平成30年度版

 

第2節 労働契約の期間

§1 概観

◆労働契約(雇用契約)は、期間を定めることも定めないことも可能です。

 

期間の定めの有無により、労働契約は、期間の定めのある労働契約(以下、「有期労働契約」ということがあります)と期間の定めのない労働契約(以下、「無期労働契約」ということがあります)に大別されます(なお、労働契約と雇用契約は、基本的に同義であるため、言い換えが可能です)。

 

ちなみに、有期労働契約の労働者を「有期契約労働者」と、無期労働契約の労働者を『無期契約労働者」ということが一般です(「有期労働契約」と「有期契約労働者」と順番が微妙に異なります)。

 

まず、この有期労働契約と無期労働契約についての法規制(主として解約の問題)について概要を見ます。 

 

(A)期間の定めのない労働契約(無期労働契約)の場合

まず、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)について、民法及び労基法等による規制(解約の問題)を概観します。

 

一 民法の取扱い = 解約の自由の原則

 

民法の雇用契約においては、期間の定めのない雇用契約の場合、各当事者は、いつでも解約の申入れができ解約の申入れ日から2週間経過により雇用契約は終了します(民法第627条第1項)= 解約の自由。

 

 

【民法】

民法第627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)

1.当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。

 

2.期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。

 

3.6箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、3箇月前にしなければならない。

 

※ この民法第627条第1項は、解雇権濫用法理に関係するため重要です。第2項と第3項は、試験対策上は、考慮しなくてよいと思われます。

 

(参考)

なお、後述の民法第628条(期間の定めのある雇用契約であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに解除できる)は、条文の形式上、期間の定めのない雇用契約についても適用されます。

そこで、民法上は、期間の定めのない雇用契約についても、やむを得ない事由があるときは、2週間の予告期間を経ずに、直ちに雇用契約を終了させることができます(ただし、損害賠償責任が生じるときがあります)。

もっとも、以上については、労基法により修正されます。詳細は、後述します(こちら)。 

 

 

二 労基法等による修正

 

上記の民法の取扱いによれば、期間の定めのない雇用契約においては、使用者も労働者もいつでも解約の申入れをできることになります = 解約の自由(2週間の予告期間を置くことは必要です)。

この各当事者の解約の自由について、使用者側から見た場合が「解雇の自由」であり、労働者側から見た場合が「辞職(任意退職)の自由」です。

 

しかし、使用者に「解雇の自由」を認めては、労働者の生活の安定が著しく害されますから、労基法等は、この使用者解雇の自由制限しています(詳細は、「労働契約の終了」の「解雇」の個所(こちら以下)で学習します)。

 

対して、期間の定めのない雇用契約における労働者辞職(任意退職)の自由については、労基法等においても特には制限していません。  

 

 

以上が、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)の場合の主として解約に関する法規制の概要です。

 

 

(B)期間の定めのある労働契約(有期労働契約)の場合

次に、期間の定めのある労働契約(有期労働契約)についてです。

 

労働契約に期間を定める場合は、原則として、3年上限です(第14条第1項柱書)。

この期間の上限等の問題については、次のページで詳しく見ます。

以下では、上記の期間の定めのない労働契約との対比の観点から、解約に関する民法・労基法等の規制の概要について見ておきます。 

 

一 民法の取扱い 

 

(一)中途解約の制限

 

期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)の場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに雇用契約を解除できます。

ただし、この解除事由が、一方当事者の過失によって生じたものであるときは、損害賠償責任を負います(民法第628条)。 

 

◆この民法第628条を反対解釈しますと、期間の定めのある雇用契約の場合は、やむを得ない事由があるとき以外は、各当事者は、解除できないことになります。

つまり、有期労働契約(有期雇用契約)の場合は、民法上原則として、中途解約認められません

  

これは、当事者が期間を定めた以上、当該期間の満了により契約も終了するというのが当事者の意思なのであり、中途解約は、この当事者意思に反し、契約は守られるべきという信義則にも反するからとできます。

 

 

【民法】

民法第628条(やむを得ない事由による雇用の解除)

当事者が雇用の期間を定めた場合であってもやむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

 

※ この条文は、必須知識です。 

 

※ なお、上記の民法第628条は、条文上、「当事者が雇用の期間を定めた場合であっても」となっていますから、「期間を定めない場合」についても適用されることが前提になっています。

