準法24条1項が、賃金は同項但書の場合を除きその全額を直接労働者に支払わねばならない旨を規定しているのも、右にのべた趣旨を、その法意とするものというべきである。しからば同条項は、労働者の賃金債権に対しては、使用者は、使用者が労働者に対して有する債権をもつて相殺することを許されないとの趣旨を包含するものと解するのが相当である。

このことは、その債権が不法行為を原因としたものであつても変りはない。(論旨引用の当裁判所第二小法廷判決〔=下記の関西精機事件判決のことです〕は、使用者が、債務不履行を原因とする損害賠償債権をもつて、労働者の賃金債権に対し相殺することを得るや否やに関するものであるが、これを許さない旨を判示した同判決の判断は正当である。)

 なお、論旨は労働基準法17条24条との関係をいうが、同法17条は、従前屡々行われた前借金と賃金債権との相殺が、著しく労働者の基本的人権を侵害するものであるから、これを特に明示的に禁止したものと解するを相当とし、同法24条の規定があるからといつて同法17条の規定が無用の規定となるものではなく、また同法17条の規定があるからといつて、同法24条の趣旨を前述のように解することに何ら妨げとなるものではない。また所論のように使用者が反対債権をもつて賃金債権を差押え、転付命令を得る途があるからといつて、その一事をもつて同法24条を前述のように解することを妨げるものでもない。されば、所論はすべて採るを得ない。」

 

 

【関西精機事件=最判昭和31.11.2】

 

(事案)

使用者が、労働者の債務不履行(業務の懈怠)を理由とする損害賠償債権を自働債権として労働者の賃金債権との相殺を行った事案。

 

※ こちらの判決の方が、前掲の昭和36年大法廷判決より先に出たものですが、相殺禁止について詳しい判示はありません。

 

(判旨)

労働基準法24条1項は、賃金は原則としてその全額を支払わなければならない旨を規定し、これによれば、賃金債権に対しては損害賠償債権をもつて相殺をすることも許されないと解するのが相当である。」

 

 

・【過去問 平成26年問3オ】

設問:

労働基準法第24条第1項に定めるいわゆる「賃金全額払の原則」は、労働者の賃金債権に対しては、使用者は、使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することを許されないとの趣旨を包含するものと解するのが相当であるが、その債権が当該労働者の故意又は過失による不法行為を原因としたものである場合にはこの限りではない、とするのが最高裁判所の判例である。

 

解答:

設問の前段の、「賃金全額払の原則が、労働者の賃金債権に対しては、使用者は、使用者が労働者に対して有する債権をもって相殺することを許されないとの趣旨を包含する」という点は、正しいです。

しかし、後段は誤りです。即ち、使用者は、「不法行為」を原因として労働者に対して有する債権をもって、当該労働者が有する賃金債権と相殺することも認められません(上掲の【日本勧業経済会事件=最大判昭和36.5.31】のケースです)。

なぜなら、全額払の原則が、使用者による賃金債権を受働債権とする相殺の禁止の趣旨も含むと解されている理由は、それにより労働者に賃金全額を確実に受領させその生活の安定を図ろうとするためですが、この労働者に賃金全額を確実に受領させる必要性は、使用者が相殺する自働債権が不法行為に基づくものかそうでないかには関係しないためです。

なお、不法行為と債務不履行についての詳細は、「賠償予定の禁止」の個所(こちら以下)をご参照下さい。

 

 

2 相殺禁止の例外

 

◆ただし、かかる全額払の原則に基づく賃金債権を受働債権とする相殺の禁止については、判例において、次のような例外も認められています。

 

〇 賃金債権を受働債権とする相殺の禁止:

 

(1)過払の賃金を清算するための「調整的相殺

 

(2)労働者の同意(自由意思)に基づく相殺

 

(3)解雇無効期間中の賃金からの中間収入の控除における平均賃金の60%を超える部分の相殺(この(3)については、休業手当の個所(こちら)で学習します)

 

 

以下、この(1)と(2)について見ます。 

 

 

(1)調整的相殺

 

ある賃金計算期間内に賃金の過払が生じた場合に、当該過払分をその後の賃金から控除して支払うこと(調整的相殺)が、全額払の原則に違反しないか問題となります。

即ち、使用者が、過払賃金について有する不当利得返還請求権(民法第703条以下)を自働債権として、労働者の賃金債権を受働債権とする相殺が認められるかです。

 

この点は、上述のように、全額払の原則は、賃金債権との相殺を禁止する趣旨をも含んでいるものと解されますから、本件の調整的相殺も禁止されるはずともいえます。

ただ、調整的相殺の場合は、実質的には、労働者に本来支払われるべき賃金その全額が支払われているといえ、通常は労働者に不利益が生じるわけではありません。

そして、賃金の過払は、計算ミスや賃金支払後に減額事由が生じたなどにより不可避的に生じうるものであり、調整的相殺を認める必要性もあります。

そこで、調整的相殺は、その時期方法金額等から見て労働者の経済生活の安定が害されるおそれがない場合には、全額払の原則に違反しないと解されます。

 

以上の考え方は次の判例をベースにしており(ただし、理論的には問題があり、次の「賃金債権を受働債権とする相殺の禁止」の個所で触れます)、この判例は下記のように平成21年度の選択式で出題されました(今後も、この判例は十分押さえておく必要があります(平成29年度の択一式試験でも出題されました))。【過去問 平成27年問1B(後掲)】/【平成29年問6D(後掲)】

 

 

【福島県教組事件=最判昭和44.12.18】

 

(判旨)

労働基準法24条1項では、賃金は、同項但書の場合を除き、その全額を直接労働者に支払わなければならない旨定めており、その法意は、労働者の賃金はその生活を支える重要な財源で日常必要とするものであるから、これを労働者に確実に受領させ、その生活に不安のないようにすることが労働政策上から極めて必要であるとするにあると認められ、従つて、右規定は、一般的には、労働者の賃金債権に対しては、使用者は使用者が労働者に対して有する債権をもつて相殺することは許されないとの趣旨をも包含すると解せられる。

 しかし、賃金支払事務においては、一定期間の賃金がその期間の満了前に支払われることとされている場合には、支払日後、期間満了前に減額事由が生じたときまたは、減額事由が賃金の支払日に接着して生じたこと等によるやむをえない減額不能または計算未了となることがあり、あるいは賃金計算における過誤、違算等により、賃金の過払が生ずることのあることは避けがたいところであり、このような場合、これを精算ないし調整するため、後に支払わるべき賃金から控除できるとすることは、右のような賃金支払事務における実情に徴し合理的理由があるといいうるのみならず、労働者にとつても、このような控除をしても、賃金と関係のない他の債権を自働債権とする相殺の場合とは趣を異にし実質的にみれば本来支払わるべき賃金はその全額の支払を受けた結果となるのである。このような事情と前記24条1項の法意とを併せ考えれば、適正な賃金の額を支払うための手段たる相殺は、同項但書によつて除外される場合にあたらなくても、その行使の時期方法金額等からみて労働者の経済生活の安定との関係上不当と認められないものであれば、同項の禁止するところではないと解するのが相当である。この見地からすれば、許さるべき相殺は、過払のあつた時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、また、あらかじめ労働者にそのことが予告されるとか、その額が多額にわたらないとか、要は労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合でなければならないものと解せられる。」

 

※【選択式 平成21年度 B=「経済生活の安定」】

 

〇過去問:

 

・【平成17年問1B】

設問:

毎月15日に当月の1日から月末までの賃金を支払うこととなっている場合において、月の後半に2日間の欠勤があり賃金を控除する必要が生じたときは、過払いとなる賃金を翌月分の賃金で清算する程度は賃金それ自体の計算に関するものであるから、労働基準法第24条の賃金の支払いに関する規定(賃金全額払の原則)の違反とは認められない。

  

解答:

本件は適正な賃金の額を支払うための手段たる相殺(調整的相殺)であり、上記の福島県教組事件の判例の基準をあてはめてみます。

 

この点、本件相殺権の行使の時期は過払の翌月であり、清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてなされているといえること、また、相殺の額も2日分の賃金に過ぎないことを考えますと、本件の調整的相殺は、労働者の経済生活の安定との関係上不当とは認められないものとして、全額払の原則に違反しないとできます。

 

もっとも、この判例よりかなり古い時代に発出されました通達においても、ストライキ等のため過払となった前月分の賃金を当月分の賃金で清算する程度は、賃金それ自体の計算に関するものであるから、全額払の原則に違反しないとされていました(【昭和23.9.14基発第1357号】)。

かかる調整的相殺の可否については、現在では、この通達のように単に「賃金それ自体の計算に関するもの」とだけ述べるのではなく、上記の福島県教組事件判決の基準に従って考えるのが妥当となります。

いずれにしましても、本設問は正解です。

 

 

・【平成27年問4B】

設問:

過払いした賃金を清算ないし調整するため、後に支払われるべき賃金から控除することは、その金額が少額である限り、労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれがないため、労働基準法第24条第1項に違反するものではないとするのが、最高裁判所の判例である。

  

解答:

設問の調整的相殺については、最高裁は、「その行使の時期方法、金額からみて労働者の経済生活の安定との関係上不当と認められないものであれば」、第24条第1項の禁止するところではないとしており、必ずしも金額が少額でありさえすれば禁止されないと判示しているわけではありません。

即ち、「許さるべき相殺は、過払のあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、また、あらかじめ労働者にそのことが予告されるとか、その額が多額にわたらないとか、要は労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合でなければならないものと解せられる」としているのであり、金額が少額であることは重要な判断要素の1つにはなりますが、相殺の行われた時期や予告等の方法等も考慮して労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれがないかどうかを総合的に判断しなければなりません。よって、設問は誤りです。結構、細かい個所を突いた出題でした。

 

 

・【平成29年問6D】

設問:

賃金の過払を精算ないし調整するため、後に支払われるべき賃金から控除することは、「その額が多額にわたるものではなく、しかもあらかじめ労働者にそのことを予告している限り、過払のあつた時期と合理的に接着した時期においてされていなくても労働基準法24条1項の規定に違反するものではない。」とするのが、最高裁判所の判例である。

 

解答:

設問のいわゆる調整的相殺について、最高裁判例は、「過払のあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、また、あらかじめ労働者にそのことが予告されるとか、その額が多額にわたらないとか、要は労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合でなければならないものと解せられる」としています。

 

従って、調整的相殺について、その額が多額でなく、予告していれば、「過払のあった時期と合理的に接着した時期においてされていなくても労働基準法24条1項の規定に違反するものではない」と判示しているわけではありません。

以上より、設問は誤りです。

 

 

以上で、(1)調整的相殺を終わります。次に、(2)労働者の同意に基づく相殺の問題です。

 

  

(2)労働者の同意(自由意思)に基づく相殺

 

次に、使用者が、労働者の同意を得て賃金債権との相殺を行うこと(合意相殺をすること)が全額払の原則に違反しないかも問題です。

 

判例の結論は、「労働者がその自由な意思に基づき右相殺に同意した場合においては、右同意労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、右同意を得てした相殺は右規定〔=第24条第1項の全額払の原則〕に違反するものとはいえない」というものであり、労働者の同意に基づく相殺を認めています。

 

試験対策上は、上記の判例の結論を押さえておいて下さい(後述のように、択一式の平成18年度に判例の判旨が出題されています。今後は、選択式対策として、上記判旨の「自由な意思」、「合理的な理由が客観的に存在」というキーワードに注意です)。

 

本問の対立点を理解するために、少し解説を加えます。

 

そもそも、労働者の同意があっても、労基法の強行規定に違反することは認められないはずです(例えば、36協定を締結していないなど違法な時間外労働について、労働者が同意していたからといって、使用者が罰則の適用を免れるわけではありません)。

そして、既述のように、第24条第1項の賃金の全額払の原則には使用者による賃金債権との相殺の禁止の趣旨も含まれるものと解する以上、相殺に対して労働者の同意があっても、使用者は相殺権を行使することはできないと解するのが素直だといえます(条文通り、労使協定を締結し、そのうえで、労働者の同意が必要とされることになります)。

 

もっとも、後述の通り、労働者が賃金債権を放棄すること認められています(労働者が賃金債権を放棄した場合に、使用者が当該放棄された賃金を支払わなくても、全額払の原則に違反しません。なぜなら、私的自治の原則から、労働者の真意に基づく権利の放棄は認めざるを得えず、当該放棄がなされたなら賃金債権が存在しない以上、全額払の原則は問題とならないからです)。

すると、この労働者による賃金債権の放棄を認めることとのバランスからは、労働者の同意に基づく相殺も認めてもよいともなります。

なぜなら、確かに、相殺と放棄とでは、使用者が関与しているかどうかの違いはありますが、実際上、両者は区別が困難な場合も多いですし、なにより相殺の場合は、労働者が使用者に対して負う債務も対等額につき消滅する点で労働者にもメリットがあるのに対して、賃金債権の放棄の場合は労働者にかかるメリットがないのであり、このような放棄を認める以上は、労働者の真意に基づく同意の上での相殺も認めることが整合的ともいえるからです。

 

また、第24条第1項の賃金の全額払の強行規定性を強調するなら、そもそも、前掲の【福島県教組事件=最判昭和44.12.18】(こちら)の「調整的相殺」も認められないことになります。

後述(こちら)の端数処理も認められなくなるでしょう。

 

しかし、これらの取扱いが第24条第1項の強行規定性に違反しないことをどう説明するのか、また、本件の相殺の同意について、労基法の強行規定性を労働者の同意により排斥できるわけではないという建前との抵触の回避についてどう説明するのかは、難しいところです。 

 

前掲の【福島県教組事件=最判昭和44.12.18】の判決(こちら)では、「右規定〔=第24条第1項〕は、一般的には、労働者の賃金債権に対しては、使用者は使用者が労働者に対して有する債権をもつて相殺することは許されないとの趣旨をも包含すると解せられる」と判示しています(リーディングケースであった【関西精機事件=最判昭和31.11.2】及び【日本勧業経済会事件=最大判昭和36.5.31】(こちら以下)に対して、「一般的には」という文言が追加されているという重要な違いがあります)。

そして、「このような事情と前記24条1項の法意とを併せ考えれば、適正な賃金の額を支払うための手段たる相殺は、同項但書によって除外される場合にあたらなくても、その行使の時期、方法、金額等からみて労働者の経済生活の安定との関係上不当と認められないものであれば、同項の禁止するところではないと解する」と判示しています。

 

この判示では、「賃金債権を受働債権とする相殺の禁止」というルール(ないし第24条第1項の全額払)には、同項ただし書以外の「例外」が存在しうることが示されています。

強行規定の趣旨等に照らして、当該強行規定の適用が及ばない例外を認めていることになるのでしょう。

 

条文上は、このような場合には、第24条第1項の賃金支払の全額払の規定が禁止する「賃金の一部を控除して支払う」こと(同項ただし書)の「控除」に実質的には該当しないとでも説明することになるでしょうか。

 

 

