平成30年度版

 

第3節 労働契約の成立過程の問題

序論 労働契約の成立過程の問題の体系

労働契約の成立過程の問題については、次の事項を学習します。


〈1〉「募集、求人等」については、雇用対策法、職業安定法、労働者派遣法等において規律されています。労働一般で学習します。〈2〉以下は、本節で学習します。

 

なお、〈2〉から〈4〉については、労基法が直接規定しているわけではなく、むしろ労働一般の労働契約法の問題といえます。

ただ、当サイトでは、これらも労働契約に関する問題の一環として整理するとわかりやすいことを考慮して、ここで学習しておきます(実際の試験においても、例えば試用期間について、労基法の【選択式 平成22年度 A】で出題されています)。

これらについては、判例を中心にポイントを押さえます。

 

〈5〉は、労基法で規定されているものであり、出題も多いです。明示事項等の知識をしっかり記憶することがカギです。

 

このページにおいては、上記の〈1〉及び〈2〉について学習し、次のページにおいて〈3〉及び〈4〉、さらに次の次のページにおいて〈5〉の労働条件の明示について学習します。

 

なお、前述しましたが、時系列からしますと、一般には、この「労働契約の成立過程の問題」の後に、今まで学習してきました「労働契約の成立の問題」が来ることになります。ただ、後者の労働契約の成立要件をまず明確に押さえた方がわかりやすいので、順番を逆にして学習しています。

 

 

第1款 募集、求人等

◆求人者(企業等)が求職者を探す方法としては、募集、職業紹介、労働者供給又は労働者派遣等があります。

 

一 募集

「労働者の募集」とは、「労働者を雇用しようとする者が、自ら又は他人に委託して、労働者となろうとする者に対し、その被用者となることを勧誘すること」(職業安定法第4条第5項)をいいます。

 

○労働者の募集には、次の2種類があります。

 

・直接募集 = 求人者が自ら募集する場合

 

➡ 原則として、自由です。

 

・委託募集 = 求人者が、被用者以外の第三者に委託して、募集する場合

 

➡ 職業安定法により規制されています。

 

 

二 職業紹介

「職業紹介」とは、「求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすること」(職業安定法第4条第1項)をいいます。

 

➡ 職業安定法により規制されています。

 

 

三 労働者供給

「労働者供給」とは、「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させること(労働者派遣に該当するものを含まないもの)」(職業安定法第4条第6項)をいいます。

 

➡ 職業安定法により、原則として、労働者供給事業を行うこと等は禁止されています。

 

※ 労働者供給については、こちらで見ました。より詳しくは、労働一般のこちら以下で学習します。 

 

 

四 労働者派遣

「労働者派遣」とは、「自己の雇用する労働者を、その雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること(当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないもの)」(労働者派遣法第2条第1号)をいいます。

 

➡ 労働者派遣法により規制されています。

 

※ 労働者派遣については、こちらで見ました。より詳しくは、労働一般のこちら以下で学習します。

 

 

続いて、採用の問題に入ります。

 

 

第2款 採用

採用の自由

使用者には、原則として、契約の自由ないし採用の自由が保障されています。

 

即ち、憲法上、職業選択の自由(その一環としての営業の自由憲法第22条第1項)及び財産権の保障憲法第29条)といった経済的自由権が保障されており、契約の自由ないし採用の自由も、この経済的自由権に含まれるものと解されます。

 

ただし、かかる経済的自由権も無制約なものではありません(公共の福祉による制約。憲法第13条、第22条第1項、第29条第2項など)。

実際にも、契約の自由ないし採用の自由が法律上制約されている例は、後述のように少なくないです。

 

なお、後述しますように、そもそも、憲法の人権規定は、私人間には直接的には適用されず、民法第90条等を通じて間接的に適用されるものである点には注意です。

 

契約の自由ないし採用の自由は、具体的には、(1)選択の自由、(2)募集等の方法の自由、(3)契約締結の自由などからなります。

以下、重要な点を見ておきます((2)の募集等の方法の自由については、前掲〔1〕の「募集、求人等」を参考にして下さい)。 

 

 

 

 ※ 前提として、営業の自由に関する憲法の規定について見ておきます。

試験対策上は厳密に覚える必要はありませんが、使用者の利益として、営業の自由・経営の自由が問題になることについては今後もよく登場しますので、一応、以下の条文及び解説に目を通して下さい。

    

【参考条文 憲法】

憲法第22条

1.何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

 

