令和6年度版

 

(B)手続的制限

次に、解雇の手続的制限の問題として、解雇予告の制度について見ます。

本制度においても、かなり細かい知識が登場しますので、効率的に整理する必要があります。

 

 

 

〔2〕解雇予告の制度(第20条、21条)

◆使用者は、労働者を解雇する場合には、原則として、30日前までに予告をするか、又は30日分以上平均賃金解雇予告手当)を支払わなければなりません(両者の併用も可)。(第20条

 

○趣旨 

 

解雇予告の制度は、労働者に再就職等の準備(時間的、経済的余裕)を保障する趣旨です。

 

即ち、民法上は、期間の定めのない雇用契約(労働契約)については、各当事者は、いつでも解約の申入れができ、解約申入れ日から「2週間」経過により契約は終了し(つまり、2週間の予告期間が必要です。民法第627条第1項)、また、期間の定めのある雇用契約についても、各当事者は、やむを得ない事由があるときは、「直ちに」契約の解除ができます(民法第628条)。

 

しかし、労基法第20条は、労働者の保護の見地から、使用者が解約(解雇)する場合にはこれらを修正して、原則として30日の予告期間を必要としたものです。

つまり、使用者が解雇する場合には、期間の定めのない労働契約においては、民法上の予告期間の2週間が30日に延長されることとなり、また、期間の定めのある労働契約においては、民法上、やむを得ない事由があるときには直ちに解雇できるところを、30日の予告期間が必要となることに修正したものです。もっとも、やむを得ない事由があるときは、後述のように、解雇予告の制度が適用されない場合はあります。

このように、解雇予告の制度は、手続面から、解雇による労働者の不利益を防止しようとするものです。

 

 

※ 解雇予告の制度の趣旨や民法との関係に関連する過去問を見てみます。

 

〇過去問:

 

・【平成23年問3A】/類問【平成15年問4A】

設問:

労働基準法第20条は、雇用契約の解約予告期間を2週間と定める民法第627条第1項の特別法に当たる規定であり、労働者が一方的に労働契約を解約する場合にも、原則として30日前に予告することを求めている。

 

解答:

誤りです。

本問の前段が、「労働基準法第20条は、雇用契約の解約予告期間を2週間と定める民法第627条第1項の特別法に当たる規定」であるとしている点は、上記の解説の通り、正しいです。

しかし、後段の労働者が解約する場合にも30日前の予告が必要としている点は、誤りです。

第20条は、文言上、「使用者は」としている通り、労働者の保護のため、使用者が解雇する場合に解雇予告等の手続を要求したものです(労働者が期間の定めのない労働契約を解約する場合は、民法の一般原則が適用され、民法第627条第1項により、2週間の予告で足ります)。

 

 

・【平成23年問3D】

設問:

労働基準法第20条所定の予告期間及び予告手当は、6か月の期間を定めて使用される者が、期間の途中で解雇される場合には適用されることはない。

 

解答:

誤りです。

第20条の解雇予告制度は、期間の定めのある労働契約についても、使用者が解雇する場合には原則として適用されます。

この点、労働契約法第17条第1項により、使用者は、期間の定めのある労働契約については、やむを得ない事由がなければ、期間満了前に解雇することができません。

この「やむを得ない事由」が認められ、期間満了前の解雇が可能である場合においても、労基法第20条が適用されるため、使用者による解雇については、民法第628条が修正され、使用者は原則として「直ちに」解雇することはできず、解雇予告等の手続をとることが要求されます。

 

なお、後述のように、解雇予告制度の適用除外として、「2箇月以内の期間を定めて使用される者」等については、解雇予告制度は適用されませんが(第21条第2号等)、本問は、6か月の有期労働契約のケースなので、解雇予告制度の適用除外にもあたりません。

 

 

次に、条文を掲載しておきます。おいおい詳しく見ますので、まずは大まかに一読して頂ければ結構です。 

 

【条文】

第20条(解雇の予告)

1.使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

 

2.前項の予告の日数は、1日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。

 

3.前条第2項の規定〔=解雇制限期間において、やむを得ない事由のため事業継続不可能の場合の行政官庁の認定〕は、第1項但書の場合にこれを準用する。

 

 

第21条

前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第1号に該当する者が1箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第2号若しくは第3号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第4号に該当する者が14日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。

 

一 日日雇い入れられる者

 

二 2箇月以内の期間を定めて使用される者

 

三 季節的業務4箇月以内の期間を定めて使用される者

 

四 試の使用期間中の者

 

 

※ まず、必須知識を一気に押さえます。

 

解雇予告の制度についても(解雇制限期間と同様に)、情報量が多く(労基法で厄介な個所のひとつです)、読み進めていくうちに現在どこの部分を学習しているのか迷子になる危険性があります。そのようなとき、ここの必須知識の個所に立ち戻って羅針盤にして下さい。

 

 

解雇予告の制度の必須知識:

〔1〕原則

◆使用者は、労働者を解雇しようとする場合には、原則として、次の(A)~(C)のいずれかの手続をとることが必要です(第20条)。

 

(A)少なくとも30日前解雇の予告をする(第20条第1項本文前段)。

 

(B)30日分以上平均賃金(解雇予告手当)を支払う(同項本文後段)。

 

(C)上記(A)と(B)の併用

即ち、上記(A)の解雇予告の日数については、平均賃金を支払った日数分短縮することができます同条第2項)。

 

 

※ 上記(B)及び(C)の「平均賃金」とは、大まかには、当該労働者の1日分の平均の賃金額のことです。のちに、「賃金」のこちら以下で学習します。

 

 

〔2〕例外

◆以下の 一又は二の場合は、例外として、解雇予告の制度適用されず、使用者は解雇予告等の手続をとる必要がなく、即時解雇することができます

 

一 認定が必要な場合(第20条第1項ただし書、第3項)

 

次の(一)又は(二)の場合には、即時解雇が可能です(第20条第1項ただし書)。

ただし、当該事由について、行政官庁所轄労働基準監督署長)の認定を受けることが必要です(第20条第3項)。

 

(一)天災事変その他やむを得ない事由のために事業継続が不可能となった場合

 

(二)労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合

 

 

二 適用除外(第21条)

 

次の表の(一)~(四)のいずれかに該当する労働者については、解雇予告の制度は適用されず、即時解雇できます(第21条)。

 

※ 次の表の左欄に該当する者については、解雇予告制度は適用されません。しかし、その場合であっても、右欄に該当するときは、解雇予告制度が適用されます。

 

 

以上のうち、「〔1〕原則」については、容易に丸暗記できる分量です。そこで、情報の多い「〔2〕例外」についてゴロ合わせで覚えることにします。

  

※【ゴロ合わせ】

・「日々に季節は良し一緒にいよーとやけに責められ忍耐必要

(毎日天気が良いので、付き合っている彼氏(彼女)から一緒に出かけようとうるさく言われ、忍耐が必要でした。)

 

→「日々(=「日々」雇い入れられる者)、に(=「2」箇月以内)、季節は・よ(=「季節」的業務に「4」箇月以内)、し(=「試」用期間)。

1(=「「1」箇月を超えて」、緒・に(=「所」定の期間を超えて、が「2」個)、いよー(=「14」日を超えて)と、

や・け(=「や」むを得ない事由のために事業「継」続不可能)に、責められ(労働者に帰「責」事由)、忍耐必要(=「認定」が必要)」

 

以上の必須知識をベースに、以下、改めて原則と例外について細部の知識について学習します。以下の知識も重要なものが多いです。

 

 

 

〔1〕原則

一 要件

◆使用者は、労働者を解雇しようとする場合には、原則として、次のいずれかの手続をとることが必要です(第20条)。

 

(A)少なくとも30日前解雇の予告をする(第20条第1項本文前段)。

 

(B)30日分以上平均賃金(解雇予告手当)を支払う(同項本文後段)。

 

(C)上記(A)と(B)の併用

即ち、上記(A)の解雇予告の日数については、平均賃金を支払った日数分、短縮することができます(第20条第2項)。

 

 

以下、細部について見ます。

 

 

(A)少なくとも30日前に解雇の予告をする場合 = 解雇予告期間の問題

(一)解雇予告期間

 

1 少なくとも30日前

 

「少なくとも」30日前に解雇予告をすればよいのですから、30日前であればこれより長くてもよいことになります(本規定が労働者の再就職等の時間的余裕等を保障する趣旨である以上、長くなる場合は基本的には問題がありません)。

 

 

2「30日前」という解雇予告期間の計算

 

この解雇予告期間の計算方法については、労基法では特段の規定はありませんから、民法の一般原則によります(民法第138条)。

 

 

※ 民法の期間計算:(条文はこちらこちらも参考)

 

「日、週、月又は年」によって期間を定めたときは、以下のようになります。

 

(ⅰ)起算点(起算日)

 

期間の初日は、原則として、算入しません = 初日不算入の原則。

(例外は、期間が午前零時から始まるとき、即ち、初日に端数がないときです。この場合は、初日を算入します。)(民法第140条

 

 

(ⅱ)満了点(満了日)

 

期間は、その末日の終了をもって満了する(民法第141条)のが原則です。

そして、週、月又は年によって期間を定めた場合は、その期間は暦に従って計算し(同法第143条第1項。日によって期間を定めた場合は、日数を計算します)、満了点は、起算日に応答する日の前日となるのが原則です(民法第143条第2項本文)。

 

なお、解雇予告期間の「30日前」のようにさかのぼって計算する場合については、民法上、直接の規定はありませんが、民法の期間計算の規定を類推適用するものと解されています(【大審院昭和6.5.1】)。