即ち、期間の定めのない雇用契約については、前掲の民法第627条第1項により、(やむを得ない事由がないときは)2週間の予告期間をおけばいつでも解約できますが、他方、本件の第628条により、期間の定めのない雇用契約について、やむを得ない事由があるときは、直ちに(予告期間なしに)解約できることになります(ただし、前述(こちら)のように労基法により修正されるため、使用者の解雇の自由は制限されます)。

 

 

【参考】

以下の民法の規定は、参考知識であり、さしあたり覚えなくて結構です。

 

(二)その他

 

1 期間の定めのある雇用契約について、民法上、期間満了前の中途解約が認められている場合として、上記第628条以外にも次のような例があります。

 

(a)使用者が破産した場合(民法第631条)(労働者又は破産管財人が解約の申入れができます)。

 

(b)当事者の債務不履行の場合(民法第415条、第541条以下)

 

 

2 なお、期間の定めのある雇用契約についての民法の主要な規定として、前掲の民法第628条のほかに次があります(若干、頭の片隅にとどめる程度には読んでおいて下さい。のちほど関係する個所があります)。 

 

(ア)雇用期間が5年を超えたとき(又は、雇用が終身の間継続すべきとき)は、一方当事者は、原則として、5年経過後はいつでも契約の解除ができます(ただし、3か月前の予告が必要です)。(民法第626条)

 

(イ)黙示の更新

期間満了後も労働者が引き続きその労働に従事する場合に、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一条件でさらに雇用をしたものと推定されます。

この場合、各当事者は、民法第627条〔=上記の期間の定めのない雇用契約においてはいつでも解約申入れができるというもの〕の規定により解約の申入れができます(民法第629条第1項)。 

 

 

二 労基法等による修正等 

 

上記の一(民法第628条)の通り、民法上、期間の定めのある雇用契約の場合は、各当事者は、やむを得ない事由がない限り、期間満了前に契約を解除できないのが原則です = 中途解約の制限。

以下、これに関連する修正等について紹介します。

 

 

(一)使用者による解約(解雇)について = 労働契約法第17条第1項

 

使用者による期間満了前の解約(解雇)の場合は、労働契約法第17条第1項がこの民法第628条の中途解約の制限について強行規定化しています。

即ち、使用者は、期間の定めのある労働契約の場合、やむを得ない事由がなければ期間満了前解雇できません

 

 

【労働契約法】

労働契約法第17条(契約期間中の解雇等)

1.使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない

 

2.使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。

 

 

〇趣旨

この労契法第17条第1項が特に定められた理由は、上記の民法第628条が任意規定なのか強行規定なのかなどについて争いがあったため(即ち、従来、期間の定めのある雇用契約について、やむを得ない事由がなくても解約できるという定めをした場合、適法なのかどうかなどについて、争いがありました)、使用者が有期労働契約を中途解約する場合については、やむを得ない事由がない限りは認められないという中途解約の制限を強行規定として明確化したことにあります(従って、「使用者は、やむ得ない事由がなくても、有期労働契約を中途で解約できる」といった定めは、この労契法第17条第1項に違反し、無効となることになります)。

また、この労契法第17条第1項は、やむを得ない事由の証明責任を使用者に負わせることを明らかにしたものでもあります。

 

なお、この労契法第17条第1項は、やむを得ない事由があるときに「直ちに」解除できること、及び当事者に過失ある場合に「損害賠償責任」が生じることについては定めていませんから、これらについては、民法第628条がなお適用されるものと解されています。

ただし、「直ちに」解除できるのは労働者が解除する場合であり、使用者が解除する場合は、解雇予告の制度(のちにこちら以下で学習します)が適用され、「直ちに」解除できるという点は適用が排除されるものと解されます。

 

 

※ ちなみに、この労働契約法第17条は、同法の制定当時(平成20年3月1日施行)に規定されていましたが、平成24年の改正の際に、例えば、第1項に「(以下この章において「有期労働契約」という。)」が追加される等の文言の整理が行われています。

 

 

(二)労働者による解約について = 労基法第14条第1項による契約期間の制限

 

他方、この民法第628条によれば、労働者についても、期間の定めのある雇用契約の場合は、やむを得ない事由がない限り、期間満了前は契約を解除できないことになります。

 

もっとも、上記の通り(こちら)、民法第626条により、5年を超える期間の定めがある場合は、5年経過後は解約できます。

 