2.何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

 

 

※ 営業の自由については、憲法上、直接明記されているわけではありません。

しかし、上記憲法第22条第1項は、職業が生計維持を図る手段であるとともに、人格の実現・展開を図る場であることに鑑み、「職業選択の自由」を保障することによって、経済的自由を実質化し、さらに、自己実現を可能にさせようとした趣旨と考えられます。

そうしますと、選択した職業を遂行する自由(=営業の自由)も保障されなければ、経済的自由や自己実現の充分な保障も図れず、職業選択の自由の保障も無意味になる以上、営業の自由も職業選択の自由の一環として当然に保障されているものと解されます。

従って、営業の自由は、憲法第22条第1項の職業選択の自由の一環として憲法上保障されていることになります。

もっとも、先に触れました通り、かかる経済的自由(営業の自由)も無制約なものではなく(憲法第22条第1項「公共の福祉」等)、一定の制約を受ける場合はあります(他者の人権や権利・利益と衝突するような場合に、一定の調節が不可欠になるからです)。

 

 

最高裁判例(【薬事法違憲判決=最大判昭和50.4.30】)も、次のように判示しています。

 

「憲法22条1項は、何人も、公共の福祉に反しないかぎり、職業選択の自由を有すると規定している。職業は、人が自己の生計を維持するためにする継続的活動であるとともに、分業社会においては、これを通じて社会の存続と発展に寄与する社会的機能分担の活動たる性質を有し、各人が自己のもつ個性を全うすべき場として、個人の人格的価値とも不可分の関連を有するものである。右規定が職業選択の自由を基本的人権の一つとして保障したゆえんも、現代社会における職業のもつ右のような性格と意義にあるものということができる。そして、このような職業の性格と意義に照らすときは、職業は、ひとりその選択、すなわち職業の開始、継続、廃止において自由であるばかりでなく、選択した職業の遂行自体、すなわちその職業活動の内容、態様においても、原則として自由であることが要請されるのであり、したがつて、右規定は、狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由の保障をも包含しているものと解すべきである。」

 

 

また、次の憲法第29条第1項は、財産権の保障を定めています。これによって、使用者の財産権も保障を受けることになります。

 

【憲法】

憲法第29条  

1.財産権は、これを侵してはならない。

 

2.財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。

 

3.私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

 

 

以下、本論に戻ります。 

 

 

§1 選択の自由

使用者は、契約の自由ないし採用の自由の一環として、どのような労働者をどのような条件等で雇い入れるかについて自由に決定できるのが原則です(選択の自由)。

しかし、選択の自由も無制約なものではなく、以下のような法律等による規制・制約があります。

主要なものだけざっと見てみます(以下は、主として、労働一般で詳しく学習する事項です。ここでは、ざっと流し読みして下さい。ただし、五については、ここで詳しく学習しておきます)。

 

一 男女雇用機会均等法による制約

 

(一)性別を理由とした募集・採用の差別の禁止(均等法第5条(労働一般のパスワード)

 

(二)間接差別の禁止(同法第7条

 

※ 男女雇用機会均等法については、労働一般のこちらで学習します。

 

 

二 雇用対策法による制約

 

事業主は、労働者の募集及び採用について、厚生労働省令で定めるところにより、年齢にかかわりなく均等な機会を与えることが必要です(雇用対策法第10条)

 

 

三 障害者雇用促進法による制約

 

事業主に、一定数以上の障害者の雇用が義務づけられています(障害者雇用促進法第37条、43条以下)。

 

 

四 労働組合法による制約

 

労働組合法第7条第1号本文(労働一般のパスワード)は、使用者について、「労働者が労働組合の組合員であること」等を理由として解雇その他不利益取扱いをすること(同号本文前段)や労働組合から脱退等することを雇用条件とすること(同号本文後段=いわゆる黄犬契約)を禁止しています(不当労働行為の禁止です)。

 

ただし、求職者が「組合員」であることを理由に使用者が採用を拒否することがこの労組法第7条第1号本文に違反するのかについては、争いがあります。

 

最高裁は、原則として違反しないとしています。

 

以下は、労働組合法の問題であり、詳細な説明が必要になるため、労働組合法(労組法のこちら以下)で学習します。

ひとまず、次のように、判例は原則として違反しないとしているという結論のみを覚えておいて下さい。

 