その際、起算点と満了点が、通常の場合と逆になることに注意です(詳しくは、産前産後休業のこちら(労基法のパスワード)でご紹介します)。

ただ、このさかのぼる場合も、以下のように時間的に早い方から考える方がわかりやすいです。

 

解雇予告期間の場合は、まず、解雇予告がなされた日は算入せずに、その翌日から起算します(【日本炭業事件=福岡地決昭和29.12.28】。解雇予告をするのは、通常、1日の途中ですから午前零時に期間が始まる場合でないため、初日不算入の原則通りとなります)。

そして、期間の末日をもって期間の満了となりますので、本件では、解雇予告日の翌日から30日間を数えて、解雇予告日と解雇の効力発生日との間に丸々30日間をおくことが必要です。

例えば、6月30日に解雇する(この日の終了をもって解雇の効力を発生させる)ケースでは、丸々30日間をあけることが必要ですから、遅くとも5月31日には解雇予告をすることが必要となります。

 

【選択式 令和4年度 A(事例問題。こちら)】

 

(参考)

 

以上の考え方を押さえれば足ります。以下は、参考までに。

本来の期間計算の考え方としては、6月30日の終了をもって解雇の効力を発生させるということは、初日(6月30日)は丸々1日が算入され端数がないということですから、初日を算入して、6月30日からさかのぼって30日間を数えることになります。そこで、丸々30日を開けますと、期間の末日の終了は6月1日の午前零時(5月31日の24時)ということになり、結局、5月31日までに解雇予告が必要となります。

 

逆に時間の早い方から考えますと、5月31日に解雇予告をするということは、起算点は、初日不算入により6月1日となり、この日から丸々30日をとって解雇予告期間となります。従って、6月30日の午後24時に丸々30日となり、解雇予告期間が満了し、7月1日の午前0時に解雇の効力が発生することになります。

この計算式は、起算する日(本件では、6月1日)を基準とし、「6月1日 + 30日間 ー 1日 = 6月30日」として、6月30日に満了することがわかります。

 

本件のように逆算するケースは、少し混乱する場合もありますので、試験場でわからなくなったら、簡単なカレンダーを書いて計算して下さい。

  

 

なお、30日間は、その間に休日や休業日があっても、延長されません(この30日間は、労働者に再就職等の準備を保障する期間ですから、休日等を含んでいてもその趣旨に反するものではなく、労働者に不利益となるようなものでないからとできます)。

【過去問 令和元年問4D(下記)】

 

 

◯過去問: 

 

・【令和元年問4D】

設問:

使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならないが、予告期間の計算は労働日で計算されるので、体業日は当該予告期間には含まれない。

 

解答:

誤りです。

予告期間の計算は、「労働日」で計算されるのではなく、「暦日」で計算され、休業日も予告期間に含まれます(第20条第1項は、「少くとも30前」に解雇の予告をしなければならない旨を規定しており、「少なくとも30労働日前」と規定しているのではありません)。

そして、前記本文のように、予告期間は、労働者に再就職等の準備を保障する期間ですから、休業日を含んでいてもその趣旨に反するものではなく、労働者に不利益となるようなものでないといえます。

 

 

(二)解雇予告の方法

 

1 解雇の予告は、使用者が労働者に対して、確定的に解雇の意思を表示することによって行われることが必要です。

そして、解雇の予告は、原則として、解雇の日を特定して行うことが必要です(そうでないと、労働者はいつ解雇されるのかわからず、再就職等の準備に支障が生じかねないからです)。

例えば、「○年○月○日の終了をもって解雇する」等と特定します。

従って、不確定な期限を付した予告や売り上げが一定額に満たないときには解雇するといった条件付きの予告等は、本条の解雇予告とは認められません。

 

2 解雇予告は、直接個人に対して解雇の意思表示が明確に伝わる方法でなされるべきであり、文書で行うのが確実ですが、口頭で行っても有効とされています。

 

 

◯過去問:  

 

・【平成15年問4B】

設問:

使用者が労働者を解雇しようとする場合において、解雇の意思表示は、当該労働者に対し、当該解雇の理由を記載した書面を交付することにより行わなければならない。

 

解答:

誤りです。

解雇(予告)の意思表示の方法は、要式行為ではなく、設問のような書面の交付によることは要求されていません(第20条)。 

 

 

(三)解雇予告の取消し

 

解雇予告は、使用者の一方的な労働契約の解除の意思表示であり、これを取り消す(撤回する)ことはできないのが原則です(民法第540条第2項が、解除の意思表示は撤回することができない旨を定めています)。

 

例えば、労働者Aが使用者Bから解雇予告をされたために、新たに再就職先を決めたところ、その後にBが当該解雇予告を取り消した場合、この取消しを有効と解しては、労働者Aは使用者Bとの労働契約が依然継続することとなり、労働者Aに不測の不利益が生じかねません(再就職を断るか、あるいは、あくまで再就職をしようしますと、使用者Bの会社を任意退職(自己都合退職)せざるを得なくなり、解雇された場合よりも法律上の不利益が生じることがあります。※1)。

 

※1 自己都合退職か、会社都合退職(解雇等)かにより、例えば、雇用保険の基本手当の所定給付日数や給付制限等に影響が生じ、自己都合退職の場合、労働者に不利になります。

(なお、解雇しますと、使用者は、雇用保険の一定の助成金を受給できなくなる場合があります。)

 

逆に言いますと、解雇予告を取り消しても労働者の保護に欠けない場合には、例外的にその取消しを認めることができることになります。

そこで、労働者解雇予告の取消しについて同意している場合には、解雇予告の取消し認められます

 

通達においても、「使用者の行った解雇予告の意思表示は、一般的には取消すことは得ないが、労働者が具体的事情の下に自由な判断によって同意を与えた場合には、取消すことができるものと解すべきである。解雇予告の意思表示に対して、労働者の同意がない場合は、自己退職の問題は生じない。〔=自己都合退職と取り扱われず、解雇されたと取り扱われるということです〕」とされます(【昭和25.9.21基収第2824号】等参考)。

 

【過去問 平成16年問3D(こちら)】/【平成24年問3ア(こちら)】/【令和2年問5ウ(こちら)】

 

 

〇過去問:

 

・【平成24年問3ア】

設問:

使用者が、ある労働者を整理解雇しようと考え、労働基準法第20条の規定に従って、6月1日に、30日前の予告を行なった。その後、大口の継続的な仕事が取れ、人員削減の必要がなくなったため、同月20日に、当該労働者に対して、「解雇を取り消すので、わが社に引き続きいてほしい。」と申し出たが、当労働者は同意せず、それに応じなかった。この場合、使用者が解雇を取り消しているので、当該予告期間を経過した日に、当該労働者は、解雇されたのではなく、任意退職したこととなる。

 

解答:

誤りです。

上記本文の通り、解雇予告の取消しは、一方的にはできず、労働者の同意が必要です。労働者の同意がない場合は、解雇の取消しは無効ですから、当該予告期間を経過した日に解雇されたこととなります。

 

 

・【平成16年問3D】

設問:

ある労働者を解雇しようと思い、労働基準法第20条の規定に従って、5月1日に、30日前の予告を行った。しかし、その後になって思い直し、同月10日、当該労働者に対し、「考え直した結果、やはり辞めてほしくないので、このままわが社にいてくれないか。」と申し出てみたが、当該労働者は同意せず、それに応じなかった。その場合、当該予告期間を経過した日に、当該労働者は自己退職(任意退職)したことになる。

 

解答:

誤りです。

解雇予告の意思表示は、労働者の同意を得なければ取り消すことができません。

よって、本問では、予告期間が経過しますと「解雇」が成立するのであり、「自己退職(任意退職)したことになる」のではありません。 

前掲の【平成24年問3ア(こちら)】がほぼ同様の出題です。

 

 

・【令和2年問5ウ】

設問:

使用者の行った解雇予告の意思表示は、一般的には取り消すことができないが、労働者が具体的事情の下に自由な判断によって同意を与えた場合には、取り消すことができる。

 

解答:

正しいです(【昭和25.9.21基収第2824号】等)。

前掲の【平成16年問3D(こちら)】や【平成24年問3ア(こちら)】と類問です。

労働者の利益の観点から設問のように解すべきこととなります(詳しくは、本文のこちら以下です)。 

 

 

(四)継続雇用

 

解雇予告期間の満了後、解雇期日を延期することを本人に伝達して更に引き続いて使用する場合は、通常、同一の条件でさらに労働契約がなされたものとみられますので、改めて第20条所定の解雇予告等の手続をとらなければ、解雇はできないとされます(【昭和24.6.18基発第1926号】参考)。 

 

 

(五)解雇予告期間中の労働関係

 

解雇の予告がなされても、当該予告期間の満了までは労働契約は有効に存続していますから、当該予告期間中も、労働者は労働義務を負い、使用者は賃金支払義務を負います。

 

そして、例えば、使用者が解雇予告と同時に労働者に休業を命じた場合には、使用者の帰責事由による休業として、使用者は休業手当(休業1日につき平均賃金の60%以上)の支払が必要となります(第26条。休業手当については「賃金」のこちらで見ます)。

また、使用者の帰責事由に基づく労働者の労働不能であり、民法の危険負担の債権者主義(民法第536条第2項)が適用され、使用者は賃金全額の支払義務も負います(危険負担についても、上記「賃金」のリンク先の冒頭で詳しく見ます)。

 

ただし、解雇予告と同時に休業を命じ、解雇予告期間中は平均賃金の60%の休業手当しか支払わなかったとしても、30日前までに予告がなされている限り、当該労働契約は予告期間の満了により終了するとされます(【昭和24.12.27基収第1224号】参考)。

