2019年度版

 

第2章 労働条件の決定の基本原則

ここでは、労働条件の決定の基本原則であり、労基法の基本原則である第1条第2条について見ます。

 

 

§1 労働条件の原則(第1条)

まず、労働条件の原則を定めた第1条です。

 

【条文】

第1条(労働条件の原則)

1.労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。

 

2.この法律で定める労働条件基準最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

 

※【選択式 平成19年度 =「が人たるに値する生活を営む」】/【過去問 平成27年問1A(後掲)】

 

 

※ これから労基法のいわゆる労働憲章にあたる様々な規定を見ていくことになりますが(ここでは、まず、第1条と第2条のみ見ます)、この労働憲章にあたる各規定は、選択式対策として、重要キーワードを覚え込む必要があります。

内容は簡単な規定が多いのですが、選択式として語句を抜かれると、結構、迷うことがあります。反復して条文を読み込むことが重要です。理解していても覚えていないと点は取れません。

当サイトが、条文について、色つきも含めた太字にしている個所のキーワードは記憶して下さい。

 

○趣旨

第1条第1項は、憲法第25条第1項の生存権の保障を受けて、労働者に人たるに値する生活を営む必要を満たすべき労働条件を保障するという基本理念を宣明した規定です。

また、第1条第2項は、労基法の定める労働条件の基準は最低限度のものとし、この基準を理由とした労働条件の引き下げを禁止すると共にその向上を図るべき努力義務を定めています。

 

 

【関連条文 憲法】

憲法第25条

1.すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

 

2.国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進にめなければならない。

 

 

憲法第27条

1.すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。

 

2.賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。

 

3.児童は、これを酷使してはならない。

 

 

※ 憲法と労働法・社会保険との関係については、全体構造の図を参考にして下さい。【図1】(こちら)及び【図2】(こちら)です。

 

以下、第1条について解説します。 

 

 

一 労働条件

第1条の「労働条件」とは、賃金、労働時間はもちろんのこと、解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等に関する条件をすべて含む労働者の職場における一切の待遇をいいます。【過去問 平成25年問5A(後掲)】

 

即ち、本条の労働条件とは、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものですから、広く職場における待遇を指すものと解するのが妥当です。

後に学習します第15条第1項(労働契約締結の際の労働条件の明示。こちら)における労働条件より、本第1条の労働条件の方が広く解されています。

 

なお、第2条の労働条件も本条のそれと同義です。

 

また、憲法第27条第2項の「勤労条件」も、労働条件と同義と解されます。

 

二 人たるに値する生活

「人たるに値する生活」とは、憲法第25条第1項の「健康で文化的な」生活を内容とするものと解されますが、具体的には、社会通念を考慮して判断されます。

 

そして、「人たるに値する生活」のなかには労働者本人のみでなく、その標準家族をも含めて考えるべきとされます(【昭22.9.13発基第17号】参考)。【過去問 平成30年問4ア(後掲)】

 

三 労働関係の当事者

労働関係とは、使用者・労働者間の「労働の提供及び賃金の支払」を中心とする関係をいい、その当事者とは、使用者及び労働者のほかに、それぞれの団体、すなわち、使用者団体と労働組合を含みます。

 

例えば、労働組合と使用者が労働者の待遇に関する基準について労働協約を締結しますと、当該基準が締結組合の組合員の労働契約の内容を規律します(労組法第16条、規範的効力(こちら))。 

従って、労働組合も労働者(組合員)の労働条件の決定・変更に関与するのですから、労働組合についても、第1条第2項の労働条件の低下防止と向上の努力義務を課す必要があることになります。

 

四 労働条件の低下

「この基準を理由として」とは、労働基準法に規定があることが、その労働条件低下の決定的な理由となっていることをいうものと解されています(若干問題があり、のちにこちらで触れますが、ここでは深入りしません)

従って、社会経済情勢の変動等他に決定的な理由があれば、本条の基準を理由とするものでなく、本条に抵触しません(【昭和63.3.14基発第150号】参考)。

 

例えば、従来、週の所定労働時間を35時間と定めていた場合に、労基法が週の法定労働時間を40時間と定めているという理由で、週所定労働時間を40時間に変更することは認められません。

 

また、労基法等の改正により法定割増賃金率が引き上げられたことを理由として基本給等を引き下げることは、第1条第2項の趣旨に抵触し、認められません(【平成21.5.29基発0529002号】参考)。

 

五 本条違反の効果

本条は、訓示的な規定と解されており、その違反について罰則定められていません

 

(なお、本条第2項前段は、「労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより」として、同項後段のように「努めなければならない」という努力義務規定にはなっていず、この前段は強行規定(義務規定)であるのかについては若干問題となります。

ただ、労基法の基準を理由として労働条件を低下させたとしても、労基法の基準以上の労働条件を設定しているならこれを否定するのは不合理であること、また、罰則も定められていないことを考慮して、第2項前段も後段と同様に訓示的規定であると解されています。)