即ち、【JR北海道・JR貨物事件=最判平15.12.12】において、次のような結論が採られました。

労働組合法第7条第1号本文は不利益取扱い(同号本文前段)と黄犬契約(同号本文後段)を禁止しているところ、前者(前段)は雇入れにおける差別的取扱いが含まれる旨を明示していず、雇入れ段階については後段の黄犬契約のみを禁止したものであるという雇入れ段階と雇入れ後を区別する解釈をして、組合員であることを理由とする雇入れの拒否は、特段の事情がない限りは、第1号本文の不利益取扱い禁止に違反しないとしています。

 

しかし、この判例に対しては、批判が多いです。

この判例の立場からですと、産業別組合・職業別組合等に加入している組合員は、転職の際に、組合員であることを理由として不採用となっても、基本的に、不当労働行為制度による保護を受けられないことになります。

これが、労働基本権を保障する憲法第28条やそれを受けて労働基本権の保障の実効化を図る労組法の目的と整合するとは思えません。 

 

なお、本判決の雇い入れの段階において使用者の採用の自由を強調する考え方は、次の五の判例の考え方を承継しているものです。

 

ここでは、この程度で終わります。

 

 

五 思想・信条を理由とする採用拒否の問題

 

上記のような法律上の選択(採用)の自由の制約がない限りは、使用者は選択の自由を制約されないのでしょうか。

この点で、思想・信条を理由とする採用拒否が可能かが問題となります。

 

これについては、三菱樹脂事件判決という有名な判例があります。この判決は重要ですので(複数回の過去問の出題もあります)、詳しく見てみます。事案の後、判旨を理解しやすいように、まず筆者の解説を載せます。

 

【三菱樹脂事件=最大判昭48.12.12】

 

(事案)

新規卒業者として私企業に採用されたAが、3か月の試用期間の満了直前本採用を拒否された事案。その理由として、Aが採用試験の際に提出した身上書に学生運動に関与した事実を記載しなかったことや面接試験における質問に対しても学生運動に関与しなかった等の虚偽の回答をしたことから、管理職要員としての適格性を欠くとされたもの。

 

(解説)

思想・信条を理由として採用を拒否したとして、憲法第19条の思想・良心の自由や同法第14条の平等原則に違反しないか、また、労基法第3条(均等待遇)の「信条」を理由とした差別的取扱いにあたらないかが問題となります。

 

なお、労基法第3条の均等待遇の詳細については、後述の「労働憲章」の個所(こちら)で説明します。また、試用期間についても、のちに詳しく見ます(こちら)。

 

 

【参考条文 憲法】

憲法第19条

思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

 

 

憲法第19条違反等の問題については、前提として、憲法の人権規定が、私企業と従業員といった私人間にも適用されるのかは問題になります(憲法の私人間効力の問題といいます。ここは、直接は試験の対象ではありませんので、ざっと読んで頂ければ足ります。後掲の判旨の理解のため、参考として記載しておきます)。

 

この点、憲法の人権規定は、その歴史的沿革(人権侵害の最たるものは国家権力によるものでした)や私的自治の尊重の必要性(憲法の人権規定が私人間にも公権力に対するのとまったく同様に直接適用されるとしては、他者の人権が不当に制約され私的自治が害されすぎることになります)を考慮しますと、本来、公権力を対象とするものであり、私人間には直接的には適用されないものと解されます。

ただし、憲法の目的とする個人の尊厳(憲法第13条)の実現のためには、私人間のいかなる人権制約も憲法上の問題とならないとはできませんから、憲法の人権規定(その趣旨)は民法90条等の私法法規を媒介として間接的に適用されると考えられます。これを間接適用説(間接効力説)といいます。

 

いわば、憲法の人権規定を私人間にはソフトに適用するという考え方です。

例えば、少人数の政治活動を行うサークルが入会希望者の思想を問題として入会を断った場合に、当然に憲法第19条の思想良心の自由を侵害するとなると解しては、気心の知れた少人数によるサークル活動を行うことすら支障が生じかねません。

この間接適用説については、判例も同様の立場に立っているとされます(なお、憲法学説上は、近年、私人間効力の法律構成等をめぐって議論が活発ですが、間接適用説の枠組みを維持して問題ありません)

 

そこで、思想・信条を理由とした採用の拒否が、例えば、民法第90条の公序良俗に違反しないか、あるいは民法第709条の不法行為を構成しないかといった判断の際に、憲法第19条(思想・良心の自由)等の趣旨を考慮することになります。

 