 

つまり、休業手当ないし賃金の支払の要否と解雇の効力発生の有無とは、別の問題であり、適法に解雇予告の手続がとられたなら、それに基づく解雇は有効となるのであり、他方で、この解雇予告期間中の休業手当ないし賃金の支払義務は別途問題になるということです。

 

以上で、(A)の「少なくとも30日前に解雇の予告をする」場合について終了します。続いて、(B)です。  

 

 

(B)30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う場合 = 解雇予告手当の問題

◆30日前までに解雇予告をしない使用者は、解雇予告に代えて、30日分以上の平均賃金(いわゆる解雇予告手当)を支払うことが必要です。

即ち、30日分以上の平均賃金を支払えば、解雇予告の手続は不要であり、即時解雇することができるということです(平均賃金については、のちにこちら以下で詳しく学習します)。

 

 

(一)解雇予告手当の支払時期

 

1 平均賃金の30日分の解雇予告手当を支払って労働者に解雇の意思表示をする場合は、即時解雇することができます。

逆に言いますと、即時解雇する場合(即ち、30日前までの解雇予告をしないで解雇する場合)には、(30日分の)解雇予告手当を(遅くとも)解雇の通告と同時に支払うことが必要です(【昭和23.3.17基発第464号】)。

 

2 解雇の予告解雇予告手当併用する場合(即ち、30日分の解雇予告の一部を解雇予告手当により支払う場合。のちに(C)で見ます)には、解雇予告手当解雇の予告と同時に支払う必要はなく解雇の日までに解雇予告手当の支払がなされればよいとされています(解雇予告の際に、予告日数と予告手当で支払う日数が明示されていることは必要とされます)。

 

※ 以上の1及び2は、30日前までの解雇予告をしないで解雇する場合は、「解雇予告手当の全額(解雇予告と併用する場合は残額)を支払ったときに解雇の効力が生じる」という考え方といえます(【過去問 平成30年問2オ(こちら)】参考)。

そこで、この考え方からは、使用者が30日前までの解雇予告をしないで解雇する場合は、「所定の日数分の解雇予告手当を支払わなければ解雇の効力は生じない」ため、労働者は解雇予告手当請求権を有しない(解雇予告手当を請求できない)ということになります。

もっとも、この点は、「所定の解雇予告手当を支払わなくても解雇自体は有効であり、労働者は解雇予告手当の請求権を有する」と解することも可能であり、解雇予告の法的性質が問題となります。のちにこちらこちらで詳しく見ます。

 

 

(二)解雇予告手当の概算払

 

なお、上記(一)1(こちら)の即時解雇の場合は、解雇の意思表示と同時に解雇予告手当を支払うことが必要ですが、解雇予告手当を計算するための平均賃金の算定が複雑なことから、大量に解雇するケースなどでは、正確な解雇予告手当を解雇の意思表示と同時に支払うことが困難な場合があります。

そこで、解雇予告手当の概算払も認められています。

 

即ち、「平均賃金30日分の概算額が即時解雇を通告する以前、又はこれと同時に現実に提供せられ、且つ概算額が清算額より不足するときに残余の不足額がその後速やかに提供される場合には、その即時解雇は有効として取り扱われ」ます(【昭和24.7.2基収第2089号】)。

 

 

(三)解雇予告手当の法的性質

 

1 解雇予告手当は、解雇される労働者の再就職等の準備を保障しその生活の安定を図るために労基法が創設したものですから、労働の対償というわけではなく、第11条の賃金(=労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいいます)そのものではないとされています(【昭和23.8.18基収第2520号】参考)。

ただ、賃金に準じて、解雇予告手当の支払においても、第24条第1項通貨払直接払を行うようにすべきとされています(同基収第2520号)。(これらの詳細については、「賃金」の個所(こちら)で学習します。)

 

また、使用者は、労働者に対して有する債権と解雇予告手当の支払債務とを相殺することはできないとされています(【昭和24.1.8基収第54号】参考)。

この相殺を認めては、解雇予告手当の支払により労働者に再就職等の準備を保障しようとした趣旨が損なわれるといえます(また、解雇予告の法的性質に関係しますが、そもそも、解雇予告手当の支払債務が発生していないと解されます。次の2で触れます)。

 

ちなみに、賃金については、第24条第1項の賃金の全額払の原則の法意として、使用者が労働者に対して有する債権と労働者に対する賃金支払債務を相殺することは、原則としてできないと解されています。

本件の解雇予告手当は、賃金そのものではないのですが、相殺についても、結果として、賃金に準じた取り扱いがなされることになります。

賃金と相殺については、詳しくは、賃金支払の5原則の個所(こちら)で学習します。

 

 

2 なお、解雇予告手当については、消滅時効の問題は生じないと解されています(ここは、少し複雑なので、以上の結論だけ覚えて下さい。以下で、一応理由を記載しておきます)。

 

この点は、解雇を通告された労働者が解雇予告手当の支払請求権を有するのかどうかが問題です(支払請求権を有しないとするなら、債権・請求権を消滅させる制度である消滅時効の問題も生じないことになります)。

 

これについては、後述(こちら以下)のように、解雇予告制度に違反する解雇(30日前までの予告や解雇予告手当の支払をせずになされた解雇)の効力をどう考えるかの問題と関係します。

当該違反する解雇も有効とするなら、労働者は、有効・適法な解雇に基づき解雇予告手当の支払請求権を有することになりえ、従って、その消滅時効もありうることになります。

 

判例は、かかる解雇予告制度に違反する解雇は、即時解雇としては無効としつつ、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、解雇の通知後、30日を経過するか、通知後に解雇予告手当の支払をした場合に、その時から解雇の効力が生じるものと解しています(相対的無効説)。

この立場からは、使用者が即時解雇に固執する場合には、当該解雇は無効となりますから、労働者に解雇予告手当の支払を請求する権利は発生しないこととなりますし、使用者が即時解雇に固執しない場合には、30日経過後又は解雇予告手当を支払った時点で初めて解雇の効力が生じることとなるため、結局、労働者に解雇予告手当の支払請求権が発生することはないことになります(厚労省コンメ令和3年版上巻309頁)。

従って、判例の立場からは、解雇予告手当について、消滅時効の問題は生じないとなります。

他方、後述の選択権説(学説上、多数説かもしれません)の立場からは、解雇予告手当についても消滅時効の問題が生じることになります(野川「労働法」371頁注67参考。注釈第2巻185頁)。

 

 

◯過去問: 

 

・【平成30年問2オ】

設問: 

労働基準法第20条に定める解雇予告手当は、解雇の意思表示に際して支払わなければ解雇の効力を生じないものと解されており、一般には解雇予告手当については時効の問題は生じないとされている。

 

解答:

設問は、通達【昭和27.5.17基収第1906号】の立場です。

一般に、30日前までの解雇予告をしないで解雇する場合は、「解雇予告手当の全額(解雇予告と併用する場合は残額)を支払ったときに解雇の効力が生じる」と解されています(こちらを参考)。

そこで、この場合には、労働者には解雇予告手当の請求権は発生しません(また、30日前に解雇予告をした場合も、当然、解雇予告手当請求権は発生しません)。

従って、解雇予告手当については、消滅時効の問題は生じないということになり、設問は、正しいことになります。 

 

もっとも、「所定の解雇予告手当を支払わなくても解雇自体は有効であり、労働者は解雇予告手当の請求権を有する」と解することも可能であり、本問の前提として、解雇予告の法的性質が問題となります。この点は、上記のこちらで見ましたが、のちにこちらでも詳しく見ます。

  

なお、のちにご紹介しますが、同じく平成30年に出題された【平成30年問5A(こちら)】は、本問と共通する問題点を含んでいます。

 

 

以上で、(B)30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う場合の問題を終わります。続いて、(C)解雇予告(期間)と解雇予告手当を併用する場合です。 

 

 

(C)解雇予告(期間)と解雇予告手当を併用する場合

◆解雇予告の日数は、解雇予告手当(平均賃金)を支払った日数分、短縮することができます(第20条第2項)。

 

例えば、労働者を5月31日をもって解雇する(その日の終了をもって解雇の効力を発生させる、即ち、翌6月1日に解雇の効力を発生させる)ためには、(5月31日から丸々30日をおくことが必要ですから)遅くとも5月1日に解雇予告をすることが必要です。

この場合に、5月13日に解雇予告をしようとするときは、解雇予告期間は、初日不算入として14日から起算し31日の終了までとなり、18日間あることになりますので、残りの12日分の平均賃金を解雇予告手当として支払えばよいこととなります。

以上は、【過去問 平成16年問3E】のケースです。

 

 

※(C)の解雇予告と解雇予告手当を併用する場合については、事例の過去問が多いですが、上記のパターンをマスターすれば大丈夫です。

わからなくなったら、上記の通り、簡単なカレンダーを書いて下さい。

いくつか例を見てみます。

 

 

○過去問:

 

・【平成24年問3ウ】

設問:

使用者は、ある労働者を8月31日の終了をもって解雇するため、同月15日に解雇の予告をする場合には、平均賃金の14日分以上の解雇予告手当を支払わなければならない。

 

解答:

正しいです。

8月15日に解雇予告をするケースですから、初日不算入の原則より、翌16日から起算します。従って、31日の終了(24時)まで解雇予告期間が16日間あることとなり、残りの14日分は解雇予告手当の支払が必要となります。

 

 

・【平成18年問7B(一部補正)】

設問:

8月27日をもって労働者を解雇しようとする場合において、8月14日に解雇の予告をしたときは、少なくとも平均賃金の17日分の解雇予告手当を支払わなければならない。

 

解答:

正しいです。

初日不算入の原則より、8月15日から起算し、27日の終了まで、解雇予告期間が13日間あります。従って、残りの17日分の解雇予告手当の支払が必要です。

 

 

・【平成26年問2E】

設問:

平成26年9月30日の終了をもって、何ら手当を支払うことなく労働者を解雇しようとする使用者が同年9月1日に当該労働者にその予告をする場合は、労働基準法第20条第1項に抵触しない。

 

解答:

誤りです。

解雇予告手当を支払わずに解雇するためには、9月30日の終了まで、丸々30日をおいて解雇予告をすることが必要です。すると、8月31日までには解雇予告をしなければなりません。

 

 

・【平成26年問2B】

設問:

労働基準法第20条に定める解雇の予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。

 

解答:

正しいです(第20条第2項)。

 

  

 

※ その他の問題

以下、解雇予告制度に関する重要ですが少し難しい問題を検討します。

 

〈1〉解雇制限期間(第19条)と解雇予告制度(第20条)との関係

解雇制限期間と解雇予告制度との関係について、以下の問題があります。

 

 

 (1)解雇制限期間中の解雇予告の可否

 

まず、解雇制限期間中に解雇予告を行うことができるのか問題です。

結論としては、解雇制限期間中解雇予告できると解されています(【東洋特殊土木事件=水戸地龍ヶ崎支判昭和55.1.18】/【アールインベストメントアンドデザイン事件=東京高判平成22.9.16】)。

 

例えば、上の図は、業務上傷病による療養休業を開始後に、業務上の横領が発覚した労働者について、出勤を開始した5月2日に解雇予告をしたケースです。

解雇制限期間は、療養休業期間及び出勤日(原則)から起算して30日間ですから、この設例の場合は5月31日までです。

この解雇制限期間中の労働者については、その帰責事由(非違行為等)が発覚しても当該期間中は解雇できませんので、5月31日までは解雇できません。

 

他方、解雇するためには、原則として、30日前までに解雇予告をすることが必要です。

もっとも、本件では、労働者に帰責事由がありますので、後述のように、解雇予告なしに即時解雇できる例外にあたりますが、その場合は行政官庁(労働基準監督署長)の認定が必要となってしまいます。

そこで、例えば、出勤した5月2日に有効に解雇予告ができるとするならば、30日間おいた6月1日に解雇予告期間が満了し、6月2日からは解雇できることとなり、従って、解雇制限期間が経過した直後に解雇できることとなります。

問題は、このように解雇制限期間中に解雇予告を行うことができるのかです。

 

この点は、上述の通り、解雇制限期間中の解雇予告もできると解されています(正確には、解雇の予告が解雇制限期間中に行われても、解雇の効果が解雇制限期間の終了後に発生する場合には、第19条に違反しないということです)。

なぜなら、第19条(解雇制限期間)は、文言上「解雇してはならない」であり、「解雇」(解雇制限期間中に解雇の効果が発生すること)は制限していますが、「解雇の予告」まで制限しているわけではないこと(第20条 が「解雇」と「解雇の予告」の文言を使い分けていることが参考になります)、

また、解雇制限期間中の解雇予告を認めても、第19条(解雇制限期間)は出勤(治ゆ)等から30日間は解雇を禁止しているため、再就職の準備(時間的、経済的余裕)を保障しようとする第20条の解雇予告制度の趣旨も実質的には害されないこと等の理由からです。

(以上の本問は、まだ直接的な出題がない個所なので、注意して下さい。)

 

 

(2)解雇予告期間内の解雇制限事由の発生

 

次に、解雇予告期間内に解雇制限事由が発生した場合をどう取り扱うかも問題です。

 

例えば、上記図のケースの場合、5月1日に解雇予告をしています(そこで、本来は、解雇予告日の翌日から起算して30日を経過する5月31日の終了をもって解雇予告期間が満了し、6月1日から解雇できるはずでした)。

しかし、5月15日に業務上の傷病による療養休業を開始したため、解雇制限期間となりました。5月21日に出勤しているため、出勤日から起算して30日を経過する日である6月19日に解雇制限期間が満了することになります。

従って、本件では、解雇制限期間中に解雇予告期間が満了しても(5月31日に満了)、解雇制限期間中である以上、6月19日までは解雇はできません。

この場合、当初の解雇予告が無効となり、例えば、出勤(治ゆ)した後に再度解雇予告をすることが必要となるのか問題となります。

 

この点は、休業期間が長期にわたり当初の解雇予告が予告としての効力を失うものと認められる場合を除き、当初の解雇予告有効であり(解雇予告の効力の発生が停止されたに過ぎないと構成します)、解雇制限期間の経過とともに解雇の効力が発生すると解されています(【昭和26.6.25基収第2609号】参考)。

 

解雇予告制度は、労働者に再就職の準備(時間的、経済的余裕)を保障しようとする趣旨であるところ、解雇制限期間の場合、出勤(治ゆ)等の後30日間は解雇できない期間があるため、この30日間によって実質的には解雇予告制度の趣旨も満たされるためと考えられます。

 

関連する過去問を見てみます。

 

〇過去問:

 

・【平成24年問3エ】

設問:

使用者が労働者を解雇しようとする日の30日前に解雇の予告をしたところ、当該労働者が、予告の日から5日目に業務上の負傷をし療養のため2日間休業した。当該業務上の負傷による休業期間は当該解雇の予告期間の中に納まっているので、当該負傷については労働基準法第19条の適用はなく、当該解雇の効力は、当初の予告通りの日に発生する。

 

解答:

誤りです。

この設問のケースを、例えば、5月1日に解雇予告をしたケースと仮定しますと、次の図のようになります。

 

当初の解雇予告に係る解雇しようとする日(5月31日の終了をもって解雇し、従って、6月1日に解雇の効力が発生します)は、解雇制限期間(6月5日まで)中にありますから、当該解雇しようとする日に解雇することはできません。

たとえ2日間の休業に過ぎなくても、解雇制限期間の要件を満たしており、かつ、「解雇予告期間中に業務上の傷病の療養のため休業したときは解雇制限期間の適用が除外される」旨の規定もないからです。

従って、解雇制限期間が満了した翌日に解雇の効力が発生します(第19条第1項本文。なお、本文で上述しましたように、治ゆ後等に改めて解雇予告をすることまでは、原則として、不要です)。

【平成15年問4E】も、類問です。

 

 

・【平成30年問2エ】

設問:

労働基準法では、使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために体業する期間及びその後30日間は、解雇してはならないと規定しているが、解雇予告期間中に業務上負傷し又は疾病にかかりその療養のために体業した場合には、この解雇制限はかからないものと解されている。

 

解答:

誤りです。

本問も、前問と類問です。

即ち、解雇予告期間中に業務上傷病による療養のために体業した場合に、解雇制限にかからないとする規定はありません。

そして、業務上傷病療養のために体業する労働者の再就職が困難な期間における解雇を制限するという解雇制限期間の趣旨は、解雇予告期間中に業務上傷病が発生した場合であっても妥当します。

よって、解雇予告期間中に業務上傷病によって療養のために体業した場合であっても、解雇制限が適用されます(第19条第1項本文)。

 

 

 

〈2〉違法な労働関係における解雇予告制度の適用の可否の問題

次に、違法な労働関係における解雇予告制度の適用の可否の問題です。

 

例えば、第56条労基法のパスワード。こちら以下)の最低年齢(=児童(満15歳の年度末までにある者をいいます)は、原則として使用することができない)に違反する労働契約は無効となると考えられていますが、この最低年齢違反の無効な労働契約のもとに就労していた児童を解雇する場合にも、第20条解雇予告制度適用されると解されています。

ただし、この場合、違法状態の継続を認めることは妥当でないとして、解雇予告手当を支払って即時解雇すべきと解されています(即ち、30日前の予告期間をおいて使用を継続することは、最低年齢に違反して児童を使用継続することになり、認められないということです)。(【昭和23.10.18基収第3102号】参考)

 

本問は、広くは、違法な労働契約(例えば、労働契約が強行規定に違反したり、民法第90条の公序良俗に違反するため、無効となる場合等)においても、労基法が適用されるのかという問題の一つになります。

 

この点は、適法な労働契約のみに労基法が適用され、違法な労働契約については適用されないというのは不均衡です。

例えば、労働者を暴行して強制的に労働契約を締結させた場合、労働契約が無効(例:意思無能力として民法第3条の2により無効、公序違反として同法第90条により無効、強迫による意思表示として同法第96条の取消しにより遡及的無効等)だからといって、労基法の労働時間の規制が適用されず、法定労働時間(週40時間、1日8時間)を超える労働をさせても使用者に罰則が適用されないなどと解するのは、不合理です。

従って、労基法は、違法な労働契約においても適用されると解すべきであり、事実上の労働契約関係使用従属関係指揮命令関係が存在していると評価できる場合には、労基法は適用されるものと考えられます。

 

そこで、上記の最低年齢違反の労働契約についても、児童を使用して、事実上の使用従属関係が存在していますから、労基法は適用され、第20条の解雇予告制度も適用されることとなります。

ただし、解雇予告制度をそのまま適用しては、30日前の予告期間をおいて児童を使用することが可能となってしまい、最低年齢の規制の趣旨に反しますから、結局、解雇予告手当を支払って即時解雇させることが妥当となります。

 

