平成30年度版

 

第1章 労働憲章(労働者の人権保障)

序論 労働憲章(労働者の人権保障)の全体構造

まず、労働憲章(労働者の人権保障)で学習します事項の全体構造を見ておきます。

 

当サイトでは、労働憲章について、〔1〕平等原則、〔2〕不当な人身拘束の禁止、〔3〕中間搾取の禁止、及び〔4〕公民権行使の保障の4つの類型により整理します(労基法以外も考慮しますと、〔5〕「その他」の類型が加わります)。

 

 

〇 労働憲章(労働者の人権保障)の全体構造:

 

〔1〕平等原則

 

1 均等待遇(第3条

 

2 男女同一賃金の原則(第4条

 

※ 労基法以外で定められている労働条件に関する平等原則については、男女雇用機会均等法(労働一般のこちら以下)等が重要です。

 

※ なお、いわゆる非正規雇用労働者こちらを参考)についての均衡待遇のルールについては、こちらで見ました。 

 

 

〔2〕不当な人身拘束の禁止

 

1 強制労働の禁止(第5条

 

2 労働契約の期間の制限(第14条)→ これは、労働契約の個所(こちら)で見ました。

 

3 賠償額の予定の禁止(第16条

 

4 前借金相殺の禁止(第17条

 

5 強制貯金の禁止(第18条

 

6 寄宿舎における私生活の自由の保障等(第94条)→ これは、寄宿舎の個所(こちら)で見ます。

 

 

〔3〕中間搾取の禁止第6条

 

〔4〕公民権行使の保障第7条

 

〔5〕その他、プライバシー等人格権の保障憲法第13条民法第90条等)

 

 

労働憲章については、択一式において、通常、毎年度出題されます(例えば、直近の平成29年度の択一式試験においては、問5(4肢)で出題されています。平成28年度は、問1(2肢。労働条件の原則等を含めますと4肢)、平成27年度は、問1(4肢)等で出題されています)。

また、選択式で出題された場合に、必ず得点することを心がけて学習して頂く必要があります。

労働憲章の各規定の内容自体は、今までの「労働契約」等の諸問題に比べて難しいわけではないですが、選択式で出題された場合に失点しますと致命的になるおそれがあり(他の受験生の正答率が高いはずだからです)、労働憲章の各規定のキーワードは丸暗記しなければいけません(つまり、常に選択式で出題されることを念頭に、キーワードをチェックする学習をして下さい)。

チェックすべきキーワードは、当サイトの各条文の太字部分(特に赤字部分)です。ここを暗記して下さい。

 

初学者の方は、各セクション・単元をざっとお読み頂き、アウトラインを把握して頂き、(時間があれば、過去問を解いて頂いてから)キーワードの暗記に努めて下さい。

初めのうちは、なかなか記憶はできませんが、何度もテキストを読んでいくうちに、多くのキーワードは自然に記憶することができるはずです。何度も繰り返しテキストをお読み頂くことが、記憶(ひいては合格)のためのポイントです。

 

以下、平等原則のうち、均等待遇から学習します。

 

 

第1節 平等原則(雇用差別の問題)

労基法上の平等原則に関する規定として、均等待遇(第3条)と男女同一賃金の原則(第4条)があります。以下、順に見ます。

 

 

§1 均等待遇(第3条)

◆使用者は、労働者の国籍信条又は社会的身分理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはなりません(第3条)。

 

 

【条文】

第3条(均等待遇)

使用者は、労働者の国籍信条又は社会的身分理由として、賃金労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

 

 

【ポイント】

 

キーワードを必ず覚えなくてはいけない条文です。内容理解は容易なため軽視しやすい規定ですが、正確に覚えていませんと、選択式で通用しません(労働憲章の規定では、このようなものが多いです)。

例えば、選択式において、「使用者は、労働者の【A】、【B】又は【C】を理由として差別的取扱をしてはならない」といった出題がなされ、選択肢として「人種」、「思想」、「信仰」、「門地」といった紛らわしいものがあるときに苦労することになります。

裸の丸暗記だけでは心もとないので、次のゴロ合わせを活用しておきます。

 