この場合、具体的には、人権の性質、当該法律関係の性質・態様、対立利益の性質、制約の目的、制約の態様などを考慮して総合判断することになります(従って、具体的事案についての結論は、裁判官によっても、一般市民によっても異なることになり、結局、いずれの考え方・法律構成がより説得力を持つのかにかかってきます)。

 

この点、上述(こちら)のように 、企業も、憲法上、営業の自由(憲法第22条第1項の職業選択の自由)及び財産権の保障(同法第29条第1項)の一環として経済活動の自由を保障されていること、そして、雇用関係は人的な継続的契約関係であり信頼関係が重視されること(特に、従来、日本では、終身雇用制による長期雇用システムが一般であったため、労使間の信頼関係は重視されたといえます)等を考慮するなら、企業の採用の自由を尊重すべきという結論をとることは可能です。

 

判例は、企業の採用の自由を尊重する立場をとりました。そして、労基法第3条の均等待遇についても、同規定は、雇入れ後を規律するものと限定的に解釈し、雇入れの段階の信条を理由とする差別的取扱いまでは規律していないものとしました。

試験対策上は、この判例の結論と下記の判旨の重要キーワードを押さえることが不可欠です。

 

しかし、試験対策とは別に考えますと、この判例の結論が妥当なのかは問題です。

即ち、他方において、思想・良心の自由は、個人の人格そのものを形成するものであり、個人の尊厳(憲法第13条)の実現のため中核的な権利であること(多数決的決定により当然に制約が許容されるような権利とはいえません)、また、精神的自由権は、不当な人権侵害を監視し抑制する手段としての性格も有しますから、その制約は他の全ての人権を危険にさらす恐れもあること、そして、就職は、単なる私的サークルに入会するようなケースとは異なり、個人の経済的基盤を形成し生きていくために重要な節目の一つになるものであること、さらに、採用段階での差別が、最も社会的影響も大きく、差別的効果が重大であるといえること等を考えますと、思想・良心の自由が、企業の経済活動の自由に当然に劣位するというのは妥当でないといえます。

そこで、むしろ、思想・良心の自由に重きを置いて、企業の経済活動の自由(採用の自由)との調整を図るべきとなり、この見地からは、例えば、職業的適格性や能力との関連性なく、もっぱら思想・信条を理由として採用拒否をすることは公序良俗(民法第90条)に違反し違法であると解することができます。

この問題は、社労士試験に合格された後、再度検討して頂きたい課題です。  

 

 

※ 以下、判決文を掲載します。太字部分に注意して押さえて下さい。この判決は、まだ選択式には出題されていませんから、労基法や労働一般で注意する必要はあります。

 

(判旨)

 

※ まず、憲法の私人間効力についての判示です。ここは、ざっと読んで下さい。

 

「原判決は、前記のように、上告人〔=会社〕が、その社員採用試験にあたり、入社希望者からその政治的思想、信条に関係のある事項について申告を求めるのは、憲法19条の保障する思想、信条の自由を侵し、また、信条による差別待遇を禁止する憲法14条、労働基準法3条の規定にも違反し、公序良俗に反するものとして許されないとしている。

 

(一)しかしながら、憲法の右各規定は、同法第3章のその他の自由権的基本権の保障規定と同じく、国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的に出たもので、もつぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない。このことは、基本的人権なる観念の成立および発展の歴史的沿革に徴し、かつ、憲法における基本権規定の形式、内容にかんがみても明らかである。のみならず、これらの規定の定める個人の自由や平等は、国や公共団体の統治行動に対する関係においてこそ、侵されることのない権利として保障されるべき性質のものであるけれども、私人間の関係においては、各人の有する自由と平等の権利自体が具体的場合に相互に矛盾、対立する可能性があり、このような場合におけるその対立の調整は、近代自由社会においては、原則として私的自治に委ねられ、ただ、一方の他方に対する侵害の態様、程度が社会的に許容しうる一定の限界を超える場合にのみ、法がこれに介入しその間の調整をはかるという建前がとられているのであつて、この点において国または公共団体と個人との関係の場合とはおのずから別個の観点からの考慮を必要とし、後者についての憲法上の基本権保障規定をそのまま私人相互間の関係についても適用ないしは類推適用すべきものとすることは、決して当をえた解釈ということはできないのである。