野川「労働法」152頁は、次の通りです。

「労基法は、労働契約関係および他の契約関係が認められなくても、労基法9条に定める要件に該当する労働者を保護するために発動されるので、当該労働契約が公序違反等により無効とされた場合でも、事実上展開されている労働関係に即して労基法の諸規定が適用される。したがって、使用者の立場にある者は、15歳未満の児童を雇用して発生した時間外労働については割増賃金の支払義務を免れないし、入管法に違反して就労させ、無休で使用した外国人労働者に対して休日不付与の責任を問われうる。」

 

ただ、労基法第9条の「労働者」の要件である、事業に「使用される者」の「使用」について、適法な労働契約関係のみに限定されるのかどうかは問題となり、やはり、実質論が重要であるといえそうです。

 

 

関連する過去問を見ます。

 

◯過去問:

 

・【平成24年問2B】

設問:

労働基準法第56条の最低年齢違反の労働契約のもとに就労していた児童については、そもそも当該労働契約が無効であるから、その違反を解消するために当該児童を解雇する場合には、労働基準法第20条の解雇の予告に関する規定は、適用されない。

 

解答:

誤りです。

上述の通り、無効な労働契約についても、事実上の使用従属関係が存在している場合は、労基法は適用され、第20条も適用されます(本文記載の通り、修正適用されますが)。

【平成17年問5D】も類問です。

 

 

解雇予告制度の「原則」の「要件」に関する問題が長くなりましたが、以上で終わります。

続いて、解雇予告制度の「原則」の「効果」に関する問題です。

ここでは、解雇予告制度に違反して解雇した場合の効果について検討します。

 

 

 

二 違反の効果

(一)公法上の効果

使用者が、第20条の解雇予告制度に違反して解雇した場合は、6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます(第119条第1号)(第20条第1項ただし書の行政官庁の認定を受けずに解雇した場合も含みます)。

 

 

 

(二)私法上の効果

第20条の解雇予告制度に違反した解雇(即ち、解雇の予告をせず、又は解雇予告手当の支払をせずにしたような解雇)の私法上の効力(当該解雇が無効となるのか)については、争いがあります。

 

判例及び通達は、第20条所定の解雇の予告をせず、又は解雇予告手当の支払をしない解雇の通知をした場合は、当該通知は即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り通知後30日を経過するか、又は通知後に解雇予告手当の支払をしたときは、そのいずれかの時から解雇の効力を生じるとしています(相対的無効説)。

(【細谷服装事件=最判昭和35.3.11】/【昭和24.5.13基収第1483号】)

 

 

【細谷服装事件=最判昭和35.3.11】

 

(判旨)

 

「使用者が労働基準法20条所定の予告期間をおかず、または予告手当の支払をしないで労働者に解雇の通知をした場合、その通知は即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知后同条所定の30日の期間を経過するか、または通知の後に同条所定の予告手当の支払をしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生ずるものと解すべきであ」る。

 

・【平成18年問7A(こちら) 】において、この判旨がそのまま出題されています。また、後述の通り、本問題に関する出題は多いです。

  

 

※ 対立点について:

 

本問については争いがあり、他説についても若干出題されたことがありますので、他説の結論だけは押さえておきます。

ただ、今のところは、判例の結論を知っていれば解ける問題しか出題されていません。

 

まず、上記判例の考え方は、相対的無効説といわれ、第20条の解雇予告制度に違反した解雇は、基本的には無効と考えつつ修正を図る立場といえます(実際上は、有効となることが多くなるのですが)。

 

この点、解雇される労働者の再就職等の準備を保障しようとした第20条の趣旨に照らし、労働者の保護を重視するなら、同条違反の解雇は無効と解すべきとなります。このように常に無効とする考え方が、無効説です。

 

ただ、第20条違反の解雇を無効としますと、解雇の意思表示をした使用者の下に労働者をとどめおくことにもなりかねず、当事者間の信頼関係が重視される労働契約関係においては、必ずしも労働者の保護になるとはいえない面もあります。

また、当該解雇を無効としても、解雇事由自体が存在する場合は、その後、適法な解雇予告手続をとって有効に解雇がなされることにもなりますから、解雇をめぐる紛争が長引くことにもなります。

さらに、後述の相対的無効説の付加金制度に関する問題点と同様の欠点もあります(相対的無効性の個所で詳しく触れます)。

このような事情を考えますと、第20条違反の解雇を常に無効とすることにも、問題がありそうとなります。

 

他方、だからといって、第20条違反の解雇を常に有効と解するのも(=有効説)、法が要求する手続を軽視し過ぎるという問題はあります(また、有効説の場合、例えば、解雇予告制度に違反して解雇した場合に解雇予告期間中に労働者が休業した例(こちら)において、当該解雇は当初から適法なものとして、労働者は当該休業について休業手当の支払請求ができないことにならないでしょうか)。

 

そこで、第20条違反の解雇を基本的に無効としつつ、使用者が即時解雇に固執するのでないなら、解雇の通知後、30日を経過するか、解雇予告手当が支払われたときに、そのときから解雇を有効とするのが相対的無効説の考え方といえます(いわば、折衷説です)。

このように考えますと、30日を経過する前(又は解雇予告手当の支払前)においては解雇は無効ですから、労働者は解雇予告手当を請求できないことにはなりますが、他面、この30日を経過する前等に解雇の通知を受けた労働者が休業した場合には、使用者の帰責事由による休業であると解することができますので(解雇は無効であり、労働者には形式的には労働義務が存在することになりますが、労働者は、使用者による解雇の通知を受けて休業している以上、使用者の帰責事由による休業であるとできます)、使用者は休業手当の支払義務(第26条)及び賃金全額の支払義務(危険負担・債権者主義の民法第536条第2項)も負うことになり、労働者の保護も図られることにはなります。

 

ただし、この相対的無効説にもかなり問題があり、学説では、選択権説(解雇の無効を主張するか、解雇の有効を前提として解雇予告手当の請求をするか、労働者に選択権を認める説)が有力に主張されています(多数説のもようです)。

 

相対的無効説の問題点としては、使用者が即時解雇に固執するかどうかという使用者側の事情により解雇の効力が左右されるため、労働者の地位が非常に不安定になるということが挙げられます。

さらに、理論上の大きな問題が付加金の制度(第114条第20条等に違反した使用者に対して、裁判所が、労働者の請求により、未払金のほか、これと同一額の付加金の支払も命令できるという制度です。こちら以下)との関係です。

即ち、第20条違反の解雇を無効と解しますと、使用者の解雇予告手当の支払義務も生じないことになり、すると、第20条の解雇予告制度に違反した場合に未払金及びそれと同一額の付加金の支払命令を定めている付加金の制度と矛盾することになりそうです。

この付加金の制度からは、第20条違反の解雇の効力も有効であることが前提とされていると読めます。

 

判例の相対的無効説では、使用者が即時解雇に固執した場合は、解雇は無効となりますし、固執しない場合は、30日を経過しますと解雇の効力が発生し、30日経過前は解雇は無効ですから、いずれにしても使用者には解雇予告手当の支払義務は生じないとなります。

しかし、これでは、第20条の解雇予告制度に違反した場合に未払金と付加金の請求を認めている第114条と整合しないのです(この第114条は、「使用者が支払わなければならない」金額についての未払金等の支払を裁判所が命じることができるという制度ですが、相対的無効説では、上記の通り、使用者には解雇予告手当の支払義務は生じていず、「支払わなければなならない」金額は存在しないことになります)

 

判例の相対的無効説からは、付加金制度との関係では(付加金制度の趣旨から)、解雇の効力(有効・無効)にかかわらず、第20条違反の解雇がなされた場合は付加金制度の対象となるとでも考えることになるでしょうか。

 

 

以上のように、本問は、理論的には難しい問題ですので、とりあえず判例の立場と他の学説の結論を押さえておいて下さい。  

 

過去問を見ておきます。

 

 

〇過去問:

 

・【平成19年問4C】

設問:

使用者が、労働基準法第20条所定の予告期間を置かず予告手当の支払もしないで労働者に解雇の通知をした場合には、解雇の通知後30日の期間を経過したとしても解雇の効力は発生しないとするのが最高裁判所の判例である。

 

解答:

誤りです。

本問は、無効説の内容ですから、最高裁の判例の立場ではありません。

判例からは、「予告期間を置かず予告手当の支払もしないで労働者に解雇の通知をした場合」であっても、「解雇の通知後30日の期間を経過」すれば、解雇の効力は発生します。

 

 

・【平成18年問7A】

設問:

使用者が労働基準法第20条所定の予告期間をおかず、又は予告手当の支払をしないで労働者に解雇の意思表示をした場合には、その意思表示をどのように受け取るかは労働者の選択にまかされていると解するのが相当であるから、労働者は同条所定の解雇の予告がないとしてその無効を主張することができ、又は解雇の無効を主張しないで解雇予告手当の支払を請求することができるとするのが最高裁判所の判例である。

 

解答:

誤りです。

本問は、選択権説の内容ですから、最高裁の判例の立場ではありません。

 

 

以上で、解雇予告制度の原則について終わります。次に、例外です。

 

 

 

〔2〕例外

◆以上の解雇予告の制度の例外として、使用者が即時解雇できる場合解雇予告等の手続をとる必要がない場合)があります。

大きくは、次の2類型に分けられます。

 

(1)行政官庁の認定が必要な場合第20条第1項ただし書第3項

 

(2)適用除外の場合第21条

 

 

以下、順に見ます。

 

 

一 認定が必要な場合(第20条第1項ただし書、第3項)

◆次の(一)又は(二)の場合には、即時解雇が可能です(第20条第1項ただし書)。

ただし、当該事由について、行政官庁所轄労働基準監督署長施行規則第7条))の認定を受けることが必要です(第20条第3項)。

 