※【ゴロ合わせ】

・「労働条件は、深刻な社会さ

 

→「労働条件は・深(=「信」条)、刻(=「国」籍)な・社会(=「社会」的身分)・さ(=「差」別的取扱いの禁止)」

 

 

なお、本規定の「国籍、信条、社会的身分」は、既述のブラックリストの禁止(第22条第4項こちら)においても問題となることに注意です。

 

 

○趣旨

本条は、憲法第14条第1項(法の下の平等)を受けて、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由とした労働条件についての差別的取扱いを禁止したものです。

 

 

【参考条文 憲法第14条】

憲法第14条

1.すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

 

2.華族その他の貴族の制度は、これを認めない。

 

3.栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

 

(参考:「門地」とは、家系・血統等の家柄のことです。社会的身分については、後述します。) 

 

 

一 要件

◆使用者が、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱いをすること(第3条)。

 

(一)差別的取扱いが禁止される理由 ➡ 限定列挙

1 限定列挙

 

まず注は、本条は、労働者の「国籍信条又は社会的身分のみを理由とした労働条件に関する差別的取扱いを禁止したものであり、「国籍、信条又は社会的身分」以外を理由とした差別的取扱いは対象としていないことです。

即ち、本条の「国籍、信条又は社会的身分」は限定列挙であり、右以外の理由に基づく差別的取扱いは対象にしていません。

【過去問 平成23年問1A(後掲)】/【平成25年問5D(後掲)】/【平成29年問5ア(後掲)】

 

※ この点、上掲の憲法第14条第1項の法の下の平等(以下、「平等原則」ということがあります)の場合は、判例は、同規定の「人種、信条、性別、社会的身分又は門地」を例示列挙と解しています(つまり、これらの事由・理由以外についても憲法第14条第1項は適用されます)。(【尊属殺規定違憲判決=最大判昭和48.4.4】)

 

その理由としては、憲法第14条第1項の趣旨は個人の尊厳の実現(憲法第13条)にあるところ、同規定の「人種、信条、性別、社会的身分又は門地」による差別には該当しないものであっても個人の人格を傷つけるような差別は存在する以上、同規定の人種等の事由を限定列挙と解しては個人の尊厳は実現できないことにあるものと解されます。

対して、本件の労基法第3条の均等待遇の場合は、(後述のように)違反について罰則が適用されるため、罪刑法定主義の見地(刑罰権行使の不当な拡大の防止の趣旨)から、あらかじめ罰則の対象となる行為を限定しておく必要があるという違いがあります。

そこで、本条は、「国籍、信条又は社会的身分」を理由とする場合に限り適用されることになっています。

  

従って、本条の差別的取扱いの理由は限定列挙であり、例えば、性別理由とする差別的扱い含みません。【過去問 平成14年問1A(後掲)】/【平成19年問1E(後掲)】

これは、かつて労基法自身が、女性保護規定(女性のみの深夜業禁止や時間外労働の制限等)を置いて男女の労働条件を区別していたことを背景としています(現在は、改正されています)。

ただし、第4条(男女同一賃金の原則)や男女雇用機会均等法(労働一般のこちら以下)において男女間の差別禁止規定があり(その他、民法第90条により公序良俗違反が問題となることもあります)、あくまで、第3条としては性別を理由とする差別的取扱いは対象としていない、ということに過ぎません。 

 

 

2「国籍、信条又は社会的身分」の意義

 

(1)国籍

 

「国籍」とは、国民たる資格のことです。

 

(なお、憲法第14条第1項に規定されている「人種」については、労基法第3条の「国籍」あるいは「社会的身分」に含まれると解釈するのが一般です。)

 

(2)信条

 

「信条」とは、特定の宗教的又は政治的信念をいいます(【昭和22.9.13発基第17号】)。

なお、思想的な信念も含まれるとされています。

例えば、特定の政党の党員ないし支持者であることを理由として、賃金を引き下げたり、解雇したりすることは、本条に違反します。

 

 

・【過去問 平成24年問4A】

設問:

