令和6年度版

 

第1章 総則

労働者派遣法は、正式には、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」といいます(【昭和60.7.5法律第88号】)。

昭和60年7月5日に公布され、翌年7月1日から施行されました。

後に沿革を見ます(こちら)。

 

 

 

第1節 目的(第1条)

労働者派遣法の目的は、第1条 (目的条文)で規定されています。

太字部分(色付き文字の部分も含みます。以下、同じです)のキーワードを記憶して下さい。

 

 

【条文】

第1条(目的)

この法律は、職業安定法(昭和22年法律第141号)と相まつて労働力の需給の適正な調整を図るため労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を講ずるとともに、派遣労働者の保護等を図り、もつて派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的とする。

  

 

 

 

§1 労働者派遣の定義

労働者派遣とは、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないもの」とされます(第2条第1号)。

 

 

【条文】

 

※ 次の第2条は、熟読して下さい。これらの定義の詳細については、改めて「用語の定義」のページで学習します(こちら)。

第4号の紹介予定派遣についても当該個所で見ますので(こちら)、ここではざっとで結構です。この第4号においては、「派遣元事業主」と「派遣先」の定義を確認しておいて下さい。

 

 

第2条(用語の意義)

この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

 

一 労働者派遣

 

自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。

 

 

二 派遣労働者 

 

事業主が雇用する労働者であつて、労働者派遣の対象となるものをいう。

 

 

三 労働者派遣事業 

 

労働者派遣をとして行うことをいう。

 

 

四 紹介予定派遣 

 

労働者派遣のうち、第5条第1項許可を受けた者(以下「派遣元事業主」という。)が労働者派遣の役務の提供の開始前又は開始後に、当該労働者派遣に係る派遣労働者及び当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を受ける者(「第3章第4節〔=労働基準法等の適用に関する特例等〕を除き、以下「派遣先」という。)について、職業安定法その他の法律の規定による許可を受けて、又は届出をして、職業紹介を行い又は行うことを予定してするものをいい、当該職業紹介により、当該派遣労働者が当該派遣先に雇用される旨が、当該労働者派遣の役務の提供の終了前に当該派遣労働者と当該派遣先との間で約されるものを含むものとする。

 

 

 

労働者派遣については、次の図でイメージして下さい。

 

労働者派遣は、上記図(派遣元事業主甲と派遣労働者丙との間の法律関係)において、労働契約関係(雇用契約関係)が存在すること、及び(派遣先事業主乙と派遣労働者丙との間の法律関係)において、指揮命令関係が存在することが特徴(要件)です。

 

なお、上記第2条第1号の後段「当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まない」とは、次のページで見ます「在籍出向(在籍型出向)」を労働者派遣から除外するという意味です。

 

 

ちなみに、前掲の図では、乙の部分について、「派遣先(事業主)」とかっこ書を用いていますが、派遣法においては、「派遣先事業主」という表現は用いられていません(派遣先は、必ずしも事業主でなくてもよいためです)。

そして、この乙について、派遣法では、基本的に、「派遣先」又は「労働者派遣の役務の提供を受ける者」と表現されます。

前者の「派遣先」は、「派遣元事業主」(労働者派遣事業に係る許可を受けた者をいいます)から労働者派遣の役務の提供を受ける者のことをいいます(第2条第4号)。

後者の「労働者派遣の役務の提供を受ける者」とは、広く労働者の派遣を受ける者のことであり、労働者派遣事業に係る許可を受けていない者(無許可事業主から派遣を受けた者も含む概念です(詳しくは、こちら以下で説明します)。

以上の乙について、当サイトでは、便宜上、「派遣先事業主」と表現することが多いです。

 

 

 

※ 派遣法の学習の視点等

細かい問題に入っていく前に、派遣法の学習の視点等について触れておきます。

 

1 利益対立

派遣法の学習が難しいのは、労働者派遣が、前掲の図(こちら)のように、派遣元事業主(甲)、派遣先事業主(乙)及び派遣労働者(丙)という三者が関与する関係であることによります(三面関係の法律関係です)。

 