(一)天災事変その他やむを得ない事由のために事業継続が不可能となった場合

 

(二)労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合

 

以下、詳しく見ます。 

 

 

(一)天災事変その他やむを得ない事由のために事業継続が不可能となった場合

この(一)の判断については、基本的には、第19条第2項の「解雇制限期間における適用除外」の場合(こちら)と同様と考えられていますので、当該個所を参考にして下さい。

 

【過去問 令和2年問5エ(こちら)】/【令和5年問5E(こちら)】 

 

もっとも、本件の場合は、使用者に対して解雇予告制度を適用させるのが妥当であるかどうかという観点から、本件例外に該当するかどうかを判断することになります。 

 

 

(二)労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合

この(二)の判断は、解雇予告制度により労働者を保護するに値しないほどの重大又は悪質な義務違反ないし背信行為が労働者に存するかどうかという観点から行うことになります(企業内における懲戒解雇事由とは必ずしも一致するわけではありません。懲戒解雇事由は、企業秩序に違反する行為について懲戒解雇という最も重い制裁に値するのかどうかという観点から判断されるものだからです)。

 

通達により、次のような場合に、この(二)の労働者の帰責事由が認められるとされています(【昭和23.11.11基発第1637号】/【昭和31.3.1基発第111号】参考)。

 

「『労働者の責めに帰すべき事由』とは、労働者の故意、過失又はこれと同視すべき事由であるが、判定に当たっては、労働者の地位、職責、継続勤務年限、勤務状況等を考慮の上、総合的に判断すべきであり、『労働者の責めに帰すべき事由』が法第20条の保護を与える必要のない程度に重大又は悪質なものであり、従って又使用者をしてかかる労働者に30日前に解雇の予告をなさしめることが当該事由と比較して均衡を失するようなものに限って認定すべきものである。」

 

具体的には、次のようなものが「労働者の責めに帰すべき事由」にあたるとされます。 

 

〇過去問:

 

・【平成21年問2E】

設問:

使用者は、労働者の責めに帰すべき事由によって解雇する場合には、労働者の帰責性が軽微な場合であっても、労働基準法第20条所定の解雇予告及び予告手当の支払の義務を免れる。

 

解答:

誤りです。

前掲の通達(こちら)は、「労働者の責めに帰すべき事由」とは「法第20条の保護を与える必要のない程度に重大又は悪質なもの」等に限るとしており、具体的には、前掲の表(こちら)の(a)の通り、原則として、極めて軽微な事案については、刑法犯に該当する行為のあった場合でも、労働者の責めに帰すべき事由には該当しないとしています。

従って、本問が「労働者の帰責性が軽微な場合であっても」第20条の義務を免れるとしている点は、誤りとなります。

 

本問は、前掲の通達に関する問題であり、難問といえます。

もっとも、この択一式平成21年の問2は、他の肢の関係から正解が導きやすい出題でしたので、結果としては、この肢Eがわからなくても解ける問題でした。前掲の表(こちら)の青字の部分は押さえておいて下さい。

 

 

・【令和2年問5エ】

設問:

使用者は、労働者を解雇しようとする場合において、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合」には解雇の予告を除外されるが、「天災事変その他やむを得ない事由」には、使用者の重過失による火災で事業場が焼失した場合も含まれる。

 

解答:

誤りです。

「使用者の重過失による火災で事業場が焼失した場合」は、解雇予告の除外事由に含まれません。

解雇予告制度が適用除外となる「天災事変その他やむを得ない事由のために事業継続が不可能となった場合」(第20条第1項ただし書)に該当するかどうかは、基本的には、第19条第2項の解雇制限期間における適用除外の場合と同様に考えるものと取り扱われています。

そこで、こちらの表の左欄の(1)のかっこ書から判明しますように、「火災で事業場が焼失した場合」においても、事業主(使用者)の「故意又は重大な過失に基づく場合」は解雇予告制度の適用除外とはならないとされています。

事業継続の不可能について事業主の帰責性が強い場合であり、解雇予告期間(30日)について労働者が無報酬の状態となることを避けるべきだからといえます。

 

 

 

(三)行政官庁の認定 = 解雇予告除外認定

◆上述(こちら)の解雇予告制度の適用がなされない(一)と(二)のいずれの場合も、当該事由について行政官庁所轄労働基準監督署長)の認定を受けることが必要です(第20条第3項施行規則第7条)。一般に、解雇予告除外認定といいます。

【過去問 平成23年問3E(こちら)】

 

※ 問題となる点については、第19条第2項の解雇制限期間の認定の場合(こちら)と類似しますが、ここでも詳述しておきます。

 

 

○趣旨

 

上述(こちら)の(一)の「やむを得ない事由」や(二)の「労働者の責めに帰すべき事由」の判断が一義的には明らかではないことから、使用者の恣意的判断による濫用を防止して労働者の保護を図る見地より、これらの要件に該当していることを確認するために、行政官庁の認定を要求しています。

(なお、認定とは、公の権威をもって特定の事実又は法律関係の存否又は真否を確認する行為をいいます。)

 

 

1 行政官庁の認定を受けていない即時解雇の効力

 

「やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合」又は「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合」において、使用者が行政官庁認定を受けずに解雇予告等の手続をしないで即時解雇をしたとき、かかる解雇が有効かは問題です。

 

この点は、認定事由(解雇予告除外認定事由)に該当する事実がない場合は、解雇は無効となりますが、認定事由に該当する事実がある場合は、罰則の適用は受けるにしても、即時解雇の効力には影響がなく、解雇予告等の手続をしない即時解雇も有効であると解されています。

即ち、認定は、即時解雇の効力発生要件ではなく、単に行政官庁の確認行為と解されます(【最決昭和29.9.28=日本通信社福岡支局長事件】、【昭和63.3.14基発第150号】)。

 

理由としては、条文上、認定を即時解雇の効力発生要件と規定しているわけではないこと、また、客観的に認定事由に該当する事実が存在する場合には、認定を受けていない即時解雇を有効と取り扱っても、労働者に実質的な不利益は生じにくいといえること等が考えられます。

 

従って、認定を受けずに即時解雇の意思表示をした後に、認定を受けた場合は、当該解雇の効力は「即時解雇の意思表示をした日」に発生すると解されます(【昭和63.3.14基発第150号】)。

【過去問 平成18年問7E(こちら)】

 

2 なお、解雇予告期間中に労働者の責めに帰すべき事由が判明した場合、使用者は、所轄労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受けて、当該労働者を即時解雇することは可能です。

 

解雇予告期間中も、当該労働者との労働契約関係は存続していますから、当該労働契約は即時解雇の対象となりますし、解雇予告制度の適用されない要件に該当している以上、即時解雇を認めない理由はないからです。

 

 

※ ここで、解雇制限期間と解雇予告制度を比較しておきます。


 

注意点は、以下の通りです:

 

※1 上記表中の青文字の部分((イ)と(a))の「天災事変その他やむを得ない事由のために事業継続が不可能となった場合」で、かつ、行政官庁の認定を受けたときは ➡

 

・解雇制限期間(第19条)は適用されない。

 

かつ

 

・解雇予告制度(第20条)も適用されない。

 

例えば、業務上傷病にあり療養のため休業している労働者を使用する使用者の事業場が放火により焼失した場合は、使用者が行政官庁の認定を受ければ、当該療養休業期間中の労働者であっても解雇でき、かつ、解雇予告等の手続をとることも不要であり即時解雇することができることになります。

 

 

※2 対して、上記表中の※2の部分((b))の「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合」で、かつ、認定を受けたときは ➡

 

・解雇予告制度は適用されない(即ち、解雇予告等の手続は不要)。

 

・しかし、解雇制限期間適用される。

 

従って、解雇制限期間中は解雇できないことになります。

解雇制限期間の満了後は、解雇でき、その場合、解雇予告等の手続をとることなく即時解雇することができます。

 

例えば、業務上傷病にあり療養休業していた労働者が職場復帰してきたその日に会社の多額の金を盗んだケースでは ⇒

 

・労働者に帰責事由があるケースですから、解雇予告制度は適用されず、即時解雇が可能と一応なります(認定を受けることは必要です)。

 

・しかし、労働者に解雇事由につき帰責事由がある場合であっても解雇制限期間は適用されますので(なぜなら、労働者に帰責事由があっても、再就職が困難な時期における解雇を制限する必要性があることには変わりがないからです)、職場復帰してから30日間は解雇できません。

 

上記の※1の「天災事変その他やむを得ない事由のために事業継続が不可能になった場合(認定を受けることが必要)」は、事業継続自体が不可能な場合ですので、解雇予告制度が適用されないほか、解雇制限期間についても不適用とせざるを得ないことになります。

 

 

〇過去問:

 

・【平成23年問3E】

設問:

天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においても、使用者は、労働基準法第20条所定の予告手当を支払うことなく、労働者を即時に解雇しようとする場合には、行政官庁の認定を受けなければならない。

 

解答:

正しいです(第20条第3項)。

 

 

・【平成18年問7E】

設問:

労働基準法第20条第1項ただし書の事由に係る行政官庁の認定(以下「解雇予告除外認定」という。)は、原則として解雇の意思表示をなす前に受けるべきものではあるが、それは、同項ただし書に該当する事実があるか否かを確認する処分であって、認定されるべき事実がある場合には使用者は有効に即時解雇をなし得るものと解されるので、そのような事実がある場合には、即時解雇の意思表示をした後、解雇予告除外認定を得たときは、その解雇の効力は使用者が即時解雇の意思表示をした日に発生すると解されている。