〔中略〕

すなわち、私的支配関係においては、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、これに対する立法措置によつてその是正を図ることが可能であるし、また、場合によつては、私的自治に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によつて、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存するのである。そしてこの場合、個人の基本的な自由や平等を極めて重要な法益として尊重すべきことは当然であるが、これを絶対視することも許されず、統治行動の場合と同一の基準や観念によつてこれを律することができないことは、論をまたないところである。」

 

※ 以下、思想、信条の自由等と企業の経済活動の自由との調整の部分です。ここの太字は、チェックしておいて下さい。

 

「ところで、憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、22条、29条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り原則として自由にこれを決定することができるのであつて、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。憲法14条の規定が私人のこのような行為を直接禁止するものでないことは前記のとおりであり、また、労働基準法3条は労働者の信条によつて賃金その他の労働条件につき差別することを禁じているが、これは、雇入れ後における労働条件についての制限であつて、雇入れそのものを制約する規定ではない。また、思想、信条を理由とする雇入れの拒否を直ちに民法上の不法行為とすることができないことは明らかであり、その他これを公序良俗違反と解すべき根拠も見出すことはできない。

右のように、企業者が雇傭の自由を有し、思想、信条を理由として雇入れを拒んでもこれを目して違法とすることができない以上、企業者が、労働者の採否決定にあたり労働者の思想信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることも、これを法律上禁止された違法行為とすべき理由はない。

もとより、企業者は、一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあるから、企業者のこの種の行為が労働者の思想、信条の自由に対して影響を与える可能性がないとはいえないが、法律に別段の定めがない限り、右は企業者の法的に許された行為と解すべきである。また、企業者において、その雇傭する労働者が当該企業の中でその円滑な運営の妨げとなるような行動、態度に出るおそれのある者でないかどうかに大きな関心を抱き、そのために採否決定に先立つてその者の性向、思想等の調査を行なうことは、企業における雇傭関係が、単なる物理的労働力の提供の関係を超えて、一種の継続的な人間関係として相互信頼を要請するところが少なくなく、わが国におけるようにいわゆる終身雇傭制が行なわれている社会では一層そうであることにかんがみるときは、企業活動としての合理性を欠くものということはできない。のみならず、本件において問題とされている上告人の調査が、前記のように、被上告人の思想、信条そのものについてではなく、直接には被上告人の過去の行動についてされたものであり、ただその行動が被上告人の思想、信条となんらかの関係があることを否定できないような性質のものであるというにとどまるとすれば、なおさらこのような調査を目して違法とすることはできないのである。

〔中略〕

右に述べたように、企業者は、労働者の雇入れそのものについては、広い範囲の自由を有するけれども、いつたん労働者を雇い入れ、その者に雇傭関係上の一定の地位を与えた後においては、その地位を一方的に奪うことにつき、肩入れ〔編注:雇入れ〕の場合のような広い範囲の自由を有するものではない労働基準法3条は、前記のように、労働者の労働条件について信条による差別取扱を禁じているが、特定の信条を有することを解雇の理由として定めることも、右にいう労働条件に関する差別取扱として、右規定に違反するものと解される。

このことは、法が、企業者の雇傭の自由について雇入れの段階雇入れ後の段階との間に区別を設け、前者については企業者の自由を広く認める反面、後者については、当該労働者の既得の地位と利益を重視して、その保護のために、一定の限度で企業者の解雇の自由に制約を課すべきであるとする態度をとつていることを示すものといえる。」

 

 

・【過去問 労働一般 平成15年問5E】

設問:

「企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができる」旨の最高裁判所の判決があるが、法令による制限がない現状においては、使用者の採用の自由が保障されており、誰を採用するかは、使用者の自由である。

 

解答:

「法令による制限がない現状」とはいえません。上記§1の一~四(こちら)において触れましたように、採用(選択)の自由は、男女雇用機会均等法第5条(性別を理由とする募集・採用の差別禁止)などで制限がなされています。従って、設問は誤りです。

 

なお、上記の判決文の個所は、労基法の択一式平成9年でも出題されています。

 

 

以上で、「§1 選択の自由」について終わります。 

 

  

§2 契約締結の自由

契約締結の自由の一環として、使用者は、契約を締結しない自由も有します。

そこで、使用者による採用拒否が違法である場合において、不法行為に基づく損害賠償責任は生じても、労働契約の締結自体を強制することはできないのが原則と解されています(契約を締結しない自由は、私的自治の原則の根幹をなすといえるからです)。

 

 

以上で、「採用」に関する問題を終わります。次のページでは、「採用の内定」に関する問題を見ます。