労働基準法第3条が差別禁止事由として掲げている「信条」とは、政治的信条や思想上の信念を意味し、そこには宗教上の信仰は含まれない。

 

解答:

上記の通り、宗教的信念、宗教上の信仰も含まれるとされています。よって、設問は誤り。

 

 

(3)社会的身分

 

「社会的身分」とは、生来的な地位をいうものと解され(上記【昭和22.9.13発基第17号】参考。例えば、出身地、門地、非嫡出子であることなどです)、

後発的理由による地位(例えば、パートタイム労働者、孤児、受刑者、破産者であることなど)は含まないと解されています(もっとも、争いはあります。が、試験対策上は、以上を押さえれば足りるでしょう。次の※部分も、あくまで参考です)。

 

※ 社会的身分の意義をあまり広げて解釈しますと、例えば、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との違い(期間の定めの有無や所定労働時間の長さなど)が広く本条違反の射程に入ってくるおそれがあるなど、使用者の経営の自由を害しすぎる危険があるといえます。

そこで、本条の沿革(元来、生来的な地位を理由とした差別の撤廃を図ろうとしたもの)を考慮して、後発的理由による地位は含まないと解しているものといえます。

 

※ なお、憲法第14条第1項の法の下の平等における「社会的身分」については、判例(【最大判昭39.5.27】)は、人が社会においてある程度継続的に占める地位または身分と解しており、後発的理由による地位も含めていることになります。

しかし、既述のように、憲法第14条第1項においては、社会的身分等の所定の事由は単なる例示列挙と解されているため、社会的身分に後発的理由による地位を含めるかどうかはあまり重要な問題ではないという違いがあります。

 

 

3「理由」

 

国籍、信条又は社会的身分を「理由として」差別的取扱いをすることが禁止されます。

 

この「理由として」の解釈には、争いがあります。

例えば、労働者の不正行為が発覚した場合において、使用者が、当該不正行為の他に、労働者の日ごろの信条も理由として解雇したようなときに、本条違反にあたるのかが問題です。

「理由の競合」(動機の競合)の問題といわれ、不利益取扱いの禁止規定(こちら以下を参考)において広く問題となることが多いです。また、労働組合法における「不当労働行為の意思」についても類似の問題があります。

詳しくは、不当労働行為の個所(労組法のこちら)で言及しますが、以下、概要です。

 

この点は、複数の理由が競合する場合に、いずれの理由が決定的原因・動機であるかにより判断するという考え方(決定的原因説)と当該理由(国籍、信条、社会的身分)がなければ(当該理由を考慮しなければ)、当該差別的取扱い(不利益取扱い)は行われなかったかどうかにより判断するという考え方(相当因果関係説)に大別されます。

一般には前者の考え方の支持が多いようですが、後者の考え方の方が妥当な結論を導くケースもありえ(後者の方が、本条違反となる場合が多いといえます)、当サイトも後者の立場を採っていますが、なお悩ましいところです。 

 

先に触れましたように、不利益取扱いが禁止される場合は、被害者側の不利益取扱いに該当するとの主張に対して、相手方は、当該不利益取扱いを正当化する別個の事由を主張してくるのが通常ですから、不利益取扱いを定める規定においては、一般的に、「理由の競合」の問題が生じうることになります。

 

最近の例では、マタニティ・ハラスメントに関する最高裁判例(【広島中央保健生協事件=最判平成26.10.23】こちら))において、男女雇用機会均等法第9条第3項(労働一般のパスワード)が定める妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止が問題となりました。

このような問題でも、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いに該当するとの労働者側の主張に対して、使用者側が本人の能力不足等を主張してくることがあります。

前記最高裁判決は、「妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として同項の禁止する取扱い〔=不利益取扱い〕に当たるものと解される」として、「契機として」という表現を使用しました。

ここでは、「決定的動機・原因として」といった表現が使用されていないことは注目されます。私見ですが、最高裁は、不利益取扱いにおける「理由の競合」の問題の処理について、決定的原因説を採用するのではないことを示唆しているように思えます。

 