理屈的にはすっきりしませんが、さしあたり、本件の「労働者の同意(自由意思)に基づく相殺」の場合、次のように考えられるかもしれません。

 

即ち、強行規定である第24条第1項の全額払の原則の趣旨から、使用者による賃金債権との相殺禁止が導かれます。

これは、「使用者が一方的に相殺権を行使すること(使用者が一方的に賃金を控除すること)」を強行的に禁止したものであり、労働者が相殺に同意した場合(若しくは合意相殺の場合)は、強行的に禁止される「使用者による一方的な相殺(使用者が一方的に賃金を控除すること)」には該当しないのだから強行規定の違反とはならないと考えられるかもしれません。

つまり、理屈的・形式的には、強行規定の適用を排除したり、強行規定からの逸脱を認めているのではなく、単に、強行規定が適用される要件(「使用者による一方的な相殺(使用者が一方的に賃金を控除すること)」)に該当しないと見ることになります。

(ただ、実質的に見れば、強行規定について労働者の同意によりその適用を排除していることと紙一重といえるのですが。)

 

 

ひとまず、試験対策上は、以下の判例をチェックしておいて下さい。 

 

 

【日新製鋼事件=最判平成2.11.26】

 

(事案)

従業員が会社から住宅資金を融資されていたが、退職する際に退職金と残債務との相殺に同意し、相殺により清算された事案。

 

(判旨)

労基法「24条1項本文の定めるいわゆる賃金全額払の原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするものというべきであるから、使用者が労働者に対して有する債権をもって労働者の賃金債権と相殺することを禁止する趣旨をも包含するものであるが、労働者がその自由な意思に基づき右相殺に同意した場合においては、右同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由客観的に存在するときは、右同意を得てした相殺は右規定に違反するものとはいえないものと解するのが相当である(〔※【シンガー・ソーイング・メシーン事件=最判昭和48.1.19】を引用しています。労働者が賃金債権を放棄したケースの判例であり、後述の3で見ます〕)。もっとも、右全額払の原則の趣旨にかんがみると、右同意が労働者の自由な意思に基づくものであるとの認定判断は、厳格かつ慎重に行われなければならないことはいうまでもないところである。」

 

【過去問 平成18年問2B】は、上記判例の※印の手前までの判示を出題しています。

【平成30年問6B(後掲)】

 

 

・なお、「労働者からの相殺」の可否については、まだ直接的な最高裁の判例はありませんが、全額払の原則は労働者の保護を図る趣旨ですから、使用者からの相殺を禁止したものと解され、労働者からの相殺は許容されると解されます。

最高裁も、上記の労働者の同意に基づく使用者による相殺を認めていることや、次の労働者による賃金債権の放棄は認めていることから、同様の結論になるものといえます。

 

 

・【過去問 平成30年問6B】

設問:

使用者が労働者の同意を得て労働者の退職金債権に対してする相殺は、当該同意が「労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは」、労働基準法第24条第1項のいわゆる賃金全額払の原則に違反するものとはいえないとするのが、最高裁判所の判例である。

 

解答:

正しいです。前記(こちら)の【日新製鋼事件=最判平成2.11.26】の判示です。

本肢の解説については長くなりますので、本文のこちら以下をお読み下さい。 

 

相殺と全額払の原則については、以上で終わります。引き続いて、全額払の原則に関するその他の重要問題の続きを見ます。  

 

 

(三)賃金債権の放棄

労働者が賃金債権を放棄した場合に、使用者が当該放棄された賃金を支払わないことが全額払の原則に違反しないかも問題です。

 

この点、私的自治の原則からは、労働者の真意に基づく賃金債権の放棄は認めざるを得ません(これを禁止する規定もないです)。

そして、全額払の原則は、賃金債権が発生し存続している場合に、その全額の支払を確保することにより労働者の経済生活の安定を図ろうとしたものですから、放棄により賃金債権が消滅し存在しなくなった場合には、全額払の原則は適用されないことになります。

 

ただし、使用者の圧力によって賃金債権の放棄を強いられるような場合もありますから、当該放棄が労働者の自由な意思に基づくものであると認めるに足る合理的な理由が客観的に存在することが必要となります。

 

  

【シンガー・ソーイング・メシーン事件=最判昭和48.1.19】

 

(事案)

在職中の不正経理の弁償として退職金を放棄した退職者が、賃金全額払の原則によりその放棄は効力を生じない等と主張して退職金の支払いを求めた事案。

 

(判旨)

「右事実関係によれば、本件退職金は、就業規則においてその支給条件が予め明確に規定され、被上告会社が当然にその支払義務を負うものというべきであるから、労働基準法11条の『労働の対償としての賃金に該当し、したがつて、その支払については、同法第24条1項本文の定めるいわゆる全額払の原則が適用されるものと解するのが相当である。

〔※ 以上については、賃金の要件の退職手当(こちら)の個所で見ました。〕

しかし、右全額払の原則の趣旨とするところは、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もつて労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活をおびやかすことのないようにしてその保護をはかろうとするものというべきであるから、本件のように、労働者たる上告人が退職に際しみずから賃金に該当する本件退職金債権を放棄する旨の意思表示をした場合に、右全額払の原則が右意思表示の効力を否定する趣旨のものであるとまで解することはできない。もつとも、右全額払の原則の趣旨とするところなどに鑑みれば、右意思表示の効力を肯定するには、それが上告人の自由な意思に基づくものであることが明確でなければならないものと解すべきである・・・。

 

〔中略。本件の事実関係に上記をあてはめている部分です。〕

 

右事実関係に表われた諸事情に照らすと、右意思表示が上告人の自由な意思に基づくものであると認めるに足る合理的な理由客観的に存在していたものということができるから、右意思表示の効力は、これを肯定して差支えないというべきである。」

 

〇過去問:

 

・【平成22年問3D】

設問:

労働基準法第24条第1項の賃金全額払の原則は、労働者が退職に際し自ら賃金債権を放棄する旨の意思表示をした場合に、その意思表示の効力を否定する趣旨のものと解することができ、それが自由な意思に基づくものであることが明確であっても、賃金債権の放棄の意思表示は無効であるとするのが最高裁判所の判例である。

 

解答:

上記のように、【シンガー・ソーイング・メシーン事件=最判昭和48.1.19】は、全額払の原則は、労働者の賃金債権の放棄の意思表示の効力を否定する趣旨のもの「であるとまで解することはできない」としており、設問と逆の立場になっています。従って、設問は誤りです。 

 

・【平成25年問7オ】

設問:

退職金は労働者にとって重要な労働条件であり、いわゆる全額払の原則は強行的な規制であるため、労働者が退職に際し退職金債権を放棄する意思表示をしたとしても、同原則の趣旨により、当該意思表示の効力は否定されるとするのが、最高裁判所の判例である。

 

解答:

上記のように、【シンガー・ソーイング・メシーン事件=最判昭和48.1.19】は、労働者が退職金債権を放棄する旨の意思表示をした場合、それが当該者の自由な意思に基づくものであることが明確であるなら、その意思表示も有効としています。従って、設問は誤りです。

 

 

・【平成27年問4C】

設問:

退職金は労働者の老後の生活のための大切な資金であり、労働者が見返りなくこれを放棄することは通常考えられないことであるから、労働者が退職金債権を放棄する旨の意思表示は、それが労働者の自由な意思に基づくものであるか否かにかかわらず、労働基準法第24条第1項の賃金全額払の原則の趣旨に反し無効であるとするのが、最高裁判所の判例である。

 

解答:

前2問と類似の問題です。労働者が退職金債権を放棄する旨の意思表示をした場合、それが当該者の自由な意思に基づくものであることが明確であるなら、その意思表示も有効です。よって、設問は誤りです。 