 

※ ちなみに、本規定は訓示的規定とはいっても、条文の解釈に参考にされるといった意味では法的効力は有するものと解されます。(【過去問 平成28年問1ア(後掲)】参考)

 

後述の第2条も、同様に訓示的規定と解されています。 

 

 

過去問を見ておきます。

 

○過去問:

 

・【平成25年問5A】

設問:

労働基準法第1条にいう「労働条件」とは、賃金、労働時間、解雇、災害補償等の基本的な労働条件を指し、安全衛生、寄宿舎に関する条件は含まない。

 

解答:

第1条の「労働条件」とは、安全衛生、寄宿舎等に関する条件をすべて含む労働者の職場における一切の待遇をいいます。よって、設問は誤りです。本文は、こちらです。

 

 

・【平成18年問1A】

設問:

労働基準法の総則においては、労働関係の当事者は、労働条件の向上を図るように努めなければならない旨の規定が置かれている。

 

解答:

第1条第2項で規定されています。よって、設問は正解です。

 

 

・【平成25年問5B】

設問:

労働基準法は労働条件の最低基準を定めたものであり、この最低基準が標準とならないように、同法は、この最低基準を理由として労働条件を低下させることを防止し、その向上を図るように努めることを労働関係の当事者に義務づけている。

 

解答:

第1条第2項は、「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。」と規定していますから、これを言い換えますと、設問の通りになります。よって、設問は正しいです。

 

 

・【平成27年問1A】

設問:

労働基準法は、労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならないとしている。

 

解答:

正しいです。第1条第1項の条文の通りです。

 

 

・【平成28年問1ア】

設問:

労働基準法第1条は、労働保護法たる労働基準法の基本理念を宣明したものであって、本法各条の解釈にあたり基本観念として常に考慮されなければならない。

 

解答:

第1条は、労働基準法の理念を規定しています。

そして、このような法の理念に沿って、当該法の各規定を解釈しなければならないのは当然のことといえます。よって、設問は正しいです。

なお、設問と同様の考え方は、【昭和22.9.13発基第17号】において示されています。

 

 

・【平成30年問4ア】

設問:

労働基準法第1条にいう「人たるに値する生活」には、労働者の標準家族の生活をも含めて考えることとされているが、この「標準家族」の範囲は、社会の一般通念にかかわらず、「配偶者、子、父母、孫及び祖父母のうち、当該労働者によって生計を維持しているもの」とされている。

 

解答:

第1条第1項の「人たるに値する生活」とは、憲法第25条第1項の「健康で文化的な」生活を内容とするものと解されますが、具体的には、社会通念を考慮して判断されます。

そこで、「人たるに値する生活」のなかには労働者本人のみでなく、その標準家族をも含めて考えるべきとされ(【昭22.9.13発基第17号】)、その標準家族の範囲についても、社会通念によって判断すべきとされています(【昭22.11.27基発第401号】)

 

従って、本肢のように、「標準家族」の範囲は、「社会の一般通念にかかわらず、『配偶者、子、父母、孫及び祖父母のうち、当該労働者によって生計を維持しているもの』とされている」のではありません。よって、設問は誤りです。

 

 

次に、第2条の労働条件の決定について見ます。    

 

 

§2 労働条件の決定(第2条)

まず、条文(第2条)です。

 

【条文】

第2条(労働条件の決定)

1.労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。

 

2.労働者及び使用者は、労働協約就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。

 

※【選択式 平成19年度=「対等の立場において」】

 

○趣旨

第2条第1項は、労使の力関係に実際上の違いがあることなどから、実質的には労使は対等関係にはないことを考慮して、使用者によって一方的に労働条件が決定されるようなことのないよう労働条件対等決定の理念を定めたものです。

(【過去問 平成25年問5C(後掲)】参考。)

 

第2項は、第1項により労働条件が対等決定されたことを前提として、当事者双方に労働協約等の遵守及び誠実履行の義務を定めているものです。

 

※ この第2項の労働協約、就業規則、労働契約の意義等については、既述の「労働条件の決定システム」の個所(こちら以下)をご参照下さい。 

 

※ なお、第1項の労働条件対等決定の理念の規定と同様の趣旨を労働契約について定めたものとして、次の労働契約法第3条第1項があります。

 

労働契約法第3条第1項

 

「労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。」(こちらも参考)

 

 

本条違反の効果

本条も、訓示的規定と解されており、罰則の適用ありません

 

なお、第2条第2項は、労働協約、就業規則及び労働契約の遵守義務を、使用者だけでなく、労働者にも課していることは注意です(【過去問 平成21年問1A(後掲)】参考)。

ただし、罰則の定めはありません(もっとも、第2項に違反した場合に同時に他の規定違反にもなったときには、罰則が適用されます)。

 