さらに、労働契約法第20条の「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違の禁止」に関する【ハマキョウレックス事件=最判平成30.6.1】も参考になります(こちらを参照)。

即ち、同一の使用者に使用されている有期契約労働者と無期契約労働者との間において、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違は禁止されますが、この「期間の定めがあることにより」とは、「期間の定めがあることを理由として」と同義と解することが可能です(通達は、そのように解釈しています)。

そして、前掲の判決は、この労契法第20条の「期間の定めがあることにより」とは、「有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である」と判示しました。

ここでも、「期間の定めがあることにより(期間の定めがあることを理由として)」とは、期間の定めがあることを決定的原因・動機とすることとは解されていず、因果関係を緩やかに解する立場を採っているものと解されます。

 

 

以下、要件の続きです。

 

 

(二)賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をすること

1 その他の労働条件

 

「その他の労働条件」には、解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等に関する条件も含まれます(【昭和63.3.14基発第150号】参考)。【過去問 平成30年問4イ(後掲)】

つまり、本条の「労働条件」も、職場における労働者の待遇の一切をいい、第1条及び第2条の労働条件と同義です。

 

 

2 雇入れ

 

なお、本条の「労働条件」に「雇入れ」(採用)も含まれるかは問題です(即ち、雇入れ・採用の際に、求職者の国籍、信条又は社会的身分を理由として不採用等の差別的取扱いができるのかです)。

 

最高裁(【三菱樹脂事件=最大判昭和48.12.12】)は、本条の「労働条件」に雇入れ含まれないと解しており、本条は雇入れ後の差別的取扱いの禁止の規定だとしています(従って、求職者の国籍、信条又は社会的身分を理由として不採用の決定をしても、本条違反の問題は生じないことになります)。

【過去問 平成21年問1B(後掲)】/【平成28年問1ウ(後掲)】

 

※ 試験対策上は、以上の判例の結論を押さえると共に判決文の重要部分を読んでおけば足ります(すでに、「労働契約の成立過程の問題」の「採用の自由」の思想・信条による採用拒否の問題の個所(こちら)で、判決文を学習しました)。

 

なお、仮に本条が雇入れに適用されないと解したとしても、国籍・人種・社会的身分を理由とする採用差別は、民法第90条違反であり、不法行為に該当するものと判断すべきでしょう。

 

  

3 差別的取扱い

 

「差別的取扱」とは、当該労働者を有利又は不利に取り扱うことをいいます(即ち、有利に取り扱う場合も含まれます)。【過去問 平成27年問1B(後掲)】

 

「差別的取扱」という文言上は、労働者を有利に取り扱うことも含むことができますし、特定の労働者を有利に取り扱うことも平等な取扱いでない(他の労働者が不利益に取り扱われます)からです。

 

 

以上で、要件に関する問題を終わります。 

 

 

二 効果

(一)基本的効果

◆使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはなりません(第3条)。 

 

(二)公法上の効果

1 使用者が本条に違反した場合は、罰則の適用があり、6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます(第119条第1号)。

 

※ 労基法上の罰則(こちら以下)で、上から3番目に重い罰則のグループです。

 

2 なお、本条の違反は、現実に差別的取扱いをした場合に成立し、労働協約就業規則等に差別待遇を定めただけでは本条違反とはなりません(条文を素直に読めば、そのように解されます)。

もっとも、当該労働協約等の規定は、強行規定(=本条)違反として無効となることは次で述べます。  

 

(三)私法上の効果

本条に違反する解雇、配転、懲戒処分等の法律行為は、強行規定違反として無効となります(第13条こちら)。

 

また、本条違反が事実行為によりなされたとき(例えば、作業の割当てや昇給・昇格等の査定における差別)は、不法行為(民法第709条こちら)にあたり、損害賠償責任が生じます。  

 

 

三 本条以外の差別禁止規定

なお、本条に規定されていない差別の事由に関しては、「賃金」における男女の差別的取扱いの禁止については、次に見ます労基法第4条において、性については男女雇用機会均等法(同法第5条第7条)において、年齢については労働施策総合推進法(旧雇用対策法)第10条において、障害については障害者基本法第4条(差別の禁止)、障害者雇用促進法第34条以下などにおいて、差別禁止が定められています(既述の「採用の自由」の「選択の自由」 の個所(こちら)も参考にして下さい)。 