 

 

(四)端数処理

一定の端数処理については、第24条(全額払の原則等)や第37条(割増賃金の支払義務)に違反しないと取り扱われています(【昭和63.3.14基発第150号】参考)。

具体的には、下記の図の通りです。

 

理由としては、端数処理の円滑化の必要性が高いことから、端数処理の内容が合理的で、労働者に対する実質的不利益がないような場合には、賃金の全額払の原則等の趣旨(労働者の経済生活の安定)に反しないものと解するのでしょう(第24条の場合は、賃金の「控除」(同条第1項ただし書参考)に実質的に該当しないとなるのでしょう)。

 

本問は、択一式において出題が多く、以下のように細かいですが、記憶しておく必要があります。

 

 

 

上記図を単純に覚えることが必要です。覚えるポイントは、次の通りです。

 

まず、上記図のうち、(2)のみが「1時間」あたりの額の端数処理を問題としていますが、その他は「1箇月」あたりの額の端数処理の問題です。

1日」の額についての端数処理は認められていないことは、ポイントです(【平成25年問3B(後掲)】でも出題)。

「1日」の額についての端数処理は、例えば、1か月に累積しますと端数処理される額が大きくなり過ぎるなど、労働者の不利益が著しくなるおそれがあるためです。

 

(2)は、「1時間」あたりの額の端数処理について、「1円未満の四捨五入」をしていますから、「意地の1円」とでも覚えましょう(「意地(=「いちじ」かん)の、1円(=「1円」未満の四捨五入))。

 

他方、(1)は、他と異なり、「労働時間数」の端数処理の問題です。

また、上記端数処理は、基本的には、四捨五入的な端数処理をしますが、(5)のみは、翌月への繰り越しの処理です。

 

 

〇過去問:

 

・【平成19年問3E】

設問:

割増賃金の計算の便宜上、1日における時間外労働、休日労働及び深夜労働の各時間数に1時間未満の端数がある場合には、1日ごとに、30分未満の端数を切り捨て、30分以上の端数を1時間に切り上げて計算する措置は、法違反として取り扱わないこととされている。

 

解答:

労働時間数の問題ですから、上記図(こちら)の(1)のケースです。

そこで、「1箇月」における時間外労働等の時間数に1時間未満の端数がある場合に所定の端数処理が認められるのですから、設問のように「1日」の場合には認められません。従って、設問は誤りです。

他にこの図(1)については、【平成12年】にも出題されています。

 

 

 

・【平成15年問3B】

設問:

1か月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には、控除した額)に100円未満の端数が生じた場合、50円未満の端数を切り捨て、それ以上を100円に切り上げて支払うことは、労働基準法第24条違反としては取り扱わないこととされている。

 

解答:

上記図(こちら)の(4)のケースであり、正しいです。

 

 

・【平成18年問5A】

設問:

1か月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した額)に生じた千円未満の端数を翌月の賃金支払日に繰り越して支払うことは、賃金支払の便宜上の取扱いと認められるから、労働基準法第24条違反としては取り扱わないこととされている。

 

解答:

上記図(こちら)の(5)のケースであり、正しいです。

 

 

・【平成24年問1A】

設問:

1か月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には、控除した額)に生じた千円未満の端数を翌月の賃金支払日に繰り越して支払うことは、労働基準法第24条違反としては取り扱わないこととされている。

 

解答:

前問と同様に、上記図(こちら)の(5)のケースであり、正しいです。

 

 

・その他、上記図の(2)は、【平成10年】に出題されています。

 

 

・【平成28年問3C】

設問:

1か月における時間外労働の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げる事務処理方法は、労働基準法第24条及び第37条違反としては取り扱わないこととされている。

 

解答:

本問も、前掲の【平成19年問3E】と同様に、上記図(こちら)の(1)のケースです。従って、設問は正しいです。

  

 

・【平成25年問3B】

設問:

1日及び1か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること、1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に1円未満の端数が生じた場合に、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること並びに1か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合に、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げることは、いずれも労働基準法第24条及び第37条違反としては取り扱わないこととされている。

 

解答:

「1日及び1か月」における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数ではなく、「1か月」が正しいです(上記図(こちら)の(1)のケースです)。よって、設問は、誤りです。

他の「1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に1円未満の端数が生じた場合」(上記図(こちら)の(2)のケースです)及び「1か月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合」(上記図(こちら)の(3)のケースです)の「1円未満の端数の四捨五入」については、正しいです。

 

以上、本問は、上記図(こちら)の(1)~(3)の3つの出題でした。

 

 

・【平成29年問6C】

設問:

1か月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した額。)に100円未満の端数が生じた場合、50円未満の端数を切り捨て、それ以上を100円に切り上げて支払う事務処理方法は、労働基準法第24条違反としては取り扱わないこととされている。

 

解答:

正しいです。上記図(こちら)の(4)のケースです。

 

 

 

以上で、端数処理の問題について終わります。

次に、チェック・オフ (組合費の控除)の問題を学習します。

 

 

(五)チェック・オフ

チェック・オフとは、労働組合使用者との協定に基づき、使用者が、組合員である労働者の賃金から組合費を控除(天引き)して労働組合に引き渡す仕組みのことです。

チェック・オフは、労働組合にとって組合費の徴収を確実化・容易化させるものであり、使用者の労働組合に対する便宜供与の一つです。※1

実際に多くの労働組合で行われています(おおよそ9割強の労働組合において行われているとされます)。

 

平成23年の「労働協約等実態調査」(平成24年6月30日時点のデーター)では、労働組合のうち91%もの組合で実施されています(その前回の平成18年の調査では、 93.5%)。

 

しかし、使用者が労働者の賃金の一部を控除することになりますから、賃金の全額払の原則に違反しないかが、チェック・オフを行うための要件に関して問題となります。

 

なお、チェック・オフは労働一般の労働組合法の問題ですが、チェック・オフの主要問題の一つが、賃金全額払の原則との関係(労使協定の問題)ですので、労基法の問題でもあり、実際に【択一式 労基法 平成17年問1C】(後述)で出題されています。

 

チェック・オフは、3者間の関係が生じること等から、少し難しい問題もありますが、判例の立場を押さえるようにすれば、試験対策上は問題ありません(以下、まだ学習していない労働組合法の知識も登場し、少し難解ですが、とりあえずはあまり深入りせずに、判例の内容を押さえて下さい)。

 

 

前提として、チェック・オフの構造を少し見てみます。

チェック・オフは、(a)使用者と労働組合との間で、使用者が組合員の賃金から組合費を控除して労働組合に引き渡すという組合費の取立の委任がなされ、(b)労働組合と組合員たる労働者との間で、組合費を使用者が賃金から控除するという組合費控除に関する合意がなされ、(c)使用者と組合員たる労働者との間で、使用者が賃金から組合費を控除(賃金を一部控除)して組合に支払うという組合費の支払委任がなされる、という三者間の法律関係から構成されます。

 

このうち(b)については、労働組合と組合員との関係ですから、労働組合の規約により規律される問題です。

(a)については、賃金全額払の原則との関係から、労使協定の締結の問題となり、以下で検討します。

(c)については、チェック・オフに関する労使協定が締結された場合に、組合員に対する拘束力が問題となります。

例えば、組合員の同意がないチェック・オフも可能なのかといった問題が生じ、これも以下で検討します。

 

※1 なお、チェック・オフは、使用者の労働組合に対する便宜供与ですが、不当労働行為にはあたらないと解されています(詳しくは、労働組合法で学習しますが、不当労働行為の制度は重要ですので、簡単に述べておきます。とりあえず、チェック・オフが不当労働行為にはあたらないことはざっと記憶しておいて下さい)。