 

通達を見ておきます。

 

・【昭63.3.14基発第150号】

 

「労働基準法第2条は、労働条件の決定及びこれに伴う両当事者の義務に関する一般的原則を宣言する規定であるにとどまり、監督機関は右の一般的原則を具体的に適用すべき責務を負う機関ではないので、労働協約、就業規則又は労働契約の履行に関する争いについては、それが労働基準法各本条の規定に抵触するものでない限り、監督権行使に類する積極的な措置をなすべきものではなく、当事者間の交渉により、又はあっせん、調停、仲裁等の紛争処理機関、民事裁判所等において処理されるべきものである」。

 

※ つまり、第2条は訓示的規定に過ぎないので、第2条違反自体については、労働基準監督機関が職権を行使して行政上の監督をするようなことはしないということです。

ただし、第2条の労働協約等の遵守義務違反が同時に労基法の他の規定に違反する場合は、当該他の規定違反として行政上の監督の対象になりえます。

 

○過去問:

 

・【平成25年問5C】

設問:

労働基準法第2条第1項が、「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。」との理念を明らかにした理由は、概念的には対等者である労働者と使用者との間にある現実の力関係の不平等を解決することが、労働基準法の重要な視点であることにある。

  

解答:

正しいです。

 

 

 ・【平成21年問1A】

設問:

使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実にその義務を履行しなければならないが、使用者よりも経済的に弱い立場にある労働者についてはこのような義務を定めた規定はない。

   

解答:

第2条第2項は、労働協約等の遵守事務を労働者にも課しています。ただし、訓示的なものです(本文は、こちら以下です)。

 

 

・【平成15年問1B】

設問

労働基準法は、労働者及び使用者双方に対して、就業規則を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない旨定めている。

  

解答:

正しいです(第2条第2項)。

 

 

・【平成28年問1イ】

設問:

労働基準法第2条第1項により、「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」ため、労働組合が組織されている事業場では、労働条件は必ず団体交渉によって決定しなければならない。

  

解答:

「労働組合が組織されている事業場では、労働条件は必ず団体交渉によって決定しなければならない」旨を規定している法令はありません。よって、設問は誤りです。  

 

 

※ 罰則について

罰則の詳細については、労基法の最後に見ますが(こちら以下)、概観をあらかじめ知っておくと便利ですので、ここで言及しておきます。

 

◆労基法上の罰則には、4グループあります。次の〔1〕~〔4〕は、労基法上の4グループの罰則を重い順に並べたものです。

 

〔1〕1年以上10年以下懲役又は20万円以上300万円以下罰金第117条

 

○ 強制労働の禁止第5条こちらの規定に違反した者(以下、「の規定に違反した者」という部分は省略します)。

 

 

〔2〕1年以下懲役又は50万円以下罰金第118条

 

○ 中間搾取の排除第6条こちら

 

○ 年少者の最低年齢第56条こちら

 

○ 年少者の坑内労働の禁止第63条こちら第70条こちら職業訓練に関する特例に係る場合も含みます。次も同様です。)

 

○ 妊産婦等の坑内業務の就業制限第64条の2こちら

 

 

〔3〕6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金第119条

 

多数あります。代表的なものは、次の通りです。

 

○ 労働時間休憩休日第32条〔=法定労働時間〕、第34条〔=休憩の付与義務〕、第35条〔=休日の付与義務〕等)

 

○ 割増賃金第37条こちら

 

○ 総則の規定のうち、上記〔1〕及び〔2〕にあたらないもの

 

 

〔4〕30万円以下の罰金第120条

 

○ 多数あります。代表的なものは、賃金関係届出義務違反です。

 

  

 

※【ゴロ合わせ】

 

罰則の対象が限定されている〔1〕と〔2〕をゴロ合わせで覚えるのがよいです(【過去問 平成29年問5イ(こちら)】では、このゴロ合わせが役立ちました)。

 

・「いちいち兄さんに強制したらいーこになった最低な中高生

(最低な中高生に強制したら、良い子に更生しました。)

 

→「いち(=「1」年以上)・いち(=「1」0年以下)・にい(=「2」0万以上)・さん(=「3」00万以下)に・強制(=「強制」労働)したら・

いー(=「1」年以下)・こ(=「5」0万以下)になった・最低(=「最低」年齢)な・中(=「中」間搾取)・高(=「坑」内労働)生」

 

 

※ なお、労基法の罰則のある条文においては、基本的には「使用者」が名宛人(義務者)となっていますが、例外として、使用者以外の者が名宛人となっている場合として、①第6条(中間削除の排除=「何人も」)並びに②第58条(未成年者の労働契約=「親権者又は後見人」)及び第59条(未成年者の賃金請求=「親権者又は後見人」)があります。

 

 

以上で、労基法第1条及び第2条を終わります。次のページからは、「労働契約」について詳しく学習します。