 

【訂正】

障害関係の引用条文に誤りがあったため、訂正しました。会員の方からご教示頂きました(平成30年9月12日訂正)。

 

 

以下、過去問を見ます。

 

 

○過去問:  

 

・【平成14年問1A】

設問:

均等待遇を定めた労働基準法第3条では、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として賃金、労働時間その他の労働条件について差別的取扱をすることは禁止されているが、性別を理由とする労働条件についての差別的取扱は禁止されていない。

  

解答:

上記本文の通り、労基法第3条の均等待遇は、「国籍、信条又は社会的身分」のみを理由とした差別的取扱いを禁止しており、性別を理由とする労働条件についての差別的取扱いの禁止については定めていません(「性別」を理由とする「賃金」についての差別的取扱いの禁止については次に学習します労基法第4条が定めています)。

よって、設問は正解です。

本問のように、第3条が「性別」を理由とした差別的取扱いを禁止しているかどうかを問う過去問は頻出です。

 

 

・【平成19年問1E】

設問:

均等待遇を定めた労働基準法第3条では、労働者の国籍、信条、性別又は社会的身分を理由として賃金、労働時間その他の労働条件について差別的取扱いをすることは禁止されている。

 

解答:

前問と類問です。

第3条は、「性別」を理由とした労働条件の差別的取扱いの禁止については規定していません。よって、設問は誤りです。

 

 

・【平成23年問1A】

設問:

労働基準法第3条は、法の下の平等を定めた日本国憲法第14条と同じ事由で、人種、信条、性別、社会的身分又は門地を理由とした労働条件の差別的取扱を禁止している。

 

解答:

前問と類問です。

第3条の均等待遇は、「国籍、信条又は社会的身分」のみを理由とした差別的取扱いを禁止しており、「人種」、「性別」及び「門地」は対象としていません。従って、設問は誤りです。

 

 

・【平成25年問5D】

設問:

労働基準法第3条は、すべての労働条件について差別待遇を禁止しているが、いかなる理由に基づくものもすべてこれを禁止しているわけではなく、同条で限定的に列挙している国籍、信条又は社会的身分を理由とする場合のみを禁じている。

  

解答:

正しいです。

 

 

・【平成21年問1B】

設問:

労働基準法第3条が禁止する労働条件についての差別的取扱いには、雇入れにおける差別も含まれるとするのが最高裁判所の判例である。

 

解答:

【三菱樹脂事件=最大判昭和48.12.12】は、第3条の「労働条件」に雇入れは含まれないと解しており、同条は雇入れ後の差別的取扱いの禁止の規定だとしています(詳しくは、こちら以下)。よって、設問は誤りです。

 

 

・【平成27年問1B】

設問:

労働基準法第3条の禁止する「差別的取扱」とは、当該労働者を不利に取り扱うことをいい、有利に取り扱うことは含まない。

  

解答:

「差別的取扱」という文言上は、労働者を有利に取り扱うことも含むことができます。

そして、労基法第3条は、憲法第14条第1項(法の下の平等)を受けて、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由とした労働条件についての差別的取扱いを禁止し、もって労働者を平等に取り扱おうとした趣旨です。

すると、特定の労働者を有利に取り扱うことも、平等な取扱いでない以上(他の労働者が不利益に取り扱われます)、労基法第3条が禁止する「差別的取扱」にあたるとできます。よって、設問は誤りです。

 

 

・【平成28年問1ウ】

設問:

労働基準法第3条は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、労働条件について差別することを禁じているが、これは雇入れ後における労働条件についての制限であって、雇入れそのものを制限する規定ではないとするのが、最高裁判所の判例である。

 

解答:

【三菱樹脂事件=最大判昭和48.12.12】は、第3条の「労働条件」に雇入れは含まれないと解しており、同条は雇入れ後の差別的取扱いの禁止の規定だとしています(詳しくは、こちら以下。よって、設問は正しいです。