 

労働組合法は、労働者の労働基本権(労働三権。憲法第28条(労働一般のパスワード)の団結権、団体交渉権、団体行動権)を侵害する使用者の一定行為を不当労働行為として禁止し(労組法第7条)、違反があった場合に労働委員会(独立行政委員会)による救済・是正を図ることとして、正常な労使関係を迅速に回復・確保させようとしています。

この不当労働行為の一つとして、使用者の労働組合に対する「経理上の援助」が規定されており、この「経理上の援助」は原則として禁止されています(労組法第7条第3号)。

そこで、チェック・オフがこの「経理上の援助」として不当労働行為にあたらないかは、若干問題となります。

 

しかし、結論として、チェック・オフは不当労働行為にあたらないことに争いがありません。その理由づけは様々ですが、次のように考えます。

即ち、「経理上の援助」が不当労働行為として禁止される趣旨は、使用者が労働組合に対し支配・介入を行うことにより、労働組合の自主性を侵害する危険があることによります。

しかし、チェック・オフの場合は、単に使用者が組合費を天引きして組合に交付するに過ぎないものですから、組合の自主性が侵害される危険性は乏しいですし、また、チェック・オフにより、組合は組合費の徴収を簡易化・確実化できその財政を安定させられるのであり、むしろ組合の自主性の確保に資するものといえます。

従って、チェック・オフは不当労働行為にあたりません。

 

以下、チェックオフと賃金の全額払の原則等との関係を見ます。

 

 

1 賃金全額払の原則との関係

 

チェック・オフについては、まず、賃金の全額払の原則との関係が問題です。

 

この点、チェック・オフは、労働者に支払われるべき賃金の一部を使用者が控除するものですから、賃金の全額払の原則(第24条第1項)に違反することになるはずです。

従って、同項ただし書の通り、(過半数労働組合等との)労使協定が締結されている場合のみ認められるものと考えるのが自然です。

判例も、結論として、労使協定の締結が必要と解しています(後述の【済生会中央病院事件=最判平成元.12.11】)。

 

※ 本問の背景には、次のような問題意識があります。

即ち、もし労使協定の締結が必要と考えますと、労働者の過半数で組織する労働組合又はそれがない場合には労働者の過半数を代表する者(以下、「過半数労働組合等」ということがあります)との協定の締結が必要となるのであり、過半数では組織されていない少数組合ではチェック・オフを行いにくくなるおそれもあること(対して、労働協約の場合なら、過半数労働組合でなくても締結できます)、

また、チェック・オフは、組合員についての問題ですから、事業場の全体の労働者に効力が生じる労使協定の問題とする必要はなく、労働協約を締結すれば十分であるともいえることです(そこで、学説では、「労使協定」の締結は不要であり、「労働協約」の締結で足りるとする説もあります)。

 

しかし、第24条第1項が、全額払の原則の例外を、法令に別段の定めがある場合の他は、「労使協定」を締結した場合にのみ認めている以上、条文上は「労働協約」では足りないと考えるのが自然です。

また、元来、賃金の一部控除は、法令又は「労働協約」に別段の定めがある場合に認められていたのが、昭和27年の労基法の改正により、労働協約ではなく「労使協定」により認めることにしたという経緯もあります。

(なお、判例は、第24条第1項の全額払の原則について、同項ただし書の明文のない例外も認めていることになりますから(例:調整的相殺)、本件でも、労働協約の締結でも足りるとする余地もありそうですが、上記の沿革も考慮するなら、本件では明文通りに解することになるのでしょう。)

 

※ 次の判例は、下記のアンダーライン部分を注意すれば足りるでしょう(後述のように、労働組合法で重要問題を検討します)。

 

【済生会中央病院事件=最判平成元.12.11】

 

(事案)

過去15年余にわたって労使協定を締結せずにチェック・オフが行われてきたところ、労働組合が分裂した状況下において、労使協定を締結せずに行う違法なチェック・オフ(賃金の一部控除)を解消すること、チェック・オフをすべき組合員の範囲が不明確であること等を理由として、使用者が一方的にチェック・オフを中止したという事案。

 

(判旨)

労基法24条1項本文は、賃金はその全額を労働者に支払わなければならないとしているが、その趣旨は、労働者の賃金はその生活を支える重要な財源で日常必要とするものであるから、これを労働者に確実に受領させ、その生活に不安のないようにすることが労働政策の上から極めて必要なことである、というにある(〔※ 相殺の可否の個所で学習しました【日本勧業経済会事件=最大判昭和36.5.31】を引用しています〕)。

これを受けて、同項但書は、(ア)当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者が使用者との間で賃金の一部を控除して支払うことに合意し、かつ、(イ)これを書面による協定とした場合に限り、労働者の保護に欠けるところはないとして、同項本文違反が成立しないこととした。

しかして、いわゆるチェック・オフも労働者の賃金の一部を控除するものにほかならないから、同項但書の要件〔=労使協定の締結)を具備しない限り、これをすることができないことは当然である。たしかに、原審〔※〕のいうように、チェック・オフは労働組合の団結を維持、強化するものであるが、その組合員すなわち労働者自体は賃金の一部を控除されてその支払いを受けるのであるから、右に述べた同項但書の趣旨によれば、チェック・オフをする場合には右(ア)、(イ)の要件を具備する必要がないということはできない。」

 

※ ちなみに、原審は、チェック・オフは、労働組合の時間と労力とを省き、その財政を確固たるものとするので、労働組合の団結に寄与し、ひいては労働者の保護に資することにもなるものだから、書面によらないチェック・オフ協定であったとしても、第24条第1項の全額払の原則及びその例外としての労使協定の締結という趣旨に反するところはないとして、書面によらない協定(従って、労使協定の要件は満たしません)でもチェック・オフができると判断していました。

しかし、チェック・オフでは、賃金を控除される組合員の不利益も問題となります。

 

 

※ なお、この【済生会中央病院事件=最判平成元.12.11】は、労働一般の労組法において問題となる労働組合の就業時間中の組合活動の正当性についても判示しています。次の通りです。

 

「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。したがって、労働組合又はその組合員が労働時間中にした組合活動は、原則として、正当なものということはできない。」

詳しくは、労組法のこちら以下(労働一般のパスワード)で見ます。  

 

 

2 チェック・オフ協定の組合員に対する拘束力の問題

 

(1)次に、チェック・オフについて労使協定が締結された場合に、当該事業場の労働者(組合員)に当然にその拘束力が生じるのかが問題です。

 

この点は、労使協定の効果の問題(こちら)です。

即ち、労使協定は免罰的効力(広義。罰則の適用を免れるなど、労基法に違反しなくなるという効果)は生じますが、原則として、労使協定のみでは労働者に対して拘束力は生じないと解されています(労働者に対して直接の私法上の効果が及ぶ規定がなく、私的自治の原則を重視すべきだからです)。

そこで、使用者は、労使協定のみを根拠として、労働者に対して当該労使協定で定めた内容を強制することはできず、別に労働契約等の正当な根拠規定が存在することが必要です。

この点、チェック・オフの場合は、組合員である労働者使用者に対して支払委任(賃金から組合費を控除して組合に支払ってよいとする委任)の同意をすること(両者の合意があること)が必要と解されます。

従って、組合員である労働者の同意がないときは使用者チェック・オフは行えずチェック・オフに反対する組合員いつでもチェック・オフの中止を使用者に要求できることになります(民法上、委任契約は、各当事者がいつでも解除できる建前になっています(民法第651条))。【過去問 労働一般 平成25年問2C(後掲)】