派遣においては、雇用関係(労働契約関係。同図(こちら)のA)と指揮命令関係(使用関係。同図のC)が分離しており、いわゆる「間接雇用」の1つの形態となります。

 

そこで、この三者のそれぞれの利益が問題となり(例えば、派遣先事業主(乙)については、派遣労働者を利用した省コストによる円滑・柔軟な経営の要請が問題となりますし、他面、派遣労働者については、その雇用の安定の配慮が必要となります)、さらに、派遣先事業における常用労働者正社員の雇用職域の保護(派遣先の常用労働者が派遣労働者にとって代わられるおそれ、いわゆる常用代替の防止です。日本的な長期雇用の慣行(以前は終身雇用が一般的でした)に対する配慮の必要性となります)も問題となります。

 

このような事業主(派遣元及び派遣先の事業主)の利益、派遣労働者の利益及び派遣先事業における常用労働者の利益という視点のほか、これら関係者の利益を保護し社会経済上の弊害を防止するという見地(悪質な派遣業者の規制等)から、労働者派遣事業自体の適正な運営の確保という視点も必要となります。

即ち、労働者派遣事業は、もともと労働力の需給の適正な調整を図るため(第1条)、職業安定法が規制する労働者供給事業から分離されて許容された制度であり(詳しくは次のページで見ます)、労働力の需給調整システムとして労働者派遣事業が適正に運営されることが不可欠です。

 

さらには、労働者派遣を臨時的かつ一時的なものに限定しようとする考え方(平成27年の改正により、第25条の条文中に「派遣就業は臨時的かつ一時的なものであることを原則とするとの考え方」が明記されました。ただし、従来から考慮されていた考え方です)も重要です。

この「派遣就業は臨時的かつ一時的なものであることを原則とするとの考え方」が採られる理由としては、先に少し触れました通り、派遣先事業における常用労働者の雇用の安定常用代替の防止)の必要性のほか、派遣労働者の保護の要請(労働条件が低くなりがちなこと、雇用の安定やキャリア形成が図られにくいことから、望まない労働者の派遣就業への固定化を防止する必要性があること)等が挙げられます。

 

以上、派遣法の学習においては、これらのキーワードに配慮し、その制度が主にどのキーワードに関係しているのかを考えることが制度の理解に役立ちます。

 

なお、「派遣就業は臨時的かつ一時的なものであることを原則とするとの考え方」や常用代替の防止を重視しすぎますと、実際上は、派遣労働者の雇用の安定(派遣労働による長期間の雇用の安定)が害されることにもなります。

そして、労働者派遣の場合、労働者派遣をどう評価するのか(プラスに評価するのか、マイナスに評価するのか)という問題自体が難しいです(意に反して派遣就労をしている労働者が存在する一方で、派遣就労によってワーク・ライフ・バランスを確保しているような労働者も存在します。従って、派遣労働者に複数のタイプが存在することを考慮して、それぞれに対応できる適切な制度が用意されている必要があります)。

派遣法が難解である大きな原因として、以上のような背景が影響しているものと思われます。

なお、労働者派遣の根底には、労働者派遣をできるだけ規制を受けない形で利用したいという企業側の利益と、派遣労働者の保護を重視する考え方(あるいは、労働者派遣を制限的なものとして捉える考え方)との対立という問題が潜んでいるものと考えられます。

 

 

【条文】

 

※ 次の第25条の下線部分は、平成27年の改正により新設されました(平成27年9月30日施行)。重要条文ですので、太字部分に注意です。

 

第25条(運用上の配慮)

厚生労働大臣は、労働者派遣事業に係るこの法律の規定の運用に当たつては、労働者の職業生活の全期間にわたるその能力の有効な発揮及びその雇用の安定に資すると認められる雇用慣行並びに派遣就業は臨時的かつ一時的なものであることを原則とするとの考え方を考慮するとともに、労働者派遣事業による労働力の需給の調整職業安定法に定める他の労働力の需給の調整に関する制度に基づくものとの調和の下に行われるように配慮しなければならない。

 

 