上記の【平成21年問1B】と類問です。 

 

 

・【平成29年問5ア】

設問:

労働基準法第3条は、使用者は、労働者の国籍、信条、性別又は社会的身分を理由として、労働条件について差別的取扱をすることを禁じている。

 

解答:

設問の「国籍、信条、性別又は社会的身分」のうち、「性別」は含まれません。よって、設問は誤りです。

本問は、【平成14年問1A】、【平成19年問1E】及び【平成23年問1A】(こちら以下)と類問です(ただし、この【平成29年問5】は、「誤っているものはいくつあるか」という個数問題であるため、各肢について正確な知識が必要になる問題でした)。 

 

 

・【平成30年問4イ】

設問:

労働基準法第3条にいう「賃金、労働時間その他の労働条件」について、解雇の意思表示そのものは労働条件とはいえないため、労働協約や就業規則等で解雇の理由が規定されていても、「労働条件」にはあたらない。

 

解答:

第3条(均等待遇)における「労働条件」については、「解雇に関する条件」も含まれます(【昭和23.6.16基収第1365号】/【昭和63.3.14基発第150号・婦発第47号】)。

即ち、「解雇の意思表示」そのものは労働条件とはいえませんが、労働協約、就業規則等で解雇の基準又は理由が規定されていれば、それは労働をするにあたっての条件として第3条の労働条件となると解されています。よって、設問は誤りです。

 

  

以上で、均等待遇を終わります。次は、男女同一賃金の原則です。  

 

 

§2 男女同一賃金の原則(第4条)

◆使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはなりません(第4条)。

 

 

【条文】

第4条(男女同一賃金の原則)

使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性差別的取扱いをしてはならない。

 

【過去問 平成20年問1E(条文そのままの出題)】

 

 

○趣旨

憲法第14条第1項の「性別」に関する法の下の平等を受けて、特に著しい弊害の認められた「賃金」について男女の差別的取扱いを禁止した趣旨です。(【過去問 平成25年問5E(後掲)】参考。)

 

 

一 要件

◆使用者が、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをすること(第4条)。

 

(一)「賃金」についての差別的取扱いであること

1 禁止される差別的取扱い

 

本条は、「賃金についてのみ男女の差別的取扱いを禁止しています。

【過去問 平成24年問4B(後掲)】/【平成27年問1C(後掲)】

 

従って、採用、配置、昇進、教育訓練など、賃金以外の労働条件に関する差別的取扱いは、本条の適用対象にはなりません(ただし、男女雇用機会均等法の問題となります)。

 

※ なお、労基法上は、賃金以外の労働条件について、男女の差別的取扱いを禁止する規定はないことには注意です。

労基法では、産前産後の就業制限や危険有害業務への就業制限など、男女の取扱いが区別されている規定があるため、労働条件全般については男女差別禁止の規定を設けなかったためとされています。

 

 

○過去問:

 

・【平成24年問4B】

設問:

労働基準法第4条は、賃金についてのみ女性であることを理由とする男性との差別的取扱いを禁止したものであり、その他の労働条件についての差別的取扱いについては同条違反の問題は生じない。

  

解答:

正しいです(第4条)。

 

 

・【平成25年問5E】

設問:

労働基準法第4条は、性別による差別のうち、特に顕著な弊害が認められた賃金について罰則をもって、その差別的取扱いを禁止したものである。

 

解答:

正しいです。

 

 

・【平成27年問1C】

設問:

労働基準法第4条は、賃金について、女性であることを理由として、男性と差別的取扱いをすることを禁止しているが、賃金以外の労働条件についてはこれを禁止していない。

 

解答:

正しいです(第4条)。前掲の【平成24年問4B】以下と実質的には同じ問題です。 

 

 

2 賃金

 

「賃金」とは、第11条の賃金のことです(第11条については、「賃金」の個所(こちら以下)で見ます)。

 

賃金の額そのものについて差別的取扱いをすることはもちろん、賃金体系、賃金形態等について差別的取扱いをすることも含みます。

そこで、例えば「男性は月給制、女性は日給制」といった定めをすることも、本条に違反します。

 