 

(2)〔以下、この(2)は、まだ学習していない労働協約の効力の問題が関係するため、初学者の方は、眺めるだけにして下さい。詳細は、労働組合法で学習します。〕

 

ただし、労使協定が労働協約の要件も満たしている場合(即ち、労働組合が書面により適式に協定を締結している場合。労働組合法第14条(労働一般のパスワード))は、同法第16条こちら)の労働協約の規範的効力(労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は無効となり、当該無効部分(ないし定めのない部分)は労働協約に定める基準によるという効力)により、組合員のチェック・オフに対する同意がなくてもチェック・オフが可能とできないかについては、問題が多いところです。

即ち、チェック・オフ協定が労働協約により締結されたと認められる場合は、チェック・オフによる賃金の一部控除は、労働協約が定める「労働者の待遇に関する基準」(規範的効力を生じる労働協約の部分であり、規範的部分といいます)にあたり、かかる一部控除(組合費の納入方法)の取決めが直接、組合員の労働契約の内容を規律し、組合員の同意がなくてもチェック・オフの拘束力が生じるとできないかです。

 

この点、「労働者の待遇に関する基準」という文言上は、チェック・オフによる組合費の納入方法が含まれるかどうかはっきりせず、決め手を欠きます。

そこで、実質論が重要となります。

 

組合員は、組合加入(契約)により、規約に従って組合費を納入する義務を負うものと解され(=即ち、組合費の納入義務について組合の統制権が及んでいることになります)、すると、労働協約によって組合費の納入方法を定めて一定の納入方法を義務づけることも、組合の統制権の一環として許容されるとも考えられます(なお、労働組合の統制権とは、労働組合がその目的を達するため、組合員に対して一定の規制を加えることであり、判例は、憲法第28条により労働組合に統制権が保障されていると解しています(詳しくは、労組法のこちら以下で学習します))。

すると、チェック・オフによる組合費の納入方法も、「労働者の待遇に関する基準」に含まれると解して、規範的効力により、個々の組合員の同意なく、チェック・オフを行うことができるとすべきともなります。

 

しかし、判例(後掲の【エッソ石油事件=最判平成5.3.25】)は、労働協約によるチェック・オフ協定の締結の場合にも、組合員の同意委任がないときは使用者はチェック・オフは行えないとしており、組合員の同意委任を不可欠なものと解しています従って、労働組合法第16条の「労働者の待遇に関する基準」にチェック・オフによる組合費の納入方法は含まれず、チェック・オフ協定には規範的効力が生じないと解していることになります。

【過去問 労働一般 平成24年問2B(後掲)】

 

確かに、組合員が、直接、組合に対して組合費を納入することを希望している場合に、使用者が組合費を勝手に天引きしてしまうことを認めるのは行き過ぎだといえなくもありません。

そして、組合員にいつでもチェック・オフを中止できる余地を認めておくことは、組合財政の健全性をチェックさせる機能として意味があるともいえ、かかる見地から判例に賛成する学説もあります。

 

このように、この(2)労働協約とチェック・オフの問題は、難しい問題ですが、試験対策上は、次の判例を押さえておきます(次の判例の太字部分に注意して下さい)。

 

 

【エッソ石油事件=最判平成5.3.25】

 

(事案)

組合(A組合)内部の対立によって新組合(B組合)を結成した従業員らが、会社に対して元のA組合から新しいB組合への組合費の納入先の変更を依頼したが、会社は、当該従業員の脱退についてA組合から通告がないこと等を理由として約5か月分について、当該従業員の賃金からA組合の組合費を控除してA組合に交付した事案。

 

(判旨)

「労働基準法(昭和62年法律第99号による改正前のもの)24条1項ただし書〔=労使協定の要件を具備するチェック・オフ協定の締結は、これにより、右協定に基づく使用者のチェック・オフが同項本文所定の賃金全額払の原則の例外とされ同法120条1号所定の罰則の適用を受けないという効力を有するにすぎないものであって、それが労働協約の形式により締結された場合であっても、当然に使用者がチェック・オフをする権限を取得するものでないことはもとより、組合員がチェック・オフを受忍すべき義務を負うものではないと解すべきである。したがって、使用者と労働組合との間に右協定(労働協約)が締結されている場合であっても、使用者が有効なチェック・オフを行うためには、右協定の外に、使用者が個々の組合員から、賃金から控除した組合費相当分を労働組合に支払うことにつき委任を受けることが必要であって、右委任が存しないときには、使用者は当該組合員の賃金からチェック・オフをすることはできないものと解するのが相当である。そうすると、チェック・オフ開始後においても、組合員は使用者に対し、いつでもチェック・オフの中止を申し入れることができ、右中止の申入れがされたときには、使用者は当該組合員に対するチェック・オフを中止すべきものである。」

 

 

〇過去問:

 

・【平成17年問1C】

設問:

最高裁の判例によると、労働基準法第24条第1項ただし書の要件を具備する「チェック・オフ(労働組合費の控除)」協定の締結は、これにより、同協定に基づく使用者のチェック・オフが同項本文所定の賃金全額払の原則の例外とされ、同法第120条第1号所定の罰則の適用を受けないという効力を有するにすぎない、とされている。

 

解答:

上記の【エッソ石油事件=最判平成5.3.25】の判示の通りですよって、設問は正しいです。

チェック・オフ協定を締結しても、当該締結組合の組合員に対して当然に拘束力が生じるわけではなく、使用者が個々の組合員からチェックオフに係る委任(同意)を受けなければ、使用者は当該組合員の賃金からチェック・オフをすることはできないということです。

 

 
・【平成24年 労働一般 問2B】
設問:
いわゆるチェック・オフ協定は、それが労働協約の形式により締結された場合であっても、当然に使用者がチェック・オフをする権限を取得するものではないことはもとより、労働組合員がチェック・オフを受忍すべき義務を負うものではないとするのが、最高裁判所の判例である。
解答:
上記の【エッソ石油事件=最判平成5.3.25】の判示の通りです。

 

 

・【平成25年 労働一般 問2C】

設問:

使用者が組合員の賃金から組合費を控除しそれを労働組合に引き渡す旨の、労働組合と使用者との間の協定(いわゆるチェック・オフ協定)は、それに反対する組合員にチェック・オフを受任する義務を負わせるものではなく、組合員はいつでも使用者にチェック・オフの中止を申し入れることができるとするのが、最高裁判所の判例である。

 

解答:

正しいです。上記の【エッソ石油事件=最判平成5.3.25】の判示の通りです。

 

 

以上で、チェック・オフについて終わります。次に、全額払の原則に関する重要問題の最後として、争議行為中の賃金の問題を学習します。 

 

  

(六)争議行為中の賃金

争議行為(典型は、ストライキ(※1))のために労働を提供しなかった(出来なかった)労働者の賃金請求権の有無についても、賃金の全額払の原則との関係が問題となります。

 

※ 以下、本問は難しい問題も含んでおり、休業手当や労働組合法を学習しないとわからない個所も多いです。ただ、賃金請求権の問題としても重要であり、労基法の出題対象となりますので、ここでまず紹介しておきます。初学者の方は、眺めるだけにして、深入りしないで下さい。

 

※1 まず、前提知識を挙げておきます。

憲法第28条(労働一般のパスワード)は、労働者の経済的地位の向上を図るため、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」としており、団結権、団体交渉権及び団体行動権を保障しています。

この団体行動権とは、団結権や団体交渉権ではカバーされていない権利、即ち、争議行為権と組合活動権(争議行為以外の団体行動をする権利)のことと解されています。

 