 

解答:

正しいです(【昭和63.3.14基発第150号】)。

本文は、こちら以下です。

 

 

・【平成24年問3イ】/類問【平成15年問4C】

設問:

労働者によるある行為が労働基準法第20条第1項ただし書の「労働者の責めに帰すべき事由」に該当する場合において、使用者が即時解雇の意思表示をし、当日同第3項の規定に基づいて所轄労働基準監督署長に解雇予告除外認定の申請をして翌日その認定を受けたときは、その即時解雇の効力は、当該認定のあった日に発生すると解されている。

  

解答:

誤りです。

認定は、即時解雇の効力発生要件ではないと解されているため、認定が後日あった場合、即時解雇の効力は、即時解雇の意思表示をした日に発生します(【昭和63.3.14基発第150号】)。

本文のこちら以下を参考です。

 

 

続いて、解雇予告制度の適用がなされない例外の2類型目です。 

 

 

二 適用除外(第21条)

◆次の表の(一)~(四)のいずれかに該当する労働者については、解雇予告の制度は適用されず、即時解雇することができます(第21条)。

 

※ 次の表の左欄に該当する場合に、解雇予告制度が適用されません。

しかし、その場合であっても、右欄に該当するときは、解雇予告制度が適用されます。

 

【記述式 平成元年=「2箇月」、「季節的」】/

【選択式 平成30年度 A=「1か月」(こちら)】

  

○趣旨

 

臨時的・短期的な労働者に対しては、解雇予告制度を適用して解雇予告をさせることは困難又は不適当ですし(つまり、臨時的・短期的に使用される労働者について、常に解雇予告制度を適用して30日の予告期間をおくこと(又は解雇予告手当を支払わせること)を必要としては、短い契約期間を定めた趣旨に反したり、使用者に酷な場合が多くなります)、他方、労働者としても臨時的な就労と想定していることから、解雇予告制度の適用除外を認めたものです。

ただし、かかる適用除外者についても、一定期間を超えて使用された後に解雇をする場合には、解雇予告制度の適用を認めることにより、当該労働者を保護しようとしています。

 

以下、前掲の表の(一)~(四)の順に見ていきます。

 

 

(一)日日雇い入れられる者

◆「日日雇い入れられる者」です(第21条第1号)。

 

 

1 解雇予告制度が適用されない場合

 

「日日雇い入れられる者」とは、いわゆる日雇労働者です。

1日単位(暦日単位の他、継続24時間体制の場合も含みます)の契約期間で雇われ、その日(単位)の終了によって労働契約も終了する契約形式の労働者のことです。

 

例えば、日雇労働者を1日の途中で解雇するようなケースでも、解雇予告等の手続原則として必要ないことになります(もっとも、日雇労働者も、期間の定めのある労働契約を締結していることになりますから、やむを得ない事由がある場合でなければ、1日の途中では解雇できません。労働契約法第17条第1項民法第628条こちら以下))。

 

 

2 解雇予告制度が適用される場合

 

他方、「1箇月を超えて引き続き使用されるに至った場合」には、解雇予告制度が適用されます(第21条ただし書)。【選択式 平成30年度 A=「1か月」(こちら)】

この場合は、継続雇用されてきた労働者に不測の損害を及ぼさないことを重視して、解雇予告制度を適用したものと解されます。

 

 

(1)「1箇月を超えて引き続き使用されるに至った」の計算方法

 

例えば、6月5日に使用開始された日雇労働者について、いつから解雇予告制度が適用されるかを考えてみます。

この計算方法については、労基法上特に規定がありませんから、民法の期間計算の方法によります(民法第138条)。

 

 

(ⅰ)起算点

 

初日不算入が原則です(例外は、初日が午前零時から始まる場合です)。(民法第140条

ただし、本件は、「引き続き使用され」た期間を計算するのであり、従って、初日に端数があっても「使用され」ていることには変わりないですから、この趣旨に照らせば、「使用を開始された日」から起算することになります(初日算入)。

従って、上記ケースでは、6月5日から起算します。

 

 

(ⅱ)満了点

 

「日、週、月又は年によって期間を定めたとき」は、期間は、「その末日の終了をもって満了」しますが(民法第141条)、「週、月又は年によって期間を定めたとき」は、期間は、原則として、「起算日に応答する日の前日に満了」します(民法第143条第2項本文)。

そして、本件のように期間が1箇月の場合は、「週、月又は年によって期間を定めたとき」として、その期間は暦に従って計算しますので(民法第143条第1項)、休日等も含めて、カレンダーによる1箇月の計算となります。

そこで、上記ケースでは、起算日である6月5日に応答する日(=7月5日)の前日(=7月4日)に満了します(そして、期間の末日の終了に満了しますから、7月4日の24時に満了します)。

本件では、「1箇月を超えて引き続き使用されるに至った場合」として、「超えて」とありますから、この1箇月が満了した日(7月4日)を超えた場合を意味することになり、結局、7月5日以後も引き続き使用される場合に、解雇予告制度が適用されることとなります。 

 

 

(2)1箇月を超えて「引き続き使用される」こと

 

また、1箇月を超えて「引き続き使用される」ことが必要です。

この「引き続き使用される」とは、専ら同一事業場の業務に従事していたかどうかで判断されると解されています。

 

また、過去1箇月間に就業しない日があった場合は「引き続き使用され」たといえるかが問題ですが、専ら同一事業場の業務に従事していれば、休日以外に当該事業場の業務に従事しない日が多少あっても、1箇月継続して労働したという事実を中断するものではないとされています(【昭和24.2.5基収第408号】参考)。

 

以上で、「(一)日日雇い入れられる者」については終了です。続いて、(二)です。

 

 

(二)2箇月以内の期間を定めて使用される者

◆「2箇月以内の期間を定めて使用される者」です(第21条第2号)。

 

 

1 解雇予告制度が適用されない場合

 

2箇月以内の期間を定めて使用される者についても、解雇予告制度は適用されません(第21条第2号)。

期間の定めのある労働契約において、期間の満了による労働契約の終了は、解雇(=使用者による一方的な解約の意思表示)にはあたりませんから、本規定は、期間の満了の場合について適用されるのではなく、2箇月以内の期間を定めた場合に、その期間満了前に解雇する場合に適用されるものです。

 

なお、期間の定めのある労働契約において、期間満了前に解約できるのは、やむを得ない事由がある場合に限られます(労働契約法第17条第1項民法第628条こちら以下)。 

従って、次の2において解雇予告等の手続が必要となる場合は、やむを得ない事由がある場合として解雇を有効に行える場合であること(解雇権が発生していること)を前提としています。後述の(三)の場合も、同様です。 

 

 

2 解雇予告制度が適用される場合

 

他方、「所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合」は、解雇予告制度が適用されます(第21条ただし書)。

 

 

(1)所定の期間

 

所定の期間」とは、当該労働契約において定められた期間(当初の契約期間)をいうものと解されています(例えば、契約期間が1箇月なら1箇月が所定の期間であり、1箇月を超えて引き続き使用された場合に、解雇予告制度が適用されます)。

「2箇月」のことではありません。「所定」という文言から、以上のように解すのが自然となります。

 

 

◯過去問: 

 

・【平成15年問4D】

設問:

使用者が、2か月の期間を定めて雇い入れた労働者を、雇入れ後1か月を経過した日において、やむを得ない事由によって解雇しようとする場合には、解雇の予告に関する労働基準法第20条の規定が適用される。

 

解答:

誤りです。

本問は、「2箇月以内の期間を定めて使用される者」のケースですが、所定の期間(当初の契約期間である2か月)を超えて引き続き使用された場合に解雇するのではなく、所定の期間内に解雇するケースです(第21条ただし書)。

従って、第20条の解雇予告制度は適用されません。

 

 

 

(2)期間の計算方法

 

期間の計算方法については、上述の(一)の場合と同様に、民法の期間計算によります。

 

 

(3)期間の満了との関係

 

なお、上述の通り、期間の定めのある労働契約の場合、期間の満了による契約の終了自体については解雇は問題となりませんから、解雇予告制度も問題となりません。

そこで、所定の期間を超えて更新されてきた労働契約が期間満了(新たな更新の拒否=雇止め)により終了する場合にも、解雇は問題とならず、解雇予告制度も問題とならないのが原則です。

 

ただし、厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び満了時における紛争を防止するため必要な基準を定めることができ(第14条第2項)、これに基づき、「有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準」(いわゆる雇止めに関する基準)が定められています。

そこでは、有期労働契約を3回以上更新し、又は1年を超えて継続勤務している場合、その更新を拒否(雇止め)するには期間満了日の30日前までに予告をすることを求めています。

従って、この要件を満たす有期労働契約の更新拒否の場合は、30日前までの予告が必要となり、期間満了による契約終了においても解雇予告制度を適用したのに相当する機能を果たすことになります(ただし、この雇止めに関する基準は、行政指導の基準であり、当該基準に違反しても私法上の効力には影響しないと解されています。雇止めの基準についての詳細は、「期間の満了」の個所(こちら)で学習します)。

 

 

(4)その他

 

臨時工について1箇月ごとの期限付契約(有期労働契約)を書面又は口頭で反復更新していた事例において、形式的には雇用期間を定めた契約が反復更新されても実質においては期間の定めのない労働関係と認められる場合は、第21条第2号(2箇月以内の期間を定めて使用される者として、解雇予告制度が適用されないもの)に該当せず、第20条の解雇予告制度が適用される、とする旨の通達があります(【昭和27.2.2基収第503号】/【昭和24.9.21基収第2751号】参考)。