※「賃金体系」とは、賃金を決定する基準となる賃金項目の組み合わせのことで、基本給などの所定内給与と時間外手当などの所定外給与に大別されます。

「賃金形態」とは、賃金の支払形態であり、定額制(時間給、月給等)や出来高制などがあります。 

 

 

(二)「女性であることを理由」とする差別的取扱いであること

「女性であることを理由として」差別的取扱いをするとは、「労働者が女性であることのみを理由として、あるいは社会通念として又は当該事業場において女性労働者が一般的又は平均的に能率が悪いこと、勤続年数が短いこと、主たる生計の維持者でないこと等を理由」として差別的取扱いをすることとされます(【平成9.9.25基発第648号】/【昭和22.9.13発基第17号】参考)。

 

対して、労働者の職務能率技能等によって賃金に個人的差異のあることは、本条に規定する差別的取扱いではありません(同上通達)。

 

 

(三)「差別的取扱い」であること

「差別的取扱い」とは、女性に不利に取扱う場合のみならず、有利に取扱う場合も含みます(上掲の【平成9.9.25基発第648号】参考)。

【過去問 平成21年問1C(後掲)】/【平成30年問4ウ(後掲)】

男女間の平等な取扱いでないからです(前述の均等待遇の場合の差別的取扱い(こちら)とパラレルになります)。

例えば、女性のみに結婚手当を支給するとか、早期退職に関し退職金の優遇措置を行うようなことは、本条違反になります。

 

 

〇過去問:

 

・【平成12年】

設問:

支給条件が就業規則であらかじめ明確にされた退職手当について、当該就業規則において労働者が結婚のため退職する場合に女性には男性に比べ2倍の退職手当を支給することが定められているときは、その定めは労働基準法第4条に反し無効であり、行政官庁は使用者のその変更を命ずることができる。

 

解答:

まず、退職手当は、支給条件が就業規則等で明確化されている場合は、賃金にあたると解されています(「賃金」のこちらで詳述します)。

そこで、設問の場合、「賃金」について、「女性であることを理由」として「有利に」取扱っていることになり、第4条に違反します。

従って、第92条(=就業規則は法令に違反してはならず、行政官庁は、法令に抵触する就業規則の規定の変更を命令できる。こちら)に該当するため、設問は正しいです。

以上の通り、本問は、3つの論点を含んでいます。

 

 

・【平成21年問1C】

設問:

労働基準法第4条が禁止する女性であることを理由とする賃金についての差別的取扱いには、女性を男性より有利に取扱う場合は含まれない。

 

解答:

「差別的取扱い」とは、女性に不利に取扱う場合のみならず、有利に取扱う場合も含みます。よって、設問は誤りです。本文は、こちらです。

 

 

・【平成30年問4ウ】

労働基準法第4条の禁止する賃金についての差別的取扱いとは、女性労働者の賃金を男性労働者と比較して不利に取り扱う場合だけでなく、有利に取り扱う場合も含まれる。

 

解答:

正しいです。本文は、こちらです。上記の【平成21年問1C】と類問です。

 

 

以上で、要件について終わります。次に、効果です。  

 

 

二 効果

(一)基本的効果

◆使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはなりません(第4条)。

 

(二)公法上の効果

本条違反についても、罰則が適用されます(第119条第1号)。

3番目に重いグループこちら以下)であり(第3条の均等待遇と同じです)、6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金です。

 

なお、本条の場合も、均等待遇の場合と同様に、現実に差別的取扱いをした場合本条違反が成立し、就業規則等に差別待遇を定めただけでは本条違反とはなりません

ただし、当該就業規則等の規定は、強行規定(=本条)違反として無効となります。  

 

 

(三)私法上の効果

本条に違反する法律行為(懲戒処分等)は、無効となりますし第13条こちら)、本条違反が事実行為によりなされたときは、不法行為に基づく損害賠償責任が生じます。

 

 

以上で、男女同一賃金の原則を終わります。

 

続いて、次ページにおいて、「不当な人身拘束の禁止」を見ます。