このうち、争議行為とは、大まかには、労働者の要求を貫徹するために使用者に圧力をかける集団的な労務の不提供等(ストライキなど)のことですが、その具体的な定義には争いがあります。

ここでは、「団体交渉において要求を実現(示威又は貫徹)するために使用者に圧力をかける集団的な労務の不提供(ストライキ、怠業)とそれを維持・強化するための付随行為(ピケッティング、ボイコット等)」、とひとまず考えておくことにします(詳しくは、労働一般の労働組合法の個所(こちら以下)で見ます)。

ストライキとは、団体交渉において要求を実現するために使用者に圧力をかける集団的な労務の不提供です。同盟罷業ということもあります。

 

 

この争議行為中の賃金請求権の問題については、大きく、争議行為に参加した労働者組合員)と争議行為に参加しなかった労働者に分けて考えるとわかりやすいです。

 

 

1 争議行為に参加した労働者(組合員)について

 

(1)ノーワーク・ノーペイの原則

 

争議行為に参加して労働を提供しなかった労働者(スト参加者)の賃金請求権については、賃金の労働との対償性(労契法第6条民法第623条労基法第11条)及び報酬の後払の原則(民法第624条)に鑑みれば、特段の事情がない限り、債務の本旨に従った労働義務の履行がない以上、それに対応した賃金請求権は発生しないと解されます(ノーワーク・ノーペイの原則(こちら))。

 

労働の不提供部分については、そもそも賃金請求権が発生していないのですから、当該部分の賃金不払(賃金カット)は、賃金の全額払の原則に違反しません(全額払の原則は、賃金請求権の発生を前提としてその発生した賃金の全額払を要求するものです。以上は、こちらで触れました)。

 

 

(2)賃金カットをできる範囲

 

このようにノーワーク・ノーペイの原則からは、争議行為に参加した労働者について、使用者は本来の賃金額から労働不提供部分の賃金を控除して支払うことができますが(賃金カット)、労働の提供と直接的な対応関係にはない家族手当、住宅手当など各種手当もカットできるのかは問題です(例えば、基本給については、ストライキにより労働をしていない以上支給されないにしても、家族手当等は、必ずしも労働の提供に対応したものではなく、生活保障的性格があるとして、労働提供の有無にかかわりなく支給されなければならないとできるかです。これを肯定する立場を、賃金二分論ということがあります)。

 

この点は、私的自治の原則・契約自由の原則(民法第91条参考)からは、賃金請求権の内容も、基本的には当事者の合意によって決定されるべきものですから、争議行為の際にカットできる賃金の範囲・内容も、労働協約や就業規則(労組法第16条労契法第7条)等を含む労働契約の解釈により判断されるべきものとなります。

そして、特段の事情がなければ、労働の不提供部分に対応した全ての賃金請求権が発生しないというのが当事者(使用者)の合理的意思と考えられます。

結局、賃金の性格から予め抽象的・一般的に争議行為の際にカットできる賃金とカットできない賃金とを区分する賃金二分論は、妥当でないとなります。

 

この争議行為の際のカットできる賃金の範囲について、次の判例があります。太字部分を押さえれば足りるでしょう。【過去問 平成30年問6D(後掲)】

 

【三菱重工長崎造船所事件=最判昭和56.9.18】

 

(事案)

造船所に勤務する従業員が所属する労働組合がストライキを実施したため、会社がスト実施日分の家族手当を支払わなかった事案。

 

(判旨)

(1)まず、ストライキ期間中の家族手当の請求権について、労働慣行(労使慣行)等を考慮して、発生しないとしました。労使慣行も、労働契約を解釈する際の手がかりになるものです。次のように判示しています。

 

「原審の認定した事実関係によれば、上告会社のD造船所においては、ストライキの場合における家族手当の削減が昭和23年頃から昭和44年10月までは就業規則(賃金規則)の規定に基づいて実施されており、その取扱いは、同年11月賃金規則から右規定が削除されてからも、細部取扱のうちに定められ、上告会社従業員の過半数で組織されたF労働組合の意見を徴しており、その後も同様の取扱いが引続き異議なく行われてきたというのであるから、ストライキの場合における家族手当の削減は、上告会社と被上告人らの所属するE労組との間の労働慣行となつていたものと推認することができるというべきである。また、右労働慣行は、家族手当を割増賃金の基礎となる賃金に算入しないと定めた労働基準法37条2項〔=現在の第37条第5項〕及び本件賃金規則25条の趣旨に照らして著しく不合理であると認めることもできない。」

 

(2)次に、賃金2分論について、次のように否定しました。

 

「被上告人らは、本件家族手当は賃金中生活保障部分に該当し、労働の対価としての交換的部分には該当しないのでストライキ期間中といえども賃金削減の対象とすることができない部分である、と主張する。しかし、ストライキ期間中の賃金削減の対象となる部分の存否及びその部分と賃金削減の対象とならない部分の区別は、当該労働協約等の定め又は労働慣行の趣旨に照らし個別的に判断するのを相当とし、上告会社のD造船所においては、昭和44年11月以降も本件家族手当の削減が労働慣行として成立していると判断できることは前述したとおりであるから、いわゆる抽象的一般的賃金二分論を前提とする被上告人らの主張は、その前提を欠き、失当である。所論引用の判例(〔明治生命保険事件=最判昭和40.2.5を引用〕)は事案を異にし、本件に適切でない。」  

 

 

・【過去問 平成30年問6D】

設問:

ストライキの場合における家族手当の削減が就業規則(賃金規則)や社員賃金規則細部取扱の規定に定められ異議なく行われてきている場合に、「ストライキ期間中の賃金削減の対象となる部分の存否及びその部分と賃金削減の対象とならない部分の区別は、当該労働協約等の定め又は労働慣行の趣旨に照らし個別的に判断するのを相当」とし、家族手当の削減が労働慣行として成立していると判断できる以上、当該家族手当の削減は違法ではないとするのが、最高裁判所の判例である。

 

解答:

本肢は、前掲(こちら)の【三菱重工長崎造船所事件=最判昭和56.9.18】の判示であり、正しい内容です。

 

争議行為に参加した労働者について、使用者は本来の賃金額から労働不提供部分の賃金を控除して支払うことができますが(ノーワーク・ノーペイの原則)、上記判決では、労働の提供と直接的な対応関係にはない家族手当、住宅手当など各種手当もカットできるのかが問題となったものです(本文は、こちら以下 です)。 

 

 

2 争議行為に参加しなかった労働者について

 

次に、争議行為に参加しなかった労働者が、争議行為の結果、就労できなかった場合、賃金休業手当を請求できるのか、問題となります。

 

(1)賃金請求権について

 

まず、争議行為に不参加労働者が、争議行為の結果、就労できなかった場合(就労が、社会観念上、不能又は無価値である場合)、賃金請求権の有無については、特段の事情のない限り、民法上の危険負担の問題(民法第536条)となり、債権者である使用者に帰責事由が認められるかどうかによります(労働者の就労不能について、使用者に帰責事由があるといえるなら、危険負担の債権者主義(民法第536条第2項)の適用により、債権者である使用者がリスクを負い、賃金支払義務を負います)。

 

なお、危険負担の考え方については、「休業手当」の個所(こちら以下)で詳しく学習します。

 

この点、争議行為に不参加労働者が、争議行為の結果就労できなかった場合であっても、使用者には危険負担における帰責事由認められず、使用者は賃金支払義務負わないと解されます。