※ なお、上記条文中の「労働者の職業生活の全期間にわたるその能力の有効な発揮及びその雇用の安定に資すると認められる雇用慣行」とは、主として、いわゆる「長期雇用の慣行」(長期雇用システム)を意味しています。 

 

 

 

2 体系

(1)三面関係

 

なお、派遣法などの労働一般の法律科目の学習については、「発生(成立)➡  変更(展開)➡ 消滅(終了)」という時系列により全体を整理する必要はなく、当該法の目次に沿って(条文の順に)整理していけば足ります。

ただ、所々、時系列による整理も役立ちます(例えば、労働者派遣事業の規制については、「発生 = 許可」➡「変更 = 許可の有効期間の更新等」➡「消滅 = 事業の廃止や許可の取消し等」の視点により整理できます)。

派遣法の場合は、当事者が三者生じる三面関係の法律関係という特殊なケースですから、基本的には、法の体系に沿って整理するのが安全です。  

 

 

 

(2)法の体系

 

ところで、派遣法は、第2章において、「労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置」を定め、第3章において、「派遣労働者の保護等に関する措置」を定めています。

このうち、後者の「派遣労働者の保護等に関する措置」の内容(第1節~第4節)は、次の通りです。 

 

第1節 労働者派遣契約(第26条~第29条の2) 

 

第2節 派遣元事業主の講ずべき措置等(第30条~第38条) 

 

第3節 派遣先の講ずべき措置等(第39条~第43条) 

 

第4節 労働基準法等の適用に関する特例等(第44条~第47条の3) 

 

上記のうち、第1節から第3節については、次のようにイメージできます。

 

第1節 労働者派遣契約」は、右の図の問題です。

 

第2節 派遣事業主の講ずべき措置等」は、右の図のの「派遣元事業主」の講ずべき措置等の問題です。

 

第3節 派遣の講ずべき措置等」の問題は、同図のの「派遣先(事業主)」の講ずべき措置等の問題です。

 

 

 

3 学習上の注意点

 

(1)派遣法では、似たような細かい制度が多いです(例えば、「通知」は多くの個所で登場します)。

とりわけ、「派遣事業主の講ずべき措置等」と「派遣の講ずべき措置等」で学習する事項は、ひとつの規制の仕組みを派遣元事業主側と派遣先側からそれぞれ眺めているようなものが多く、類似する知識が頻出することになります。

当サイトでは、リンクの設定により、関連する知識を瞬時に確認できるように配慮しています。リンク先を確認することにより、知識の整理を行ってください。

 

(2)派遣法の本試験における出題状況ですが、労働一般以外の科目で、派遣法に関連する知識が頻出します(それらは、主に各科目において整理しています)。

対して、労働一般においては、派遣法はむしろ出題が少ない方です。

そこで、労働一般における派遣法の学習としては、あまり細かい知識に入り込むより、出題されやすい個所にウエイトを置いて学習するのが得策です。

そして、近時の改正である平成27年施行の改正事項のほか、令和2年施行の改正事項については力を入れておく必要があります。

 

のちに派遣法の沿革の個所でも整理しますが、平成27年施行の改正事項については、期間制限(事業所単位の期間制限及び個人単位の期間制限)と労働契約申込みみなし制度に注意が必要です(労働契約申込みみなし制度は、平成24年の改正により新設された制度ですが、平成27年10月1日からの施行です。他の平成27年施行の改正は、基本的には、平成27年9月30日施行となっています)。

 

今後、より注意が必要なのは、働き方改革関連法による令和2年4月1日施行の改正事項です。

ここでは、「雇用形態に関わりない公正な処遇の確保」の観点から、派遣労働者について派遣先の労働者との均等・均衡待遇のルールが定められる等の大きな見直しが行われています(詳細は、こちら以下)。

令和2年度から試験対象となりました。

 

※ 近時の出題としては、平成28年度の労働一般の択一式試験(【平成28年問2D(こちら)】)では、先に警戒していましたように、平成27年施行の改正事項の中から個人単位の期間制限(第35条の3)が問われました。

 