これでは、労働者の人身拘束という弊害が生じる危険性を否定できないため、労基法第14条第1項労働契約の期間上限を定めました。

以下(次のページになります)では、この労基法第14条第1項の労働契約の期間の制限を学習します。

 

(参考)

なお、民法上は、雇用契約の期間の上限(最長期間)も下限(最短期間)も制限されていないことは、一応、注意して下さい。

上記の民法第626条(こちらの5年に関する規定も、雇用契約の期間の上限を5年と定めているのではなく、単に5年経過後は解約を認めているものに過ぎません。

労働契約(雇用契約)の期間の上限定めているのは、労基法です(次のページで見ます)。なお、労基法も、期間の下限については定めていません。 

 

 

有期労働契約の全体構造

※ ここで、有期労働契約の全体構造をまとめておきます(詳しくは、「労働契約の終了」の「期間の満了」の個所(こちら)で学習します。以下は、後に学習する事項ばかりですので、流し読みで結構です)。

 

この全体構造では、有期労働契約を、「発生(成立)→ 変更(展開)→ 消滅(終了)」の時系列の視点で整理しています。 

 

 

有期労働契約の全体構造:

 

(一)有期労働契約の発生(成立)

 

○有期労働契約の発生(成立)に関連する労基法、労働契約法及び民法の規定を挙げますと、次の通りです。

 

1 労働契約の期間上限労基法第14条第1項こちら以下

 

= 原則として3年上限です。→ 次のページで学習します。

 

 

2 期間の定めのあることによる不合理な労働条件の相違の禁止労契法第20条こちら以下。この2は、平成24年の労働契約法の改正により新設された重要な規定です。平成25年4月1日施行)

 

 

3 労働契約締結の際労働条件の明示労基法第15条第1項こちら以下

 

労働契約締結の際の「労働契約の期間」に関する絶対的明示事項として、「労働契約の期間に関する事項」と「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項」があります。後者は、平成24年の労基法(施行規則)改正による新設規定です(平成25年4月1日施行)。

 

 

4 契約期間の長期化配慮義務(必要以上に短い期間による反復更新をしない配慮義務)労働契約法第17条第2項

 

 

 

(二)有期労働契約の変更

 

有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換(いわゆる無期転換ルール) 労働契約法第18条こちら以下平成25年4月1日施行)

 

 

 

(三)有期労働契約の消滅(終了)

 

○有期労働契約の終了に関連する規定は、以下の通り、大きくに分かれます。

 

1 民法上、期間の定めのある労働契約(雇用契約)は、やむを得ない事由があるとき以外は、各当事者は、解除できない民法第628条)のが原則です = 中途解約の制限。

 

⇒ そこで・・・

 

(1)労働者については

 

労働契約の期間満了前は、やむを得ない事由がない限り、解約できないのが原則であるため、労働者の人身拘束の問題が生じます。

 

→ 従って、労基法が、有期労働契約期間の上限を定めました(労基法第14条第1項)。(上記の1ですでに触れました。詳細は、次のページで見ます。)

 

 

(2)使用者については

 

労働契約法第17条第1項が、上記民法第628条を徹底し、使用者は、期間満了前は、やむを得ない事由がない限り解雇(解約)できないことを強行規定化しました = 雇用保障の効果。

 

 

2 他方、有期労働契約は、期間の満了により、当然に終了するのが原則です(それが当事者間の合意(契約)であるためです)= 自動終了の効果。

そこで、期間満了の際は、基本的には、合意により更新がなされるか(あるいは、民法第629条第1項の黙示の更新があるか)、それとも、更新されないか(雇止め)が問題になるだけとなります。

この使用者が有期労働契約の更新を拒否することを「雇止め」といいます。

 

しかし、使用者による雇止めを無制約に認めますと、有期契約労働者は不安定な地位におかれることになるため、その保護が問題になります。

この雇止めに係る有期契約労働者の保護に関する規定としては、次のようなものが挙げられます。

 

(1)雇止めに関する基準等労基法第14条第2項、第3項。【平成24.10.26厚生労働省告示第551号】の「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(こちら以下))

 

 

(2)雇止め法理労働契約法第19条こちら以下)(この(2)は、平成24年の労契法の改正により新設されました(平成24年8月10日施行)。)

 

 

 

次のページからは、労働契約の期間についての詳細を学習します。