 

この通達については、判例の雇止め法理との関係が問題です(以下は、後に詳しく見ますので、初学者の方はカットして下さい)。

 

判例において、有期労働契約の期間満了による契約終了についての雇止め法理が形成されており、この雇止め法理は労働契約法の平成24年の改正により立法化されました(労働契約法第19条。平成25年4月1日施行)。

判例の雇止め法理とは、有期労働契約においても、実質的に期間の定めのない労働契約と同視できる場合、あるいは、労働者に雇用継続に対する保護されるべき期待が生じている場合には、期間満了による契約の終了(更新の拒否)についても、解雇権濫用法理を類推適用するというものです(詳しくは、「期間の満了」の個所(こちら)で学習します)。

つまり、このような場合には、更新の拒否(雇止め)は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、許されないものとされます。

また、更新拒否に合理性・相当性が認められて更新拒否が許されるときであっても、解雇予告制度等が類推適用されるものと解されます(ただし、最高裁は、解雇予告制度等の類推適用については、直接的には判示していません)。

 

上記の通達は、最高裁の雇止め法理の判例よりかなり古いものであり、現在のその位置づけは難しいですが、おそらく、実質的に期間の定めのない労働契約と同視できるケースにおいて、更新の拒否自体は合理性・相当性が認められるという事例と考えることができそうです。

そこで、更新の拒否は認められますが、解雇予告制度は(類推)適用されるものと理解できます。

(なお、労働契約法第19条は、解雇予告制度の(類推)適用等には言及していませんので、解釈により、解雇予告制度の(類推)適用を認めていくことになると思います。)

 

 

(三)季節的業務に4箇月以内の期間を定めて使用される者

◆「季節的業務に4箇月以内の期間を定めて使用される者」です(第21条第3号)。

 

 

1 解雇予告制度が適用されない場合

 

季節的業務に4箇月以内の期間を定めて使用される者についても、解雇予告制度は適用されません(第21条第3号)。

「季節的業務」とは、「春夏秋冬の四季、あるいは結氷期、積雪期、梅雨期等の自然現象に伴う業務に限られ、夏季の海水浴場の業務、農業における収穫期の手伝い、冬の除雪作業、漁業における魚の種類別の漁獲期の業務等がその例」とされます。

要するに、「季節的な業務」と押さえて、上記のような例を大まかにイメージすれば足ります。

 

なお、その季節の長さが4箇月以内であることは必要なく、契約期間が4箇月以内であることが必要です。

 

 

2 解雇予告制度が適用される場合

 

他方、「所定の期間を超えて引き続き使用されるに至った場合」は、解雇予告制度が適用されます(第21条ただし書)。

上述の「2箇月以内の期間を定めて使用される者」の場合と同様の文言となっており、内容もパラレルですので同個所(こちら)をご参照下さい。

 

 

◯過去問: 

 

・【平成19年問4E】

設問:

季節的業務に8月25日から10月30日までの雇用期間を定めて雇い入れた労働者を、使用者が、雇入れ後1か月経過した日において、やむを得ない事由によって解雇しようとする場合には、解雇の予告に関する労働基準法第20条の規定が適用される。

 

解答:

誤りです。

本問は、「季節的業務に4箇月以内の期間を定めて雇用される者」にあたりますが、所定の期間(8月25日から10月30日まで)を超えて引き続き使用されてから解雇されたケースではないですから、解雇予告制度の規定は適用されません(第21条ただし書)。

 

 

(四)試みの使用期間中の者

◆「試みの使用期間中の者」です(第21条第4号)。

 

 

1 解雇予告制度が適用されない場合

 

「試みの使用期間中の者」とは、いわゆる試用期間中の者です。

試用期間についての諸問題は、すでに「労働契約の成立過程の問題」の個所(こちら以下)で学習しました。

 

試用期間とは、本採用の前に従業員としての適格性を判断する期間であり、本採用に適しないと判断する合理性・相当性が認められる場合には、本採用の拒否が可能となるものです。

そこで、労働契約等において試用期間の定めがある場合は、本採用の拒否について解雇予告制度の適用を認めることは試用期間の趣旨に適合しないため、解雇予告制度の適用除外とされたものと解されます。

 

 

2 解雇予告制度が適用される場合

 

他方、「14日を超えて引き続き使用されるに至った場合」には、解雇予告制度も適用されます(第21条ただし書)。

試用期間は、あくまで本採用を前提としたものですから、労働者の保護を強化する見地から、14日を基準に解雇予告制度の適用を認めたものと解されます。

 

なお、起算点(起算日)については、先に触れましたように、使用を開始された日から起算します。

即ち、起算点については、初日不算入が原則ですが(例外は、初日が午前零時から始まる場合です。民法第140条)、本件は、「引き続き使用され」た期間を計算するのであり、従って、初日に端数があっても「使用され」ていることには変わりないですから、この趣旨に照らせば、「使用を開始された日」から起算することになります(初日算入)。

 

 

〇過去問: 

 

・【平成23年問3C】

設問:

労働基準法第20条所定の予告期間及び予告手当は、3か月の期間を定めて試の使用をされている者には適用されることはない。

 

解答:

誤りです。

試用期間中の者は、14日を超えて引き続き使用された場合は解雇予告制度が適用されますから、3か月の有期労働契約についても同様です(第21条ただし書)。

 

 

・【平成26年問2C】

設問:

試みの使用期間中の労働者を、雇入れの日から起算して14日以内に解雇する場合は、解雇の予告について定める労働基準法第20条の規定は適用されない。

 

解答:

正しいです(第21条ただし書)。

起算点について、前述のように、「雇入れの日」から起算することには注意です。

また、14日ジャストで解雇する場合には、解雇予告の制度の規定は適用されないことにも注意です。

 

  

 ○ 最後に、適用除外に関する総合的な問題を検討します。

 

(1)季節的業務に4箇月の期間を定めて使用される者について、当初の2箇月を試みの使用期間とした場合に、雇入れ日から1箇月で解雇した場合、解雇予告制度は適用されるか。

 

 

本例では、試用期間が設けられていますが、14日を超えて引き続き使用された後に解雇されているため、試用期間における解雇予告制度の適用除外にはあたりません。

しかし、本件労働者は、「季節的業務に4箇月以内の期間を定めて使用される者」にも該当し、所定の期間(=本件では、ジャスト4箇月)を超えて引き続き使用されているのではないため、この季節的業務のケースとして、解雇予告制度の適用除外にあたり、結局、解雇予告制度は適用されません。

 

つまり、解雇予告制度の適用除外事由第21条各号)の複数が競合する場合は、いずれか一つの適用除外事由に該当すれば解雇予告制度適用されません

第21条の条文上、「前条の規定〔=解雇予告制度〕は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない」としており、これは各号のいずれか一つに該当する場合には、解雇予告制度が適用されないという意味だからです。

 

 

(2)日日雇い入れられる者として雇用していた労働者を幾日か経過した後に2箇月の期限付き労働者として雇用し、その2箇月の期間満了前に解雇する場合、解雇予告制度が適用されるか。【過去問 平成8年問1B】

 

 

日雇労働者については、1箇月を超えて引き続き使用された場合には、解雇予告制度が適用されます(第21条ただし書)。

本件の場合、日雇労働契約とその後の2箇月の有期労働契約を一体的な契約と考えれば、日雇労働者を使用開始してから1箇月経過後の解雇であるなら、解雇予告制度が適用されるともなります。

 

しかし、日雇労働契約とその後の2箇月の有期労働契約は、形式的には別個の契約ですし、また、かかる事案において1箇月経過後に解雇予告制度が適用されるとしては、より日雇労働者の地位の安定を図ろうとした使用者の保護に欠けるともいえます。

そこで、両者の契約は別個のものであることを重視し、本件では、2箇月の有期労働契約において、当初の期間である2箇月を超えて引き続き使用される前に解雇していることになりますから、解雇予告制度は適用されないと解すべきとなります(第21条ただし書)。

 

【昭和27.4.22基収第1239号】も、この2箇月の契約が反復継続して行われたものでなく、かつ、当該契約期間が2箇月以内のものである限り、第21条第2号〔=2箇月以内の期間を定めて使用される者〕に該当するので、解雇予告の問題は生じないとしています。

 

 

(3)日日雇い入れられる者を2箇月を超える期限付きもしくは無期限の一般労働者として雇用した場合において、その後2週間の試用期間中に解雇する場合、解雇予告制度が適用されるか。

 

 

本例でも、上記の(2)のケースと同様に、日雇労働契約とその後の労働契約とは別個の契約と解されます。

そして、後者の契約には14日の試用期間が付されているところ、この14日以内に解雇されていますから、形式的には、試みの使用期間中の者に係る解雇予告制度の適用除外にあたることになり、解雇予告等の手続は必要ないともなりそうです。

 

ただ、日雇労働者として従来から使用している者について契約形式を変更した場合、従来と労働内容等が同じなら、試用期間を設ける必要はないともいえます(試用期間の目的は、当該労働者の適格性を判断するものであるところ、本件では、すでに適格性は認められたからこそ新契約が締結されたといえるからです)。

そこで、本例では、日雇から一般労働者への契約の更新に伴い、明らかに作業内容が切り替えられる等、客観的に2週間の期間が「試みの使用期間」と認められる場合のほかは、解雇予告制度が適用されると解されています(前掲の【昭和27.4.22基収第1239号】参考)。

 

 

以上で、解雇予告制度を終わります。次のページにおいて、解雇に関する残りの問題である解雇権濫用法理等について学習します。