その後、平成29年度の労働一般の試験においては、派遣法からは出題されませんでしたが、平成30年度(【平成30年問4B(こちら)】では、労働者募集の周知義務(第40条の5第1項)について出題されました(これも、平成27年施行の改正事項です)。

 

令和元年度から令和3年度までの試験においては、出題されませんでしたが、令和4年度の択一式(【令和4年問4D(こちら)】)において、段階的かつ体系的な教育訓練等(第30条の2)が出題されました。平成27年施行の改正事項からでした。

 

 

※ なお、一般常識の試験の場合、対象科目が広く、しかも、出題される問題数が少ないため(ある科目が択一式で出題される場合、通常は、1問(5肢)程度しか出題されません)、出題されるかどうか、また、出題されるとしてもどこが出題されるのかを把握しにくい難点があります。

そこで、当サイトにおける労働一般・社会一般の一般常識のテキストの編集については、「広く浅く」カバーしつつ、選択式に出題されやすい個所は条文を中心に深く掘り下げていくという基本方針を採っています。

また、出題が多い科目や内容が難しい科目等については、ある程度詳しく説明をしています。

 

派遣法の場合は、労働一般としては出題が少ないのですが、内容的には難しく、また、近時大きな改正がなされていることから、「広くかつある程度深く」説明していくスタイルをとりました。

 

 

前ページの目次でご覧頂けるのですが、当サイトでは、派遣法の全条文をカバーしています。そして、ある程度深く説明していますので、情報量は多く、学習に一定の時間を要します。

そこで、スピーディーに当サイトの派遣法を学習して頂くための若干のアイデアを提供させて頂きます。

 

(ア)まず、次のページ(「労働者派遣と類似する制度との比較」)から、その次のページ(「労働者派遣法の沿革」。こちらの最後)まではお読み下さい。

もう一つ、この沿革の次のページのこちらの冒頭において、派遣法で学習する項目の概観を記載していますので、ここも確認して頂くとよろしいです。

そして、この「労働者派遣法の沿革」のページ(こちら)では、平成27年施行の改正事項の概要を説明しています。この改正事項のうち、「期間制限」の問題については、ここでかなり詳しく触れています。

また、こちら以下において、働き方改革関連法による令和2年4月1日施行の改正事項の概要を説明しています。

 

(イ)以後は、個々の方の学習状況により、当サイトのご利用の仕方が変わってくると思います。

受験経験者で、ある程度、派遣法の知識をお持ちの方の場合は、前記の「労働者派遣法の沿革」のページこちらにおいて、近時の改正事項(平成24年、平成27年及び令和2年施行の改正事項)について、その内容を詳しく説明した個所をリンクしていますので、リンク先をご覧頂くと、改正個所だけ先に把握して頂くことが可能です。

そのあとで、全体を通して読んで頂くと効率的かと思います。

 

初学者の方や派遣法にあまり自信がないような方は、例えば、一冊本など簡潔なテキストを先に読んで頂いてから、わかりにくいような個所を当サイトで確認して頂くという形から入って頂いて、最終的には、一度、当サイトを通読して頂ければと思います(また、前記(イ)の改正事項のリンク先も確認して頂き、改正事項だけをまとめて学習する機会も設けて下さい)。

なお、前ページの目次において、条番号を記載しておきましたので、既存のテキストの項目に対応する当サイトにおける記載場所について、この条番号により探して頂くことが可能です。

 

(ウ)当サイトでは、労働一般・社会一般においても、基本的には、条文(施行規則・施行令等も含め)をできるだけ掲載しています(さらに、派遣法の場合、行政機関の内部的なマニュアルである「労働者派遣事業関係業務取扱要領」(以下、「業務取扱要領」といいます。こちら)も数多く掲載しています。これらを「条文等」と表現しておきます)。

しかし、「お読み下さい」といったガイドがない限り、労働一般・社会一般で掲載されている条文等は読まれる必要はありません。

なにかのときの参考のために、一応、条文等を掲載していますが、一般常識においては、スピードを重視する学習方法をとります。

 

 

次のページでは、労働者派遣と類似する制度との比較を行います。