なぜなら、労働者には、争議行為権が保障されており(憲法第28条(労働一般のパスワード)労働組合法第8条(民事免責)等)、使用者争議行為に介入して制御できるわけではないこと、また、使用者にも、営業の自由及び財産権の保障(憲法第22条第1項第29条第1項)の見地から、団体交渉における判断の自由は保障されること(即ち、労働者の要求に対して譲歩する義務が生じるわけではないこと)を考えますと、団体交渉が決裂した等によって争議行為に入ったため不参加労働者の就労が不能となっても、これを使用者の責任とは認めるべきでないからです。

(後掲の【ノース・ウエスト航空事件=最判昭和62.7.17】(労働者上告事件)参考)

 

 

(2)休業手当請求権について

 

ただし、休業手当(第26条)も請求できないかは問題です(ここは、後の休業手当の個所を学習してから、再度、読み直して下さい)。

 

(ⅰ)この点、使用者の帰責事由による労働不能の場合には、民法上、危険負担の債権者主義(民法第536条第2項)により労働者に賃金請求権が認められます。

これに加えて、労基法では休業手当を定めていることを考えますと、休業手当は、使用者の帰責事由による労働不能の場合に、平均賃金の60%について罰則によりその支払を義務づけると共に、使用者の帰責事由を民法上の危険負担の帰責事由より拡張することにより、労働者の休業期間中の所得保障・生活保障を強化した趣旨と解されます。

そこで、休業手当における使用者の帰責事由とは、民法第536条第2項の危険負担債権者主義との関係では使用者の帰責事由とはならない「使用者側に起因する経営上・管理上の障害」も(不可抗力にあたらない限り)含まれるものと考えられます。

 

(ⅱ)この点、いわゆる部分ストの場合、即ち、争議行為不参加者からみて自らが所属する労働組合による争議行為の場合には、自らが所属する組合による争議行為に伴う就労不能についてまで使用者にそのリスクを負わせるのは公平とはいえませんから、使用者側に起因する障害による就労不能とはできず、使用者帰責事由認められず休業手当請求権生じないと考えられます。

 

【ノース・ウエスト航空事件=最判昭和62.7.17】(会社上告事件(こちら))は、この(ⅱ)のケースについて、使用者に休業手当の帰責事由を認めませんでした。

 

 

(ⅲ)他方、いわゆる一部ストの場合、即ち、争議行為不参加者(組合員である場合と非組合員である場合があります)からみて他の組合が行う争議行為の場合にも、同様に考えられるかは問題です(このケースについては、最高裁がどう考えているかははっきりしません)。

 

この一部ストの場合は、不参加労働者にとっては、第3者が行う争議行為により不利益を受けることになるのであり、かかる争議行為のリスクを不参加労働者に負わせるのは酷ともいえるため、使用者側に起因する障害による就労不能と考えて、休業手当請求権を認める余地もありそうです(【明星電気事件=前橋地判昭38.11.14】は、認めています)。

もっとも、通達は、次の通り、この一部ストの場合にも、基本的には休業手当請求権を認めていないといえます。

 

・【昭和24.12.2基収第3281号】

 

「一般的にいえば、労働組合が争議をしたことにより同一事業場の当該労働組合員以外の労働者の一部が労働を提供し得なくなった場合にその程度に応じて労働者を休業させることは差支えないが、その限度を超えて休業させた場合には、その部分については法第26条の使用者の責めに帰すべき事由による休業に該当する」

 

試験対策上は、この(ⅲ)のケースについては、最高裁の立場が不明確であり、通達の立場を押さえておけばよく、とりあえず、上記(ⅱ)のケースと結論は同じと記憶しておけばよいことになります。 

 

 

【ノース・ウエスト航空事件=最判昭和62.7.17】

 

(事案)

上記(ⅱ)の「部分スト」のケースです。

即ち、ノース・ウエスト航空の労働組合がストライキを実施したところ、航空便の運休を余儀なくされたため、会社が、関係営業所の組合員である従業員に休業を命じ、休業した当該従業員が休業期間中の賃金や休業手当の支払を求めた事案です。

 

※ なお、このノース・ウエスト航空事件判決は、同日付で2つの判決が出されています。

事件番号第1189号(会社上告事件)は、休業手当請求権についての判決であり、第1190号(労働者上告事件)は、賃金請求権についての判決です。

前者の第1189号は、後述の休業手当の個所で紹介し、ここでは、後者の第1190号の判決を見ます。

次の判示の太字部分は選択式で、アンダーライン部分は択一式で注意して下さい。

 

(判旨)

「企業ないし事業場の労働者の一部〔=これは、上述の一部ストということではありません。本件は、上述の部分ストにあたるケースです〕によるストライキが原因で、ストライキに参加しなかつた労働者が労働をすることが社会観念上不能又は無価値となり、その労働義務を履行することができなくなつた場合、不参加労働者が賃金請求権を有するか否かについては、当該労働者が就労の意思を有する以上、その個別の労働契約上の危険負担の問題として考察すべきである。このことは、当該労働者がストライキを行つた組合に所属していて、組合意思の形成に関与し、ストライキを容認しているとしても、異なるところはない。ストライキは労働者に保障された争議権の行使であつて、使用者がこれに介入して制御することはできず、また、団体交渉において組合側にいかなる回答を与え、どの程度譲歩するかは使用者の自由であるから、団体交渉の決裂の結果ストライキに突入しても、そのことは、一般に使用者に帰責さるべきものということはできない。したがつて、労働者の一部によるストライキが原因でストライキ不参加労働者の労働義務の履行が不能となつた場合は、使用者が不当労働行為の意思その他不当な目的をもつてことさらストライキを行わしめたなどの特別の事情がない限り、右ストライキは民法536条2項の『債権者ノ責ニ帰スヘキ事由』〔※ 現在は、民法は、ひらがなの条文に改正されています〕には当たらず、当該不参加労働者賃金請求権を失うと解するのが相当である。

 ところで、労働基準法26条が『使用者の責に帰すべき事由』による休業の場合に使用者が平均賃金の6割以上の手当を労働者に支払うべき旨を規定し、その履行を強制する手段として附加金や罰金の制度が設けられている(同法114条120条1号参照)のは、右のような事由による休業の場合に、使用者の負担において労働者の生活を右の限度で保障しようとする趣旨によるものであつて、同条項が民法536条2項の適用を排除するものではなく、当該休業の原因が民法536条2項の『債権者ノ責ニ帰スヘキ事由』に該当し、労働者が使用者に対する賃金請求権を失わない場合には、休業手当請求権賃金請求権とは競合しうるものである(〔【全駐労小倉支部山田分会事件=最判昭和37.7.20】等の以下の2つの判例を参照しています。〕最高裁昭和36年(オ)第190号同37年7月20日第二小法廷判決・民集16巻8号1656頁、同昭和36年(オ)第522号同37年7月20日第二小法廷判決・民16巻8号1648頁参照)。そして、両者が競合した場合は、労働者は賃金額の範囲内においていずれの請求権を行使することもできる。したがつて、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合において、賃金請求権が平均賃金の6割に減縮されるとか、使用者は賃金の支払いに代えて休業手当を支払うべきであるといつた見解をとることはできず、当該休業につき休業手当を請求することができる場合であつても、なお賃金請求権の存否が問題となりうるのである。」

 

※ この後、本件事案に対するあてはめを行い、使用者に帰責事由は認められず、賃金請求権は発生しないと判示しました

なお、もう一つの第1189号(会社上告事件)の判決(こちら)では、休業手当の請求権も発生しないと判示しました。

 

以上で全額払の原則と例外について終わります。次のページでは、賃金支払5原則の残りの毎月一回以上払の原則と一定期日払の原則について学習します。